第107話 新しい日常生活へ

朝。



今日は朝練は軽く流す程度。


昼前に軍隊の先頭がやってきた。全部で40人だったか。


「ンーマン。一つ厳守させてくれ。ダンジョンマスターを殺さないこと。多分オークジェネラルだと思うが、それは殺さないでくれ。」

「分かっています。」

「よろしく頼む。」

ンーマンは午前中に村長とダンジョンの確認に行ってきている。堀だとか橋だとか魔獣除けの石のことなどだ。しっかりとしている。任せられるね。


俺は一人でコツコツとグリーンウルフの皮を鞣していた。これで巾着を作ってターシャの財布にするつもりなのだが、内緒だ。先ずは毛皮を作る作業を朝からせっせとやっているのだ。此処で時短が大活躍した。鞣しの為に薬液に漬けたりしなくてはいけないが2,3日かかることもある。これが2,30分でよくなる、チートスキルである。俺はドライもできるので、洗った後の陰干しも簡単だ。乾燥した皮に油を擦り込み、丸いスベスベな樹の幹に当てて前後にごしごし動かして皮を柔らかくする。もう何でも来いって感じで鞣し終えた。クリーンをして、フワフワでソフトな肌ざわりだ。気をよくした俺は更に7匹鞣した。さっきより確実に上手く早くなった。3時間で6枚だ。モフモフでフワフワだ。俺はその中から、一番きれいに見える毛皮から切りだして巾着を作った。いい感じだ。中にお金を何枚か入れてみた。

「うむ。」

やっぱりいい感じだ。


晩飯時。


宿屋の初日は忙しくならなかった。軍隊は野営の設置等で忙しかったようだが。御蔭でプレゼントを渡しやすい状況になった。

「皆にグリーンウルフの毛皮を渡したいと思う。今日鞣したんだ。」

ンーマン、女将さん、ステラちゃん、ターシャに1枚づつ渡した。予備は2枚。

「凄い柔らかいですね。」

「気持ちいい。」

「フワフワ。」

「ありがとう。マスター。」

「ターシャにはもう一つ、これだ。お財布。」

「マスター。覚えていてくれたのね。」

「勿論だ。遅くなったけど。自分で作りたくてな。」

「ありがとうございます。マスター。」

ターシャは顔に擦り付けながら嬉しそうだった。


勿論、肉は、女将さんに渡した。


今日は風呂に入ってのんびりした。女将さんとステラちゃんは今は毎日入っているようで、とても喜ばれた。身体が休まるんだよな。冬になればもっとありがたく感じるだろう。


感知では魔獣の数はほぼ変化なし。




次の日。


朝練後にターシャ、ンーマンとダンジョンが変わったか見てきた。


軍が村の外側に柵を作った。ダンジョン周りの堀の外側にも柵が作られた。その外側には100mほど離れて軍の駐屯地が作られている。軍は夜の間は橋を外しているらしい。橋は軍が新しい跳ね橋タイプに作り替えていた。今朝は早くから冒険者ギルドが送り込んできたパーティーがダンジョンを調べている。

「軍隊も凄いな。1日でここまで準備するとは。ジェネラルミル領の軍隊はやはりしっかりしている。フロスト団長が指揮を執っているのか?」

「いいえ。クエイカー副団長が指揮を執っています。スマイルさんはお知合いですか?」

「いや。噂に聞いてな。しっかりした団長だと。」

「では、私は軍に挨拶に行ってきます。失礼します。」

「また後で。行こう、ターシャ。」

「はい。」


晩飯時。


「女将さんも、軍の監視員へのお弁当、お疲れ様。もう終わったでしょうから、前話したように、俺に請求してください。後で軍に請求するか貸にします。」

「すいません。何もかもお世話になって。」

「ご心配なく。元は取っていますから。」

「さっきダンジョンの発表がありましたよ。ダンジョン名はロプノールで、これと同時に村の名前もロプノール村になりました。このダンジョンは珍しいタイプらしく、吸収遅延型で、魔獣をダンジョンの中で殺してもすぐに体が消えないので、持って出れば死体が回収できるそうです。ドロップタイプではないわけですね。

そして、階層は6階層。魔獣はオークを中心にゴブリン、ウルフ、ウルフェンですので、Cランクダンジョンに認定され、ジェネラルミル領所属と発表されました。中での討伐もスタンピードを避けるために偶に行われますが、基本的には出てきた魔獣を狩ることにするとのことです。

冒険者がそこまで多くやってくることは無いかもしれません。良い練習ダンジョンにはなると思いますが。暫くは軍と冒険者が交互に魔獣を狩る形にすることになりました。」

「うーん、直ぐには宿屋ぼろ儲け状態にはならないか。でも今夜は冒険者パーティーが泊っているんだよな。段々とお客が増えるよ、女将さん。」

「そうですね。今は畑もうまくいっていますから、心配していませんよ。2人で食べていくには十分ですし。魔法が出来るようになって、全てが楽になって、希望も持てています。本当にお世話になりました。」

「皆が練習したからですよ。これからも続けてください。使わないと廃れてしまいますから。今も魔力循環してますよね、皆さん?」

「「「「はい。勿論です。」」」」

「結構です。」

「ただ、他人には教えないように。道を踏み外す人は何処にでもいますから。」

「では、ご飯を頂きますか。冒険者が来たら急がしくなるから。」

「今夜はハンバーグですよ。」

「「「「おおー。」」」」

湯気が上るハンバーグが皆の前に並ぶ。

「本当に美味しくできてますね。女将さん。」

「お母さん。もういつ結婚しても大丈夫だよ。」

「何を言ってるんだか、この娘は。」

「このソースが美味しいです。この村にいる間は、毎日ここで食べますよ。」

「私も女将さんのハンバーグ大好きよ。」

「煮込みハンバーグと言って、ケチャップソースを緩めに多く作って、焼き目を付けたハンバーグを煮込んで出すという料理もあります。もうピンときたでしょうから、試してみるといいかも知れません。この料理は煮ているので、大量に作っておいて温かく出し易いので、食堂としては楽でいいメニューです。今度挑戦してみますか?」

「はい。お願いします。」

「ンーマン、後俺が何か忘れていることってあるかな?」

「ないと思いますよ。この村は安泰でしょう。」

「思い出した。このダンジョン、ターシャと俺が調べた時は5階層止まりだった。今は6階層だろう。成長しているのかもしれない。冒険者ギルドが管理するということで安心しているが、その可能性だけは伝えておいてくれないか?」

「分かりました。これで全部です。」

「もう一つあった。ハーシーズ領のキスチョコ村の扱いだ。」

「あれは、冒険者があそこに定住することになっていて、もう村の人間になっていました。オーク肉についてはあそこの宿屋は格安で購入できるよう特別扱いにしてます。元冒険者もオーク討伐の際に参加できるようにしておきました。」

「完璧だな。本当にンーマンには助けられたよ。今夜は奢らせてくれ。」

「有難く、いただきます。」

夜は楽しく過ぎていった。



1週間。


これまで俺たちはのんびりと鍛錬、魔法の鍛錬、宿屋や村の手伝いなどで過ごした。今は女将さんもステラちゃんも朝の鍛錬にも参加し、皆で鬼ごっこをしたり、水汲み競争でそれぞれの家に水を届けたり、村の中にフィールドアスレチックを作ってみたり、公園を作ってアポー等の木を植えて促成、栽培の練習をしてみたり、ハンモックを吊るしてみたり、お年寄りの畑を手伝って周ったりといろいろしてみた。

宿屋の畑には俺が集めた野草や野菜の実験畑が足され、親子で挑戦している。その中にライスもある。大食いの客が来る様になった食堂なので、パンだと大変だから、じゃあライスにしてみるかということだ。好きか分からないから、先ずは俺のライスを炊いて食べさせた。皆びっくりして喜んで食べたので、大丈夫だな。ライスの畑を二つ足した。今は、ライスを町で買って俺が運んできたものを使っている。1年はもつ量だ。

ダンジョンは冒険者ギルドの管理が始まり、ギルドの支店が村の中とダンジョンの前に出来た。その間を馬車が定期的に走って、魔獣を村の支店へと運んで、そこで解体される。普通は小さなオークとウルフの骨は捨てられてしまうが、俺は女将さんに、ただでもらってきてもらい、それでスープの素を作るように教えた。まず水から茹でて20分したら、お湯を捨て、骨をクリーンして、また水から2時間も煮ると良い出汁ができる。これでトメイトスープやケチャップも深い味になった。コブはどうしようか迷ったが、個人的に渡しておいた。店で出すには、常に無くては困るが、売りに来れるのは俺だけだろうから、直ぐには店には出せないだろう。煮込みハンバーグやトメイトスープ鍋やオークの生姜焼きっぽい物や餃子と、いろいろ開発して、塩やムラサキや魚醬もたっぷり渡しておいた。その内この村にも行商人が来るから、調味料は依頼できるだろう。

そんなことから、この宿はもはや人気が出てきて、忙しくなってきた。兵士も冒険者も食べにくる。メニューは日替わりにしているが、その内定番を作るかもしれない。竈を作り替えて、鍋を置ける数を増やし、余熱室を足し、俺の作った中華鍋も一つあげた。今は力があるから大丈夫だ。

ステラちゃんは看板娘として忙しくしている。生き生きしているなー。最初に会った時からすると、生きる力が溢れているようだ。これが見ていて眩しいということなんだろう。


なんやこうやと彼女たちも忙しくなり、俺たちの手から離れるときが来るのもあと少しだろう。

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