第8話 どうしてもジャンヌが欲しい~シャーロン視点~

その日から、僕の事を気にかけてくれる様になったジャンヌ。強くて優しい彼女に、どんどん惹かれていった。


でも、ジャンヌの周りにはいつも沢山の男たちがいた。ジャンヌはとにかく強くて、同じくらいの年齢の男たちの中で、ジャンヌに勝てる奴なんていないくらいだった。


さらにジャンヌは、僕と同じように騎士団内で辛い思いをしている人たちを、かたっぱしから助けているらしい。


「せっかく騎士団に入団したのですもの。皆には、楽しく稽古に励んで欲しいの」


それが彼女の口癖だった。元々騎士団内には、ほとんど女性はおらず、ただでさえ目立っていたジャンヌ。その上強くて誰にでも優しいジャンヌは、いつも人気者だ。


僕はジャンヌが大好きだ、それなのに…どうしてジャンヌは、あんなにも楽しそうに他の男たちと話をしているのだろう。僕だけを見て欲しい。


それにグラディオンの奴、いつもジャンヌと一緒にいて。


ジャンヌの傍には、同じ歳のグラディオンという侯爵令息がいつも傍にいたのだ。彼はジャンヌの次に強い。きっとグラディオンも、ジャンヌが好きなんだ!


現にグラディオンは


「俺もここに来たばかりの頃、ジャンヌに助けられたんだ。俺はジャンヌがいたから、今まで騎士団を続けてこられた」


そう言って笑っていた。いやだ、グラディオンなんかにジャンヌを渡したくはない。ジャンヌは僕のものなのに!


そんな日々を送っているうちに月日は流れ、僕たちは12歳になった。そろそろジャンヌと本格的に婚約を結びたい。婚約さえ結んでしまえば、ジャンヌは正真正銘僕のものだ。


ただ、ジャンヌは


「私は自分より強い人じゃないと結婚したくないわ。私を守ってくれる人がいい」


常々そう言っていた。


ジャンヌの父でもある騎士団長も


「ジャンヌはあれでも令嬢だ。ジャンヌを守ってくれる強い男と、ジャンヌと婚約させたい」


そう言っていたのだ。


でも僕は、とてもじゃないけれどジャンヌに勝てない。このままだと一生ジャンヌを手に入れられない。そう思っていたある日。事件が起きたのだ。僕たちが所属している部隊の資金と機密書類が、何者かに盗まれてしまったのだ。



なんとジャンヌが、大切なお金と機密書類を盗んだ犯人にされてしまったのだ。どうやら目撃情報があり、何人かの騎士団員が、ジャンヌが盗むところを見たと言い出した。


ちょうど騎士団長が長期遠征に行っていて不在だったため、とりあえずジャンヌは謹慎となった。本人はそんな事をしていないと、泣いて訴えていたが、目撃情報が多いため、犯人にされたのだ。


隊長は“機密書類を返してくれれば、今回の事は公にしない”と言っていたが、きっとジャンヌは犯人ではないため、書類を返す事なんて出来ない。目撃者として名乗りを上げた人物たちが、犯人なのだろう。あいつら、ジャンヌを嫌っていたものな。


でも、これはチャンスだ。ここで犯人を捕まえてジャンヌの汚名を返上すれば、きっと僕はジャンヌと結婚できる。でも、どうやって…


ふと隣にいたグラディオンを見ると、物凄い形相で、真犯人であろうあいつらを睨んでいた。


“絶対に俺が真犯人を捕まえる”


そんな闘志を感じたのだ。きっとグラディオンなら、真犯人たちを捕まえるだろう。でも、そんな事はさせない。


僕は密かにグラディオンを見張らせた。すると


“坊ちゃま、グラディオン様が奴らのアジトに潜入いたしました。すぐに来てください”


どうやらグラディオンが動いた様だ。僕は急いでグラディオンの元へと向かう。すると、何人かの大柄の男たちが倒れていた。そこには、腰を抜かし震える真犯人と思われる団員たちと、血だらけでそれでもなんとか立っているグラディオンの姿が。


どうやら真犯人たちは、悪い組織の人間に力を借りていた様だ。


「グラディオン、大丈夫かい?」


「シャーロン…どうしてお前が…ここに…まあいい…これを…あいつらが盗んだ…機密書類だ…この書類と一緒に…あいつらを…」


そう言うと、意識を飛ばしたグラディオン。僕はすぐに近くにいた執事に、グラディオンを病院に連れて行くように指示を出した。


「シャーロン、どうか助けてくれ。俺たちはただ、ジャンヌを困らせたかっただけなんだ。悪の組織の人間を雇っていたうえ、グラディオンを瀕死に追いやったという事がバレたら、騎士団をやめるどころでは済まない。頼む」


必死に頭を下げる団員達。


「それならさ、お願いがあるのだけれど、いいかな?君たちは悪の組織とは繋がっていない。ジャンヌを困らせるため、書類を盗んだが、僕に見つかってしまったという事にしたらどうかな?グラディオンの怪我は…そうだ。たまたまここにいる悪党ともめて、怪我をした。そう、今回の事件とは別の事件にしてしまえばいいのだよ」


「シャーロン、一体何を言っているのだい?そんな嘘、グラディオンの意識が戻ればすぐにばれるよ」


「たとえグラディオンが騒いだところで、僕たちがこうだと強く言い張ればいいだけだ。グラディオン1人の言い分よりも、僕たちの言い分の方が、数が多い分有利だろう?それに君たちだって、悪の組織と繋がっていたうえ、グラディオンをあんな目に合わせたなんてバレたら、どうなることやら」


彼らに向かってニヤリと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る