第497話 塩商売

1日後。

12月7日。



グルゴウィル領北部。



ダムディ隊長達は東に向かって移動していた。2匹のオークもスレイブニルに乗って、先頭を軽く走っている。何度か魔獣を観測したが、こちらを見ているだけで、寄っては来なかった。そこで、オークの1匹がその魔獣の方へ駆けていき、暫く何かを話して帰ってくる。これが今までに何度も起きたことだ。

「分かってくれましたか?」

「はい。何処に行って良いか分からなかったようでしたから、北の真ん中辺りにある山に行くように伝えました。また、領の端にいると危険だと教えておきました。ただ、領の端が何処かはよく分からないでしょうから、北の真ん中が安全と強調しておきました。」

「それは良いと思います。」

「失礼かもしれませんが、オーク達はお互いどうやって認識しているんでしょうか?」

「?」

「人種はお互いに名前が付いているので、それを呼び相手を識別します。しかし、オークは名前を付けないのでしょう?」

「オークは会話が基本在りませんし、目に見えない相手について語ったりしませんから、『おい』とか『お前』とか『そこの』とか『ちょっと』等が使えれば問題はほとんど在りません。それでもどうしても相手を識別しないといけない場合は、『耳が片方ない』等の身体的特徴を使います。」

「分かりました。もしよければですが、お二人にも名前を付けて頂けませんか?人種からすると、名前を呼ぶことにより、親近感が湧きますし、他者に説明するときに名前を使う方が滑らかに進みますから。」

「そうですね。これも新しい試みですね。どんな名前が良いか、考えたら教えます。彼にも伝えておきます。」

「よろしくお願いします。」

ダムディ隊長はこれでやっと楽になれると考えた。情報共有する時や、命令をとっさに出さないといけない時に名前が無い事は非常に不便に感じていたからだ。


「それと、不思議だったのですが、急に人種の言葉が話せるようになりましたね。どうしたんですか?」

「確かにそうですね。どうしたんでしょう。一晩寝たら、話せるようになっていた気がします。何かダンジョンで起きたのだと思います。」

「そう言えば、ダンジョンにいたんですよね。もうほとんど思い出せませんが。マックス。マックスはダンジョンを覚えているだろう。」

「はい。」

「どんな所だったかな?」

「話す権限を持っていません。すいません。」

「そうなのか。それは仕方が無いな。それでもダンジョンの存在を確認できたから、いいんだ。」

ダムディ隊長は釈然としなかったが、これ以上話を引っ張ることは良くないと感じたので、そこで打ち切った。


*****



サシントン領、ネヴァーランド。



「確かに、以前よりも強くなってきているな。魔素の卵の成果と思っていたが、それだけでは無いようだ。最深階層は3階層のままっと。」

ニコルはオークを倒して、確認した。それでも問題になる程ではないし、子供達も強くなってきているので丁度良いぐらいだ。


オークを回収して、家に戻ると子供達が待っていた。

「ご飯の用意が出来てるよ。」

ニコルは頷いて、自分にクリーンをかけながら席に着く。

「「「「いただきます。」」」」

皆が一斉に食事を初めて、楽しそうにおしゃべりをしているのを見て、ニコルはのんびりと楽しんでいた。

獣人の子供達は、ここに来てから、強く、逞しく育った。今は皆馬に乗れるし、ダンジョンでも鍛えている。魔法の使い方はアルファが教えているが、まだ発動できない。身体強化などは得意なのだが。これについてはアルファがいろいろ調べている。いつか獣人でも魔法が使えるようになるだろう。勉強も頑張っていて、読み書き計算は段々と出来るようになってきている。これも時間の問題だ。順風満帆に感じるが…。

ケイレンソードから、オリヴァーが向かってきている。塩のことについてだろう。スマイルが正式にサシントン領と契約したので、そのことぐらいしか思いつかないぞ。30分ほどして、到着した。


「すいません。サシントン領の領主様の使いのオリヴァーです。」

「はい、分かります。私はアルファです。ここの運営を手伝っています。」

「スマイルさんは帰還されましたか?」

「いいえ、まだです。何の御用でしょうか?」

「スマイルさんが帰ってきていなくても、今年の塩の配達に問題は有りませんか?」

「ありません。塩は必ずサシントン領の領主様に12月30日までに収めます。」

「それが聞けて安心しました。前回同様1500㎏です。これが書類です。お納めください。」

「確かに確認しました。これからもよろしくお願いします。」

アルファがお辞儀をすると、オリヴァーは帰って行った。

アルファは後ろにいるニコルに頷いて見せた。


その後ニコルは馬がいる厩舎にやって来た。

『シルフィード。頑張っているか?』

『ニコルさん。流石につらくなってきました。ここは暖かくて、年中繁殖期ですから。』

『そう思って、スマイルの置き土産を持ってきた。まあこのタケンコを食べてみて、効果があるようなら植えてやるから。』

『へえ、初めて見ます。』

シルフィードはニコルの手からタケンコを口に入れて、よく噛んでみる。

『変な味はしませんね。さっぱりとしていて、何とも表現できない味です。特徴が無いと言いうか。歯ごたえは好きです。シャクシャクしてます。一つでいいんですか?』

『先ずは一つで試してみたらいいんじゃないかな。人種も滋養強壮剤として食べるから、馬には1つでは足りないかもしれないけど。明日にでも様子を見に来るよ。』

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