第95話 アショロ町
アショロ町 サシントン領の北部の町
行く街全てで犯罪に巻き込まれるわけないだろう。普通はそう考える。日本だってどの町にだって犯罪はある。巻き込まれるか、巻き込まれないかだ。ただ生き方によって巻き込まれ易い場合がある。薄暗い所を歩きたがる場合だ。この世界はもっと危険だ。だから巻き込まれても当然だ。
今回は別にただ素通りするつもりだった。俺たちの前の方の馬車が盗賊に襲われるまでは。次の馬車が追いついてしまうような距離でやるってことは、一度に二度おいしいなんて考えたんだろうな。俺の馬車には護衛がいないし。俺はスピードを落として、止まることにした。ネリーが乗っているのだ。感知出来なかったのかという質問はあるだろう。感知はしていた。ただ気分がイライラしていたのだ。運転していると偶に性格変わることは、誰でも経験している。今の俺がそうだ。目の前の何かを轢き殺したい。俺が寄ってこずに止まったのが、気に入らないようで、馬鹿が走ってきた。俺も御者台から飛び降りる。ネリーの寝顔を見る権利はお前らにはない。
「泥沼」
馬鹿は泥に足を取られ態勢を崩し、動きを鈍らせたところを俺に頭を吹っ飛ばされた。今日は試しに斧を使っている。馬車で轢けないので、叩き潰す方向でいく。残り5人か。俺の前の人達はもう生きてないかもしれないが、少しは生きていてくれ、俺の神聖魔法の練習のために。馬車の陰から3人組が出てきた。切りかかってくる剣ごと斧で叩き潰す。後ろの二人に蹴りを入れ、フッとばしておいて、残りの二人を先に切り裂いた。其処でゆっくり残りの二人を捕まえてきた。前の馬車の人達はかろうじて生きていたので、全員にポーション掛ける振りでスリープ、そして被害者にヒールをかけた。
「ちゃんと治ってるな。良々。」
盗賊は縛り上げて、武器を取り上げ、馬も6匹捕まえた。盗賊の一人を起こし、
「お前ら何人の盗賊団だ?言わなくてもいいけど、捕虜はもう一人いることだけは忘れるなよ。何人の盗賊だ?」
「18人。」
「隠れ家は何処にある?」
「この先の細道を山に入っていったところにある。」
「そうか。寝ていていいぞ。」
瓶をあけて、ラベンダールの匂いをかがせて、スリープをかける。俺は魔法が使えない前提だからな。
今俺の周りには死体と寝ている人だけだ。感知で見てみると3㎞以内には盗賊の隠れ家以外誰もいない。チャンスだな。分身にネリーの護衛を頼み、ダッシュで盗賊のアジトを急襲。皆殺して吸収し、お宝は収納して戻ってきた。30分もかかってない。毎回スムースにいきたいもんだ。
お宝は結構あった。武器もまあ使える程度のものだし。俺は馬車の中身を調べてみた。あーあ、何でここに奴隷がいるのかな。盗賊が奴隷商を襲ったってこと?俺は奴隷以外にスリープをもう一度念のためにかけ直し、奴隷の子供二人を起こして話を聞いた。
「君たち、此処で何してるの?」
「私達お父さんと馬車で隣町に行く途中に、盗賊に襲われて捕まっちゃったの。大人は皆殺されて、私たち姉弟だけが連れてこられて、この馬車に乗せられたの。」
「じゃあこの馬車の奴は悪い奴?」
「うん。悪い奴。」
「そうか。ありがとう。一寸待っててくれる。お腹すいてる?この串焼き食べててくれるかな。」
クリーンをかけて串焼きを渡した。
さてどうしたもんか。俺は盗賊を殺して収納。盗賊の剣を使って、馬車の3人組を斬り裂いて捨てておいた。馬車の中の荷物も全部回収、檻を壊して、2人を助け出し、俺の馬車に乗せて出発。何食わぬ顔で、アショロ町に到着。俺は衛兵にお薦めの宿を訊いて、其処に宿泊することにした。子供達も一緒の部屋だ。ベッド一つに二人寝られるから問題ない。直ぐに宿屋でご飯を食べさせ、寝かせてあげた。安心できたからか直ぐに寝息を立て始める。
問題はあの奴隷商はこの町に向かってたんだよな。此処で商売しない場合もあるが、一寸だけね。苦しそうな表情で寝ている。そうだよな。生きて売られるなんて碌な経験じゃない。孤児院かな。出来ればひとつ前の村のシスターにお願いしたいが、此処のシスターも良い人かもしれない。これも調べよう。
真夜中になったので、散歩に出た。久しぶりに自分で回ろう。奴隷商会はどこにあるのか?もう夜中だから訊けないしから、感知で多くの人が集まっている所を廻ってみるか。いくつかあるが、歓楽街は除いて、商業施設らしいのに行くか。入ってみると、やはり奴隷商。法的奴隷に手を出すわけにはいかないから、違法かどうか調べなくてはいけない。ただ、小さい子供は違法奴隷なので、直ぐにわかる。いるね。小さい子達。地下に結構いるよ。
そのままにして、奴隷商の執務室で書類を漁る。リストに子供達のことは乗っていないので、明らかに違法奴隷だ。こいつは時間がかかりそうなので、商業ギルドと町長は分身に調べてもらう。
「いつも通り頼む。」
「「了解。」」
二人を見送ってから考える。困ったな。子供達10人ぐらいいるんだよ。子供たち以外にスリープをかけて、子供達にどこから来たのか聞いてみた。3人、3人、2人、1人、1人とそれぞれ近隣の違う村だそうだ。親に売られたんじゃなくて、攫われたって。俺はそれぞれの名前と村の名前を書き込んで、宿屋の親父に教えてもらうことにした。ここに居る奴らは有罪。だが殺すと正規の奴隷が困るんだよな。ということで奴隷商と見張り番二人を素っ裸にして門に縛り付けておいた。違法奴隷を扱った男たちとして立札も立てておいた。
子供たちはクリーンをかけて宿屋に連れて行った。
「親父さん、遅い時間だけど。新たに子供10人泊めて欲しいんだ。大人五人部屋ってある?」
「三部屋だな。空き部屋があるから。それでいいか?」
「ああ、いいよ。助かった。」
部屋を取り、おどおどしている子供達に水と串焼きを上げたら平らげて寝てしまった。調べたところ此処の町長は問題ないようなので、子供を預けても良いかもしれないが、乗り掛かった舟なので、明日馬車で回る事にした。ネリーはこの宿に残し分身に護衛してもらおう。
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