第56話 ムラサキ村

旅に出てから3日、俺たちは東に向かっている。ケイレンソードまで歩き、其処から乗合馬車で東へ向かっている。密偵はついてきている。好きにしな。先ずはフォーメン村を目指す。魚醬を手に入れるために。馬車の中は半分ほどうまっている。男女ペアが二組。親子連れの3人。子供は8歳ぐらいの子でネリーは話しかけた。

「こんにちは。私はネリー。お父さんとフォーメン村に向かってるの。貴方は何処に行くの?」

「私はお父さんとお母さんとムラサキ村に帰るの。私はメリー。よろしくね。」

「ムラサキ村は遠いの?」

「フォーメン村よりずっと近いよ。馬車で2日位。明日には着くと思う。」

「そうなんだ。ムラサキ村ってどんな村?」

「ムラサキ村は小さい村だけど綺麗だよ。水と橋がいっぱいあるの。」

「面白そう。」

「あとね、ムラサキが美味しいの。」

「ムラサキってなあに?」

「いろいろなものにかけて食べるの。」

「お父さん、美味しいんだって、ムラサキ。」

「寄ってみようか?」

「うん。楽しみ。」

御者に相談すると、明日はムラサキ村で一泊だから、村を見てくれば良いと教えられた。

ムラサキ村は水と橋が本当に多い村だった。ホビットの村に小川と橋をかなり足した感じだ。緑も豊富で郊外には畑も多い。宿屋の女将さんに訊いてみた。

「こんにちは。訊いたんですけど、ムラサキっていう調味料が美味しい村だって。買えるところありますか?」

「ここでは各家庭でムラサキを作っていて、おふくろの味になっています。お店で売っている店もあります。この宿でも私が作っているムラサキを売ってますよ。町の広場ではムラサキの露店もありますよ。」

「後で行ってきますが、先ずは女将さんのムラサキを味見させてもらえませんか?」

「いいですよ。ちょっと待っててください。」女将さんは小皿に入った黒い調味料を持ってきた。俺もネリーも指を付けて舐めてみた。これは醤油っぽい。

「美味しいですね。何でできているんですか?」

「これは、豆とライスですね。」

「作るのは難しいんですか?」

「慣れるまでは難しいですね。この村にはそれぞれが仕込んだムラサキを保管する場所を村が提供してくれているので楽ですけど。他の村では難しいでしょう。」

「そうなんですね。凄く美味しいので買いたいのですが、どのくらい売ってもらえますか?」

「小樽、中樽、大樽とありまして、見てみますか?」

「はい。」

見せてもらうと大樽だとウィスキーの樽くらい。中樽が酒樽ぐらい。小樽は一升瓶ぐらいだろう。

「これは封を開けてからどのぐらいもつ物なんでしょうか?」

「1年ぐらいは何ともなく持ちます。出す時に下から出すようにしますけど。樽の下の方に栓があるんです。小樽はすぐ無くなるから気にすることはないと思います。」

「大樽はいくらですか?」

「銀貨1枚です。」

「では、大樽1つ買います。」

「毎年どのぐらい仕込むんですか?」

「大樽で30個ぐらいですかね。」

「もしかして去年売りのムラサキも残っていたりしますか?」

「ありますよ。それも売りますよ。小銀貨8枚で。」

「古くなると安くなるんですか?」

「味はマイルドになると思うんですが、お客さんは1年物の方が好きらしくて。」

「では、古くて残っている樽全て買います。いくつありますか?」

「去年売りが大樽3,中樽2,一昨年売りが大樽2,中樽2です。」

「一昨年のムラサキは大丈夫ですか?」

「ええ。私たちがいま家庭で使っているのは一昨年のムラサキですから。」

「全部買います。おいくらですか?」

「小銀貨46枚でどうですか?」

「問題ありません。では銀貨4枚と小銀貨6枚です。」

「はい。受け取りました。」

俺は似非マジックバッグに全て入れて大喜びだった。その後も露店や他の店を回り、美味しかったムラサキは買って回った。こんなにどうするのかと後で思ったが収納があるから、いいじゃないと開き直った。尾行している奴は俺のマジックバッグの収納量を見て驚いていることだろう。これだけ入るのに何故塩は入れないのかと思うかもしれないな。しょうがない。ムラサキが美味しかったんだ。

宿屋でミソス村は何処か訊くと、この村の北に1日ほど行ったとこらしい。帰りに寄らなくては。こんな調味料があるのになぜ広まらないのだろうか?ラノベなら醤油、味噌、ソースを開発して大儲けとなるが、この世界にはすでに似た製品がある。其処からして、味覚の完成と料理への情熱を感じるんだが、普及はしていない。分からない。これから広がるところだった可能性はあるか。スポケーンの屋台でひろまり始めているし。


これで調味料の開発はしなくて済んだ。残りはマヨネーズぐらいか。

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