第96話 マーガレット嬢とンーマン

アショロ町。


次の日



街の中は奴隷商の裸のオブジェが人気だった。俺は親父に簡単な地図を描いてもらい、子供達を馬車に乗せて短い旅に出た。やっぱりな。結構盗賊たちがいるんだよ、この辺り。昔のエリザベス様の領地のようだ。先ずは子供達を順々に降ろして回った。その時にその子を親たちに、犯人を捕まえた人からお金を預かったと言って1人当たり金貨10枚を渡しておいた。少しは辛い思いをした親子の慰めになってほしい。最後の一人を降ろして、俺の仕事が始まった。感知で此処半径50㎞にいる盗賊を片っ端から刈り取っていった。勿論お宝も回収した。豊作だ。しかし、最後の盗賊の隠れ家に1人だけ女の子が捕まっていた。薄い青銀色の髪を肩まで伸ばた、目も薄銀色の白い肌のお人形の様な美人さんだ。着ている服も良い物だから、良いとこのお嬢さんだろう。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

「君はどうしてここに居るの?」

「誘拐されて。」

「何処から?」

「ハーシーズ領のパークから。」

「それって結構遠くない?」

「此処が分からないからよく分からないわ。」

「俺はスマイル。君の名は?」

「マーガレット。マーガレット・リーズ。」

「あの、もしかして、君、リーズ子爵の関係者?」

「そうよ。リーズ子爵は父よ。」

「やっぱり…。」

(ここで当たりを引いてしまった。此処の町長に預ければ連れて行ってくれるはずだ。)

「そうなんだね。ご両親は凄く心配しているだろうから、早く帰らないといけないね。俺がアショロ町に送ってあげるから、其処の町長が君を家まで送る手配をしてくれるよ。」

「そうなるだろうけど、嬉しくないわ。あなたに送ってほしい。」

冒険好きそうな大きな目が光っている。

「いや、俺も忙しいし。」

「私も父に状況を説明して、お礼もしたいわ。」

「いや、お気になさらず。」

「兎に角、アショロ町までは行きましょうよ。」

「そうだね…。」

面倒の足音が迫ってきているよ。

「このベッド変わってるわね。何で馬車にベッドがあるの?」

「うちの娘が寝るんだよ。一寸病気でね。今は宿屋に預かってもらっている。」

「ふうん。子持ちなんだ。」

「そうだね。」

「何歳の子?」

「6歳。」

「君はいくつ?女性に年を訊くもんじゃないかな?」

「8歳。気にしなくてもいいわ。あんなのバカみたい。皆年を取るのに。」

「お母さんに何でか訊いてみな?」

「貴方強いのね。直ぐに盗賊いなくなってたもの。」

「逃げてくれて運がよかったね。」

「そのおかげでお宝も手に入ってたわね。」

「そうだね。」

「結構あったわよね。」

「それなりじゃないですか。」

「あれ、どうするの。」

「俺の臨時収入になります。」

「命の対価ということなのね。」

「まあ、そういうもんです。」

「いつもあんなことをしているの?」

「まさか、偶然ですよ。しょっちゅうやっていたら命がもちません。」

「あなたほど強ければ、そんな心配いらないと思うわ。」

「だといいですけど。」

「私の護衛にならない?」

「いやー、自由な冒険者が好きなので、当分一か所に居つくつもりは無いんですよ。誘っていただき嬉しんですけど。すいません。」

「いいわ、まだ私の魅力では貴方を落とせないということね。」

「いやー、さすが貴族の方は早熟ですね。お嬢さんは魅力的ですが、無理というだけですので。」

「今はいいわ。」

彼女がニヤリとしたような気がした。


帰り道。感知にまた何か引っかかった。何だか懐かしい奴だ。何て名前だったかな。しかしその前にも盗賊がいる。最後の12人か?彼で大丈夫か?彼の腕を見てやろう。俺は馬車を止めた。盗賊は馬車が止まって躊躇しているようだが、俺の前に男が一人いるぞ。さあ、どうする。

「何で馬車を止めるの?」

「前に盗賊がいる。そして、盗賊と俺の間に1人旅人がいる。どうするか見て見たくて。」

「旅人一人では、すぐやられてしまうでしょう。助けてあげましょうよ。」クリっとした目が光る。

「まあ、見ていましょうよ。俺の知り合いなんです。」

しょうがないので盗賊は二手に分かれたようだ。旅人に3人、俺に9人。逃す気は無いようだ。

「お嬢さん、馬車の中に移ってくれませんか?」

「何故?」

「あまり女の子が見る物でもないと思うので。」

「気遣い無用よ。慣れてるわ。」

「そうなんだ。慣れてるのね。怖い子だ。」

俺は剣を抜いて、道に降りる。強すぎてもまずいよな。普通に強いでいこう。馬を傷つけたくないから全員の足を軽く切ろう。俺はスイスイとかわしながら、相手の裏側に回り込んで、足を軽く切っていった。もう足に力が入らないだろう。奴等は馬からどたどた落ちた。歯向かう奴の手も軽く斬りつける。其処を紐でぐるぐる巻きにした。俺が馬を集めて回る間に、向こうの3人も終わったようだ。この馬どうしようかな。売るか。ネヴァーランドに送りたいけど無理だしな。俺はただの水が入ったポーションの瓶をふって、同時に盗賊にヒールをかける。よし、ばれてないだろう。俺は、彼に向かって歩き出した。向こうは居心地悪そうだ。

「久しぶりだな。元気にしてたか?以前は世話になった。」

「お久しぶりです。今は元気です。前は働かさせられすぎでした。」

「若いんだから、働き過ぎぐらいが自分の存在意義を感じれていいんじゃないか?」

「まあ、それが無いとは言いませんけど。」

「なかなか戦い上手だったな。さっきの。」

「貴方にはかないませんがね。」

「同じぐらいだろう。俺が見ているのを知っていて、ごまかしていたものな。」

「さあ、どうでしょうか?」

「ところで君に新しい仕事がある。とても名誉な仕事だ。」

「な、なんですか?」

「まず俺の馬車に来てくれ。それと、君の名前を教えてくれ。俺はスマイル。」

「私はンーマンです。」

「いい名だ。こちらの女性はマーガレット・リーゼお嬢様。リーゼ子爵のご令嬢だ。盗賊に誘拐されたそうで、サシントン領を代表してお送りしてほしいんだよ。君の腕なら問題ない。俺はどうしても前に出るのは好きではなくて。それに美人な子爵令嬢ではハードルが高すぎる。だからどうか頼む。お礼にこの馬と盗賊たちを付けるから。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

「一寸、私はあなたに私の護衛を頼んだはずよ。」

「頼まれましたが了承しておりませんし、ンーマン君の方が適役なのです。彼はサシントン領主様の右腕的存在で、隣同士の領主が今後も連携を高めれば治安が良くなることは必定です。ここで、ンーマン君が貴方の父上と仲良くなることは領民たちにとり、とてもありがたい事なのです。ただの冒険者とは違うのですよ。卑怯な言い方ですがお分かりください、お嬢様。いつか遊びに行きますよ。その時は一緒に盗賊狩りでもしましょう。ンーマン君も一緒に。」

「スマイルさん、そんないきなり。」

「君がこっちに来た理由は大体想像がついているよ。ありがとう。そして感謝を君の上司にも伝えておいてください。自由にさせてもらってますと。そして、これが最後かどうかわからないが、次の仕事だ。俺はアショロ町を明日には出て、北へ向かう。リーゼ子爵の領を通ることになるから、また会うかもな。では、マーガレット様、ごきげんよう。マーガレット様が馬に乗れることは分かってますよ。さようなら。」

俺はマーガレット様を降ろすと、馬車を移動させ、横を通ると、馬にダッシュさせて町に向かった。そこで衛兵にすぐそこで盗賊をとらえた人達がいて、応援をよこしてほしいと頼まれましたと伝えたところ衛兵が6人ほど馬に乗って走って行った。これで問題ないだろう。


俺は宿に帰ってきて、

「ネリー、久しぶりにサシントン領主様の密偵のンーマンに会ったよ。俺のケツを拭くために送られてきたようだ。あいつとは腐れ縁になるかもしれないな。憎めない奴だからいいけど。いつかもっと偉い立場にのっけてやろうかね。どう思う?」

ネリーはただ大人しく寝ている。

「今日も少し神聖魔法の練習ができたよ。盗賊を切って、治して、切って、治してなんて、何をしてるんだろうな。馬鹿みたいだ。」

ネリーの頬をそっと撫でる。いつか目が覚めるよな。あの時もっと早く来ていれば。マップのスキルを手に入れていれば。独りにしなければ。タラレバか。昔よくやった時間つぶしだ。心抉るけどな。こんなことでネリーの目は覚めない。現実的な答えを探せ。無駄な罪悪感を育てる暇があるなら、楽しむことで気分転換しろ。下を見ていても金さえ拾えないんだ。ホームレスのときに教えてもらった鉄則だ。


家訓:とにかく身体を動かせ。じっとしていることが一番ダメなんだ。


*****

「マーガレット様、すいませんが、あまりスマイルさんのことは知らないんですよ。」

「そんなことないでしょう。仲が良さそうだったわ。知らないんじゃなくて、言えないんじゃないのかしら?」

「いえいえ、不思議な人なんですよ。私が知っているのは、ある教会が嵌められて、私が証人にされた事件ですね。」

「いいわね。教えて頂戴。旅は長いんですもの。」

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