第178話 引っ越し 終了
ロストチャイルド商会襲撃から12日目。
朝。
ダンガル王国の国境を越えた北側の辺境。
皆は雑魚寝をさせられていた。先住者の4人には、協力してもらう為に俺のことは説明しておいた。皆が起きだしてから、隣の新しい屋敷の食堂で席についてもらった。
「皆さん。お早う。盗賊です。」
「「「おはようございます。」」」
「いろいろ言いたいことがあると思うが、先ずはこちらの4人の先住者を紹介する。こちらがフレデリカさん。呪術師で魔導士です。とても能力のある人です。そしてこちらが、元商人で、魔導士のガチャさん、元商人で魔導士のムックさん、元商人で武闘家のポンキさんです。3人とも商人の経験が豊富で魔導士と武闘家。この4人がここの元管理者です。今は人生に向き直っている最中ですが、このまま管理者として継続してもらうように頼んだ。次には、元伯爵夫人のビアンカさん。その屋敷での使用人だった皆さんたち。
ここでは、今までの職を継続してもいいですし、他の仕事をしてもかまいません。しかし、外界と完全に遮断している生活の為、自給自足だから、今までやっていたことだけやっていては、追いつかないと思う。それぞれがどんどん協力して、出来ることも増やして、世のしがらみを忘れ、楽しく生活してほしい。
あとは子供達だが、安心してほしい。ここは安全です。お前たちを虐める人はもういない。これからは全員協力して、ここで生き抜いてほしい。常に自分を磨き、いつ外に出ても生き残れるように、知恵と体力をつけてくれ。質問は?」
「盗賊のあんたはここにはいないのか?」
「俺はまだ仕事があるので、ここにはいつもはいない。偶に顔を見に来るかもな」ニヤリとする。
「まだここがどういうところか分からないのですが?」
「管理者4人が案内してくれる。先に案内しておいたから。」
「外に出て遊んでいいの?」
「ああ、いいぞ。この開発されている部分は安全だ。その外側には魔獣除けをつけた柵がある。その内側なら、先ず安全だ。だが例外はあるから、常に気は付けておいてくれ。」
「うん。」
その後全員ぞろぞろとフレデリカを先頭にツアーに行った。フレデリカ達も最初びっくりしていたから、皆もびっくりするだろう。その間に俺はコックに借りた包丁を研いだ。切断と堅牢もつけている。流石コックだ、包丁が控えも合わせて11本もある。解体もできるんだろうな。食糧は十分補充してあるし、ムラサキ、魚醬、ミソス、餃子のたれ等もある。俺は彼の腕が見たかったので、裏庭に東屋と全員が座れるようにテーブルを4つと椅子を40脚。その近くにBBQの竈を複数とオークを解体するための大きなテーブルを作った。その上にオークを置き解体用の大包丁も出しておいた。これは進呈しよう。遠くでは皆のキャーキャー言う声が聞こえる。これはビアンカさんでは?トイレを使ってみたのかもな。座ってするトイレは初めてだろう。
俺が竈で火をつけていると、ぞろぞろとツアーを終えて帰ってきた。
「畑や牧草地や馬も見てきたのか?」
「勿論。」
「これからは君たちで畑をそだて、馬の面倒も見て、この家を維持してくれ。今はこれからオークのBBQでもしようかと思って、コックのジタンにこのオークを捌いてもらおうと思って準備しておいた。皆はテーブルの用意をしてくれ。ほい、包丁。砥いでおいたぞ。」
ジタンは包丁を眺めたり、爪に立てたりしてから、オークの解体を始めた。あっという間に解体が終わり、いらない部分は俺がスライムに食べさせた。すぐそこまで来ていたから簡単だ。この魔獣避けはスライムは対象に入っていない様だ。その後はクリーンで綺麗になった。
「凄い包丁になったな。ありがたい。」
「切れない包丁は料理をダメにするし、危険だからな。」
「あんたも料理をするのか?」
「ああ、するぞ。好きだしな。」
「いつか対戦したいもんだ。」
「それも楽しそうだ。」
どんどん焼けるオークの肉を子供達は大喜びで食べていた。俺もいろいろ振りかけたBBQを焼きまくって、大人たちも皆座って食べている。ジタンとひとしきり香辛料やハーブの話をしていた時に、胡椒の話が出た。この辺で取れるはずだという。唐辛子もあるらしい。探索で探すしかないな。俺は話を聞きながら、探索をかけた。俺の探索はまだ初心者レベル。半径10m位しかできない。ひたすら歩くしかないな。しかし、ずっと探していた情報が手に入ったから、嬉しくて仕方がない。
「ここらではレグホンを育てないのか?」
「ああ、ダンガル王国ではよく見る。家でも試したが、駄目なんだ。全然卵を産まない。」
「何が悪いのかな?」
「さあ、何だろうな。獣人の子供達が知らないかな?」
「フレデリカ、ガチャ、ムック、ポンキ。レグホンの飼育のこと知らないか?」
「良く知らないわ。でもうまく卵が産まれないから、人間はすぐ止めるわね。」
「僕、レグホン育てたことあるよ。」と狐獣人の子供のショーン。
「本当か!よく覚えてるな。」
「うん。これは忘れてないんだ。」
「同じことを繰り返していたからかもしれないわね。反復記憶になったんだと思うわ。」
「卵を産んでたか?」
「うん。」
「そうか、後でレグホン連れてくるよ。何匹ぐらいいる?」
「雄1羽、雌30羽。雌はもっと多くてもいいよ。それから飼う場所がいるよ。」
「良し、後で飼う場所を一緒に決めてくれ。」
「うん。」
みんな満足したみたいだ。やはり旨い物を食べるとリラックス出来るよな。
*****
「じゃあ、ショーン、何処にレグホンの家を作る?」
「朝日が当たるところがいいんだ。だから馬小屋の横がいいと思う。」
「じゃあここにしようか。どのぐらいの大きさがいる?」
「そんなに大きくなくても大丈夫だから、これぐらい。」ショーンは地面に線を描いていった。
「そして建物には窓がいるよ。光の量を調節するんだ。」
「良し、作ってみるから、改良するところをあとで教えてくれ。」
俺は箱型の入れ物を作った。高さは2mあるし、窓も4方につけた。卵を産む台もある。
「これでどうだ?」
「いいと思うよ。後は寝藁を敷けば大丈夫。それは僕がやっておくよ。」
「頼んだ。じゃ後でな」
*****
「おーい、モルツ。話ってなんだ。」
「酒用の畑を作ってほしい。」
「今ある畑じゃ駄目なのか?」
「駄目じゃないが、食糧もいるだろう。あの畑は食糧用だろうから、減らしたくないんだ。酒の為に子供の飯を減らすわけにはいかねえ。」
「なるほど。もっともだ。じゃあ、どこにどれぐらいの大きさにするか教えてくれ。」
俺達は家の北側へ進んだ。北側は緩やかな傾斜になっている。
「うんここがいいな。ここから、あの大きな木の近くまでを正方形で頼む。」
「結構でかいな。分かった。」
俺は結界をかけてから、畑を開墾した。
「便利でいいな。よし、頼んでおいた木の株を頼む。」
「これか。何だこれは。」
「ブドウドの木だな。これは木のような草、草のような木なんだ。先ずこいつにこの畑をよく見せて、ここに生えるように言い聞かせるんだ。これが難しい。俺はこいつと長年一緒にやっているから伝わるが、新米は先ず気の合うブドウドの木を探すことから始まる。そこが一番大変なんだ。俺も5年かかったからな。そうすると、ブドウドの木が了解してくれる。そしてこうやって畑に卸すと、どうしてほしいか言ってくる。なになに。ちょっと塩気が足りない。あと水でがっちり濡らしてくれ。それともう少し土を深くまで柔らかくしてくれ。良々。今言った通りにしてくれ。」
「塩は土に混ぜ込んでもいいのか?」
「いいかい?…そうしてくれって。」
「じゃあ先ず土の上に塩を撒くから、丁度良くなったら止めてくれ。」
俺は塩を全体に撒き始めた。暫くして止められた。それから水を流し込んだ。止められた。俺は1mほど深く天地返しを行って、空気が入るように更に細かく掘り返して攪拌した。土は湿り気があり、そして柔らかく弾力もある感じになった。
「どんな感じだ?これでいいか?」
モルツはブドウドの木を畑に下ろしてやり、頷いている。
「こんないいベッドは初めてだと喜んでいる。ほれ見ろ、ブドウドの木が根を伸ばし始めたろう。それはあっという間に畑中に根を伸ばし、その根の途中から太い茎が空に向かって生え始めた。確かにこの感じは草のようだ。
「良し、今日はここまでだな。後は2、3か月ぐらいかかってあの草が実を付ける。それで酒を造る。酒蔵も立ててくれ。保存用の穴もいるな。」
俺は言われた通りに酒蔵と、貯蔵用の穴を掘った。かなりこれで敷地が広がった。俺は魔獣除けの杭を移動さして、今回はモルツと弟子のシングル、それと4人の管理者も連れて前回ウルフにお供えした場所にやってきた。
「何故ここに来たの?」とフレデリカ。
「ここは元々ウルフの多い場所でな、俺達が勝手に開墾して奴等の縄張りを荒らしてるだろう。だから偶にこうやってお供えをするのさ。今日また、酒用の畑を拡張したからな連絡みたいなもんだ。ほら、来た。」
大きな狼たちがやってきた。今回も20匹ほどいる。
「やあ、悪いな。また酒用の畑を広げたんだよ。今度酒が出来たら、おすそ分けするよ。今は、またオークで勘弁してくれ。ここに居る人種はここを管理している者だ。悪さはしないから他の人種共々、大目に見てやってくれ。」
俺はオークを4匹出すとウルフの前に置いた。ウルフたちは全員の匂いを嗅いでから、オークを咥えて去って行った。
「ふー。怖かった。」
「怖いけど、話が分かる奴等だ。」
「そんな感じね。」
「モルツも酒が完成したら1樽位御裾分けしてやってくれ。」
「勿論だ。自然の中ではお互い様だ。」
俺は簡単な祭壇を作り、馬車が通れるくらいの道を作った。酒の入った樽を運ぶには荷車を押せた方がいいだろう。まあ、柵から15m位しか離れてないがな。
「良し、帰ろう。」
3か月後が楽しみだな。
*****
俺は集合転移でデボラの冒険者ギルドに移った。今朝王様が死んだはずだ。発表は今日か明日か。分かった。明日だな。了解。明日が楽しみだ。
俺は商業ギルドに歩いて行った。
「いらっしゃいませ。」
「レグホンを買いたいんだが。」
「はい、何羽でしょうか?」
「雄1羽、雌50羽。」
「分かりました。」
「銀貨4枚と小銀貨8枚です。」
「はい、お金。餌は何をやればいいんだ?」
「何でも食べますよ。魔獣ですからね。ライスでも買いますか?安いですよ。」
「そうする。後、寝藁も。」
必要な物を全て買って、飛んで帰った。
「ショーン、買ってきたぞ。餌は何をやるんだ?」
「なんでも食べるよ。その辺に出しとけば勝手に何か食べるよ。」
「一応、ライスを買ってきたけど。」
「十分だよ。」
ショーンと俺は小屋を拡張し、寝藁をしいて、レグホンを中に入れた。
「後は頑張ってくれ。」
*****
俺は辺境を回りながら探知をかけ続けたが、胡椒は見つからない。気長にやるさ。
「フレデリカ、俺はもう行くよ。皆を頼んだぞ。」
「分かったわ。」
*****
俺はデボラの王宮へ集合転移して、明日の準備を始めた。俺は地下牢へ降りていく。地下には見張りが2人いたが、スリープで大人しくさせ、そのまま地下牢に進むと誰もいない。一番奥に進んで、突き当りの壁に手をつく。右側の少しへこんだ石を押すと、その壁が後ろに開く。さらに奥に行くと、ちょっとしゃれた地下牢に爺さんがいる。
「よお、爺さん。まだ生きているんだな。」
「貴様は何者だ?会ったことは無いな?」
「そうだな。初対面だ。名乗る気はない。」
「何の用だ?」
「あんたこそ何でこんなところに居る、バッカス公爵。」
「口うるさい奴には消えて欲しいんだろうよ。殺す度胸もないがな。」
「あんたはこのままここで死ぬつもりか?」
「さあ、どうなるかな。」
「これを見てどう思う?」
俺は集めた証拠を見せてやった。
*****
深いため息の後、
「わしがいない間にこんなに腐っていたとわな。」
「ああ、酷いもんだ。どうするつもりだ?あんたが何もしないなら、俺が全部殺して終わりだが。」
「何だと?」
「ここに来れるんだ。簡単な仕事だ。ただ、その後この国がどうなるかは知らないが。」
「…わしが外に出れば何が変わるんだ?」
「いろいろ変わるだろう。あんたは今でも人気がある。信じている人たちもいる。可能性はあるだろう。どっちにしろ死ぬが、後片付けはましになる。」
「…良かろう。わしが出来ることをしよう。」
「じゃあ、その証拠は預けておこう。俺にはもう必要ない。有効に使え。明日の朝に迎えに来る。」
俺は次の場所へ向かう。商業ギルドだ。ここで根絶やしにした貴族の口座から全てを回収した。
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