第7話 ジャンヌとの出会い~シャーロン視点~

「シャーロン、いいか。もう二度とジャンヌ嬢に関わるな。これはシャーロンの為でもあるのだ。分かったな」


「あなたが他の令嬢とあの様な行為を行っていただなんて…それだけジャンヌ嬢が嫌いなのだと思ったのだけど…シャーロン、どうしてそんなにジャンヌ嬢との婚約破棄を嫌がったの?あなた、ずっと彼女に冷たかったじゃない。婚約者らしい事だって、ほとんどしてこなかったのに。私はあなたが何を考えているのか、さっぱり分からないわ」


ジャンヌたちが帰った後、1人客間から席を立つことが出来ずに涙を流す僕に、両親が話しかけて来た。


「僕はただ…僕が味わった悲しみを、ジャンヌにも分かって欲しかっただけなんだ…だから僕は…」


「シャーロン、一体何を言っているの?」


「でも…結局彼女を失った…しばらくは僕を1人にして下さい。僕は部屋に戻ります」


「待って、シャーロン」


フラフラと自室に戻ってきた。ポロポロと溢れる涙を止める事は出来ない。僕は本当に、ジャンヌを心から愛していたのだ。決して彼女が嫌いで、ジャンヌに冷たくしていた訳ではない。それなのに、どうしてこんな事に…



彼女と初めて出会ったのは、僕が7歳の時。7歳になったと同時に、騎士団に入れられたのだ。正直騎士団なんてむさ苦しいところ、嫌で仕方がなかった。稽古は物凄く厳しいし、先輩たちも意地悪だ。特に先輩たちは、綺麗な顔立ちをしている僕が気に入らなかったのだろう。集中的にしごかれ、身も心もボロボロだった。


あの日も先輩たちに虐められ、1人騎士団の稽古裏で泣いていた。


「大丈夫?あの人たちに、また意地悪されたのでしょう?男の嫉妬って本当に醜いわよね。はい、ハンカチ」


そう声をかけてきてくれたのが、ジャンヌだった。太陽の光を浴びたキラキラと美しいオレンジ色の髪を1つにまとめていたジャンヌ。少し吊り上がった目が、怖そうな印象を受けるが、それでも可愛らしい少女だった。


「ありがとう…僕、もう騎士団なんて嫌だ。こんな所、居たくない」


女の子の前で涙を流すなんて、みっともない。そんな事は分かっているが、僕は涙を止める事なんてできなかった。そんな僕を、何を思ったのかギュッと抱きしめて来たのだ。


「き…君、一体何を考えているのだい?」


「だってあなた、辛いのでしょう?私の腕の中で好きなだけ泣いたらいいわ。私ね、この騎士団が大好きなの。だからね、あなたにも騎士団が少しでも好きになって欲しい。私に任せて」


そう言ってほほ笑んでいたジャンヌ。この子は一体何を言っているのだろう。こんな場所、好きになるはずなんてないのに…


「そろそろ私、戻るわね。あなたも落ち着いたら戻って来て。あなたが戻って来るまでに、あなたが少しでも居場所のいい場所に変えておくわ」


そう言って、ジャンヌは笑顔で戻って行ったのだ。


あの子、一体何を言っているのだろう。


僕もそろそろ戻らないと、また先輩たちに意地悪をされる。重い腰を持ち上げ、稽古場へと戻る。すると、なぜか皆が集まっていた。一体何をしているのだろう。


そっと覗いてみると、いつも僕に意地悪をしている先輩3人と、ジャンヌが言い合いをしていた。そして、どうやら3対1で勝負をする事になった様だ。


あり得ない、僕と同じくらいの少女1人に対し、僕たちよりも大きな男3人が勝負だなんて…そう思っている間にも、勝負が始まった。


このままではジャンヌが…そう思ったのも束の間。ジャンヌは3人相手に必死に戦っていた。それにしても、卑怯にもほどがある。3対1だなんて。


ジャンヌは何度も竹刀で攻撃を受けている。きっと痛いだろう。それでも必死に反撃をしているのだ。そんな中、なんとジャンヌが3人を倒したのだ。


その場に倒れ込んだジャンヌ。急いで駆けつけようとした時だった。


「ジャンヌ、大丈夫か?本当にお前は、無茶ばっかりして」


赤い髪の男が、ジャンヌに駆け寄り抱き起したのだ。


「ありがとう、大丈夫よ」


その男ににっこり微笑むと、ゆっくりと立ち上がり、先輩たちの元に向かうジャンヌ。


「私の勝ちですよ。約束は守って頂きますから」


「ああ…もう二度とシャーロンに酷い事はしないよ…それから、教育係も降りる」


先輩たちがそう呟くと、僕の元にやって来て


「今まですまなかった」


そう言って頭を下げたのだ。あの先輩たちが、僕に謝罪するだなんて…


「シャーロン、これであなたを虐める人はいないわ。これからも私たちと一緒に、稽古をしましょうね」


そう言ってジャンヌが微笑んでくれたのだ。その笑顔を見た瞬間、僕の鼓動が一気に早くなるのを感じた。僕はこの時、ジャンヌに恋をしたのだった。

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