第52話 ホワイトファービー
朝。
爽やかな山の朝を迎えた。さて、今日はもうちょっと奥まで進もう。遥か前方には山が見えている。そこまでは行かないが、何かあるかもね。感知はオフと。今朝の鍛錬と勉強を終え、朝ご飯を食べて、いざ出発。
「ネリーが好きなように進んでいいよ。」
「うん。」
最初に見つけたのは滝だった。高くはないがそれなりに綺麗。二人して見とれていた。滝壺はそれなりに深かったので、二人で泳いで遊んだ。自然と犬かきで泳ぐよな。バタ足を教えてあげながら、ふと、俺が以前住んでいた辺境の家はどうなっているだろうと思いだした。ジョージと会ったころに棲んでいた場所で、初めて居ついた場所だからそれなりに思い出がある。あそこも川沿いだった。川魚がいる。
「ネリー、魚一匹づつ釣ろうか?」
「うん。」
俺は竿をネリーに渡して、餌の川虫を石の下から見つけて気が付いた。こんな小さな針が無い。そこで蜘蛛の巣で釣る話を思い出した。俺は糸を指先から出して、川虫と小石を絡める。これで水に浮かないだろう。そしてネリーに渡した。
「まえのと違う。」
「ほら、餌が小さいから、他の方法にしてみた。上手くいくか分からなけど、試してみよう。」
「うん。」
彼女は川上に餌を投げ入れた。俺は流れに沿って、糸を川下に動かして、食いつかれたと思ったらゆっくり川の流れに合わせて引き寄せるように伝えた。川下まであたりが無かったら、また川上に餌を流すの繰り返し。彼女は素直に言われた通りに繰り返す。10回目ぐらいのときに竿がブルブルして、ネリーが魚を優しく岸に引き寄せた。彼女は魚の頭を持ち、笑っていた。
「凄いぞネリー。もう一匹、俺の分も釣ってくれ。」と言って、餌を付けてやった。
「はーい。」
次は割と早く釣れた。ネリーが慣れたのだろう。
俺は素早く火をおこし、ネリーに腹を裂いて内臓を捨てて、洗ってくれと頼んだ。直ぐに串刺しにして塩をかけて香ばしく焼いた。
「命に感謝していただこう。いただきます。」
「いただきます。」
二人してうまくてすぐ食べてしまった。火を消し、クリーンをかけてまた歩く。ネリーが宙に浮いている大きな蜂を見つけた。首の周りには白いふさふさの毛が生えている。60㎝位はあるだろうか。マナー違反かもしれないが、こっそり鑑定するとホワイトファービーとでた。納得だ。
俺は蜂蜜は好きだし、ネリーに甘いものを食べさせてやりたいが、蜂を全滅させて蜂蜜を取るのは気が引ける。蜂は俺たちを認識していたが別に何もしない。ある程度近寄らない限り、襲ってこないとは知っている。俺は試しに話しかけてみた。
『こんにちは。俺はスマイルといいます。こっちは娘のネリー。もしよかったら蜜を少しだけ分けてもらえませんか?』
『お前は人か?』
ネリーには分からないだろうから、
『いいえ。俺はスライムです。今の格好は擬態です。娘は獣人です。』
『そうか、スライムか。そんなスライム初めて見たぞ。』
『そうですか。』
『どのくらい欲しいんだ?』
『ネリーに蜂の集める蜜は美味しいと知ってもらいたいだけなので、このカップに少し入れてもらえればいいです。』
『一寸だな。いいぞ。その代わり女王様に何か貢物をくれ。』
『何がいいですか?』
『そうだな。肉がいいかな。』
『丸々でいいですか?魔獣一頭でいいですか?』
『いいぞ。』
『これはどうですか?』俺が依然倒したグリーンウルフだ。
『おお、いいぞ。貰っていく。』
蜂はグリーンウルフを抱えて飛んでいった。しばらくしたら茶色い玉を持って帰ってきた。
『その入れ物の上でこれを割るぞ。』
トローとした液がコップに垂れていく。
『この玉を食べろ。』
俺とネリーは二つに分けてそれを食べた。ぱりぱりしているが少し弾力もある。そして甘くて美味しい。
「甘ーい。美味しー。」とネリー。
「凄く美味しいな。」と俺。
『凄く美味しいです。』
『そうだろう。これを食べたことがある物は我々以外では少ないはずだ。』
『貴重なものをありがとう。大事にこの蜜も食べますよ。』
『女王様も、久しぶりにグリーンウルフが食べれて喜んでいたよ。』
『それは良かった。俺たちはこのまま真っすぐ行っても大丈夫ですか?』
『まっすぐなら大丈夫だ。あまり山の方に向かわないでくれ。縄張りだから。』
『分かりました。どうもありがとうございました。』
俺が頭を下げると、ネリーも続いた。
「ありがとうございました。」
『こちらこそ。』
俺たちはコップの蜜を一舐めして、美味しいねと言いながら、まっすぐ進んでいった。
「お父さん、蜂と話せるの凄いね。」
「ああ。特技なんだ。いつかまた戻ってきたらまた少し蜂蜜を分けてもらえるといいな。」
蜜を大事にしまっておく。随分とまっすぐ進んだ。
「ネリー、あと1時間だけど、思いっきり真っ直ぐ走ってみようか。」
「面白そう。やる。」
「よーし、始め。」
ネリーも俺も走り出した。なるべく真っすぐに。木をよけ、ブッシュを飛び越え。感知は使っている。万が一がある。ネリーも速くなったな。抜きつ抜かれつ1時間。ちょうど湖に着いた。こんなとこに湖がね。ネリーは汗をかいてはあはあいっている。明日はここから走って帰る予定だが、何とかなるだろう。二人して湖に飛び込んで汗を流した。
俺は沖から近づいて来る5m位の魔獣に気が付いていた。ネリーはどうかな。今は武器も無いぞ。どう対処するか。あと10m位というところに来た時、ネリーはくるっと後ろを向いて岸に駆けて行った。
「流石だ、ネリー。」
相手の有利な場所での戦いは避ける。ネリーはナイフを持って、岸辺に立つ。俺はまだ水の中なので、俺を狙っている。俺は少しづつ後ずさりしている。来る。そいつは一気に距離を詰めてきた。ワニそっくりだ。行動も。俺は軽くジャンプして岸に戻った。ワニは勢いにのせて、一気に岸まで来て噛みつこうとしたが、俺がまた躱す。その隙にネリーは躍りかかった。皮は硬いかな。やはり体重が軽いネリーでは突き通せない。俺ならすぐだが、これもまた良い練習だ。大きい割に素早いし、水に引き込まれたら終わりだ。ネリーは岸の岩を投げつけたりするが、硬くて速いし尻尾は邪魔だし、足場も悪いしで、思うように戦えない。その内ワニもあきらめた。俺はワニにご苦労さんといって、グリーンウルフを一匹なげてやった。ワニは空中で捉えると、水中に戻っていった。其処で待っていた子供ワニたちが肉に噛みついていた。
「あいつもいい練習相手になったな。」
「うん。難しかった。」
「そうだな。硬いし戦いずらい相手だからな。鍛錬を続ければ大丈夫だ。」と言って蜂蜜のコップを差し出した。ネリーは指に蜜を付けて舐めてにこりとする。俺も舐めて、うんと頷く。
「少し離れたところで野宿をしよう。明日は家に走って帰るぞ。道なき道を20㎞ぐらいあると思う。今日はたっぷり食べて明日に備えよう。」
「お肉。」
今夜はオークの肉にしてみた。ハーブと少しだけ蜜を使った。お互い特大ステーキ2枚づつ。パンとジュースと果物。俺が食後の片付けをしている間に、ネリーは毛布にくるまって寝てしまった。
さて、今夜も分身との勝負だ。1時間ぐらいやっていた。暗い中での戦闘もいい経験だ。何といっても隠形使いながらだから、すぐに消えたように感じる。触手はまだ禁止だ。ネリーに流れ弾が飛んだら自分を許せない。
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