第495話 マーガレット様 出立

*****


スニード領 東端の町ワルザザート。



大きな馬に引かれた馬車が入って来た。門衛が前に出て止める。

「止まれ。これは魔獣だな。何をしにこの町へ来たのか?」

「メリル領領主のエリザベス様をお連れした。被害の視察と今後の計画をたてるために。エリザベス様、門衛が質問があるとのことです。」

扉が開いて、中からエリザベス様が軽いドレスを着て出てきた。

「初めまして。メリル領、スニード領、領主のエリザベスです。この度はスタンピードの被害と影響を視察に来ました。宜しいですか?」と微笑む。

門衛は飛び下がって、

「失礼いたしました。どうぞお通り下さい。」

「ありがとうございます。貴方は貴方の仕事を全うしただけですから、そこまでかしこまらなくても良いですよ。では、軍司令部は何処にありますか?」

「ご案内します。」

*****

「分かりました。専守防衛ということですね。これで被害は減少するでしょう。今までの被害状況は?」

「ありがとうございます。被害は軽微であります。いらしていたスレイニー司祭が神官を連れて前線にも来ていただき、怪我をその場で治してくださいましたので。死者はほとんどいません。」

「それは朗報ですね。死者には丁寧な対応で、補助金も出してあげてください。予算は計上してください。」

「はい、分かりました。」

「では、次にスレイニー司祭と大臣たちと話をしなくてはいけません。何処にいるか分かりますか?」

「大臣たちは、領都スペルニナに居るはずです。スレイニー司祭はご案内します。」

*****

「ご無沙汰しております、エリザベス様。お綺麗になられましたね。」

「ありがとうございます。司祭様もお元気そうで何よりです。魔獣の扱いについて少しご相談したいことがあるのですが。」

「結構ですよ。何でしょうか?」

「実は、かくかくしかじかという次第です。」

「成程。そう言うことだったんですか。魔獣達も可愛そうに思えてきますね。勿論被害者も可愛そうなのですが。」

「はい。どうしたらよいと思われますか?」

「計画通りに進めることが良いと思いますが、何か問題でも?」

「この事件の原因を説明しないといけないでしょうか?」

「あははははは。そこですか。必要ありませんよ。エリザベス様が悪いわけではありません。それに、下手にそんなことを言えば、どこかの馬鹿が何をするか分かりませんよ。」

「同じようなことが起こるかもしれないと?」

「知らなくて良い事はある物です。そして、貴方を巻き込んだ場合、もっと怖い男が出てくるかもしれませんし。今は北にいるようですが。」

「スエーナ王国ですか?」

「ええ。あそこへ潜入した密偵は誰も帰ってきてないそうです。」

「徹底していますね。」

「旧マイクロフ聖王国もそうでしたが、既にあそこの結果は分かっていますし、事故の部分もあったと分かっていますが、今回はどうでしょうか?まあ、それはいいとして。今回の問題は発端の理由ではないと思います。これから、獣人とのかかわりあいの仕方です。人種はオークや他の魔獣を食糧や資源として活用しています。それを完全に止めさせることは不可能でしょう。先ほどの話によると、知能が高い者はごく限られた数だそうですから、狩ってもよい対象を絞り込めば、納得してくれるかもしれないし、ダンジョンで生まれる魔獣には適応されないかもしれません。調べることが多くありますが、先ずは保護区を設定することに賛成ですね。自分が狩られる立場だったら、是非そうして欲しいと思います。」

「そうですね。確かにその通りだと思います。そう思っていたのですが、理由を聞いてしまってから、何だか申し訳ない気が強くなってしまって。」

「それが普通ですよ。正常な判断です。いつ東に出発ですか?」

「明後日の午前中には出るつもりです。明日はスペルニナで大臣たちに会わないといけないので。」

「私もご一緒してもいいですか?ここの創造神教会もやっと落ち着いたので、そろそろ自由になれそうなのです。」

「スレイニー司祭が一緒に来てくれれば心強いですわ。こちらからお願いします。」

「ありがとうございます。では、明後日の朝に町の門でお待ちします。」

「では、明後日の朝10時にしましょう。よろしくお願いします。」


その後、エリザベス様は領都スペルニナへ向けて出発した。被害に遭った村や町の復興、その費用、運営方法、再開発の計画、今後の防衛等を決めていかなくてはいけない。


*****


「マーガレット様、ジェネラルミル領南部にいる我が軍からです。」

「何かしら?」

「ユリーザ領が魔獣に侵略されて被害甚大だそうです。近隣の領主と冒険者ギルドに討伐依頼が出されました。」

「冒険者ギルドは強制している?」

「いいえ、していません。軍が出るならば強制招集する必要はないという判断なんでしょう。」

「我が軍はすでに出発していますか?」

「はい。この手紙を出した時に出発すると書かれています。」

「分かりました。我々も向かいましょう。直ぐに出発します。」


「ターシャちゃん。もしスマイルが帰ってきたら、ハーシーズ領へ連絡をくれるように伝えてください。さようなら。」

「分かりました。伝えます。」

(今から行くと、丁度いいかしら?)

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