第112話 賭けへの誘い

ロイター町の中心の商館の中。



俺は男に案内されて大きな庭に囲まれた商館の中にいる。なかなか良い内装をしている。正面に飾ってある自画像は商館の創業者なのかもしれない。良い面構えだ。

「あの肖像画の男は誰だ?」

「創業者のロバート・ブラウン氏だ。」

「立派な面構えだな。ご健在か?」

「いや、2代前の人だからな。」

「そうか。」

感知には向かっている部屋に6人。その周りの部屋には20人いる。上の階に3人いる。この辺で、分裂した。それぞれを監視してもらう。今俺は認識疎外以外の隠形は止めている。

コンコン。

「入れ。」

「遅くなりました。連れてきました。」

「ご苦労。」

「よく来てくれた。私はこの商館の館長のカインだ。」

俺は全員の顔を見回し、鑑定をかけて名前と所属とスキルとレベルをざっと目を通した。

「スミスだ。」

「座ってくれ。」

「いや、遠慮しよう。俺は壁際でいい。」(俺の背中に立つなと言うチャンスなんだ。)

「分かった。そのままでいい。」(あれー。)

「此処に君を呼んだ理由は知っているか?」

「いや。何も聞かされていない。」

「面白い勝負があるが参加しないか?」

「その勝負とは?」

「教えてもいいが、聞いたら抜けられないぞ。」

「じゃあ、遠慮しておこう。帰らしてもらう。」

「まあ、少しぐらいなら話しても大丈夫か。」(実は話したくてしょうがないんだろう。)

「それを聞いても、俺は帰るぞ。」

「ああ、聞かれても問題ない事しか言わんから、安心しろ。今我々は大きな賭けをしている。多くの出資者がかなりの額をかけているのだ。その最終ゴールはある領を手に入れることで決する。この場合期限を切るのが難しいのだが、やはり領主の交代をもって終了とする。」

「成程。スケールの大きな賭けだな。何故全大陸統一とかにしないのだ?」

「それではスケールが大き過ぎるし、必ず戦争が含まれてしまう。」

「ならば王国掌握はどうだ?」

「それも同様だな。戦争か内戦になり、他国の介入で戦争だ。我々は戦争などという非生産的な事に肩入れしたくはないのだ。」

「一つの領であればそうならないと思うようだが、それは事実なのか?」

「それは問題ない。我々の出資者は多く、領レベルであれば、戦争を抑制するぐらいの力を持っているからだ。」

「本当にスケールの大きな話だ。脱帽だ。」

「うんうん、そうだろう。」

「しかしそうなると、次の領主が勝者ということになるのか?」

「その場合は確かにそうだ。だがしかし、必ずしも表舞台だけでなくともよい。例えば裏から、新しい領主を制御できる者がいたとする。すると、その制御できる者が勝者となる。」

「制御できるものが一人とは限らないのではないのか?例えば強大な経済力を持った商会とか。」

「その場合は商会が勝者となる。」

「領主は国王の命令を聞くと思うが、国王は勝者にはならないのか?」

「これは難しいところだが、賭けの対象として国王は含まれない。それ以外だな。」

「この場合はどうだ。魔導士が領主を洗脳して動かす場合。これは魔導士が勝者に見えるが、魔導士が宣言しない限り、勝者にはならないだろう。」

「お前も考えるのが好きだな。確かにそうなるな。だがこのゲームに参加している者は分かっているから、領主が変わった時点で確認すればよい事だ。」

「まあ、ゲームに勝ちたいわけだから、それでうまくいくのか。例えば、今領主が殺されたらどうなるのだ?」

「まあ、今だったら、勝者無しだろうな。次の領主が自動的に勝者にはなるだろうが、ゲームに参加してない者だろうから。」

「いつでも、どの領にでも応用できるゲームなのだな。例えば、このメリル領でも。」

「まあ、そういうことになるが、この領は特別で、参加している領だからむりだな。」

「ドミル領は端だからやり易そうだが、端だから失敗しても目立たないだろう。」

「まあ、そうだが、面白みがないからな、あの領は。貧しいし、塩しかないし、やはり遠い。もっと興奮する要素が無いとな。」

「なかなか難しいもんだな。確かにゲームだから面白みがいるな。王領はだめなんだろう?」

「それでは内戦になってしまうからダメだな。」

「辺境伯の領はどうだ。大きいし、強いからなかなか盛り上がると思うんだが。」

「おしい。しかしな、魔獣からの守りは大事だからな。それにあまりに強いと時間がかかり過ぎて、だれてしまうことも考えられる。」

「いや、難しい。頭の良い者たちが考える遊びは俺には無理だな。丁度良い領など思いつかない。」

「降参か?」

「降参だ。」

「我々の狙いはエリザベス領だ。」

「あの領はそんなに面白みがあるのか?最近何だか揉め事があったと噂で聞いた程度だが。隣の領だろう?」

「そうだ。隣だ。だから近くで観戦できるし、情報もすぐ手に入る。最近領主がエリザベスになって、つけ入るすきも多いし、若いしな。美人だから、手に入れた時は大きいぞ。辺境伯への牽制にもなる。しかし何といっても、出資者の多くがあの領の変化により迷惑をこうむったからな。その恨みを晴らす面が大きい。」

「そんな大きな事件があったんだな。知らなかったな。カインも迷惑をこうむったのか?」

「まあな。俺はそこまでひどくはなかったが、知り合いがな。今は俺が後を引き継いだ形で運営しているが、少し大変だよ。お得意様も貴族の方たちが多かったし、大きな被害を受けたんだ。」

「あの領にそんな大きな商売があったかな?それなら聞きそうなもんだが…。」

「大ぴらにはやらない仕事だから、一般人は聞かんよ。」

「ふーん。これも難しくて分からんな。一般人が聞かない仕事…。か」

『どうだ、出資者のリストと参加者のリスト、手に入りそうか?』

「分からんだろう。」

「これも降参だ。」

「フフフ、他愛もない。まあ、教えてやろう。奴隷商売だ。」

「おい、そこまで言うのか?」と焦った感じの仲間。

「まあ、調べればすぐにわかることだしな。領を言ったんだから、これぐらいいいだろう。」

「奴隷商か。関わりあったことが無いから、ピンとは来ないが、商売は知っているぞ。まあ、確かに貴族とか金持ちがお得意様というのも納得いく。すると、其処に並んでいる人たちは奴隷商か?」

「いや、彼らは違う。出資者ではあるが、奴隷商ではない。」

「奴隷商以外でも影響をそんなに受けたのか?」

「彼らは領主替わりで利権を失った大商人たちだ。どの領にも支店を持つ大商人は普通は領主替えがあっても、大抵そのまま御用商人になるが、当てが外れてな。追い出されてしまったのだ。」

「それは前の領主と悪い商売をしていたからではないのか?自業自得ではないのか?まあ、理由は俺が気にするべきではないが。」

「まあ、はっきり言えばそうだな。領をむしり取っていたから追い出された。単純な話だが、商人としては面白くないわけだ。せっかく苦労して甘い蜜が吸えるようにした果物を取り上げられた訳だ。」

「成程、解り易い。」

「そう考えると凄い数の出資者がいそうだな。」

「ああ、40人はいるぞ。」

「おお。よくそんなに集められたな。カインの人徳か?」

「まあ、俺は顔が広いからな。一寸頼まれて、手を貸して同元みたいなことをしている。」

「ほう。同元がいつも一番儲かると聞いたことがあるぞ。出資額の総計はいくらなんだ?」

「それを訊くか?腰を抜かすぞ。」カインはニヤリとする。

「聞かしてもらおうか?」俺も負けずにニヤリとする。

「白金貨2000枚だ。」

「はっ????」

「白金貨2000枚だ。」

「この国にだってそんな金ないのではないか?」

「確かに国にはないが、あるところにはある。」

「驚いたな。全く想像できない金額だ。俺がオークを一匹冒険者ギルドに売ったとして金貨2枚になるとして、500匹を2000回か。カイン、結婚してくれ。」

「あほか。まあ、あほになる位の金額ではある。」

「しかし、これでは勝った者に金を払えなくないか?」

「総額が白金貨2000枚だとしても、皆一か所に賭けているわけではないから、負ける者の方が多いだろう。其処から賭けの勝者と実際の領を手に入れた勝者に金を振り分ける。私は手数料をもらう、となる訳だ。」

「それもそうか。話は戻るが、それでも時間がかなりかかる賭けになるんじゃないか?」

「早くするために餌を使う。参加者というか実行者がやる気を出すように早く結果を出すとボーナスが出る。早ければ早いほどボーナスが高い。今発表されている額は、これから1月以内に領主が変わったら、それをなしたものに特別ボーナス白金貨100枚だ。」

「そんなに使っていいのか?出資者は怒らないか?」

「出資者の了解は取ってある。その方が速くエリザベス領が落ちるんだから、満足するのさ。」

「同じことを何度も言って済まないが、スケールが凄すぎるわ。オークでしか換算できない俺を許してくれ。」

「気にするな。ここに居る大商人だって流石に白金貨2000枚にはビビっていたんだから。」

「気にかけてもらいありがとう。」

「うむ。」

「今参加者?実行者?は何人いるんだ?」

「今19人というか19チームというべきか。この額だから命知らずなら、一攫千金を目指す。」

「その19チームが手を結んだら、それで上手くいきそうな気がするが?」

「私もそれは考えたが、どうやらプライドが邪魔するらしく、自分達だけでやると皆言っている。」

「より確実な方法より夢を選ぶか。さすがギャンブラーだな。俺ならこの金で領民全員を味方につけてクーデターでもするがな。」

「それは無理だな。それでは、国王から正当に領主に任命されないだろう。」

「それもそうか。よく考えてあるゲームだよ。カインが考えついたのか?」

「まあな。こういうルールを考えることが好きなんでな。」

「やはり、カインは頭の出来が違うんだな。」

「そう褒めるでない。褒めるでない。」(いいお爺ちゃんって感じなんだが。裏切らないといけないのも気が引けるな。頼まれて同元をすることになったと言っていたから、義理でもあるか?)

「最初に訊き忘れていたが、カインの商売は何なんだ?」

「私は両替商だな。今は息子が後を継いで、楽をしているよ。」

「同元をする訳も理解できたよ。カインも出資者で賭けているのか?」

「いや、同元は中立でなくてはならんし、私はギャンブルが全く下手だから手は出さない。死んだ女房にも厳しく言われている。」

「良い奥さんだったんだな。俺も結婚するなら、そういう女房をもらうよ。悪いことは悪いと言って止めてくれる女だな。正しいことをするには勇気がいるが、やって失敗しても癒してくれるような女だ。」

「ああ、そんな女だったよ。賭け事には滅法強かったけどな。」

「お互いでちょうどバランスが取れてたってことか。」

「そうだな。湿っぽくなってしまったな。では、お前は参加するか?」

「俺は参加料が無い。子供も2人いる。無理だな。夢のある話を聞かせてもらっただけでも、価値があったがな。カインにも会えたし。いい日だったよ。それに、最初に『聞かれても問題ない事しか言わんから、安心しろ』と言っただろう?」

「参加費はかからない。自分の命を賭けるだけだ。そして、すまん。今思えば、喋りすぎた。」

「俺はここに連れてこられるときに、話を聞かなければ子供を殺すと脅されたけどな。あの男は帰りに殺しておくから、俺を送るように言っておいてくれ。」

俺は壁から背を離し、扉を開けようとノブに手をかけた。

「待て、スミス。此処を今出たらお前は殺され、子供たちは奴隷商に売られるぞ。奴隷商は今は俺が面倒を見ているが、それでも子供を扱いたくはない。参加しろ。」

「…カイン、俺が殺されるかどうか賭けないか?」

「馬鹿が。この外には腕利きの男たちが何十人といるんだ。お前の冒険者ギルドでの話は聞いている。しかしな、よく考えろ。世の中には無理なことがあるんだ。子供のことを考えろ。」

「カインよ。お前の女房はお前のそういう優しいところが好きだったんだろうな。俺も俺の子供達もお前に気にかけてもらえて嬉しいぜ。だがな、お前の女房なら、正しい事は正しい、間違っていることは間違っているってお前を正してくれるだろうよ。そして、今は俺に賭けろとお前の尻を叩くと思うぜ。」

「馬鹿野郎。お前は俺の女房を知らねえだろうが。俺の女房だったら首を絞められてるよ。これが分からないなら死んじまえってな。しょうがねえ。お前の賭けにのってやろう。賭けはなんだ。」

「俺がこの部屋以外の人間を全員殺して、生きて帰ってきたら、俺の勝ちだ。俺の言うことを二つ聞け。お前が喋りすぎたから、俺は命を懸けるんだ、二つぐらいいいだろう?俺が負ければ、俺は死ぬから、可愛いい子供達を頼む。」

「どっちもお前にいいような話に聞こえるが、俺のせいで命を懸けるんだ、それぐらい呑んでやるよ。じゃあな。」

「地が出てるぜ。じゃあな。」

俺は扉を開けて出ていった。久しぶりに体が熱いな。隠形は無しで行くか。廊下にはすでに5人出てきていた。狭い廊下だから、多過ぎないようにしたのか。なかなか良い連携だな。鑑定もやめておくか。鑑定に頼り過ぎてはいざという時躊躇するってラノベにあったよ。

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