第182話 状況把握

ロストチャイルド商会襲撃から14日目。

早朝。



サシントン領 オタワ町 ジョージの部屋。


俺は朝早くからジョージの元まで飛んできた。家からなら近いんだ。ステイタスチェック。


名前:ジョージ

種族:人

年齢:27

レベル:25

HP:70/70

MP:45/45

能力:剣術:38 状態異常耐性:45 物理耐性:43 魔力操作:6 身体強化:6 魔法耐性:8 魔力感知:8


少し魔力も増えているな。剣術も上がった。耐性関連は魔道具で防いでいるから、進歩無しか。鍛錬中は外させよう。


「おい、ジョージ、起きろ。朝だぞ。農民は日が出る前から働くんじゃないのか?」

「ああああーあ。スライムか?朝日が出る前に働く人もいるが、そうでない農民もいるんだよ。俺は今日は普通でいい日なんだ。」

「そうか。暇なのか?暇なら付き合え。」

「いや、暇じゃあないぞ。普通に忙しいんだ。」

「そうか。じゃあ、夜だけでいいや。夜俺に付き合え。」

「何処に行くんだ?」

「ダンジョンでお前を鍛える。特訓だ。」

「何故だ?」

「ジョージ英雄化第3弾だ。お前はこのままだと死ぬ気がする。」

「何なんだ。朝から縁起でもない。何故そう思うんだ?」

「勘だ。」

「お前の勘は当たるからなー。今夜からでいいのか?」

「まあ、それでも間にあうだろう。晩飯の後で迎えに来る。夜中には帰してやる。」

「分かった。晩飯食い過ぎないようにするよ。」

「そうだな。食い過ぎ出来る程、裕福になったんだな。」

「ああ、元々この町に住んでる奴等は全員そうなったな。朝飯が水だったころとは雲泥の差だよ。」

「そうか。良かったよ。じゃあ、晩飯が終わった頃に迎えに来る。」

俺は分身を残し、次の目的地、レドマール領に向かった。


*****



早朝。レドマール領 移動した娼館。



俺は集合転移でここに来ると、馬に乗っている分身の前にスライムに戻って乗せてもらって、久しぶりに村を見せてもらった。ちゃんと魔力循環、認識阻害は掛けてある。遠くからでは気が付かれないだろう。


「さらに広くなっているな。何か心配事とかある?」俺は分身に聞く。

「いや、いつも通りだ。兎に角パワフル。あの子達、今までやれなかったことをやろうとしているのかもな。」

「成程。まあ、楽しんでくれてたらいいんだ。」

カブトヤマ(牡馬)はのんびりと俺達を運んでいる。

「今は何をしてるんだ?」

「本が増えたから、勉強してる子も多いぞ。皆読み書きできるし、計算もできるようになった。魔法も皆生活魔法は使えるから、お風呂も自分たちで入れられるしな。今は剣とか槍とかの先生を探すか悩んでいるな。外からの人間をまだ恐れているんだ。」

「大変な体験をしたからな。」

「それもあるが、この村を見られたら、何かろくでもないことを考える奴がいるだろうと恐れている。自分達が強くなる前に悪い奴等に知られる可能性が怖いんだ。」

「確かに、まだ弱いからな。ひよこみたいなもんだし。」

「だから、先生の問題だな。」

「今は基礎体力作りと、身体強化でいいんじゃないか?」

「まあ、そうなんだが。俺が教えても、基礎が合気道だしな。剣とは少し違うだろう?」

「それでも、いいじゃないか。合気道が出来れば。合気道も元は剣を相手にする、武道だし。それだけで少しは違うよ。俺の動きも基本は合気道だし。」

「そうだな。しかし教えられるほどできないんだがな。」

「まあ、そうか。誰かいい人いたら連れてくるよ。魔法の方は悪魔娘たちがくれば、任せられるけどな。」

「そうだな。あの子達はまだダンジョンか?」

「ああ、レベル上げと力加減の練習。あのまま、ユニちゃんとかに教えたら、ユニちゃんが怖くなりすぎるだろう。」

「あの子は責任感が強いからな。本気で俺を護るつもりだし。いじらしいな。」

「そうか、大切に育ててやってくれ。俺にしてほしい事とかある?」

「今は無いな。敢えて言えば、タイラー伯爵が見学に来そうな気がするから、その時替わってくれ。」

「う、それはちょっと。俺も分身に頼もうかと思っていたというか。」

「分かってるんだよ。一心同体なんだから。だが、それでもやってくれると嬉しいぞ。」

「分かった。その時には集合転移で来るよ。今日はこれで退散する。さらばじゃ。」

「古いねー。」


*****


またも集合転移でメリル領のロイター街に来た。


カインは朝の訓練をしているようだ。俺はカインの家に入ると、まだ寝ているモーガンとフリンを見る。お前ら護衛が何でカインをほっておいて寝てるんだ。まあ、殺気でもすれば起きるのか?俺は外に出てカインに見えない位置で殺気を漏らす。起きてこないな。もう少し多めに漏らす。これでも変化なしか。しょうがない。


「カイン、お早う。鍛錬しているんだな?」

「おう、スミスか。朝に来るとは珍しい。」

「まあな、急ぎでな。護衛は?」

「まだ寝てるな。」

「役に立っているか?」

「飯は作れるようになってきたぞ。」

「俺は家政婦を用意したつもりはないがな。」

「いや、やることはやっているぞ。徹夜で見張っていたんだろう。」

「カインがいいならいいんだが…。」

俺は殺気を更に漏らす。起きたようだ。スリープでまた寝かした。

「今の殺気で起きたが、俺が会うつもりはないんで、また寝かせたぞ。」

「相変わらず、訳の分からんことが出来るな。」

「まあな。練習しているからな。ところで、鍛錬の手伝いをしようか?」

「いや。大丈夫だ。それより仕事の話をするか?」

「そうだな。じゃあ、お茶でも入れてくれ。」

2人で家に入ると、服を半分着た状態の二人が床にぶっ倒れていた。俺は二人を同じベッドに放り込んで、キッチンのテーブルに着く。

「悪戯好きだな。」

「ああ、大好きだ。」

「さて、俺の集めた情報から言うとしよう。ロストチャイルド商会は事実上の空中分解だな。ユリザエール、マルセイ、デュクルセイの店は財産を盗られ、基幹商売の一つの奴隷商売に大打撃だ。3つの暗殺部は消滅。無傷の商会はドンマドリのみ。これに関連して、ユリザエールでは、商会の検査が厳しくなって、捕まっている者もいる。マルセイでも何かあわただしいらしい。商人が王宮に寄付した話がある。商人が見返り無しでそんなことはしない。デュクルセイでは、どうやら大規模な呪いが発動しているようだ。多くの商人、貴族、王宮でも怪しい動きがある。物流の流れはまだ完全に止まっていない。ロストチャイルド商会がいなければ、今のうちだと中小の商人が物流を支えている。それにより、盗賊と冒険者の鼬ごっこも頻発しているようだ。どうやら、お前の知り合いは容赦なく行動したようだ。」

「そのようだ。」

「お前は何をしていたんだ?」

「俺もいろいろと忙しくしていたな。エスパーニャ王国王都ドンマドリのバンジャ暗殺部を消滅させることは止めた。地道に仕事をしている諜報組織で、別に暗殺や誘拐などはしていない。違法奴隷も扱っていなかったしな。ドンマドリ支社には手を出さないことにした。他には、そうだな、BS商会かファニー商会の事を知っているか?」

「はあーーーーー。またお前は面倒に首を突っ込んでいるのか?」

「詳しそうだな。教えてくれ。」

「BS商会はどういう仕組みかは知らないが、大商会が作った商会だと聞く。国でもかなわないレベルだ。武力はともかく、経済力でつぶしにくるからな。ファニー商会はその先頭に立って現場で行動する商会らしい。それでも滅多に表には出てこない名前だがな。」

「成程。まあ、やはりあまり情報は無いか。俺が知っているのは、BS商会とファニー商会が獣人誘拐事件の黒幕で、獣人を奴隷にして売買していた。それを利用して、ダンガル王国の乗っ取りを仕掛けていたが、失敗。ファニー商会の会長はノルーナ王国にいる。ファニー商会の支店はユリザエールとマルセイのサックス商会にあるぐらいか。あと、俺を殺そうとしたかな。」

「ああー、やっちまったか。お前に手を出すとはな。知らないということは恐ろしい。それでどうするつもりだ。」

「エストスマ王国はBS商会に金をむしられ続けていて、税金の多くを払う羽目になっている。それも60年前の金貨3000枚の借金でだ。今は年金貨6万枚払わせられているからとんでもない。」

「そいつは暴利だな。契約を切れないのか?」

「そこが俺にも分からない。兎に角利子の支払いだけで身動きとれないような感じだ。そこでエストスマ王国はちょっとした偶然から俺の弱みを掴んで利用しようと画策している。もしかしたら、俺がエリザベス誘拐ゲームの勝者と知ったかもな。そうすれば白金貨が手に入ると考えているのかもしれない。」

「ここにも無知な国王がいるのか。まあお前のことを詳しくは知らないんだろうな。」

「そうだろうが、そこはまあ仕方がない。それよりも、俺の感覚では、BS商会はエストスマ王国に莫大な過払い金があると思う。それを俺が徴収すればいいと考えている。命を狙われたからな。ただ、力ずくよりは、スムーズにやりたいわけだ。」

「そうだろうな。BS商会を敵に回しても、いい事は少ないだろう。」

「そこで、エストスマ王国の国王に会って、その仕事を引き受けてくる人が必要だ。この契約を終了させてくるから、過払い金は報酬としていただきますという感じで。どう思う?」

「どうって、勇気がある奴が世の中にいると思うよ。」

「話は変わるが、ロストチャイルド商会ルート乗っ取りの件は考えたか?」

「言い回しが悪いが、協力してもいいぞ。今の奴隷商会を母体にしてもいいし。金があればなんとかなるだろう。」

「その時に、エストスマ王国やネイラード王国やダンガル王国の協力があればやりやすくならないか?特に先ずはエストスマ王国だ。この件を上手くまとめられれば、王様の覚えが頗るよくなるはずだ。」

「そうだろうが、最初からBS商会とぶつかるぞ。」

「そうだが、あいつらもやり過ぎだろう。俺の命も狙ったしな。だから、俺も奴等の兵隊を減らす手助けはする。だが、表に出たくない。そこで顔の広いカインに頼みたいんだ。その後カイン商会をどうするかはBS商会との後にしたほうがいいだろう。何かとな。それに、正面からの対決でなくていい。相手にもある程度花を持たせてもいい。」

「お前には貸が多すぎるから、少なくともエストスマ王国国王には会って、相談はしてみる。成功報酬で、成功しか許されない話だとは思うが。」

「まあ、そうだろうな。いざとなったら俺も前に出るさ。頑張れよ。お前さんのお供にも言っておいてくれ。命がけだとな。それと、この首飾りをしておけ。カイン以外には使えないが、お守りにはなる。」

「気楽に言ってくれるぜ。」

「それと、あの国では未成年者の奴隷は合法か?」

「いや、それは無いはずだ。俺が今の奴隷商の後見役になった時に調べたが、やはり違法だった。」

「助かった。知りたかったんだ。」

「そこにも違法奴隷を扱っている商会があるんだな?」

「ああ。アムシー奴隷商会だ。これがエストマス王国の契約の写しだ。それと、土産のオヒョヒョウだ。」

俺は契約書の写しと大きなオヒョヒョウを流しにおいた。

「なんだその魚。見たことないな。」

「ああ、海で釣ったんだ。焼いて食ったら旨かったから、土産に一匹もってきたんだ。酒が進むぞ。」

「助かる。」

「じゃあな。またそのうち。無理しない範囲で頑張ってくれ。」

「ああ、またな。」

俺はスリープを解いて、外へと姿を消した。

*****

「きゃあーーー!!」「うげぇ」どん。

ベッドから誰かが落ちたようだ。

「なんであんたがフリンのベッドに入ってきてるのよ。」

「ああ!ここは俺の部屋だ。お前が入ってきたんだろう。それも半裸で。」

「半裸はあんたも同じでしょう。あたしに何したのよー。」

「興奮するとそういう喋り方になるんだな。」

「煩い。」

「あー、お前ら。朝飯あるから食べるか?凄い魚が手に入ったから、先ずは焼いて食うことにしよう。後で話すから。」

*****

2人の誤解はとけ、旨い魚を食べた。その後どうするか相談を始めた。



*****

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