第108話 グルゴウィル領では
時間は少しさかのぼって、
3日前の、グルゴウィル領主城。
「ワルタカ、スタンピードの話を全く聞かないのだが、どうなっている。」
「は、私も不思議に思い、ダンジョンがあるあたりに行ってみましたが、ダンジョンが無くなっていました。潰れたような跡がありましたので、誰かに破壊されたのではないかと思います。ただ、冒険者ギルドにはそのような話はないとのことです。もともとあんなところにダンジョンがあるなど知らなかったが、何故そのようなことを知っているのかと質問され、困りました。それとは別に新たなダンジョンがジェネラルミル領に発見され、冒険者ギルドに登録されました。Cランクのダンジョンだそうで、冒険者ギルドと領によって管理されているとのことです。」
「そのダンジョンが我々のダンジョンなのではないのか?」
「ダンジョンが移動するなどありえません。我々のダンジョンが潰されたから、ジェネラルミル領に出来る可能性は無いとは思いませんが、まずないと思います。偶然でしょう。」
「これでは、今まで使った金も回収できないし、メリル領とスニード領から何を言われるか分からないぞ。あっちは上手くいっているのか?」
「その連絡もありませんから、何とも言えません。領主様から質問のお手紙を出してみては?」
「こっちが失敗していることを指摘されたくないから、質問状を送りたくないのだ。」
「仕方がないですね。私が書いてみます。」
「頼んだぞ。」
(好きなこと言ってるね。やはりメリル領とスニード領も調べないとな。分かっていたけどこっちが忙しくて動けなかったんだよ。明日からは暫く自由にさせてもらうよ。)
その夜、
スリープ展開。
「じゃあ、君たちは証拠の確保と、財宝と食料の回収をお願いするよ。魔獣除けも忘れないでくれ。ブラックリストは皆目を通して、目標を補足したら呪いを3日後に死亡でかけてくれ。症状は皆がそれぞれ選んでいい。痛くても痒くてもそいつに適している死を演出してくれ。スレイニー司祭が来る可能性も高いため、3日としている。いくら彼でも3日ではここまで来れないだろう。そして俺は城に監禁されている子供達6人を連れ出す。一時的にダムディ隊長をたよることになるかもしれないな。では、出発。」
俺は地下に降りていく。下調べは終わっているし、皆寝ている。子供達もだ。子供たちは足に鎖を付けられて、うずくまって寝ている。ベッドもない、トイレもない、小さな窓しかない、何もない部屋に6人がうずくまっている。何でこうなんかね。しかし、今夜呪いをかけた奴等の子供たちは下手したら奴隷になるんだな。ある意味、俺が子供の奴隷を作っていることになる。全ては上手くいかないな。誰か俺に教えてくれ。理想論じゃない現実的な方法を。
兎に角、クリーン。必須だな。
この子たちの親はこの子達に帰ってきて欲しいだろうか?親が売った子供達もいるかもしれない。やはり話を聞かないとだめか。先に情報を整理しよう。ダスキン奴隷商会にいる分身によると、5人の子供たちがいる。皆綺麗で、服も良いから最近連れてこられたようだ。帳簿によるとまだ2週間たっていない。その子達にも家に帰りたいかどうか確認してくれ。全員家に帰りたいなら、ダムディ隊長に証拠と一緒に頼むことにする。もし家に帰りたくないというなら、俺の方で何とかしよう。逆にこちらでも家に帰りたい子がいたら、ダムディ隊長行きだ。分身よ、頼んだ。
さてと。スリープ解除。
「おーい、皆。ちょっと起きてくれ。解錠。」
俺は牢の中に入って、皆の足の鎖も外した。机と椅子を出して、スープとパンも用意した。
「おーい、起きろー。飯だぞー。」
やっと起きだしたな。一人の女の子と目が合う。大きめの子だから一番年上かもしれないな。
「お早う。」
「お早うございます。誰?」
「泥棒です。」
「えっ、泥棒?…。」
「まあ、そんなようなもんだけど、こっちに座ってくれる?起きた子だけでいいから。」
「はい。」
「結構だ。皆はまだ起きないから、君に先に話を訊くよ。」
「あのー、貴方の顔がよく見えないんですけど。」
「そういう魔法だからね。顔をだせないんだ、泥棒だから。」
「分かりました。」
「スープ食べる?此処に在る物は全部食べていいよ。まだ、あるし。」
「いただきます。お腹すいていて。」
「どうぞ。召し上がれ。」
彼女が食べているのを暫く見ていた。その頃になると、もう一人の男の子が起きてきた。
「お姉ちゃん、何食べてるの?僕も食べていいの?」
「おじさんに訊いてごらん?」
「おじさん、食べていいですか?」
「いいよー。どうぞ召し上がれ。」
俺はスープをすくって、渡してやる。痩せてるもんな。釣った魚に餌はやらないか。
女の子に、
「君の名は?」
「ジェニファー。みんなジェニーって呼ぶわ。」
「ジェニー、君はなぜここに居るか知ってるかい?」
「森で野草を取っていたら攫われたの。そしてここに売られちゃった。」
「どのぐらいいるの?]
「一年ぐらいかな。私が一番年長なの。でも、もうすぐいなくなるわ。私も11歳だから、12歳になったら前のお姉ちゃんもいなくなったもの。」
「親の元に帰りたい?」
「うん。もちろん。」
「そうか、わかった。もっと食べるかい?好きなだけ自分で取って食べな。」
彼女の耳は無かった。髪で見えなかったが、頷いた拍子に見えてしまった。腕にも傷がたくさんある。ざわざわし始めた。
「男の子の名前は何?」
「僕はトミー。僕も攫われて、売られたんだ。そう領主様が言ってた。」
「領主様は良くしてくれたかい?」
「全然。食べさせてくれないし、すぐ殴るし。病気になっても助けてくれないから、この中で死んだ子も2人いた。皆で集まって温めようとしたんだけど、凄い熱で死んじゃったんだ。」
「そうか。酷いことするな。親の元に帰りたい?」
「うん。きっと待ってるから。」
「そうだね。」
こんな感じで続けていて、5人はここに居るのは1年未満で、皆親元に帰りたいそうだ。しかし、最後の子は違った。
「君の名は?」
「私はサマンサ。親に売られちゃったの。」
「家の生活が厳しかったからかな?」
「ううん。違うの。私嫌われてたの。妹の方がかわいいって。私気持ち悪いって言われたの。」
(おっさんの涙出てきた。)
「どうしてそんなひどいことを言うんだろ?」
「私、木とか草とかとおしゃべりしているからだって。」
(鑑定。自然魔法。聞いたことないな。凄いスキルだと思うけど。理解が無い親だったんだな。)
「そうなんだ。この中で話せるものはある?」
「うーん、石は難しいの。無口だから。」
「そんな感じに見えるね。」
「こういう料理された物もだめ。死んでしまっているのかな。切られたぐらいなら、長い時間がたってなかったら大丈夫だけど。」
「凄い能力だね。親元に帰りたい?」
「ううん。だってまた虐められるもの。」
「そうかもしれないな。じゃあ、暫くおじさんといるか?」
「うん。お願いします。」
「いくつだっけ?」
「7歳。」
「分かったよ。全部。」
「君たちは凄くつらい思いをした。何も償いにならないかもしれないけど、君たち5人は必ず家に帰すから安心してくれ。それとは関係ないけど、これからの人生もいろいろあると思う。そんな時魔法が使えると助かることもある。俺が調べたところ、君たちは皆魔力を持っているし、使えるようになると思う。魔法を学びたいかい?」
「「「「「「はーい。」」」」」」
「よろしい。でも、魔法を俺から習ったことは秘密にしてください。他の人にも魔法を教えてもだめだよ。お願いします。約束できますか?」
「「「「「「はーい。」」」」」」
「よし。では一人づつ、俺の手を握ってもらいます。俺は君たちに魔力を流し込み、吸い取ります。その魔力を感じてください。先ずは感じることからです。では、ジェニーの右手に魔力を送り込み、左手から抜き取ります。始めます。何か感じたら言ってね。」
「あ、何か流れてる。温かい感じの。速くなった。遅くなった。大きくなった。止まった。」(やはり若いからか直ぐに気が付けるのかな?)
「よく分かりました。その通りです。魔力感知ができました。それでは、今度は自分の体の中に温かい同じ感じのものがあるか探してください。お腹の下の方にあるという人が多いですね。」
彼女は暫く目を閉じて探していて、見つけたようだ。
「ありました。本当だ。お腹の下のこの辺にあるよ。」
「それがあなたの魔力の塊です。それを自由に動かせるように練習します。右、左、上、下、身体の中をぐるぐる回してみたり、身体全体に広げてみたり、身体の一部分に集めてみたり。自由に動かせるような努力してみてください。最終的には身体全体を常に循環させ、広げていきます。頑張ってね。」
「はい。」
俺は全員に魔力の感知、魔力循環と拡張の練習をさせておいた。皆凄く勘が良い。
どうやら、ダスキン奴隷商会にも一人家に帰りたくない子がいるな。ダムディ隊長に渡すリストにこの2人以外の名前、年齢と住んでいたところの情報を加えて作っておいてくれ。魔法も教えてあげる時間があったら、基礎だけでいいから教えてあげてくれ。他の分身達の任務は完了か。俺は呪う暇がなかったけど、全部できているな。了解。じゃあ、夜明け迄あと4時間ぐらいか、出発する。此処から飛べば、2時間もかからないだろう。それまでは魔法の練習。
うーん、時間的つじつまの合わなさが困る。カーズでも瞬間移動や高速移動が出来ないと思わせておきたくて、今までも時間を潰すことをしてきた。アブデインさんの場合がいい例だ。今回もグルゴウィル領主城から、真っ直ぐダムディ隊長の所へ行くと高速移動が可能と確信を持たれてしまう。今更な気もするが、それができるとスマイルのアリバイが簡単に無くなってしまう。今は疑われているが、協力者と思われているぐらいで、一人二役はばれてないはず。このまま嘘を突き通すなら、この子達を2,3日預からないといけない。今回は海の家もネヴァーランドも使えない。遠すぎて、ダンジョンから俺の分身が消えてしまう。うーん。
しょうがないから、ダンジョン近くの町から馬車で移動だ。馬車はもっているし、馬はここからもらっていこう。4頭。そして1週間かけて移動してもいいだろう。その間に魔法の練習を続けることにしよう。皆、伝わってるよな。計画変更。馬も4頭貰っていく。風魔法の腕が上がっているから問題ないはずだ。
『ターシャ、聞こえるか?起こしてすまん。』
『大丈夫よ。マスター。』
『俺は、11人の子供たちのうち9人をエリザベス様のところのダムディ隊長に届けることにした。1週間ほどかかる。その間は分身と共に行動してくれ。最後のエリザベス様の領辺りでは、遠すぎて分身が一時消えると思うが、心配いらない。その前には、今のように念話で連絡を入れる。頼んだぞ。問題があればいつでも連絡してくれ。おやすみ。』
『分ったわ。マスター。1週間後に会いしましょう。』
ふー、これでダンジョンの方はよしと。
お、あれから20分も練習しているんだな。
「皆、感覚は掴めてきたか?」
「はーい。」
「根気よく続けてくれ。続ける事が大事だぞ。」
「はーい。」
「では、今日は遅いからもう寝なさい。明日もあるし。おやすみ。」
俺は皆に毛布を一枚づつ配っていってから、スリープを使った。
また、計画変更。寝ているんだから、夜明けまで待たなくてもいい。今から飛んでゆっくり行けばそのぐらいに町の近くの林にでもつくだろう。マップスキル欲しいな。では、皆忘れ物は無いか?馬を4頭、雄でも雌でもいいがやはり1頭位は雄だろう、も運んでくれ。俺たちはこらちらの子供11人を運ぶ。では、出発。
俺たちは夜空に飛び出した。俺は子供だから軽くて楽だが、馬の奴は大変だ。ついでに荷馬車も何台か貰っておいた。箱馬車もだ。改良して使う。これでダスキン奴隷商会もまた潰れて、俺は儲かってウィンウィンだな。お城のお宝も食糧も有難く使わせてもらうよ。
俺達は西に向かって飛んでいき、ダンジョンを確認、さらに西へ向かう。町が見えてきたが、この町は素通りしよう。さらに進んだところで、林のそばに着陸した。誰も周りにはいない。馬車を出して、11人を中に入れ、そのまま寝かせておく。馬を2頭つなぎ、残りの馬を引いていく。ゆっくりと街道を西へ進んでいく。段々と明るくなっていく中、靄のかかった道を気持ちよく感じながら進む。何とも平和だ。この自然と同じペースで生きている感覚が嬉しいんだよな。プログラマーだった頃も、ホームレスだった頃もこんなことは感じなかった。今を生きているからこそなのか。時間に追われていないからなのか。人間の感覚とは不思議なもんだ。俺は、串焼きを出して、かぶりついた。
どんどんと進んでいるうちに、次の村に着いた。割と大きな村だ。俺は村に入り、食堂があるか訊いてみたら、一軒あるという。そこで朝飯を食べよう。井戸で水を甕に見たし、おばさんたちと情報交換する。危険な場所はなさそうだ。いい領だよ。名産品は無いようだが、この辺では茸や山菜が良くとれるそうだ。俺は食堂を覗いたがまだ開いてない。諦めるか、待つか。移動を始めれば、次の村がいつあるかもわからないから、待つ。
もうそろそろ昼だなと思う頃、店が開いた。
「女将さん、もう開けるの?」
「ああ、開けるよ。」
「今日の昼飯は何?」
「今日は山菜と茸とオークの炒め物よ。」
「おお、旨そう。12人前頼む。あと11人連れてくるから、席取っておいて。」
*****
「おーい、皆、起きろ。お昼ご飯だぞ。」
「「「「「「はーい。」」」」」」
「皆、こっちだ。この店に入るぞ。」
「女将さん、戻ってきたぞ。」
「はい、作っておいたよ。」
「皆、席について。食べてくれ。」
皆がご飯に飛びつく。
「旨いな。この茸の歯ごたえと、山菜が旨い。」
「美味しいです。」
「嬉しいです。こんな事ができるなんて。」
「おじさん、ありがとう。」
「いいってことよ。今君たちを親元に届けてくれる、エリザベス様の領地にいるダムディ隊長に会いに向かっている。1週間位かかるから。」
「「「分かりました。」」」
「さて出発しよう。」
俺たちは、朝、昼、晩としっかりと食べ、食後には魔法の練習と鍛錬をした。子供たちはどんどん魔法が上手くなっていった。生活魔法は全員出来ようになり、身体強化もできる者が増えてくる。他の魔法ができる子もいる。4日目から鬼ごっこと軽い組手も取り入れた。何回か盗賊やゴブリンに襲われたが、問題なく退治した。5日目の町で鍛冶屋によって、皆の為にショートソードを打った。切断、堅牢を付与しておいた。7日目の朝、リゼンブルの見える森に着いた。打ち合わせは十分にしてある。
「今日は今までのまとめだ。この森の中で鬼ごっこをする。魔力循環、身体強化は常に使うこと。最初は俺が鬼だ。始め。」
ごわっと風を押しのけて、子供達を追いかける。ジェニファー捕まえた。鬼交代だ。俺は逃げ出す。木の上を移動したり、水の上を走ったり、皆好きなように逃げ回る。楽しそうだ。2時間ぐらいしていたら、グリーンウルフの群れに囲まれた。俺は何も言わず木の上から見ていた。感知はできなくても勘は良くなった。元々びくびくしていたから、感度がいいのかもしれない。サマンサは森と話せるから、すぐに気が付いた。
「皆、グリーンウルフの群れに囲まれてるよ。気をつけて。持ってる人はショートソードを抜いて。グループで固まって戦おう。」
(そうだ、戦わないと、生き残れないぞ。)
一匹づつ倒していき、問題なく倒し切った。俺はグリーンウルフを回収した。
「皆、よくやったぞ。少しは戦えるようになった。これからも精進しろよ。」
「「「はい。」」」
皆いい返事だ。俺は彼らの狩ったグリーンウルフを捌いて、肉をたくさん作ると、晩飯の串焼きを作った。塩味と味噌味だ。
「今まで皆よく頑張った。この中の9人は明日分かれて、ダムディ隊長に会い、親元に連れて行ってもらえる。ジェニーの言うことを聞いて、行動してくれ。このバッグにはそれぞれ金貨50枚が入っている。無くさないようにな。今までの苦労を金で清算できないが、あれば人生が楽に始められる。魔法もある、努力することも、戦うことも学んだ。これからも努力を続けてほしい。最後にこれが俺からの贈り物だ。」
俺は魔力循環を高めて皆に手をかざすと、「エクスヒール。」
全員に光る魔法陣が崩れながら吸い込まれる。
「全ての怪我と欠損が治っていると思う。そうでない場合は言ってくれ。」
子供たちは泣き出す者もいた。ジェニファーも自分の耳を触れることが信じられいと言って泣き出した。
「おじさん、本当にありがとう。私はこんなに長く生きられないと思ってました。いつもびくびく生きてきて、そのまま死んでいくと、諦めていました。でも、今は嬉しさで一杯です。こんな奇跡が世の中にはあるって信じて生きていきます。諦めません。」
「「「「ありがとうございました。」」」」
「ああ、強く生きろよ。明日の朝は早い。9人は特に早く寝ておけ。おやすみ。」
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