第170話 BS商会の業務

ロストチャイルド商会襲撃から8日目。

朝。 


ダンガル王国の王都デボラ 冒険者ギルド。



「ギルドマスター、では今回は西方の視察に行ってまいります。二週間で帰ってくる予定です。失礼します。」

「よろしく頼む。今回で暫く終了だ。」

フレデリカは頷いて、3人の冒険者と去って行った。



朝 ダスキン奴隷商会復興委員会。



「よく朝から集まってくれた。定期報告をしてくれ。」

「南部ネットワークは更に苦しい状況に入った。マイクロフ聖王国の鎖国により、途絶したネットワークの上に、ネイラード王国でも大手のロートルシード奴隷商会が壊滅した。王国の今度の奴隷事情ははっきりしていない。かろうじて獣人を捕獲しているダンガル王国だが、今後どうなるか分からない状態だ。今は個人の奴隷商会と生き残り、時機を見て編成し直したほうが安全ではないかと思う。」

「西部ネットワークも少なからず影響を受けている。エリザベスがメリル領の領主となると、どうしても奴隷商会の影響力が減退する。旧エリザベス領のネットワークを破壊されて復興出来てはいない。正規の奴隷商会としてならば活動できると思っている。先ずはそこから足場を築き、時間をかけて、再度裏で商品の受注を始めて行くしかない。だが、これからはより厳しく監視されるだろう。」

「北はマルセイのロストチャイルド商会が壊滅させられた。しかし、西部、南部ほどに厳しい状況ではない。王家との人脈も維持できているので、確実な商売をしていけばしのげると思っている。」

「東は元々奴隷商会に関与していない。これからネットワークを開発していくかもしれないが、大きな商売に結び付くことは遠い未来だ。もともと奴隷という考えがそぐわない地域だからな。」

「話は分かった。南のダンガル王国への補強をした方が良いだろう。ダンガル王国の収穫が邪魔された場合は、多くの客から見限られることが考えられる。奴隷商会を裏で運営しているのは、我々だけではないし、今こそ参入したい商会はあるだろう。それを潰すことも必要だ。今まで以上に武力が必要となるが、良い意見はあるか?」

「冒険者を雇うことが単純でいいのではないか?」

「今から育てる時間は無いからな。」

「どこかの商会から借りるか?」

「傭兵団を雇う。」

「これぐらいか。それでは、それぞれが薦める集団を二週間後の会議で推挙してくれ。」

「「「「分かった。」」」」

「それとは違うが、誰が我々の事業を邪魔しているのだ。ここ半年ぐらいだぞ。そいつも突き留めて消す必要があるのではないか?」

「それは分かるが、今までの調査では判別できなかったと聞いているが。」

「そんなことあるだろうか?」

「再調査の依頼をするか。うちの調査部でもトップに依頼すれば何か見つけてくれるかもしれん。私が依頼しておこう。これも2週間後の会議で経過を教える。」


*****


午後。エストスマ王国 王都マルセイ 王宮謁見の間。


王は目の前にいる3人に話しかける。

「忙しい中、よく来てくれた。君たちにはあまり嬉しくない話かもしれないが、聞くだけの価値はある話だと思う。ここにある資料は君たちが犯してきた犯罪行為に関してだ。殺人、誘拐、詐欺、捏造、犯罪幇助と依頼等々だ。この証拠を使えば君たちは死刑で財産は没収される。さて、この証拠をいくらで買い取るかね?直答を許す。」

「陛下、私は金貨2000枚お支払いします。」

「私は金貨3000枚です。」

「私も金貨3000枚払います。」

「皆、話の分かる者達で私も助かる。では宰相に払って証拠を処理してもらえ。」王様は席を立ち、奥へ下がった。

*****

「今迄でいくら儲かったか?ハンセン。」

「全部で金貨21000枚です。陛下。」

「思ったより儲かったな。情報はこうして使わねばな。」

「確かに、そうですね。しかし、次はどうしますか?」

「そうじだな、どうしたものか。影よ。新しい情報はあるか?」

「この情報を手に入れた者の素性はまだ分かりませんが、ユリーザ大国のロストチャイルド商会の本社を襲撃した可能性がある者は、その少し前に商会へ商隊の物資を渡した者と関係があるやもしれません。証拠は一切ありませんが。」

「証拠も無しで何故そう思う?」

「勘です。」

「分かった。その者をとらえてまいれ。話させればよい。」

「はっ。」


*****


影の男は陛下の御前から退いた後、ユリーザ大国に向けて出発するための準備を進めていた。

「これも必要になるかもしれないな…この機会にこの国から逃げ出そう。もう十分恩は返した。」

俺は男の部屋の空気へ自白剤を静かに混ぜていった。男は全く気が付かづに独り言を言い続けている。

「大体、何故俺たちが金を払い続けなければいけないのか?

大体は二世前の王が考えなく商人達から金を借りたからだろう?そして何度も返す機会があったが、その時は商人が契約書を盾に元金の払いを受け取らなった。それが今では、やっと利子を返すだけで税金をほとんど食い取られている。やってられるか?」

成程。住宅ローンと同じ仕組みか。考えることは本当に同じだな。

「さっき手に入った金貨21000枚だって、焼け石に水だろう。今の王になってましになったが、既に商人が政策を決めてるようなもんだ。あいつらが国民のためなど考えるわけがない。商会を立ち上げた初代はまだ貧乏人の苦労を知っているだろうが、今の奴らはエリートだ。金を搾り取るための家畜ぐらいにしか思っていないだろう。そうれでなければ、エリザベス領の乗っ取りなぞ考えるわけがない…この国は次のターゲットになっているだろう。俺は売られるのはまっぴらだ…くそ、何故俺はもてないのか?この間の飲み屋の娘はうまくいきそうだったんだ。影が薄いとか言われても、仕事柄目立たない癖がついているし。いや、あの時ぐらいはもう少し、…だが、誰かに見覚えられたら後々面倒が…大体彼女のお袋はあんな感じだ。将来彼女もあんな感じで…親父さんげっそりしてたし…大体うちの家系は…。」

もう、十分聞いたな。しかしその商会たちの詳しい話と証拠が欲しいな。契約の話があるんだから、契約書もあるんだろう。まだ、王の部屋の隠し金庫は触ってないから、そこだろう。今なら、闇魔法で意識を少しそちらに誘導すれば簡単だ。

「俺が家を建てるときは絶対あいつらから金は借りない。あの、BS商会。確か6つの商会からできていたよな。今は5だったか。ロストチャイルド商会が脱落したからな。インコチャ商会、アンバチャ商会、チェイス商会、ミツビ商会、ホンコバ商会。しかし、こいつらと直接かかわらないようにしても、間接的に関わらない手が無い。自分達で完全自給自足で自前の物流を手配するだけの金が無いとな。しかし最初からならできなくもないだろう。契約書をしっかり把握して、首根っこを抑えられないようにしていれば大丈夫。しかし、奴等の暗部も恐ろしいからな。結局何時でも最後は暴力だ。誰でも痛い思いはしたくないんだから…俺も一応暗部に所属しているけど、機械になり切れないし。やっぱり向いてないな、この仕事。俺の天職は農業かも。しかし、直ぐうまく生活できないだろうし…この仕事給料はそこそこだし…。しかし、毎日悩んで仕事をするのは…どんな仕事でも悩むんだし…あー、分からなくなってきた。兎に角この国から脱出しよう。そうすれば、この任務からも解放される…そうだ、まず、自由になってから考えよう…。」

これで、お父さんの事件をほじくり返したりしないだろう。自白剤と闇魔法は便利だよ。闇魔法だけで自白もさせられるが、なるべく脳をいじりたくないんだよな。それが癖になられても気が重いし。さてと、また俺にお小遣いをくれそうな商会が集まってきた。どうするか。先ずは覗きに行くか。相手が分からなければどうしようもない。

俺は先ず証拠の契約書を見るために、王の部屋に入り込んだ。まだ王は執務室だから、心配ない。すぐに隠し金庫を開けてみると、一番下の箱に入っていたよ。元金金貨3000枚。60年前の借金だ。元金の返金は60年後。今なら元金払っても問題ないわけだが、その間に経済の浮き沈みとによる追加融資、利子がのっかって、年間の利子が金貨60000枚。阿保らしい額だな。何もしなくて年間6万枚儲かるんだから、こんな商売止められないだろう。クーデターが起きたら、どうなるのか?この契約書はエストスマ王国と結ばれている。まあ、国王が変わった位では無理でも、完全に血縁関係もない違う国になれば、どうなるか。強引に行けば行けなくもないだろうがその後の物流がな…ちょっと打ち合わせもいるな。

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