第53話 初めての錬金術
戦闘訓練が終わり、クリーンをかけてから錬金術の本の続きを読んだ。
読んだものは全て記憶できている。錬金術にも種類があり、媒体を使って無から有を発生させるものや、性質変化をさせるもの、性能を魔石に書き込むことで利用できるようにするものや、材料を集めて魔法を使って薬を作る等、細かく言えばもっと広く、細かく分けられるそうだ。魔法との違いがよく分からないが、問題ないだろう。初心者なので魔石に書き込んで性能を付与する魔道具から始めよう。
普通は書き込むにも作法や道具に魔力導体等が必要で、それで電子回路の様に魔法陣を書き込むらしいのだが、結局は魔法陣を魔石に描けばよい。そしてそこに魔力が流れれば性能が発揮されるはず。
先ずはやってみよう。魔獣の魔石があるから試してみる。一番小さな小指の先程の大きさのゴブリンの魔石でいいか。最初に載っていた魔法陣は水。俺は魔石を掴んで、水が出る魔法陣を思い描き、魔力循環を高速にして、この魔石に念写するイメージで集中した。徐々に魔力が流れている感じがするから何かをしているのだろう。1分経った。よし、魔力を通してみるが水は出てこない。もう一度、2分念写。失敗。5分念写。割れた。力の加減が難しい。
「12個目で成功したか?」
魔力を送ると水が出た。驚いた。
うははははは。有難うございます。神様、使徒様、強運様。全ての物に感謝を。
早速もう一つゴブリンの魔石を出した。今度は握って、魔法陣は考えないで、ただ水が出てくるイメージで5分集中。同じぐらいの魔力を使ったと思う。魔力を通したら水が出た。同じような量の水だ。これで、魔法陣の念写でもイメージ自体の念写でも付与できることが判った。これが一般的なことではないだろうと想像はできる。さもなくばこんな本は必要ない。しかし、想像できないことならば、魔法陣を覚えた方が確実で安定した結果が出せるのかもしれない。一度王都の錬金術ギルドで訊いてみよう。
鑑定:水を出す魔法石(下)
魔力を入れ続けたら水が出続けるのか試してみた。これで2時間魔力を流し、水は出続けている。魔力を多くしても出る水の量は変わらない。魔力を止めると水も止まる。魔力を貯蔵をしてくれないようだ。たぶん魔力を与える限り水は出続けるのだろう。これも商業ギルドか冒険者ギルド訊いてみれば確認取れるだろう。
更に検証を重ねた結果。
1.送り込む魔力量を増やしても、水量に変化なし。ただ魔力を無駄にしている?この魔力どこへ行っているのか?魔力を送る量の加減の練習が必要だろうが、必要量は非常に少ないので、基本使えない人の方が少ないだろう。
2.水が出る魔石に、無属性魔法を意識した魔力を送ると出る水の量を基本とすると、水魔法を意識して魔力を送った場合は一割程水量が多い。また、他の魔法(例えば風や火)を意識して魔力を送った場合は一割程水量が少ない。使用する魔力量はぼぼ同じ。これから推察するに、身体にある時点の魔力は無属性で、本人が使用する時に魔法適正を使用して外の世界に干渉する。
適性がある者は体内で魔法陣を起動しているか、もしくは体外に魔法陣を描くことで魔法を発生させている。水が出る魔石にはその魔法陣、もしくは仕組みが焼き付いている為、其処へ魔力を通すと体内で起きていることが発生する。
この時、元々魔力は無属性だから、水属性の魔力へと変換する必要がある。これが体内で起きている基本とみる。水適性の者が送りだす魔力はすでに水属性に変換されているため、魔石で変換する必要が無いため、一割の効率化が起きて、水量が一割ほど増える。火属性の魔力を送った場合、変換に一割の無駄が起きるのだろう、その結果水量が一割ほど減るのだと思う。
3.俺のイメージによって幅広く魔石に念写できるが、無理な物もある。砂糖が出るように念写してみたが失敗した。魔力は流れたから可能だとは思うが20分以上も砂糖ばかり考えることが出来なかった。精神力を鍛えれば何とかなるのか?この世界で見た体感したものでなくては無理なのか。今錬金術のレベルは59。もっと上がれば可能なのか?この辺は、この世界の錬金術師と比べても、ヒントにならないと思っている。全く土台が違うのだから。もし砂糖を作る魔法陣があれば、簡単かもしれない。
4.魔石の種類で量が変わる。ゴブリンの魔石とオークの魔石を比べてみると、オークの魔石の方が魔力を消費するがその分多くの水が出る。蛇口の大きさが違う感じだ。これだと、確かにドラゴンの魔石を利用して武器を作れば強力な物ができるだろう。ドラゴンをまだ見たことは無いが。
5.出すものにより、魔力消費量が増える。ゴブリンの魔石に普通の水ではなく、冷たい水を出すように念写した。水量は同じだが、魔力の消費量が上がった。単純な物より、複雑な物を出す方が魔力が必要。当たり前と言えば当たり前か。この当たり前と思ってしまうところがすでに概念に毒されているのだろう。魔法の世界もやはり科学ということか。本当に自由な世界なら、簡単だろうが、複雑だろうが、無から有を生み出しても、何の対価も無くていいではないか。錬金術は等価交換という『鋼の錬金術師』の言葉が頭から離れないから、俺の自由が制限されている。いつか自由を爆発させれば、『鋼の錬金術師』を越えることが出来るかもしれない。それが賢者の石なのか?しかし、それは自由だがカオスの世界だよな。しかし、自由を持っているのは俺だけらしいから(?)、俺が己の分をわきまえていれば、そこまでのカオスにはならないだろう。スミエルさんの期待がどの辺にあるか分からないが…。元に戻るが、これでお湯がだせる。
今はこんな感じだが、面白かったのでこれからもいろいろ実験していく。本にもまだまだ試していない魔法陣がある。異世界ネットスーパーを作れれば…いい加減自分でもしつこいと思う。郷に入っては郷に従え。過ぎたるは猶及ばざるが如し。不便は発明の母。
来ました天啓が。
もし、体感した物であれば良いのなら、蜜はどうだろう。早速試した。やりました。20分程ひたすら蜜の見た感じ、甘さ、のど越しなどをイメージし続けた。たまに蜂蜜も舐めました。ネリーに蜂蜜が減ったことを謝るべきか?
出てくる量はとても少ないが、飴を舐めると考えれば。この発見は大きい。カップヌードルカリー味をいつかまた食べられるかもしれない。友達にシーフードヌードルが一番旨いと聞いていたが、食べたことが無いので想像すらできない。この世界でカリーをいつか作ればいいのだ。全く同じでなくても大成功間違いなし。飯テロもラノベの王道だ。
一寸待て。ゴブリンの魔石だから、少ないけどオークの魔石ならば多く出てくるはず。早速試した。結果は想像通り。ただ、30分かかった。何故?水のときはゴブリンの魔石でもオークの魔石でも変わらなかったのに。逆に小さなゴブリンの魔石に念写する方が大変でしょう?ICの世界ではそうだよ。これは逆だな。大きな出力が必要ならば、大きなIOが必要だからそのために多くの魔力を使って念写するために時間がかかる?それならもっと多く魔力を送り込めば短縮できるのか?もう一回試したが、念写のときの魔力量を増やせないので、短縮もできない。何と言っても今作れる念写魔石は全てランクが(下)だ。たぶん錬金術のレベルに関係があるのだろう。60を越えれば何か違いが生まれるかもしれない。
最後に、今のうちはいいけど実験するには大量の魔石がいる。これが錬金術師が少ない理由かも。これもどこかで読んだ気がする。試しに魔石の初期化を試してみた。魔力はかなり使ったけど、一瞬で初期化できた。
今持っている魔石は、
水が出るゴブリンの魔石(下)(2)製作時間:5分
冷たい水が出るゴブリンの魔石(下)(1)製作時間:5分
水が出るオークの魔石(下)(1)製作時間:5分
蜂蜜が出るゴブリンの魔石(下)(1)製作時間:20分
蜂蜜が出るオークの魔石(下)(1)製作時間:30分
製作時間は大体だから、誤差はある。錬金術のレベルを上げるため、コツコツ練習。これに尽きる。
あと、ネリーが魔力を使えるようにしてあげたい。そうすれば蜂蜜が出るゴブリンの魔石を「この練習頑張ったで賞」であげれるのに…獣人の国、ダンガルへ行ってみるか。ヒントがあるかもしれないし。
そうこうしているうちに夜が明けた。
感知では、より強そうな魔獣が多く感じられる。こちらに来る様子はないが、警戒はしているかもしれない。千里眼も練習中でやっと8m位先がぼんやり見える程度。かなり難しい。
朝ご飯は何にしようかと考えて米があることを思い出した。いろいろあって忘れていた。籾殻はついたままだから、脱穀しないと。イメージは叩いて籾殻を吹っ飛ばすだが、俺には吸収と収納がある。籾殻を何かに使えるって動画で見た気が。ビタミンBが豊富だとか?畑にまいてみるか。残しておこう。収納。糠も収納。これで糠漬けも作れる。
ここではライスなので、ライスを洗い鍋に水と入れ、お粥にする。ある程度ライスが煮えたら、干し肉、野菜適当、塩を入れてコトコト煮て後は放っておく。昆布があったので、細かく切って入れた。そう言えば茸もあったので、椎茸っぽいシッタケーも入れた。ちなみに昆布の旨味はグルタミン酸とアスパラギン酸という2つのアミノ酸だと『和食の旨み』サイトに載っていた。
このあと少し触手の練習をした。暫く使ってなかったが何も問題は無い。レベルが上がったから更に早く正確になった。触手を地中で移動させることもかなり早くなったから、攻撃につかえるか、試してみるべきだろう。ネリーが起きたな、帰ろう。
「お早う。」
「お早う。」
鍋を収納にしまって、朝の鍛錬だ。
「今朝は軽くストレッチや瞑想、準備運動だけにしよう。この後走って家まで帰るから。競争だぞ。どのコースで帰ってもいいけど、蜂、ホワイトファービーの縄張りは避けるように。」
「うん。」
俺たちはそれぞれ軽く運動して、組み手を少ししてから、朝飯にした。
「いい匂い。お父さん、これ何?」
「これはお粥と言って、お父さんの故郷ではよく食べられていた食べ物で、いろいろ具材を煮た中にライスを入れたものだよ。具材の入ってないお粥もある。」とよそって渡した。
「熱いから、気をつけろ。」
「いただきます。」
「はい、召し上がれ。いただきます。」
うん、初めて作ったがうまくできた。
「美味しい、これ。ほかほかするし、気持ちいい。」
「よしよし。しみじみ旨い。」俺は米の人だったんだな。
ネリーは凄い勢いで食べ進んでく。見ているだけで満足だ。娘を飢えさせないことがこんなにうれしく、ホッとできることだとは思ってもみなかった。転生させてくれた神々よ、感謝します。この気持ちを味合わせてくれたことを…いつか俺ができるお礼をします。
「ネリーはお粥が好きなんだな。」
「うん。大好き。美味しい物はみんな好き。お父さんに会うまで美味しい物食べてなかった気がする。」
「そうか。それを聞くだけでも嬉しいぞ。俺もネリーと会えてとても幸せだ。」ネリーの頭を撫でる。くすぐったそうにじっとしている。
「さて、片づけたら家まで競争だ。」俺はクリーンをかけ、焚火の跡もクリーンで無くした。
「うん。」
「じゃあ、出発。」
二人で飛び出していった。前方にはあまり魔獣はいない。心配ないな。俺は感知を止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます