第97話 合同結婚式


俺はサシントン領の領境に達する少し手前に村があることを知らなかった。村には多くの人達がいて、まるでお祭りだ。俺はこんな時期にお祭りするかと思ったが、そのまま村に入ろうとして、入り口で大きなおっさんに

「招待状をお持ちですか?」

「えっ、持っていませんが。何かあるんですか?」

「すいませんが、今日は村の人達の合同結婚式がありまして、招待客だけしか村に入れないのです。申し訳ありませんが、この先にある道で迂回してもらうか、野宿をしていただけませんか?」

「そういうことなんですか。おめでとうございます。合同結婚式なんてことがあるんですね。結婚式自体少ないこの世界で。かなり立派な馬車も来ていますし、貴族の方が呼ばれる程盛大な結婚式とは、話のネタにできますよ。では、私はその辺で野宿させてもらいます。皆さんの素晴らしい人生をお祈りします。」

俺は頭を下げて馬車を回すと、元の道を少し戻り、迂回路へ進んだ。暫くしてから、道をそれて林に馬車を止めて野宿の支度をする。

「ネリー、合同結婚式だって。いつかはネリーも結婚するだろうけど、結婚式どうしようかな。」

俺は木を集めて焚火を始めた。十分に火が回ったので、鍋をかけて水を入れ、コブとアージの干物をほぐしていれ、ライスも入れた。塩で味付けしたさっぱり味の粥だ。どこまで行っても味覚は日本人だよな。というか育った味か。インスタントラーメンで育ったと思っていたが、基本は違ったんだな。大分煮えてきたなと思っていると、やはりお客さんがやってきた。さっきの入口で話したおっさんだ。

「こんばんは。先ほどは村にお泊めできずに申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、これも話のネタになりますから、いい経験です。」

「馬車の中にはどなたかおいでなのですか?」

「ええ、娘が寝ています。」

「お名前を訊いても?」

「ネリーと言います。6歳です。とてもかわいくて、かけがえがありません。」

「そうですか。6歳ですか。小さいお子さんには旅は大変ではないですか?」

「彼女は強い子で、置いていかれる方を拒んだんですよ。だから、いつも一緒ですね。」

「もしよかったら、この村で預かりましょうか?」

「ん?どういう意味です?」

「お子さんの為にも、皆の為にも、その方が良いですよ。」

「何故そんなことを言うんですか?」

「貴方は今死ぬからです。私たちが彼女のお相手を選んであげます。」

5人が飛び掛かってきたが、俺は触手で全員を貫いた。離れて確認に来た男の足をウィンドカッターで切り飛ばしてから、まだ生きているおっさんに続きを促した。

「それで?俺のネリーをどうするつもりだ?」残りの4人の身体を割き広げながら、おっさんの目を見る。涙を浮かべながら、

「すまん。知らなかったんだ。」

「何を。」

「お前が化け物なんて…。」

「そんなことは気にしないよ。俺のネリーを如何するつもりだったのかって訊いたんだ。」

「この村では今子供のオークションをやっている。お前の子供もそこに出そうと思ったんだ。」

「ふーん……いい事聞いた。お前には暫く生きいてもらおう。少し記憶をいじるがな。」

俺は俺がスライムであることをスマイルで上書きして、眠らせ、残りの4人は吸収し、分身を作って、そいつらに偽装させた。足掻いている監視に来ていた男に追いつくと、

「お前も何か知ってそうだな。今日来ている客のリストは持っているのか?確認役だから、あいつより知っているよな。」

「はい、知ってます。そのリストも手に入ります。」

「子供たちは何人だ?」

「23人います。」

「誰が仕切っている。」

「ダスキン奴隷商会です。」

「お前にも協力してもらおう。裏切ったらどうなるか分かってるな。」

「わ、分かってます。」

奴も一度寝かせて、エクスヒールで足を戻し、スマイルの記憶で上書きした。これで、分身4人と味方2人だ。お仕事お仕事。ネリーは結界と分身に任せ、次のステップだ。


*****



「皆様、ようこそお越しくださいました。第32回合同結婚式へようこそ。今宵皆さんがお望みのお相手と結婚できることを祈っております。では早速始めましょう。一番目は…。」

60人ぐらいいる客たちは皆目元が隠れるマスクをしている。いつも思うが、知ってる人はすぐ気づくよな。声、背丈、輪郭。子供たちはほぼ裸で台の上に呼ばれて、司会者に紹介されている。がくがく震えてまともに歩けない子もいれば、負けるものかと頑張っている子もいる。どの子も健気で、可哀想すぎる。この中にも子供達を救おうとして買う奴もいるかもしれないが、どの目を見ても好奇心の塊にしか見えない。鑑定によれば皆上気しているよ。有罪。俺もそろそろ準備しないとな。

俺は裏に回り、金の受け取り場所で待っている二人の所へ行った。男と女。

「やあ、こんばんは。」俺もちゃんとマスクをつけている。

「こんばんは。まだオークションが完結してませんので、お金の受領は始まっていませんが。」

「うん。そのことなんだが。どうしても気がせいちゃってね。

ドシュドシュ。

交代しに来たよ。」

俺は二人を吸収、分身を作って、二人に成りすました。オークションの進行は分かっている。後はその通りに進ませよう。

*****

「おめでとうございます。1番のオークションを落札された方ですね。金額は金貨250枚です。確かに確認しました。1番の子が準備できるまで暫くかかりますので、パーティー会場でお楽しみください。準備ができましたら、そちらへお連れいたします。」俺はお辞儀をする。

隣でも分身が同じようなことを言っている。1番の子は2500万円もしたんだな。俺とはえらい違いだ。きちんと書類に金額と確認の署名をして、買った側にも署名してもらい売買は完了だ。でも契約書は署名する前にきちんと読まないとだめだよ。



全員からお金を受け取り、後は子供達を綺麗にして、送り届けるだけだ。この段階で主催者の男は用無しなので、眠ってもらっている。俺は子供達の方を確認に行った。裏方の人達が子供達をお風呂に入れている。しかし水じゃないか。皆寒そうに洗われているので、主催者に擬態して、

「おい。大事な商品なんだぞ。丁重に洗え。この子たちのお陰で俺たちは飯が食えているんだ。それにお湯をたっぷり使え。俺がお湯の用意をするから。この間凄い魔法道具を手に入れたんだ。」

俺はお湯が出る魔石を出して、お湯を出しまくった。子供たちの表情が少しだけ明るくなった。

その間に、俺はそのままの格好でパーティー会場に行った。皆様楽しそうに歓談していらっしゃる。以前買った奴隷が飽きたのでやってしまっただの、壊れやすくて困るだとか、笑顔で会話できることが信じられん。神様、本当に神様がこいつらを作ったんですか?神は見守るだけか。人間が働かないといけないんですよね。俺はスリープで全員を眠らせた。その上で闇魔法の暗示で罪を告白しないといられない病にかけてみた。今のうちにゆっくり寝てくれ。この病気が発病したら、まともに眠れないからな。この魔法は以前から作りたいと思っていた。この世は証拠があまり必要ない。というか証拠を集めることが難しい。だから、証言に重点を置く。置き過ぎることがまた問題なんだが、この際活用させてもらう。自分から告白すれば簡単に済む。俺も証拠集めに苦労しなくてもいいし、つじつま合わせに悩むことも減る。この魔法のいいところは鑑定では呪いとは現れない。状態異常とは出るかもしれないが、病気も状態異常と出るのだから、ばれる心配が少ない。スレイニー司祭位になれば分からないが、少なくとも呪いと結びつかなければ言い訳ができると思う。まあ、すぐばれるだろう。こんなに大量の貴族や金持ちが自白するって異常だからな。でも、いいよ。その時に悩むから。


パーティー会場の大人たちを大きなテントに放り込んでおいて、会場を綺麗にしてから、子供たちに会いに行く。皆綺麗におめかしされて、まともな服と靴をつけて、悲しそうな顔をしている。俺は、パーティー会場にしつらえたテーブルに23人分の食事を用意しておいた。量はたっぷりと用意してある。材料はここにあったものを全て回収した。結構な量の酒もあったので、誰かに送ろう。


「子供達よ。今夜の主役は君たちです。この先のことが心配だと思いますが、心配することはありません。私が保証しましょう。だから今は好きなだけご飯を食べて、辛かったことを忘れてください。いくらでもお替りはありますから。」

此処に出てきている大人は既に分身になり替わっている。残りの奴は裏でやはり寝ている。吸収でもいいがある程度残しておかないと、衛兵が来た時格好がつかない。子供たちは手を出してよいのか分からないようなので、俺が一つ串焼きを手にして、噛り付いた。

「うん、旨い。なかなかですよ、この串焼きは。皆さんもどうぞ。」

一人の子供があきらめて食べだすと、次々と皆続いた。よしよし。資料はもう用意したし、成功報酬は既に金持ちからかき集めてある。今回は凄い額になった。どうやったらそんなに稼げるのか知りたいよ。子供たちはどんどんお替りして、美味しい、美味しいと食べてくれた。やった価値はあったな。


俺は大きなテントにベッドを用意しようと思ったんだが毛布が足りないんじゃないか。俺は会場と村を探し回ってやっと十分な毛布を見つけた。クリーンで綺麗に勿論した。この村の存在はどうなっているんだろう。いらないんなら、俺がもらうかな。サシントン領主様に確認がいるが。というか今も乗っ取られて現状把握してないんなら、俺が勝手にもらってもばれないのでは…いや、あの人に借りを作ることは危険だ。戻って、テントにベッドを作り毛布を用意した。


子供たちはもう満腹で寝こけている。俺と分身達は子供達を一人づつ運んでベッドに乗せ、スリープをかけた。


「鞄の用意を頼む。番号と子供たちの番号があっていることを確認しておいてくれ。俺はンーマンに話してくるから。」

俺は馬に乗って、奴がまだいる町に向かった。月夜のせいか、馬は問題なく走れた。ライトの魔法も使ったしな。夜が明ける頃に町に着いた。


「おい、ンーマン。起きろ。仕事の話だ。」

「もう少し寝かせてくれ。昨日も忙しかったんだ。」

「俺はお前の女房じゃねえ。起きろ。若者。」

「まだ夜が明けたばかりだよ。」

「そうだよ。それでもだよ。」

「…お前誰だ?」

「スマイルだよ。」

「此処は俺の部屋だぞ。」

「知ってるよ。夜這いじゃないから安心しろ。仕事だ。起きろ。」

「一寸待て。落ち着くから…やっと目が覚めてきた。俺なんか変なこと言わなかった?」

「別に。お前が家でお袋か女房とどんな会話しているか分かっただけだ。大した情報ではないな。」

「ああああああああ!」

「心配するな。お前を脅す時に偶に使うぐらいだ。俺のために働くようにな。領主様の意向にも合うだろう?」

「ああああああああ!」

「はいはい。この先ハーシーズ領に向かうと領境に小さな村がある。そこでな、合同結婚式と銘打った子供たちのオークションが開かれていてな、俺も巻き込まれた。主催者はダスキン奴隷商会でお客は60人ぐらいの貴族と金持ち達だ。あの村の扱いがサシントン領でどうなっているか知らないが、いらないなら俺がもらうぞ。子供たちは23人いる。きちんと契約書にも署名したから、契約書を確認してやってくれ。暫くその村で待つが、ンーマンだけでは全員逮捕できないだろう。マーガレット様の従者を使うのか、この町の衛兵に頼むのかはンーマン次第だ。もう、お前の権限の世界だからな。じゃあな。二度寝でも楽しめ。」

「出来るわけないでしょ!」

俺はさっさと宿を出て、馬に乗って村へ帰った。今日は何をして子供たちと遊ぶかな。先ずは馬車を村に入れ、ネリーに挨拶をした。子供たちはまだ起きてこないから、朝飯の用意でもするか。今日はアージの半身を焼いて食べさせて、海の魚の旨さを教えてあげよう。ワイルドだしな。俺は焚火を始めた。



夕方になる頃、ンーマンが衛兵を連れて向かって来ている。後30分ほどで着くだろう。うーん、マーガレット様もいるので、早速俺も出発する。


「皆、辛い思いもしただろうが、これから良いこともあるから、諦めずに生きてくれ。もう30分もすれば、町の衛兵が君たちを迎えに来てくれるから、心配いらない。俺の知り合いもいるからな。じゃあな。」

「「「どうもありがとうございました。」」」

俺は馬車で北へ向かった。


「マーガレット様、着きました。」

ンーマンは遊んでいる子供達を見つけると、

「君たちが売られそうになった子供達かな?スマイルさんは?」

「あの人はもう行ってしまいました。この手紙を渡すように言われました。」

「ありがとう。」

『ンーマン、予定通りだ。番号が書いてあるバッグは、子供たちの番号に合わしてある。必ず子供達に配って、盗まれないようにしてやってくれ。それは子供たちが体を張って稼いだ金だ。子供たちしか貰う権利が無い。家までも確実に送ってくれよ。後のことは期待している。あんな奴らが好き勝手出来る世の中は俺の好きな世ではない。それと子供の親達に子供の金で身を持ち崩さないように釘を刺しておいてくれ。』

「さてと、残りの大人たちは何処にいるのかな?」

「あっちのテントに縛られてます。」

「よし、衛兵たちは向こうのテントで全員逮捕してくれ。……やれやれ、全く凄いことをする男だ。」



尋問はスムースに行われ、皆気の抜けた顔をしている。全ての罪を白状して気が楽になったようだ。

「ただ、これの裏取り俺がするのかな?」

ンーマンは眉間を指で揉んで考えている。

「面白い男ね、スマイル。いつかまた会いたいわ。」

「マーガレット様、ああいう男に興味を持つことはお勧めしませんよ。」

「護衛にぴったりじゃないの。」

「まあ、そうですが。」




次の日の朝。


ンーマンは昨日も忙しかったが、何とか町から援軍が着き、拘束と移送ができるようになった。


いよいよ出発だ。その前に、

「このバッグは君たちの物だから失くさないように。大きな声では言えないけど、この中には君たちがオークションでつけられた額が入っている。信じられない額だ。この契約書によると、受け取った代金は、24時間以内に奴隷を受け取ることにより、ダスキン奴隷商会に支払われたこととなる。24時間以内に売買が完了しない場合は、支払い金は没収され、オークションで落札された者に渡されることとなる。とあるので、正式に君たちのお金だ。大事にするように。」

(最高額の子供は金貨1600枚だ。俺の給料何十年分だよ。)

「では、君たちは俺が送って行くよ。スマイルさんとの約束だしな。マーガレット様は護衛と共にお先にリーズ子爵家へお帰り下さい。後ほど挨拶にお邪魔します。」

「何を言っているのよ。私もあなたと行くわ。その方が楽しそうだから。」

「お嬢様、それでは我々が困ります。」

「お父様に連絡を送って、残りが私についてくれば良いじゃないの。」

「分かりました。」


*****


既にここはハーシーズ領だ。何も変わらない。静かな草原だ。あれはなんだ。草原にいるが、あれはライオンだ。鑑定にはライオーンでレベル40。かなり強いな、こんなところにいる割には。こちらに寄ってきたが、途中で引き返していった。お互い無傷でよかった。


ハーシーズ領は草原が続く領のようで、丘はあっても山は無いようだ。牧畜したら良さそうだが、ライオーンがいるからしないのかもしれない。のんびりと何もなく進む。

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