第179話 ダンガル王国 乗っ取り作戦 失敗

ロストチャイルド商会襲撃から13日目。

朝。



ダンガル王国の王都デボラ 王宮前の広場。



「おかしいな。ワイズ伯爵やレミングス伯爵達はまだここに来ていないのか?7人全員?」

「はい、まだいらしておりません。」

「もう時間が無い。発表だけしておこう。後からいくらでも、変更できることだ。」

*****

広場に面している王宮の三階のバルコニーから豪華な衣装(一応暗い色を選んでいるが、黒ではない)に身を包んだウィーズル宰相は国民に呼びかける。

「皆の者。昨日、陛下は急な病で御隠れになりました。最後まで国民と国の事を心配しておられました。やっと獣人誘拐事件が解決したころでしたのに、さぞ無念なことだったでしょう。この獣人誘拐事件に関連した冒険者やギルド職員は粛清され、貴族たちには厳しい罰を与えました。これも陛下の希望によるものです。その貴族たちも近いうちに次の世代に交替することになります。この国は今は受難の時代に突入しています。急激な王宮の変化は運営の遅滞を産み、更に政情を不安定にして、次の獣人誘拐事件が引き起こされるかもしれません。ですから、我々は陛下の遺言通り、王太子をすぐに王とし承認します。ただ、何分新王様は10歳で政務の経験が無いため、僭越ながら私が宰相兼後見役として、新王様を補助してゆく所存です。」

広場の聴衆は静まり返っている。

その時宰相の後ろから獅子の獣人男が現れた。

「ウィーズル、ちょっと待て。」

「あ、貴方は、何故ここに?!衛兵何をしている?!」

「慌てるな。衛兵は全員寝ているよ。暫くここに居ろ。お前の為だぞ。…皆さん、久しぶりだな。バッカスだ。」

「おい、あれ見てみろよ。バッカス公爵だぞ。お元気そうだぞ。死んだなんて噂を流していた奴は誰だ。」

「やっぱりバッカス様は大変な時は現れるんだな。」

「「「「バッカス様ー!」」」」

公爵はゆったりと手を振り返して、

「皆、元気そうで何よりだ。皆の顔が見れて嬉しいぞ。先ずは本題を済ませてしまおう。昨日陛下が亡くなったのは事実だ。しかし、ウィーズルに宰相兼後見役などは頼んではおらん。事実は、ウィーズルの犯罪を暴いてほしいとわしに頼んできたのだ。」

「ハァ?!何を馬鹿なことを言っているのですか、バッカス殿。」

「お前に殿で呼ばれる程、気安い仲ではないぞ。皆ここにある書類はワイズ伯爵等の貴族が我々の子供達を他国の奴隷商に売っていた契約書だ。7人の貴族の名前がある。これは、さっきウィーズルが言った貴族とは違う貴族たちだ。皆、国境近くに領地を持つ貴族たちだな。更に驚くべきことには、その奴隷商会と貴族との間のやり取りで、暫く奴隷売買は停止し、親王派の勢いが落ちた今こそ、ウィーズルと共に国を乗っ取るようにという命令書だ。そこに全てはウィーズルが差配してくれると書いてある。わしはこの証拠により、ウィーズルを弾劾する。衛兵、すぐにウィーズルを逮捕せよ。」

「それは嘘だ!でっち上げだ!私程この国に尽くした者はいないぞ!」

「そうか?ならば鑑定石で皆の前で証明して見せよう。」

*****

ウィーズルの嘘は国民の前でばらされた。俺は何故あそこで嘘をつくのか本当に理解できない。鑑定石を使われることは目に見えていた。あえて、安い悪者を演じて、王の権威を貶めないようにしたというのだろうか?それなら凄いな。それでもよく考えれば、前王の酷さは分かると思うが。まあ、考え過ぎかもな。まだ、バッカスの演説は続き、最後に。


「だから、現王様が成人の15歳を迎えるまで、わしが補佐しようと思う。皆の者、よろしく頼む。」

演説は拍手に迎えられて終わり、バッカス公爵はテラスを離れ、部屋へと戻ってきた。俺の仕事も終わったな。

「公爵。やっぱりあんたがいて良かったな。国民の信頼にこたえて頑張ってくれ。」

「ああ、お前には世話になった。名前は教えてくれんじゃろうな?」

「ああ、その気はない。期待してるよ。もう子供の奴隷は見たくないんでな。」

「任せておけ。じゃあな。」

「さようなら。」

俺は静かに消えていった。


*****


あー疲れた。久しぶりに休憩にしよう。俺は東に飛んで、前に来た漁村に来た。


「おばちゃん、お早う。」

「あら、あんたかい。また買いに来たのかい?」

「そうなんだよ。魚が食べたくなってね。今日はお薦めあるかい?」

「今日は珍しく、大きな魚が採れたよ。これだね。これをスライスして食べると美味しいよ。」

「本当。買う買う。ていうか、おばちゃんの店に在る物全部買うよ。」

「大丈夫なのかい?腐らせたらもったいないよ。」

「大丈夫だよ。マジックバッグ持ってるから。」

「毎度あり。全部で銀貨3枚だね。」

「ありがとうねおばちゃん。」

俺は箱に詰まった魚を集合転移でボルグンドに届けてやった。この名前は、ノルウェーの有名な教会からとった事は知られていない。

コックのジタンは大喜びだったし、子供達もきっと久しぶりの魚を楽しむだろう。俺はすぐとんぼ返りで、ダンジョンに来た。現状把握したいことがあったからだ。


*****

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