第171話 ロストチャイルド商会襲撃から9日目

ロストチャイルド商会襲撃から9日目。

午後。


ダンガル王国の王都デボラ 冒険者ギルド。


「やっとデボラに着いたな。冒険者ギルドに行く前に、早速衛兵隊長と話がしたい。」

ムンバイから来た冒険者ギルドのギルマスと衛兵隊長は、街の門を抜けた所で衛兵に隊長への面会を希望した。

「わざわざムンバイからどのようなお話ですか?」と隊長。

「この度ムンバイの冒険者ギルドで獣人誘拐殺害事件の共犯者として、私の冒険者ギルドの職員を2人緊急逮捕しました。この者たちによると、デボラの冒険者ギルドの副ギルマスも犯罪に関与しているとの情報を得て、王都の衛兵隊にも協力をお願いしたく立ち寄りました。この事件は現在最も緊急な事件であると理解しております。ご助力をお願いしたい。」

「そのようなことになっていたとは、分かりました。ご協力しましよう。」

すぐに20人の衛兵と隊長たちとギルマスは、冒険者ギルドへ向かった。


「冒険者ギルドへようこそ。」

「俺はムンバイの冒険者ギルドのギルマスだ。ここのギルマスと話がしたい。」

「少々お待ちください。」


会議室の中。


「どういったお話でしょうか?」

「私はムンバイの冒険者ギルドのギルマスのタランティーノだ。こちらにフレデリカとい者が働いているだろう。ここに呼んでくれ。」

「何故ですか?」

「来てもらえばわかる。」

「今、彼女は護衛と共に西方の冒険者ギルドを視察に回っている。2週間すれば帰ってくる。」

「そうですか。それでは、ギルマスの貴方からいくつか質問させていただきたい。」とデボラの衛兵隊長、ジャイム。彼はポケットから鑑定石を取り出した。

「これは尋問かね。」

「いいえ、質問です。しかし、副ギルマスが犯罪に関与していたとなれば、このギルドの職員を全員調べなくてはなりません。それ程に重要な案件ですので、ご理解いただきたい。」

「まだ、彼女が犯罪に関与していると証明されたわけではないでしょう?それでもですか?」

「ええ、証人がいますからね。冒険者ギルドとしても、身の潔白をすぐに証明した方が良いのではないですか?」

「いいえ、ここはお断りさせていただく。陛下からの勅命ならば従いましょう。もしくは、副ギルマスのフレデリカの犯罪を証明してからにしていただきたい。」

「分かりました。それでは、これからの2週間に行方をくらませた者は、すぐに指名手配させてもらいます。逃げる者は犯罪者です。」

「分かりました。」


捜査できなかった3人は衛兵を数人残して監視をさせ、すぐに王様の捜査許可をもらいに行ったが、それはかなわなかった。先ずはフレデリカの犯罪を証明せよ…か。俺は分身すると、冒険者ギルドに一人調査に残し、王宮へと入り込んだ。


「陛下、このままでよいのですか?」

「仕方ないであろう。もうどうしようもないのだ。」

「しかし、何もしないでは、何も変わらないではないですか?」

「では、国民を犠牲にしろというのか?」

「既に国民を犠牲にしているではないですか?自分の見えない所の国民は、国民ではないというのですか?」

「少ない犠牲なのだ。それで、他の国民は安心して暮らせるのだ。感謝されたいぐらいだ。」

「では、貴方のお孫さんを奴隷として差し出せばよいのではないですか?国民も少しは納得すると思いますが。」

「…煩い。これが一番良いのだ。」

「…」


結局自分が一番かわいいんだよな。宰相の意見に賛成だ。国王なら先ずは身内を奴隷に差し出すべきだろう。どいつもこいつも。痛い目見ても学ばないんだろうな。それでも、先ずは痛い思いをしてもらおうか。こいつは許されるべきではないだろう。


俺はじっくりと魔力を練り上げて、2日で激しい痛みと共に死ぬ呪いをかけた。表皮はどんどんと腐り始める。お前は王としてもっともしてはいけないことをした。あんたが特にひどいとは思わない。前世のときも今も本当に変わらない。前頭葉の発達はこういうふうに進化させるのかもしれないな。どれも責任をごまかせるようなシステムがあるからだと思う。犬を調教するには、悪いことをしたら、その場で叱らないといけないと聞いた。すぐに叱られないと、何が悪かったのか分からなくなるらしい。人間も同じだ。その場で罰を与えよう。


宰相の見ている前で、王様はどんどん腐り始めた。その痛みは彼の絶叫具合からも想像がつく。

「陛下、陛下、どうしたんですか?これは…誰かいるか。すぐに医者と神聖魔法を使える物を呼んできてくれ。大至急だ。」

1時間経ったころには、皆があきらめていた。

「この呪いはとても強い。私の解呪ではどうしようもない。ユリーザ大国のスレイニー司祭ならあるいは可能かもしれないが、来てもらうにも1月以上かかるだろう。とても持ちそうにない。」

「誰の呪いかは分かりますか?」

「いいや。分からない。呪いはいつ発動してもおかしくない。だから、いつかけられたかもわからない。力になれず申し訳ない。」司祭様は去って行った。


「もしかして私が先ほど攻めたことが発動条件だったのか?」

宰相は自分を責めた。彼はその責任を果たす為、国を少しでも良くするためには、全ての元凶が国王だということを発表して、次の世代には国民の生活はもっと良くなると信じてもらおうと考えたのだろう。

「衛兵隊長を呼んでくれ。」

*****

「衛兵隊長、陛下の状況は聞いているね?」

「はい。危篤と伺っております。」

「そうだ。私は今越権行為をしようとしている。陛下の存命中に、陛下の許可なしに衛兵に命令をすることだ。しかし、私はそれでもしなくてはいけない。すぐに冒険者ギルド全員を捜査せよ。証拠も探せ。私が許可を出す。すぐにだ。行ってくれ。」

「分かりました。お任せください。」

「その後は、また支持を出す。」

「はっ。」


既に夕闇迫る中、3人は冒険者ギルドの会議室でデボラの冒険者ギルドのギルマスと向かい合っていた。

「遅くなりましたが、陛下の許可をいただいてきました。これが捜査許可証です。」

「名前が陛下ではなく、宰相になっていますが。」

「それが何か問題がありますか?王宮から発せられた許可状だ。捜査させて頂く。拒否すれば、その場で逮捕する。」

「分かりました。今は忙しい時間帯でして、この会議室はすぐに使うと思いますので、奥の部屋でお願いします。」

4人は奥の小さ目な会議室に入った。ギルマスは余裕を見せている。

俺はその表情を見ながら変だと気が付いた。どんな場合でも、鑑定石を使った尋問であれば、人は緊張する。質問によっては、人に言えないようなことがばれてしまうからだ。それが犯罪に関してだろうが無かろうが。人間は基本的に秘密は隠し通したいと考える。それはそうだ、いつ悪用されるか分からないのだから。それが、立場のある人間ならばなおさらだ。ではなぜギルマスは全く緊張していないのか???

俺はその会議室を見回した。ハハーン。この部屋には結界が張ってある。この結界はたぶん魔法を使用不能にするものなのだろう。だから鑑定石が不能になると思っているんだな。俺はすぐに結界を解呪するよりも吸収してやった。俺の結界術のレベルが上がるかもしれないしな。

そして尋問が始まった。


「貴方はデボラの冒険者ギルドのギルマスですね。」

「はい。」

「貴方は女性ですね。」

「いいえ。」

「フレデリカは2週間の視察に出かけていますね。」

「はい。」

「フレデリカが犯罪に協力していたことを知っていましたか?」

「いいえ。」「光った。嘘をつきましたね。」

「そんな馬鹿な。」

「何故馬鹿なと思ったのですか?この部屋には仕掛けがしてありますね?」

「いいえ。」「また、嘘をつきましたね。」

「そんなわけがない。私は、私は…。」

「貴方はフレデリカと共に獣人誘拐事件に関わっていましたね。」

「いいえ。」「また、嘘だ。貴方は獣人誘拐事件の犯人ですね。」

「いいえ。」「また嘘だ。貴方を逮捕します。」

ギルマスは立ち上がりざまに剣を抜こうとしたが、その腕をタランティーノは切り落とした。

「冒険者ギルドの面汚しが。他の者も全員調べろ。」

「はっ。」

*****

蓋を開けてみればほとんどの職員が犯罪に関与していた。魔獣の解体をする職員たちだけが一切関係なかった。その日の内に、冒険者ギルドの一時閉鎖が発表され、証拠からも完全に奴隷商会との癒着が発覚した。


衛兵隊長が宰相へと報告に戻る。

「宰相様、冒険者ギルドは奴隷商の出先機関のようです。ほとんどの職員が奴隷商に抱き込まれていました。職員たちは逮捕して衛兵の牢屋にいれてあり、冒険者ギルドは閉鎖させています。」

「分かった。よくやってくれた。尋問は続けてくれ。厳しくな。次に、衛兵隊も全員鑑定しろ。急げ。その次は商業ギルドもだ。奴隷商会の名前は分かったか?」

「はっ。奴隷商会の名前はまだ分かりません。」

「続けてくれ。」

*****

宰相は王様に報告にいった。王様の豪奢なベッドの中で、顔はどす黒く変色し、異臭を漂わしている。

「陛下、獣人誘拐事件にデボラの冒険者ギルドが関与していました。完全に奴隷商会の出先機関です。私は関係者を逮捕させました。これで、少しは獣人誘拐事件が減ることと思います。」

「何を勝手なことをしておるか。これでは我が一族が殺されてしまう。」

「国民を守れない王家ならば、必要ないでしょう。」

「お前は何も知らないから…うぐう。痛い、痛い…。」

「ならば教えてください。それから考えます。」

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