第423話 分身たちの行動 サバゲダンジョン その2

次の日。

サバゲダンジョン51階層 


蘇る狼は朝から51階層の攻略を始めた。朝の7時から4時間で、51階層の半分に到着。魔力を武器に乗せての戦いを身につけるように、丁寧に進んで行く。

この階もオーク、オーガ、トロールだが、徐々に動きが速くなっている。

今はオークの10頭とオーガ2頭と戦っている最中だ。

「アースバインド。」「アースバインド。」

ロータスは何とかオークの大半の足止めが出来たがオーガは回り込んでくる。

「俺とフェラーリでオーガを抑えているから、前にいるオーク2頭をマセラティとロータスで片付けてくれ。」

「分かった。」「ええ。」

それぞれがそれぞれの敵に相対してゆく。オークには勝てるが、時間がかかる。2人は土魔法と風魔法で終わらせるようだ。

フェラーリは左のオーガの左側に立つと、オーガが振る棍棒をしゃがんで躱しながら、足を切ろうとする。浅かったので、かすり傷しか付けられない。直ぐに棍棒が上から打ち落とされる。フェラーリはとっさに転がって避け、ファイアーボールをオーガの顔に打ち込む。それを、オーガは手で払うが、その隙にフェラーリは懐に潜り込んで、突きを腹に刺し込む。

「うっ。」

フェラーリが呻く。

腹に少ししか刺さらなかった。不味い。フェラーリは相手の足が動き始めたのを理解して、自ら後ろに飛び下がろうとした。腕は前に組んでいる。その時オーガの押し付ける蹴りが腕を直撃。フェラーリは壁までゴロゴロと転がって、壁にぶつかって止まる。

「フェラーリ!」と叫んでいるランボルギーニもよそ見する余裕は無い。フェラーリと戦っていたオーガもこちらを向く。

(おいー、これはちょっと厳しいんじゃないのか?しかし、これぞ腕試しだ。)

ランボルギーニは正面のオーガの右手に進みながら、ニードルで顔を攻撃する。

このニードルは普通のニードルより細かくて武器としては弱いが、嫌がらせにはもってこいだ。マセラティの粉末を参考にしてこっそり練習していた。今がその時。オーガは細かな針が目に入ったために、呻いて顔を覆っている。その開いた腹に、思いっきり大剣を叩きつけた。

魔力が乗った大剣は、オーガを上下に真っ二つにして、隣のオーガにぶつかる。その隙をついて、大剣で残りのオーガの腹を刺し貫いた。オーガはランボルギーニと目を合わせるとニヤッとして、棍棒を持ち上げる。ランボルギーニは剣から手を放すと、横に頭から飛ぶ。その後に棍棒が振り落とされた。ランボルギーニは躱せたが、体勢が悪い、全てがゆっくりに見える。もう一度棍棒が持ち上がり始めた時に、オーガの首に矢が刺さった。オーガはゆっくりと矢を射ったマセラティを睨みながら、倒れ込み、ランボルギーニを押し潰した。


最後のオークを倒したロータスは、直ぐにフェラーリを助けに行った。

「大丈夫か?」

「ああ、怪我は何ともない。とっさに腕に魔力を流して助かった。戦闘は?」

「心配したぞ。ああ、終った。ランボルギーニをオーガの下から引っ張り出せば終わりだ。」

全員クリーンを自らにかけて、こちらに戻ってくる。

「お疲れさまでした。良い戦いでしたね。」と言いながら、ヒールをフェラーリにかける。

「だいぶ、武器に魔力を流すことに慣れてきています。フェラーリさんは失敗しましたが。」

「面目ない。」

「良いんですよ。その為の訓練なんですから。沢山失敗して、自分を磨けばいいんです。それに、最後に腕に魔力を流しての防御は素晴らしい判断でした。」

「俺もとっさにできるとは思わなかったが、体は覚えていたんだな。」

「その調子です。皆さんも確実にものにしています。この調子で頑張ってください。」

2号は結界と幻影魔法で安全地帯を作り、

「今日は具沢山のうどん、ミソス味です。どうぞ。リーケも腫れ茸も刻んで在ります。」

「「「「ああ~、沁みる~。」」」」

「2号は何処で料理を身につけたの?」

「好きでやっていたら自然とですね。食べることも好きです。」

「本当に美味しいわ。」

「幸せだ。」

「これは冬には素晴らしい。」

「旨い。旨い。」


2号はランボルギーニの武器を見て、少し困った顔をした。

「ランボルギーニさん、今の戦闘でこの剣は歪んでしまいました。まだ使えますが、研ぎでは治せませんので、打ち直ししないといけないです。今日はこれからこの武器を無理矢理使って、無属性魔法と弓を中心に進むしかありません。しかし、現実ではこういうことも起こります。それを皆でどうやって対処するかも重要な訓練です。皆さんで乗り越えてください。30分後に出発します。」


『スコット、いいですか?』

『大丈夫です。ジョージは来ましたよ。今55階層。慣らし運転です。』

『俺達は今51階層の中間地点、今日中にここを攻略する予定。』

『了解。』


蘇る狼の決断は、先ずは今まで通りでやってみるということになった。大剣の歪みがどの程度影響するか分からなかったからだ。ただし、マセラティが常にランボルギーニの動向に気を配ることになった。


今回は前回と同様なオークとオーガの群れ。頑張ってください。



*****


一方、こちらはジョージとスコット組。朝10時頃に合流したジョージに状況説明を終えて、2時間戦った後の昼食休憩。


「スコットさん、ありがとうございます。スマイルの代わりに俺の面倒を見てくれて。」

「いえいえ。問題ありませんよ。私も暇でしたし。それに練習にもなります。」

「お世話になります。スマイルとは長いんですか?」

「そうですね。そうでもないですよ。1年たっていません。ただ、ダンジョンで一緒に戦ったりしました。」

「そうなんですね。何処のダンジョンですか?」

「ここです。」

「因みに階層を聞いても?」

「105階です。」

「ええ、そんなにですか?」

「はい。他言無用でお願いします。私は基本的にここに住んでいますから、時間はあるんです。ジョージ君もここに住めば、行けると思います。」

「105階層ですか…どんな所ですか?」

「見えなくて速いボアやウルフがわんさかいます。そして、罠もあります。なかなか楽しいですよ。毎回学ぶことがありますから。」

「そうなんですね。雲の上の話ですよ。」

「それにしては、久しぶりの55階層、安定していましたね。」

「ええ、自分でも驚いています。まだ体が覚えているんだと思います。」

「これは、予想以上に進めるかもしれません。」

「目標はどのぐらいでしょうか?」

「80階層です…ただ、一人では難しいかもしれません。私が補助すれば勿論達成できますが。」

「そうですね。大変そうです。しかし、出来るだけ自分で出来るように頑張ります。」

「それが良いでしょう。剣を見せてもらっていいですか?」

「どうぞ。」

「これは以前スマイルに貰った剣ですね。使い込んで在ります。まだまだ使えますが、新しい剣を使ってもいい頃かもしれませんね。用意しておきます。」

「ありがとうございます。」

「では、出発しましょう。」


ジョージの今のステイタスは、


名前:ジョージ

種族:人

年齢:27

レベル:65

HP:500/560

MP:510/550

能力:剣術:75 状態異常耐性:69 物理耐性:76 魔力操作:55 身体強化:55 魔法耐性:50 魔力感知:46 生活魔法:26 火魔法:21


「午前中の戦闘で大体見せてもらいました。ジョージの場合は、一人での戦闘が中心なので剣は勿論ですが、魔法の高火力、殲滅力は蔑ろにできません。最初に高魔力の火魔法を習得するために、先ずは火魔法だけで倒してください。必要ならば私も足止めはします。」

「分かりました。」

前から8頭のオークがやって来る。武器は剣を持っている。

「ファイアーボール」

ジョージは普通のファイアーボールを連続で出して、攻撃する。しかし、あまり効果が無いので、もっと大きなファイアーボールを打ち出し始めた。3発ほど当たると、オークは倒れて死んでいったが、最後のオークはもう目の前にいたので、剣で腹を切り裂いて、止めを刺した。

「ファイアーボールでは時間がかかり過ぎました。」

「悪くなかったですよ。ファイアーボールにも色々あります。今度は私がやってみましょう。」

10頭のオークが向かてくる。

「先ずはこのファイアーボール。一見大きさは同じです。シュッとファイアーボールが飛んで行って先頭のオークにぶつかると、ファイアーボールが爆発した。そのせいで先頭の3頭は吹っ飛んで死んだ。

「このように爆発します。そして、多めに魔力を詰めて、爆発するように考えながらファイアーボールを撃つと。」

シュッとまたファイアーボールが飛んでいき、残りのオークにぶつかる。

グバーン。

残りの7頭のオークは粉々に飛び散った。

「このように威力をあげることが出来ます。ちょっと壁に向かってやってみてください。」

じっと観察していたジョージは、先ずは普通の爆発ファイアーボールを撃ち出す。

壁に当たり、爆発するが、オークを吹っ飛ばすには足りない。

「もう少し魔力を練り込んでみましょう。」

「どうやって練り込むんですか?」

「爆発するファイアーボールのイメージに魔力を押し込むイメージをするんです。」

ジョージがファイアーボールを放つ。シュッと飛んで行って壁にぶつかると、

ドン。

「いいですね。それを自由に、素早く適量で出来るように練習を続けてください。」


*****


ゴカーン、ドカーン、ボカーン、ドカーン。

1時間程の時間が経過していた。

「大分掴めたと思います。」

「そうですね。」

「先ずは魔獣で試してみましょう。」と2人は進んで行く。

「オーク4頭とオーガ1頭です。どうぞ。」

「ドカーン、ドカーン、ドカーン、ドカーン」

「終わりました。」

「なかなかいい感じですね。次は一発大き目なファイアーボールも混ぜてみてください。魔力を練り込むのが遅いと、危険ですよ。」

「はい。」

2人は進む。

前から8頭のオークと1頭のオーガ。

ジョージは最初に少し時間をかけてファイアーボールを撃ち出した。シュッと飛ぶファイアーボールを先頭のオークは避ける。がその後ろのオークに直撃した。

グバアアーン。

辛うじて残っているのはオーガ1頭で、ジョージはもう一度ファイアーボールを撃って止めを刺した。

「感じは掴めましたか?」

「はい。」

「魔法は魔力と想像で、変幻自在です。今は遅い魔獣だからいいですが、今の速さではファイアーボールが当たらないでしょう。先で学びますが、こんな事も出来ます。」

スコットの前のファイアーボールはフィアーアローの様に速く飛んで壁にぶつかり、小爆発を起こす。

「スピードもあげられるし、更に練習すると。」ファイアーボールが曲がって着弾する。

「こんな事も出来ます。まあ、こういうことはファイアーアローでやる人が多いと思いますが、ファイアーアローならもっと早く飛ばせるし、一度に多くの目標を打ち抜けます。ファイアーアローは基本は貫通力が増す魔法ですが、爆発させることもできます。結局想像と鍛錬で何でもできるんですよ。ただし、魔力を多く使えば威力や多くの機能を足せますが、体内魔素はどんどん減っていくので、そこを自分で加減できることが最後には必要です。」

「凄いということは理解できました。」

「では、進みましょう。」

2人は前からくる、オーク、オーガ、トロールを爆発で討伐していく。55階層の攻略が近づいている。

「一つ言わずにおいたことがあります。それは、爆発する魔法を使用すると、音で魔獣が集まってくるということです。今回は特訓なので、このほうが効率的でしたが、状況によっては爆発はやめて、普通に燃えるファイアーボールやファイアーアローを選択するべき場合もあります。前から70匹ほどの群れが来てます。」

ジョージはへたり込みながら、

「勉強になります。」


足元に荒い息をして倒れているジョージを見下ろしながら、

「お疲れさまでした。今日はここまでにしましょう。56階層の階段を降りた場所で野宿です。」


その夜。


『2号、こちらスコットです。明日は56階層を討伐します。今日は魔法中心の練習をしました。経過時間は6時間です。ジョージにそろそろ新しい剣を用意しておこうと思っています。』

『こちらは、明日は52階層。7時間かかりました。ランボルギーニの剣がゆがんだので、用意したいと思っています。私が打ってきますよ。』

『助かります。ジョージの剣も必要ですか?』

『いや、寸法は分かっているので、大丈夫です。若干長くするつもりです。筋力も上がってますし、以前は短めの剣でしたから、大丈夫でしょう。明日の朝までには収納しておきます。』

『分かりました。ジョージは早さと技で切る剣なので、どの形がベストでしょう?』

『定番のかたちでもよいですが、少し変えて、先端への流れが滑らかな流線形が良いと思います。切っ先3寸で斬るって言う奴ですね。』

『同意します。それと、ジョージは一人です。なので、マジックバッグを渡すべきでしょうか?』

『悩みどころですね。蘇る狼はエリザベス様の元へ戻るから、必ず皆の眼に触れてしまう。カーズがマジックバッグを使えることはばれているとは思いますが、それでも欲しがる奴等もいるでしょう。簡易バッグで武器位しか入らないなら問題ないと思いますが、悩みますね。一方、ジョージもダムディ隊長やアリアートにばれる可能性は高いし…困りますね。』

『この後、合流して連携の練習をすれば、その後渡す相手を選ぶというのも角が立ちそうです。今渡しておけば、以前もらったで済ませられる気もしますが…』

『しかし、このメンバーはエリザベス様の護衛、ジョージは自身と家族の防衛に必要と判断した、言わば身内です…信じましょう。小さいマジックバッグ。サイドバッグ的な。』

『うーん。一応賛成しますが、最後まで悩ましてほしいです。自分から言っといてなんですが。』

『私も悩みますよ。この技術は。』

『では、剣は頼みました。』

『任せておいて下さい。』

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