第492話 オークの話


「はい。私達は目が覚めた時は、暗い穴の中でした。右を見ても左を見ても魔獣だらけでした。それなのに喧嘩もなく大人しくしていたのは、今思えば不思議です。私はその穴の中で2週間生きていましたが、彼は1月以上だったそうです。」

「あの糞野郎…あ、すいません。続けてください。」

影は謝った。

「そんなある日、扉が開きました。私達は眩しくて目が痛くても、前に行かなくてはならないと頭に響いてきて、先に進みました。外に出ても魔獣だらけでした。皆好きな方に移動しました。逃げました。ここに居ればまた穴に入れられるかもしれませんから。ここでも不思議と喧嘩は起きませんでした。

兎に角ここから動かなくてはいけないと恐れて、皆必死で走りました。外に出てから10分ぐらい過ぎた頃、いきなりドカーーンと凄い音がして、後ろから爆風で吹っ飛ばされました。この時死んだ魔獣もいましたが、そんなに多くないと思います。振り向くと大きな紫色の雲が出来ていて、私達が出てきた所は大きな穴が開いているだけでした。

そして、私の肌がチリチリ感じ始めました。嫌な感じがしたので、また逃げ出しました。私は今思えば南の方へ逃げていたのかもしれません。人種にはほとんど会いませんでしたが、村や町はありました。そこは既にほかの魔獣に襲われていました。魔素が多いので、お腹がすくこともなく、食べる必要もありませんでしたが、人種を食べている魔獣も多く見ました。狩りの欲求なのかもしれません。

その頃、彼とも合いました。2人とも疲れた顔をして、これからどうしようかと悩みました。じっとしてても仕方が無いが、人種がいた所には人種が帰ってくる可能性が高いと、そいう所は避けて通りました。

何日も草原をさまよっていると、他の仲間たちが人種と戦っていて、殺されて、連れていかれる所を何度も見ました。私達は体は大きいけど、生まれたばかりで、戦い方も身についていない者が多かった。最初はもめなかった魔獣同士も、何故だかあの爆発からもめるようになりました。

その頃、オークキングが生まれたという話が聞こえてきました。彼は西側の人種の村を倒したと聞きました。が、その後負けたとも聞きました。」

グビリとワインを飲む。

「私達も逃げ続ける訳にもいきませんでした。人種は執拗に追いかけてきましたし、人種がいない所に隠れていた私達も狙われるようになりました。そこで、私達も集まって、戦うことにしました。幸い草原には人種の死体や道具も残っていることも多く、それを拾って、ゴブリンやコボルトは武装し、オーク達は木や剣で何とか武装して、移動しながら過ごしました。

そんなある日、他の魔獣たちに協力要請を受けました。西側で戦っているから、手を貸してほしいということでした。オークキングが負けた後で、ここで負ければ、私達は殺し尽くされてしまうと考え、参加しました。200匹以上いましたし、ミノタウロスもいました。とても強い魔獣です。5日ほど前でした。

私達は後衛で、前衛がミノタウロス達が率いる魔獣軍でした。私達はこの戦いで負けて、半分ほどに減りました。何処に逃げていいのか分からず、何もしなくても殺されて食べられることを恐れていました。私達は北に安全な場所があるとグリーンウルフから聞いたことを思い出し、北を目指しました。そして今ここに居て、安心して暮らせています。」

皆が静かにワインを飲んでいる。目の前の皿には、バイソーンの串焼きが山盛りになっている。

「バイソーンの肉ですが、いいですか?」

「はい。私達も体がバイソーンの味を覚えています。食べた思い出は無いんですけど。嫌悪感もありませんから、大丈夫ですよ。」

「では、いただきます…美味しい。」

「ダンジョンマスター、貴方は…。」

「これが現実です。ダムディ隊長が今から菜食主義になっても、変わりません。質問ですが、オークは皆貴方たちの様に考えたり、話したりできるんですか?」

「いいえ。違います。私達は特別です。他のオークでは全然話せない者も沢山いますし、闘争本能しかない者も多くいます。これはどの魔獣にも言えます。」

「うん。今は魔素が多いですから、貴方たちも突然変異したのかもしれませんね。生まれてすぐ話せましたか?直ぐそんな風に考えましたか?」

「はっきりは覚えていません。穴の中ではそんなにはっきり考えていなかった気もします。」

「比較は無理ですね。いっその事他の土地のオークと比較した方が良いでしょう。貴方たちが特別と分かっただけでも十分です。串焼きをどうぞ。」

「ありがとうございます。」

「ああ、美味しい。こんなに美味しいバイソーンは初めて食べました。」

「この肉を食べて、ワインを飲むと、本当に美味しい。」

「ほら、ダムディ隊長も遠慮なく。」

「頂くよ…確かに旨い。」

ダムディ隊長はもう一口ワインを流し込むと、話し始めた。


「私はスニード領から援軍の要請を受けて、メリル領から100人の兵士を連れてやって来た。スニード領に10日前に入ってから、何度も魔獣たちと戦った。私達が見た村は、魔獣に襲われ壊滅している所がほとんどだった。領地の防衛とは言え、グルゴウィル領へ侵入しての戦いだった。北上しながら戦い、5日前の大規模戦闘に参加した。魔獣は200匹以上いたし、ミノタウロスもいた。私達が戦ったのは、貴方たちの参加した戦いだったのです。知らなかったとはいえ、申し訳ございません。亡くなった魔獣の冥福を祈ります。」

立ち上がって頭を下げた。

(やはり、ダムディ隊長を選択したことは正解でした。)


「ダムディ隊長、お互い様です。私達も知らなかった。皆自分の居場所を守るために戦った結果です。私達も多くの人種を殺してきています。こちらこそ、申し訳ありません。皆さんのご冥福を祈ります。」

オーク2匹も立ち上がって頭を下げた。


(無事に終わりそうね。)


「これで、魔獣代表と人種代表の第一回未来を考える会と親睦会は終わりですが、これからのことを少し話しておかなくてはいけないでしょう。これからどうしたいのかです。先ずはダムディ隊長、人種は魔獣がグルゴウィル領から出てこないと決まっていても、今後も討伐隊を組織して、グルゴウィル領に侵攻しますか?」

「私見だが、多くの領は手を引くだろう。スニード領は既に専守防衛に切り替えた。手を出されなければ、手を出さない状態です。メリル領も勿論そうです。旧エリザベス領は今でも援軍を出さずに、待機状態で、辺境からの魔獣の攻撃に重点を置いていますし、ハーシーズ領も少数の援護をジェネラルミル領に出しているだけです。問題はユリーザ領です。大量の魔獣に侵攻されて、今も激しく戦闘が続いていると聞きます。このあたりですね。」と地図を枝で指す。

「分かりました。基本的に、手を出してこなければ手を出さないという状態ですね。では、魔獣代表のオークさん達はどうでしょうか?この後も出来る限り、グルゴウィル領を飛び出して人種と戦い続けるか、グルゴウィル領、もしくは、この北の地で、十分な土地を手に入れて静かに安定した暮らしをするか。どうしますか?」

「私達も、この北の地で多くの魔獣が安心して暮らせる土地が頂けるならば、大人しくしていたいと思います。」

「分かりました。このダムディ隊長とオークのお二人ならば話し合いで問題が解決できそうな気がします。そう思いますか?」

皆が頷く。

「では、それを拡張しましょう。ダムディ隊長は残りの領、特にユリーザ領にもその案を認めさせてください。オークのお二人は、魔獣たちをかき集め、このグルゴウィル領から出ないように説得してください。出来ませんか?出来ればこれで問題解決です。」

「それはその通りだが、賠償問題とかはどうするのですか?」とダムディ隊長。

「魔獣はグルゴウィル領によって作られた生贄ですよ。賠償請求できないでしょう。グルゴウィル領に請求しますか?いいでしょう。半分ぐらい持って行ってください。ただし、私のダンジョンは魔獣達のために使います。私が本気になったら、魔獣のスタンピード何て目じゃないほどの問題になることは宣言しておきます。この様に、王家を脅して結構です。ただし土地も魔獣の為にグルゴウィル領の半分、最悪1/3は欲しいですね。」

「マスターは無茶を平気で言いますね。私が王家を脅せるわけがないじゃないですか。」

「ふふふ。それが可能なんですよ。2号さんに聞きましたよ。兎に角、貴方には素晴らしい能力を持つ上司がいる。エリザベス様です。彼女を巻き込みましょう。彼女が来れば、スニード領は大喜びで納得します。私も出来る事で協力しましょう。如何ですか?」

「勿論エリザベス様に話を通しますから、エリザベス様から王家への陳情という形になると思います。それも魔獣の進行を止められたらの話ですよ。出来るだけ早く。」

「分かりました。では、オークのお二人。貴方たちは魔獣をグルゴウィル領から出さないように出来ますか?説得できますか?ここに連れてきてもかまいませんよ。」

「全員は無理でもできるだけ多く集めます。出来るだけ早く。」

「ユリーザ領への侵攻は止められますか?」

「会って説明してみます。どうしても引けないとなれば、討伐するしかないと思います。」

「確かにそうですね。時間が惜しいですね…。2号さん。エリザベス様を連れてきてくれませんか?ダムディ隊長は手紙を書いてください。すぐに。」

「明日の朝ではいけませんか?」

「早ければ早いほど、人種の犠牲者は減り、王様には恩が売れ、エリザベス様と貴方の出世が近づきますが、どうしますか?」

「…分かりました。今までの説明はエリザベス様にしてもらえるんですね?長い手紙を書くよりも、その方が説得力があると思いますので。」

「結構ですよ。ではお願いします。」

「オークのお二人、どうやって領の中を移動するつもりですか?」

「走ってしかないですね。」

「分かりました。」

『ヴラ。オークの二人とその御付きが乗れそうな魔獣を手に入れられますか?』

『はい、生産できます。スレイブニルなどどうでしょうか。ラージボアでも乗れると思いますが。』

『スレイブニルは馬ですか?』

『八本足の馬です。とても強くて速いです。』

『馬車にした方が…。先ずは試しますか。鞍は付けられるのかしら?』

『作らないといけません。』

『分かりました。何とか手配してみましょう。すぐにスレイブニルを2頭生産し、ここへよこしてください。』

『今すぐに…向かわせました。マスターに絶対服従です。』

『ありがとう。』

ドドドドドドドドド。

影は立ち上がると、少しテーブルから離れて、駆け寄ってくる馬に手を挙げた。2頭のスレイブニルはターシャの前でぴたりと止まると、後ろ足で立ち上がり、嘶く。そして、顔をターシャに擦り付ける。

「よしよしよしよし。」

鼻づらを撫でまわす。

「オークのお二人はこれに乗れますか?」

「スレイブニルですか。初めてみました。」

「今は鞍も何もないですが、鞍が必要なら準備します。先ずは名前を付けましょう。トルエノとドゥンナーにしましょう。どちらも雷のスペイン語とドイツ語です。速そうでしょう。気に入ったかな?」

2頭は嘶いて喜んでいる、と思う。

「乗れそうですか?」

「「試してみます。」」

「トルエノ、ドゥンナー。この二人を乗せてあげて下さい。そして、命令を聞いてあげて、領中をまわって、魔獣をこの領内から出ないように説得する旅に付き合ってきてほしいのです。出来ますか?」

ブルブル言いながら、頷いている。

オークの二人はスレイブニルに跨ると、スレイブニルは歩き出す。その内トロットになり。キャンターに、そしてギャロップにと加速していく。割と乗れているが、あれで長距離持つのであろうか。


やはり、馬車の方がいいんじゃなかろうか。


10分ぐらい練習をしている間に、ダムディ隊長が手紙を書き終えてくれた。


「2号さん。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。もしよかったら2号さんの別荘を私のダンジョンに作りましょう。」

「それは嬉しいですね。是非お願いします。」

「分かりました。」

「行ってきます。」

すうっと2号は消えていった。


*****


「如何ですか?馬車の方がいいんじゃないでしょうか?」

「いいえ。いけます。鞍もいりません。」

「本当ですね。信じますからね。」

「はい。」

「では、御付きの人はどうしますか?」

「いりません。2人でいきます。」

「しかし襲われる可能性がありますから。では、私のゴーレムを付けましょう。これならいいでしょう。私も安心です。いいですか?」

「はい、お願いします。」

『ヴラ。またお願いよ。ゴーレムを一人、護衛でつけたいわ。最高のゴーレムを一人用意して欲しい。人種語が分かり話せるといいし、私達とは念話もできると更にいい。オークや魔獣の言葉も話せれば益々いいけど、無理よね?』

『出来ますよ。難しいですが。魔鉄とミスリルでいいと思います。アダマンタイトはやり過ぎだと思います。』

『任せるわ。』

『男と女とか外見の好みは有りますか?』

『任せるわ。出来たら、送って頂戴。』

『分かりました。少々お待ちください。』

2分ほど待つと、

『出来ました。送り出しました。』

『ありがとう。』


待っていると、中年の冒険者風の渋い男がやって来た。細身で背は185㎝程、暗い茶色の髪と目をしている。西部劇のクリントイーストウッドに少し似ている。

「ゴーレムか?」

「はい、マスター。」

「名前を決めましょう。何がいいか?何かありますか?」

「マスターに決めて欲しいです。」

「マックスはどうですか?最高とか、最大とか言う意味です。」

「有難くいただきます。」

「良かった。マックスには、あの二人のオークと共に旅に出て、護衛をしてもらいたいのです。出来ますか?」

「勿論です。」

「オークのお二人、彼はマックス。私のゴーレムです。貴方たちと旅をして、護衛をします。よろしくお願いします。」

「彼はゴーレムなんですか?」

「人種にしか見えません。」

「確かにそう見えますが、ゴーレムですから信じてください。」


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