第172話 フレデリカ

ロストチャイルド商会襲撃から10日目。

午前中。


ダンガル王国の西方。


草原の真ん中では、フレデリカと3人の冒険者が待っていた。そこへ冒険者風の男がやってきた。

「よお、待たせたな。」

「何をぐずぐずしているんだ。我々を待たせるとはどういうつもりだ。」

「どうと言ってもな。ちょっといろいろと調べてきてたんで、遅れちまった。わりいな。」

「今回は何人捕まえてきたんだ?」

「4人だ。」

「ではいつも通りに。」

「ちょっと待て。ロストチャイルド商会もダスキン奴隷商会も潰れているんだってな。奴隷の数もそろわなくなって金額もうなぎ登りだって言うじゃないか。なのにいつも通りの商売になる訳ないだろう。」

「いらない知恵をつけたみたいね。」

「知識は力だっていうからな。」

「知りたがりは早死にするとも言うぞ。」

冒険者達が前に出て、剣に触れている。

「知らなくても早死にするからな。少しぐらい大目に払ってくれてもいいだろう。」

「仕方ないわね。1人に付き金貨5枚でどう?」

「ああ、それならいい。奴隷は向こうの草影だ。」

4人の子供達を連れてきて、金貨20枚をもらった。

「では早速子供達の記憶を消させてもらおうかしら。」

フレデリカは一人の子供の頭に手を乗せると魔法詠唱を始めた。冒険者はそのしぐさをじっと見て魔法陣が浮かび上がるのを見ていた。一人が終わると次の一人に移ろうとしたことろで質問した。

「あんた達はダスキン奴隷商会の者ではないだろう?何処の商会だ?」

「何故そんなことを聞くんだ?」

「いや、ここの仕事も危なくなってきたから、俺もそこで雇ってもらえないかと思ってな?」

「成程。しかし、それはないな。」

「何故だ?」

「もう、店終いだからさ。暫くは危険だからうちも他に移動してやるつもりだよ。」

「それなら、なおさらだ。俺も雇ってほしい。」

「無理だよ。」

「何故だ。」

「お前にはここで死んでもらう。俺達の顔を見ているからな。」

「…それが本音か。」

「死ね。」

俺はため息をつきながら、男の剣が抜かれる前に、そいつの首を跳ね飛ばした。次の冒険者に向かいつつ、

「それは無いんじゃないか?」

「来るな。」

俺はさらに近づいて、次の男の首を刎ねた。こいつら本当に護衛として雇われてるのか?遅いぞ。

「お前、何のつもりだ?」

「えっ、聞いていただろう?俺を殺そうとしたんだよ。だから殺した。当たり前だろう?」

「それでも。」

「それでもなんだ?お前もしかして、お前は生き残れると思ってないよな?お前は証人になる。生きていられたら困るよ。」

俺はもう一人とその後ろのフレデリカに近づいていく。護衛は魔法の詠唱を始めているが、俺はすっと飛び込んで首を突いた。

「遅すぎでしょう。今から詠唱なんて。本当に護衛か?」

フレデリカへと向き直る。

「止めなさい。もっと払うわ。」

「いやー、見られちゃったしね。口は封じないと。」

「貴方を雇うように上司に薦めるわ。」

「上司って誰だ?」

「ダスキン奴隷商会。」

「それは嘘だろう。ダスキン奴隷商会は潰れた。ネットワークが残っている部分もあるが、結局個々が独立した奴隷商会だ。冒険者ギルドに食い込めるとは思わないな。」

「詳しいのね。」

「ああ、自分が働くかもしれない商会だ、面接の前に調べるだろう?」

「そうね。では、ファニー商会って聞いたことある?」

「いや、ないな。どんな商会だ?」

「ダスキン奴隷商会のネットワークを乗っ取り、ある領や国の乗っ取りを計画している商会よ。スケールが違うわよ。今のうちに雇われておけば、将来は安泰よ。」

「嬉しいね。雇用条件は後でゆっくり聞くとして、子供の記憶はどうやって消しているんだ?」

「これは私が開発した魔法で、脳にある記憶にアクセスできないようにする魔法なのよ。記憶にもいろいろあって、事象記憶、反復記憶、言語記憶等等。その中の事象記憶だけアクセスできないようにすることで、生まれた場所や生い立ちだとかを思い出せないようにするの。魔法というより暗示ね。本人は思い出そうとしてるけど、そう感じているだけで、実際はしてないのよ。だから、もちろん思い出せない。それが繰り返されると、無理だと思う心が、諦めさせてくれるので、もう思い出そうともしないわ。最初の数週間がもっとも重要ね。」そういいながら3人目の子供に暗示をかけ終えたようだ。

「成程。ファニー商会の本部は何処にあるんだ?俺も顔を見せに行った方がいいだろう?」

「この仕事が終わったら一緒に行きましょう。」

「冒険者ギルドに帰らなくてもいいのか?」

「私が冒険者ギルドの副ギルマスってことも調べたのね?」

「ああ。」

「どっちにしろ戻るつもりはなかったわ。あそこはもう撤収する予定だったから。後片付けはしてくれるわ。」

「そうか。分かった。それで、今までどれぐらいの奴隷を作ってきたんだ?」

「数えてないわ。もう何年もやってたし。」

「それにしてはファニー商会なんて聞かない名前なんだよな。」

「そうでしょうね、表立ってその名前を使ってないから。ここでの奴隷商売に参入し始めたのはここ1年ぐらいだし。さて、子供達の処理は終わったわ。貴方が面倒を見て頂戴。護衛の3人を殺してしまったんだから。」

「了解した。」

子供達を馬車に収容した。ぐったりしている。

「ファニー商会は奴隷商売を始める前は何をしていたんだ?」

「王家や商会の乗っ取りや暗殺が多かったかしらね。」

「ということは、エリザベス領の乗っ取りもあんたらか?」

「良く知っているわね。珍しく失敗したけど。次は上手くやれる。あんな男が参加するなど誰にも想像できなかったもの。」

「それほどの男だったのか?」

「異常よ。私も話でしか知らないけど、誰も相手にはしたくない相手だわ。」

「そうなんだな。俺も相手はしたくないもんだ。」

フレデリカ達は子供達を馬車に乗せて、ソリダス王国国境方面に移動を開始した。


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