第176話 ワイズ伯爵
ワイズ伯爵の屋敷の中も宴の真っ最中だった。
「おい、子供達で遊ぶから、連れて来い。」
「坊ちゃま、あれは商品なので、乱暴にしては困ります。今までも無駄にしたことがおありでしょう。」
「父上、いいでしょう?今日は特別だから。手加減するから。」
「まあ、いいだろう。殺さなければ、妻の治癒魔法で治せるだろう。連れて来い。」
「誰をですか?」
「全員だ。これで屋敷が獣臭いのを我慢せずによくなる。」
「かしこまりました。」
5人の獣人の子供達が連れてこられた。既にひどい状態だ。鼻が利く獣人の子供達には不潔なだけで辛いだろうに。既に腕が無い子供もいる。子供達は泣きながら震えていた。今まで外に連れ出されたことが無いのか、周りを見回して、薄笑いを浮かべる多くの人に見られていることが、いつもと違うことで、更に恐怖が増している。いつもと違うことをされると震えている。それでも5人は互いに庇う様に固まっていたが、
「おい、その庭木の前に一列に並べ。」と伯爵の子供が叫ぶ。
ガキがニヤニヤしながら、手に鞭をもってぴしりぴしりとやってくる。
「最近、鞭の練習を始めたんだ。地下牢じゃ狭くてうまくできないから、ここでこれから練習をする。庭木じゃ練習を楽しめなかったんだ。お前らも協力しろ。」
子供達はますます身を固くして丸くなる。
「一列になれって言うんだよ!俺の命令が聞けないのか!」
伯爵の子が固まっている子供達を鞭で打つ。
「これだよ、これ。アハハハハ。」
子供たちは泣くしかない。周りでは衛兵達が笑っている。
そんな時に俺達は盗賊の振りをして、パーティー会場の庭に静に入り込んだ。
「ほう、今日はパーティーか?景気がいいな。俺達も招待してくれよ。」
ぎょっとする衛兵達。
「何だ貴様ら!」
「盗賊だよ。」
「衛兵、殺せ!」ワイズ伯爵が躊躇なく叫ぶ。
先ずは20人の衛兵が飛び出してきた。俺は4人の分身達に任せて伯爵の子供に寄って行った。
「いい鞭だな。ちょっと貸してくれよ。」
俺は鞭を取り上げた。
「何をする。」
「うるせえな。」
俺はガキをビンタで張り飛ばした。その後に獣人の子供達に、
「虐めないから、こっちにおいで。こっちにおいで。」
手招きした。
来るわけないよな。
俺は横目で分身達を見て、また練習しているな。今日は全員ナイフだけか。宇宙CQCだな。『ニャル子さん』のように、今度バールのような物を作ってみるか。皆いい動きをするよ。俺は食事が並んでいるテーブルに椅子を6つ並べて、鞭は一度袋に入れて、子供達に近づいた。
「子供達よ。そこは危ないから、あっちで食べ物を食べて待っててくれないか?本当に虐める気は無いんだ。クリーン。」
自分達の体が奇麗になって驚いている。1人の腕の無い子供が勇気を出して、
「本当に虐めない?」
「ああ、約束しよう。」
俺の目を見て、頷くと、他の子供の手を取って引っ張て行く。ぞろぞろとテーブルに着くと、
「さあ、座って好きに食べてくれ。焦ることないからな。まだ時間はかかりそうだし。」
その頃には、俺の盗賊団は衛兵を半壊させていた。子供達が一生懸命食べている横で、俺は書類に目を通していく。さっき分身に説明された通りの手紙がある。ちゃんと宰相の後ろ盾で大臣になれると書かれているし。証拠としては申し分なしだ。他にも獣人売買の契約書。儲けているね。何十人売ってるんだよ。しかしここの王様も本当にどうしようもないな。まあ、BS商会に嵌められたと言えば、それまでだろうが、このままでは戦えないだろう。他の商人からも賄賂は当たり前だし。まあ、これはある程度仕方がないとも思うよ。賄賂が違法ではない世界だ。しかし、ある程度制御しないとな。こいつらからも少しづつ回収しておこう。応援の衛兵を片付けたら、分身にこの商人達を回って財産の二割を供出してもらおう。少しは痛い思いをしろ。伯爵家に賄賂送って成功している商会なら、それ位で潰れないだろう。
大分衛兵が減ってきた。俺は横を向いて、
「美味しいかい?」
「うん。美味しい。沢山あって嬉しい。」
「そうか。全部食べてもいいからな。それと、もし俺があの貴族や貴族の子供を虐めたら、嫌か?」
「ううん。全然。私の友達はあいつに殺されたよ。何も悪いことしていないのに。私の腕も切ったし。」
「酷い奴だな。少し罰を与えないといけないな。ゆっくり食べててよ。最後に、名前は何て言うの?」
「分からないの。」
「そうか、後で気に入った名前を付けような。」
「うん。」
目には涙があふれていた。
あー、胸がざわざわする。俺は席を立っておろおろと立っている貴族たちの方へ移動し始めた。右手にはさっき借りた鞭がある。衛兵が一人こちらにやってきた。分身が気を聞かせてくれたんだ。練習がいるだろうって。
「とっとと死ね、盗賊。」
「お先にどうぞ。」
俺は鞭を素早く斜めに振るった。距離を加減して、丁度顔に鞭の先端が当たるように。触手で感じは掴めてるんだよ。スキルも持ってるし。まだおおざっぱだけどな。鞭の先端が衛兵の兜と顔にめり込んだ。もおちょっと先が重い方がいいな。俺は土魔法で菱形の石を作り、それを鞭の先に固定した。それを前後に振り回して、うん、これぐらいか。長さもあと1mほど長い方がいいか。俺は自分で作った紐を繋いで無理やり延長させた。俺の糸で鞭を作れば凄いのができる気がする。後でこの鞭の解析をして、自分用の鞭を作ってみよう。やることは多いな。
「さて、お待ちどおさま。パーティーの主役はあんた等だろう?今度大臣になれるんだって?昇進おめでとうかな?」
「貴様は何者だ?!」
「盗賊と言ったけどな。人間が獣人の国で大臣になるってどういう意味があるのかね?」
「…」
「獣人を輸出し放題か?いくらでも罪をでっち上げて奴隷にして売り飛ばせるよな。かなり稼いでいるようだし?お前の子供も売らないか?伯爵の子供となれば、世の変態が大喜びすると思うが?」
「…」
「なぜ何も言わない?」
「お前達はすぐに軍隊に殺される。話す価値もない。」
「成程。言いたいことは分かった。」
俺は鞭をふるって、ガキの腕を弾き飛ばした。やはり先端を重くして、正解だな。
「ぎゃああああああ。」
「貴様何を。」
「見れば分かるだろう。このガキがあの女の子にしたことだよ。俺は何か悪いことをしたか?」
「当たり前だろう。わしの跡取り息子の腕を。」
「跡取りとか関係ないだろう。特に俺には。あの子の腕を切り落としたんだから、いいじゃないか。悪い事なら、親のお前が叱っていたはずだしな。夫人は治癒魔法が使えるんだから、治せばいいだろう。とっととしないと死んじゃうぞ。」
夫人は治癒魔法で息子の腕を直そうとしている。しかしこのサイズの欠損は無理っぽいな。
「で、伯爵、これからこの国をどうするんだ?」
「…」
「BS商会って知ってるか?教えて欲しいんだが。」
「…」
俺の鞭が唸ると、今度は伯爵の左腕が吹っ飛んだ。
「ぐおおおおおお。」
「教えて欲しいんだけどな。」
「よ、良くは知らないんだ。」
「そんな相手と商売してるのか?」
「ああ、儲けにつられてな。」
「獣人の子供達の売買だけか?」
「ああ。後はホールからの珍しい石とかだな。」
「その石で何ができる。」
「質の高い魔石と同じ扱いが出来る。魔獣を倒すより簡単だが、深く潜らないといけないから、重労働だし、多く出るわけではない。他にもいろいろと変わったものが採れる場合がある。それらを高額で買ってくれる。」
「何年ぐらい商売をしている。」
「俺は3年ほどだから、大して売ってはいない。」
(これも調べないとな。特別な武器などを作っていたら、俺も危ういかもしれない。)
「分かった。最後にあんた等に敵対している貴族はいるか?」
「親王派はそうだが、それ以外はいないな。」
「そうか。じゃあな。」俺は鞭を振って、伯爵の首を刺し貫いた。隣の夫人と息子は真っ青だ。
「何か言い残すことはあるか?この証拠があればどのみち死刑だから、今ここで済まそうと思ってるけど。」
「子供だけは許してください。お願いします。」
「すいません。このガキはいまだに何が悪かったのか分かってないですから、手遅れだと思います。夫人には申し訳ありませんが、貴方も獣人の子供達の虐待を止めなかったので同罪とみなします。すいません。」
「確かに私は止める力がありませんでした。私はどうなってもかまいませんから、子供だけは。お願いします。」とその場にひれ伏す。
「その愛情は、子供を厳しく躾けるときに使ってほしかった。すいません。」俺はスリープで彼女を寝かせた。
「さて、ガキの番なんだが…」
俺はテーブルの方に振り向くと、獣人の子供達がじーっと見つめている。誰も止めようとはしないようだ。止められるのは君たちだけだが…。俺は頷くと、腕を振るって、ガキの首を飛ばした。彼は自分が死んだことも気が付かなかっただろう。子供達のホッとする気配が伝わってくる。よほど憎かったんだろう。応援の衛兵の方もう終わりか。分身に財産と資材の回収に向かってもらった。
「さて、子供達もお疲れ様。皆に他に酷いことをしたやつらはこの中に居るかい?」
「あまりない。会ったこともないから。」
「偶に美味しいご飯が出た。」
「分かった。ということなんで、他の人達に罰を与える気はないよ。このままこの屋敷に残ってもいいし、逃げてもいいよ。一人につき金貨20枚づつ渡しておく。退職金だ。」
金を渡しながら、俺は闇魔法で彼らの記憶をあいまいにしておく。これで訊かれてもまともには答えられないだろう。ここの使用人はましでよかったよ。最初に行った貴族の所は使用人が子供達を犯したりしていたから、全員死んでもらった。屋敷も丸ごと手に入ったので、どこかに立て直そう。こんな感じで屋敷も3つ手に入ったし、資金もたっぷりだ。
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