第494話 魔獣保護区への一歩
1日後。
12月6日。
コラのダンジョン。
朝の訓練をロプノール村で終わらせてから、ダンジョンにやって来たターシャは、忙しく朝食の準備をしている2号を見つけた。
「それは必要なことですか?」
「ダムディ隊長に朝粥が食べたいと言われまして、ここでも取れる野菜を中心にボアの干し肉とコブ、魚醬と塩で大量に作りました。100人以上ですから。この10機の窯も後で消しておきます。」
「それは構いませんが、見られても困るのでは?」
「スリープで寝かせてありますから、大丈夫です。」
「成程。もう完成ですか?」
「はい。今終わりました。後は火を弱くして置いておきます。」
スリープ解除。
「それでは、また後程、4階層で。」
「はい。」
『ナターシャ。朝食の準備が出来ました。メリル領の兵たちと一緒に5階の練習場で食べてください。準備が出来たら教えてください。転移させます。」
『分かりました。』
*****
私は外の森の温泉の近くにいるスレイブニルを馬車とつなぎ、撫でながら、
「エリザベス様達を無事に目的地に届けておくれ。お願いね。」
頷くスレイブニル。
「ここで、待っていてね。まだ1時間はかかると思うけど。」
昼前に終わらせなければいけない仕事はまだまだある。
*****
1時間後、外の森の温泉の近くでエリザベス様により現在の状況、これからの任務と計画と行動が発表され、兵士達も気持ちを切り替えた。
「オークのお二人、良い旅になることを祈っています。昨夜のうちに人種の言語が分かるようにしておきました。徐々に慣れてくると思います。死にそうになる前に、ここに帰って来なさい。何とかなります。」
「ありがとうございます。成功させて帰ってきます。」
私はマックスとナターシャに、
「2人とも凄く強いけど、武器があると便利な時もあるでしょう。これは刀という武器です。使い方は自然と思い浮かぶはず。私のラノベとマンガの力があなた達には伝わっているはずだから。黒い刀はマックスに。赤い刀はナターシャに。無事に任務をこなして、帰って来なさい。」
「はい。」「はい。」
「エリザベス様にはこの馬車をお貸しします。」と扉を開けて、中に連れて行く。
「この馬車は内部が拡張されています。入った所は居間のようになっています。ここで寝泊まりも出来ますし、トイレとお風呂も付いています。しかし、扉が開いて直ぐそこにベッドというわけにもいきませんから、この奥の扉を開けて入ります。そこからは廊下があり、左右に寝室があります。突き当りには、お風呂とトイレが又あります。簡単なキッチンもありますから、お茶ぐらいは飲めます。大丈夫ですか?」
「…はい。大丈夫です。」
エリザベス様はフラフラしている。
「家具も入れてありますし、下着の替えなどもある程度入れておきました。下着と服はそのまま差し上げます。ある意味エリザベス様がもっとも大変な任務となると思いますが、応援しています。最後に、このダンジョンの圏外に出ると、ここの詳細は忘れます。必要なことは覚えていますので、心配はいりません。頑張ってください。」
「色々とありがとうございました。忘れるかもしれませんが、また来ると思います。では、行ってきます。」
「ナターシャも頼みますよ。行ってらっしゃい。」
私が馬車を下りると、ダムディ隊長の掛け声とともに兵士達は南東へ、エリザベス様は西へ旅立っていった。
そして、私はロプノール村へ帰る。
*****
ユリーザ大国 ジェネラルミル領 ロプノール村。
草原の風亭。
「いらっしゃいませー。」「いらっしゃいませー。」
「今日の日替わりは何?」
「今日は川マスのムニエルよ。ジャーモサラダとスープが付くわ。」
「それ頂戴。」
「はい、日替わり1つ。」
「ターシャちゃん、お水下さい。」
「はーい。今行く。」
「ターシャちゃん、私が行くわ。そこのお皿を下げて。」
「ありがとう、ステラちゃん。」
「いらっしゃいませー。」「いらっしゃいませー。」
「前より、ステラちゃんの動きが早くなった気がしないか?」
「するよ。フッと消えて見える時がある。」
「ンーマンだけかと思ったのにな。」
*****
「そろそろ新しい人を増やした方がいいんじゃないか?」
「接客?でも、ステラがいらないって言うのよ。練習が減るって。」
「分かる気もするけど。」
「ターシャちゃんはどちらでもって感じだけど、新しい子はここの動きについてこれないでしょうし。スマイルさんはいないし。ターシャちゃん、新しい子に魔法教えてくれるのかしら?」
「訊いてみないと、駄目だな。」
「あなた、外の接客に行かないと。」
「ああ、そうだった。行ってくる。」
フュンとンーマンが消える。
「日替わり8つ、ハンバーグ定食2つだって。」
「はい。」
「ここも手狭になってきたな。」
「信じられないわね。あの頃から考えると。」
「はい、日替わり、10出来たわよ。」
「8つは俺の客だ。持っていくよ。」
「ターシャちゃんとステラも、持って行くの手伝ってくれ。」
「はーい。」「こっちに二つを渡したら行くね。」
「ターシャちゃんも変なサービス始めたわね。ハート形をお客の前でケチャップで描くなんて。」
「しかし、人気があるよ。何だか近くなった気がするんだろう。」
「貴方にも描いてあげましょうか?」
「ああ、後で頼むよ。」
チュチュ。
「日替わり2つ追加でー。」
*****
「お待たせしました。日替わり8つですね。ハンバーグ定食は今焼いているので、もう少しかかります。」
「はい、待ちます。」
「はい、残りの日替わりです。」
「お、ステラちゃん有難う。」
「こっちも。」
「ターシャちゃん。ハート書いてくれ。」
「少し待ってね。」
「ハンバーグ定食の方は、はい、そちらですね。はいどうぞ。」
「ふふふ。私はこれがとても好きなんですよ。」とノンノ。
「私もよ。肉汁が溢れてきて、とても美味しいわ。」とマーガレット様。
「はい、ハート書き終わりました。」
「こっちも書き終わったわ。」
「召し上がれ。」「召し上がれ。」
2人の美少女がニッコリすると、メロメロになる大人たちがいる。2人が去った後で、
「マーガレット様もここで働けば凄い人気が出そうですよね。」とアルバ。
「何を言ってるんですか?」とマーガレット様。
「止めてください。それでなくても、男性問題が増えてきて心配が止まらないのに。いつか後ろから刺されます。」とノンノ。
皆が頷く。
「来る途中でも宿の夫婦喧嘩のもとになったり、冒険者にプロポーズされたりと色々あったからな。」とギルバート。
「このメンバーはマーガレット様耐性が出来てるからいいが、世界にはまだ特効薬がないから。」とマキン。
「今は美味しいハンバーグを楽しんでいるので、何を言われても気になりませーん。いつか作り方を教えてもらいたいわ。」
「トメイトソースも買いたいです。領主様にも味わっていただきたい。」
マーガレット様一行はここに来てから3日は経っている。その間魔獣除けの罠や防衛対策を教えてもらい、ダンジョンでオーク狩りを経験したり、ターシャのゴーストウルフと遊んだり、公園のハンモックで寝てみたりと今までしなかった経験を楽しんでいた。スマイルは北から戻ってきていないし、いつ帰ってくるか分からないという悲しいニュースはあったが。
ロプノール村の北の町が魔獣に侵略されたが、今は軍が取り戻し、領境に防衛線を設置して、専守防衛に努めている。もう、マーガレット様達が参戦しなくても問題ない状態になりつつある。だから、久しぶりに皆でのんびり過ごしているのだ。
*****
「今日の昼も乗り切ったわね。お昼ご飯を食べましょう。今日は何にしようかしら。」
「俺は、今のうちにトメイトの収穫をしておくよ。」
冷やしうどんを採れたてのトメイトで作ったつけ汁に付けて食べながら、ターシャが、
「ロプノールのダンジョンに変化はある?」
「はい。少しオークが大きく、強くなったらしい。あの爆発以来、徐々に強くなっている感じです。そして、最深階層が9階層になりました。」
「ダンジョンも成長していると。話しかけてくるようなオークは発見されている?」
「それは聞かないですね。」
「もし、オークが人種と会話できるようになったら、どうする?」
「うーん、殺しづらくなるりますね。話せる相手を殺したり、食べたりはなかなか。」
「そうよね。」
「そうだ。ステラもターシャちゃんも忙しすぎませんか?他にも誰か雇いますか?」
「いらなーい。」とステラちゃん。
「うーん、効率はそんなに変わらない感じがするけど。2号店を考えているか、店の拡張を考えているのかしら?」
「それもあります。店を拡張できればしたいです。今の客を捌き切れないで、外に待たしています。そこまで寒くないからいいですが、それでも申し訳ない。」
「それもそうね…。マスターはいないから、私がやるわ。店の設計図を見せて。新しく雇う子の話はその後で十分だわ。」
「はい。」
*****
「分かりました。問題は今部屋は一杯に埋まっているということよね。どうしようかしら。宿自体の拡張はどうするの?」
「それもそうだな。拡張するとして、右隣は俺の家で、貸しています。」
「左は畑。奥も畑。俺の家の後ろは開いている。ちょっと離れるけど、うちの裏に別に宿を建てますか?」
「その場合は、今の宿泊客に影響はないから楽だわ。でも、私はどちらでも構はないの。客が居ても、居なくても、宿屋も拡張できるし。マスター程上手く出来るかはやってみるまで分からないけどね。」
「出来れば、宿は繋がっている方が良いと思うの。」
「なら、んーマンの裏を畑にして、うちの横か奥の畑を潰して宿にするしかないわね。好きに決めて、設計図を書き直してね。そしたら、夜のうちにやるわ。」
「分かった。用意しておきます。」
「ステラも部屋を大きくしたい。」
「私達も二人で住むようになったから、部屋を拡張したいわね。ベッドも大きくして。」
「「ほえー。」」
「防音も免振もしっかりするから、心配しないで。壁にハートも描いてあげてもいいわよ。」
「「それは…遠慮します。」」
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