第110話 メリル領へ向けて

メリル領へ向け。



俺とサマンサとエドワードは9人の子供達と別れた後直ぐに北上した。ネヴァーランドへ送るべきだと思うのだが。そこで二人に訊いてみた、俺と旅を続けるか、俺の土地で馬の面倒を見たりしながらのんびりするか。2人は旅をすることを選んだ。あんなところに閉じ込められていたら、旅に出たくなるだろう。分かる気がする。そこで一緒に先ずはメリル領の領都エプスタインに向かっている。其処はタイラー伯爵が治めている。

「2人に言っておきたいんだが、これからの旅は危険な旅だ。付いて来て良いと言ったくせに危険な旅というのは酷いと思うが、事実だからしょうがない。だから今からでもできるだけ強くなって欲しい。サマンサは7歳、エドワードは8歳。無理を言っているのは分かっているが、それでも頑張ってくれ。俺もできるだけ補助するから。」

「はい、わかってます。心配しないでください。あのまま牢屋で監禁されてるよりはよっぽど安全だと思います。」

「私も強くなりたいです。」

「それではいつものように、魔力循環しながら鬼ごっこからだ。」

という感じで鍛錬は続けている。短剣の使い方も練習している。現在のステイタスはこうだ。年齢にしては高いと思うが、比べる相手がネリー、ターシャか俺だから、よく分からない。


名前:エドワード

種族:人

年齢:8

レベル:3

HP:20/20

MP:20/20

能力:成長促進:3 魔力増進:3 状態異常耐性:8 感知:8 物理耐性:15 魔力操作:8 身体強化:8 魔法耐性:8 風魔法:3 生活魔法:4


名前:サマンサ

種族:人

年齢:7

レベル:3

HP:20/20

MP:30/30

能力:成長促進:3 魔力増進:5 状態異常耐性:8 感知:8 物理耐性:12 魔力操作:8 身体強化:8 魔法耐性:8 自然魔法:3 生活魔法:4


状態異常耐性や物理耐性があるのは、やはり奴隷だった時にいろいろあったんだろうな。魔法耐性もそのせいかも。覚えておこう。


メリル領に向かう途中で昔盗賊から助けた子供2人を預けた孤児院のことを思い出して寄ってみた。当時見た時も貧しかったから、今も大変じゃないのかなと想像していた通りだった。

俺は二人に待っていてもらって、シスターに挨拶に来た。本当は何も言わずに2,3日観察してどうするか決めたかったのだが、そういう時間が無いので感知を利用しながら情報収集することにした。

「こんにちは。シスターいらっしゃいますか?」

「はい、どなたでしょうか?」

「私は以前盗賊から助けた子供を預かっていただいた冒険者です。」

「そんなこともありましたか?」

「あそこにいる子達です。無事に育っているようで安心しました。」と言いながらシスターの手を見る。かなり荒れているな。水仕事とか大変だもんな。

「いえ。食べさせることも大変で、申し訳なく思っています。」

「食物は畑で作ったりしているんですか?」

「ええ、出来る限り。でも、畑も小さいですし。」

「大きくすればよいのでしょうか?」

「まあ、大きければ、それなりに収穫できると思いますが、開墾も大変ですし、この辺りは石が多いのか、特に大変なんです。」

「そうなんですか。見せてもらっていいですか?」

「ええ、こちらです。」

「今孤児は何人位面倒を見ておられるのですか?」

「今は12人ですね。上は13歳から下は3歳です。」

「すると畑は子供達も手伝ってくれそうですね。」

「はい、頑張ってくれてますよ。でも大変ですし、あまり育たないのです。此処が畑です。」

俺は土を触って、感知で確かに石が多くて耕せないし、根菜は育ちずらいだろう。土も硬い。連作障害もあるのだろう。

「なるほど。道具はどんなものを使っているんですか?」

「普通の鋤と鍬です。これらです。」

「そうですね。大分傷んでますね。鍛冶師もこの辺は少ないでしょうから。」

「ええ、そうなんです。」

「この辺一帯は教会の土地ですよね。どこまでですか?」

「あそこの樹までですね。広さはあるんですよ。以前はあそこまで耕されていたこともあるそうです。大人が多かった頃でしょうか。」

「そうなんですね。シスター。良かったら私が耕しましょうか、あの樹の所まで。私耕すのが得意なんですよ。良かったらですが。」

「宜しいんですか?」

「任せてください。ではやりますね。終わったら呼びますので、その時まで他の仕事でも終わらせていてください。私は自分の鍬をとってきます。」

「よろしくお願いいたします。」

さてと、今回は手で耕さないと。でも、収納で先ず石を取ってしまう。後は俺の身体強化と鍬と土魔法のコンビネーションで怒涛のスピードでやる。1時間で畑4面が完成だ。ついでに途中で近くの草を刈って漉き込んでおいて、時短魔法をかける。鍬も鋤も俺のものと取り換えておいて、予備に2本づつ足しておいた。鎌もシャベルも置いていく。

「シスター、終わりましたので、次は何を植えるかを相談したいのですが。子供達にも聞いておいてもらおうかな。」

「もうですか?」

「ええ。得意なんです。」


エドワードとサマンサも呼び寄せて、子供達とシスターの前で簡単なジョージ・ノーフォーク農業を説明し、ジャーモとトメイトとリーケの関係などを説明した。ジャーモも種もたっぷり持っていたので、他の野菜の種と一緒に渡しておいた。これで一区切りだ。鑑定をかけて栽培か促成がある人がいてほしかったがそれはいなかった。仕方がない。俺は以前預けた二人とも話して、とてもよくしてもらっていると聞いてありがたかった。皆辛い生活をしているんだよな。その後、裏の井戸を綺麗にしたりしているうちに、遅くなり。今日は泊めてもらえることになった。俺は半年ぐらいはもつだろう食材を提供したり、オークを一匹出してシスターと一緒に解体した。その骨で出汁を取り、ジャーモ、キャーベッジ、オーク肉のぶつ切り、塩、隠し味に魚醬でスープを作り、オークの串焼きを大量に作って皆で苦しくなるぐらい食べた。シスターもしっかり食べていた。皆が寝静まったころ、俺は皆にエクスヒールをかけておく。身体の節々も痛そうだったからな。建物全体と皆にクリーンもかけておく。


翌朝、すいとんの作り方も教えた。凄く簡単だからな。残っているスープを継足して量を増やして、すいとんを入れて煮立ててから皆に食べさせた。お腹にたまる朝ご飯の出来上がりだ。その後もう一匹オークを解体し、塩とハーブを使ってベーコンのような乾燥肉を作っておいた。かなりもつだろう。


「シスター。本当にお世話になりました。2人もたくましく育っているし、感謝しかありません。私の気持ちですのでお受け取り下さい。」俺は金貨が200枚ぐらい入っている袋を渡した。

「こんなにいただけません。」

「いいんですよ。此処の子供たちは正しく育っています。凄い事ですよ。私にはこんな事しかできません。すいません。それに、これは盗賊から取り上げたものですから、有意義に使ってください。私はただかっこつけたいだけなんです。失礼します。」

「ありがとうございました。」シスターも子供達もずっと頭を下げていた。


「おじさん、良いことをしね。」とサマンサ。

「そうだと思いたいな。」

「皆喜んでたから、良いことをしたんだよ。笑顔は良いことの結果だよ。」とエドワード。

「そうだな。これで心残りは無くなった。北へ行こう。」

ポクポクポクポクと馬車は進む。さっきからじゃんけんで負けた人が馬車を下りて走ってついてくるゲームをやっている。子供たちは楽しそうだ。感知に何か引っかかってきた。この先10㎞ぐらいで何か起こってるね。せっかくいい気分だったのに、台無しだ。

「2人とも、この道の大分先で何か問題が起きている。俺は先行するから馬車で後からきてくれない?」

「私も行く。」

「サマンサ、今回はちょっと急ぐから後からきてくれ。次は任せるよ。」

「うん。」

「じゃあな。2人とも、後よろしく。」

俺は飛び出した。あっという間に馬車は視界の後だ。1分ほどで着いてみると盗賊がまだ襲っている最中だった。そのまま飛び込んで奴らの後ろから足を払った。5人の盗賊は皆倒れて転がって行く。

「襲われていると思って手助けしましたけど、こいつらどうします?捕まえて衛兵に突き出しますか?」

「そうですね。そうします。いいんですか?」

「全然かまいませんよ。そのかわり、こいつらの隠れ家を攫いたいので尋問してもいいですか?」

「勿論ですよ。」

護衛によって縛られたうちの偉そうな男の前に行き、ジーっと目を見る。何も言わない。段々と盗賊も居心地が悪くなってくる。俺はそれでも目を見ながら、

「お前、メリル領に行ったら助かると思ってるだろう。」

「  何を言ってるんだ。」

「すいません、次の町はメリル領ですか?」

「そうです。メリル領のロイターという町です。」

「お前はやはりここで殺しておこう。ロイターの衛兵に仲間がいて釈放されるんだろう。」

「そんなことあるか。」

「本当にか?」

「嘘じゃない。」

「お前、俺がお前を殺さないと思ってるだろう。どうせ逃げられるなら今殺しておいた方が楽だ。そう思わないか?」

「そんなことないって言ってるだろう。」

「本当だな…本当なら、お前らの隠れ家を教えろ。どうせお前は帰ってこれないんだから。」

「言えるわけないだろう。仲間がまだそこにいるんだ。」

「何人だよ。」

「教えるか。」俺は剣を抜いて、振りかぶって、下ろそうとした瞬間、

「待った。」

「何だよ。」

「言う。言うから。殺すな。」

「…分かった。言え。」

「この先を一寸行くと左の林に入る獣道がある。それにそって行って大岩を右で道なりだ。」

「分かった。釈放されるといいな。では、皆さん。俺は隠れ家へ行きますから、失礼します。」

俺はビュンという感じで走って行った。言われた通りに行くとすぐにわかった。感知で分かるのだが、道は分からないし、飛ぶと目立つしで、こういう余計な手順が必要な時がある。直ぐに隠れ家に着くとまだ10人ぐらいいる。五感向上で聞こえてくる話に少し興味を覚え、暫く聞くことにした。

「お頭、そろそろお姫様を捕まえる作戦考えましたか?」

「難しいんだよ。お姫様はなかなか城から出てこないから。」

「だからこそ、凄い金額なんだよな。」

「まあ、命あっての物種だ。依頼された奴は俺たちだけじゃないから、先ずは誰が挑戦するか静観しようぜ。」

「先を越されたらどうするんですか?」

「そりゃ、しょうがないだろう。そいつらが上手かったんだから。まあその後でそいつらから巻き上げればいいが、それも難しいし、恨みは買うしだ。割に合わねえ。」

「まあ、誰がエリザベスちゃんを捕まえるのか、俺たちは賭けでもして楽しもうぜ。」

「あの女になってから仕事がしづらくてしょうがないぜ。」


「スリープ。」


皆よく眠っている。サマンサとエドワードを迎えに行こう。俺は街道に戻ってきた。まだ盗賊と商隊は残っていた。

「どうでしたか。盗賊たちはいましたか?」

「ええ。ですが人数も多いですし、後で加勢を頼んで対応します。あなた方は先へお進みください。私はここで仲間が来るまで待ちますから。それとこの盗賊と馬を連れて行ってください。私は必要ありません。」

「いえ、命の恩人に何もお返し出来ないとは、申し訳ない。何か必要なもので私が提供できるものはありませんか?」

「そうですか?それでしたら、私は孤児院のシスターの知り合いが多いのですが、もし機会がありましたら、将来一人でも見習いで雇っていただければ嬉しいです。私は旅人のスミスと申します。」

「分かりました。私はエプスタインで商売をしているダインと申します。」

「残りの旅の安全を祈っております。」

「お互い様に。失礼します。」

商隊は去って行った。あいつら釈放されるだろうな。小物だから今は放っておこう。


20分ほどすると、子供たちが追いついた。

「問題なかったか?」

「はい。大丈夫でした。」

「うん。」

俺は二人と馬車に乗って隠れ家へ進みながら、説明する。

「急にしなくてはいけないことが増えてしまった。この奥に盗賊の隠れ家がある。こいつらはろくでもないが、問題なことは、どうやらエリザベス様誘拐計画を練っている者がいるらしい。エリザベス様には俺も世話になっているので、こんな奴に攫われると困る。なので、こいつらを捕まえて、ダムディ隊長に引き渡しておくことにした。手間がかかるが。(俺の分身をこの子たちは知っているから、そういうスキルでごまかそう。正体がスライムとばらすわけでもないから良し。)俺の分身のスキルで一寸今夜置いて来るから、此処で待っててくれ。いい?」

「分かりました。」

「うん。」

「悪いな。はい、到着。こいつらが盗賊。今は寝てもらってる。盗賊によってはこのようにお宝を隠している。こういう物は発見した人がもらっても良いので、回収しょう。収納。」

「盗賊は生きていれば犯罪奴隷として売ることが出来る。馬も良く売れる。俺は最近馬は売ったことが無いから、値段は分からない。今回もここに6頭の馬がいるから、貰っていこう。馬具も手に入れたから、2人の乗馬の練習でもするか。」

「はい。」「うん。」

「明日からだな。今日は早めに休もう。今日の晩御飯はうどんにするか。前の分が残っているから。」

俺はオークとウルフの骨で出汁をとり、それにコブを入れてさらに出汁をとって、魚醬、ムラサキ、塩で味を調えてから、茹でておいたうどんを入れ、茸とウルフ肉とリーケの炒め物を乗せて、2人に渡した。

「美味しいです。」

「美味しいね。」

「上手くできた。よかったよ。」

2人を寝かしてから、俺は盗賊にクリーンをかけてボス以外を全員担いで飛んでリゼンブルの門まで来た。先ずは闇魔法と状態異常魔法で記憶操作して4日ぐらい前につかまったあと、寝かされていて分からないと思いこませた。こうしないとまたカーズの高速移動問題が浮上する。その後、手紙を挟んで、門をたたいて、衛兵を感知したので飛んで上から見ていると、

「何だこいつらは?手紙か。また隊長にかな?衛兵ヘか。じゃあ俺が見てもかまわないな。

『こいつらは盗賊だ。エリザベス様を狙っている。後は自分たちで何とかするように。』冗談にもならない話だ。隊長ー!」

門の中に消えていった。俺は集合転移で隠れ家に帰ってきた。

「ああ、頭が残っていたな。」

自白剤を使って聞きたいことを聞きだした後、しばらく考えてから催眠魔法をかけて、使われてない洞窟の穴の中に放り投げておいた

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