第427話 分身たちの行動 サバゲダンジョン その6
次の日。
今朝は早朝から、70階層に挑んでいるジョージ。
「オーク、オーガ、トロールのパワー軍団に、ウルフ系とケルベロスのスピード系が加わった感じですね。」
「そうですね。」
途中休憩中だ。
「ジョージの剣捌き、体捌きも安定してきたから、次の段階に進みたいですね。」
「次の段階というと?」
「ジョージ自身の速さです。俊敏性、高速移動性。身体強化で大抵足りますが、まだ身体強化のレベルが足りないのかと。今回は止まることなしで、スピードを意識して、魔法の大技を制限します。必要な時以外は、使わないでください。今の魔力循環を見てますと、もっと早くしたいですね。私の魔力循環を感じてください。これが1/100の速さです。」
「俺もまだまだだな。」
「あくまでも目標です。今意識して、魔力循環のスピードを上げてください。いいですよ。もっとです。手助けします。私が魔力循環の後押しをします。」
私はジョージの両手を持って、右手から流し、左手から抜く。それを先ずはジョージの魔力循環と同じ速さに合わせる。そこから少しづつ速くしていく。ショージがついてこれるか確認しながら。1分もすると、ジョージは玉の汗を額に乗せて、必死について来る。少しづつ、少しづつ。3分後には、循環速度は最初の1.3倍程になっている。ここで1分間維持する。
「まだ、大丈夫ですか?」
「はい。」
更に2分。ジョージは落ち着いてきた。同じ速さなので、体が慣れてきたのだろう。
「もう少し早くします。いいですか?」
(ジョージが嫌だなんて言う訳が無いのに。)
「はい。」
2分程かけて、1.5倍まで来た。辛そうだ。
「このまま、一分頑張ろう。」
「はい。」
「深呼吸して。」
*****
「1分経過。じゃあ、止めますよ。」
俺は右手から魔力を流し込むことを止め、左から余剰の魔力を抜き取った。
「はい、お終いです。ジョージも魔力循環を平常に戻してもいいですよ。」
ゆっくりと循環がおそっくなってきたのを感知で監視していると、また、速くなり出した。
「さっきと同じ速さにできるか、試してみます。」
ジョージは目をつぶり、深呼吸をしながら、徐々に速くしている。既に1.5倍近くだ。その状態を維持している。静かに見守る。さらに、1.6倍になる。その状態を一分維持。これを繰り返し続けるジョージ。最後には2.0倍まで来た。ジョージは静かに、落ち着いている。その状態のまま、剣を抜くと、ゆっくりと左右に動かし始めた。最初は魔力循環の速さがブレたが、元に戻る。剣を振る腕に段々と力が入る。動く剣が、段々と見えなくなってくる。音も段々と大きくなってきたが、ある時点から音がしなくなった。今の循環速度は最初の3倍、
「突き抜けられたようですね?」
「はい。もういくらでも早く出来ると思いますけど、まだ、スコットさんほど早くはできません。ただ、壁を抜けたので、あとは精進するだけです。」
「宜しい。今できる速さを維持しましょう。立ってください…ここからあの突き当りまで走ってください。」
「はい。行きます。」
ズドン、という音を残して、あっという間に30m程先の壁に突き刺さっている。
「理解しましたか?」
「はい。制御が難しい。身体強化と魔力循環の関係、それと体の丈夫さも跳ね上がりました。」
「その通りです。昔スマイルがここで戦った時、一度何もしないで、体当たりで駆け抜けて1階層を踏破したことがありました。そして、結論は、あまり練習にならないから、ちゃんと剣で技を磨こうでした。今のあなたなら、似たようなことが出来ます。物理耐性は伸びるでしょうが、技の練習にはなりません。」
「ははは。スマイルらしい。僕はこのスピードを使いこなせるように練習をしたいと思います。」
「そうしましょう。では、続きをしますか。」
「はい。」
ジョージはゆっくりと歩きながら、体のバランスや筋力を確認して、とうとう次の魔獣たちが現れる。今回の群れは100頭ほどだ。トロールキング、オーガキング、オークキング達の指揮のもと、連続攻撃をかけてくる。その中をジョージは、最小限の動きで、ウルフ、ケルベロスを躱しながら、カウンターで切り飛ばしたり、ファイアーボールで迎撃する。スコットはその後を付いて行く。偶に、シャドウバインドで、敵を遅らせるぐらいだ。それさえもほとんど必要ない。暫くはこんな感じだろう。
70階層を踏破して、
「どうでした?」
「自由自在という感じがします。」
「それは凄い。さらに上を目指せそうですね。」
「はい。」
その後は、75階層まで止まることなく進んだ。
「休憩しましょう。」
2人で、串焼きとジュースで軽く食事をする。
「行きましょう。」
「気を引き締めてください。油断禁物です。」
ジョージは頷いて、76階層へ進む。
76階層も今までと似ているが、違いはクイーンが参戦してきたことだ。
クイーンは作戦立案、そして実行してくる。
「これは。」
オークがウルフを担いできて、上から投げつける。その間に下からはケルベロス。遠距離からケルピーの水圧攻撃と多彩だ。ショージはそんな中を雨をかわすようにしながら、剣と小剣の二刀流で切り抜けていく。軽く被弾しても止まらない。俺も少し参戦したくなったので、ホーミングのマジックアローで場をかき乱す。クイーンの指示でのきちっとした隊列が崩れると、ジョージは入り込んで、切り飛ばしていく。30分ほどで殲滅した。
「今日はそろそろやめましょうか。」
「そうですね。流石に疲れました。」
「今日は私の得意な豚汁です。」
食事と風呂の後、ジョージに、冷えたジュースを渡し、今日の反省会をした。
「そうですね。今はまだ速さに振り回されている感じがします。」
「よく気が付きましたね。剣の流れがうまくつながっていません。ごり押し感があります。」
「はい。」
「しかし、今日壁を突き抜けたばかりなのですから、慣れるのに2,3日はかかるものです。ここは焦る必要はありませんよ。」
「分かりました。」
「話は変わりますが、もしマジックバッグを貰えるならば、腕輪の形とサイドバッグとどちらがいいですか?」
「その言い回しは、貰えるということなんでしょうね。まあ、そこは嬉しいですけど、僕は腕輪がいいですね。いつもほとんど何も持たないでうろついているので、バッグはすぐに無くしてしまうかもしれません。」
「やはりそうでしたか。想像通りでした。」
「そうなんですか?」
「何となく、来た時も剣しか持ってなかったですしね。」
「確かに。」
「それでは、この質問はお終いです。明日も早いですから、出来るだけ多くの種類の魔法を使用して、魔力を使い果たしてください。」
「はい。」
真夜中。
『ジョージのマジックバッグは腕輪にするよ。予想通りだったよ。』
『こっちは少し変わっていて、というか、そのままというか、両方欲しいと言っていた。』
『両方?』
『バッグは普通のバッグとして使うから、別にマジックバッグの腕輪が欲しいという意味だ。』
『流石冒険者。抜け目がない。』
『俺が名前入りのいいバッグと言ってしまったからだと思いますが。』
『いいですよ。それで。ジョージにも同じバッグを作って、ジョリーにあげれるようにしてあげます。』
『それは優しいな。』
『今日、ジョージは壁を越えましたからね。ご褒美です。』
『何の壁?』
『魔力循環のスピードの壁です。私が介助して、スピードをどんどん上げて行って、自分で維持し、それからは自由自在になりました。』
『ほう。そんなやり方が。俺もやるしかないな。』
『辛そうでしたが、壁さえ超えれば、後は安定しましたから、やった方が良いですよ。』
『やってみます。』
『では、マジックバッグを作ってきます。お休み。あ、そうだ。2号は外向きの話し方と、仲間内では、凄いギャップがありますね。』
『スコットもな。ブレブレだぞ。お休み。』
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