第51話 ネリーは狩り好き
午後には平原に出た。なんだこうや言ってもまだ森の端から3㎞位しか入り込んでいないのだ。そしてこの森は広大だ。魔獣が減ったかどうか分かる訳ないか。平原には、大きなイノシシ3匹がいた。完全にこちらを見ている。鑑定するとストーンボア。外皮が硬いイノシシの一種らしい。レベルは20。ネリーには少し厳しいだろうが、経験しないといけない。勝てない相手にはどうするか。
「ネリー、どう思う?」
「戦いたい。」
「それは正しい判断だと思うか?」
「今は練習だから、挑戦したい。お父さんがいなかったら逃げる。」
「3匹とも相手にするのか?」
「私には罠のスキルが無いけど、環境的にあの真ん中の岩を利用したい。」
「そうか。見守っているから挑戦してみろ。」
「うん。」
ネリーは小さい。ゆっくりとストーンボアに寄っていき途中から右回りしだした。近づくにつれ、ボアは興奮しだした。全て雄だな。ネリーが岩に着く前に、先頭の一頭が飛びだした。ネリーも徐々に加速してボアが自分の近くに来るタイミングと自分が大岩に近づくタイミングを合わせていた。もうすぐボアがネリーにつっかけそうなときにネリーは大岩の後ろに入った。ボアは急旋回ができないので、ネリーをミスった。その時ネリーは岩の後ろから飛び出して左ももの上の部分にナイフを刺そうとした。如何にも硬そうなボアの皮を見て、切ることは無理と考えたネリーは、刺すことにした。それも比較的に柔らかそうなところを。それでも刺さらなかった。
さて、どうするネリー。残りの2匹もそっちに行ったぞ。俺もそろそろと近づいていった。俺は隠形を起動しているので、気付かれてもいない。俺は岩の上から見ていた。ネリーは上手く岩を使って追い詰められないようにしているが、3匹と一人。大きくて硬いボア。なかなか不利だ。
ネリーは岩から少し離れ2匹のボアに挟まれる位置取りをした。興奮していたボアたちは、さらに興奮して突っかかっていった。ネリーも1匹に向かっていく。寸前で横に躱すと、2匹のボアは正面からぶつかり合って、牙で傷つけあった。完全にネリーを見失った。ネリーは真っすぐ突っ込んできて、尻餅をついていたボアの腹にナイフを刺して、掻っ捌いて逃げた。このボアはもう戦えない。もう一匹には、ネリーは素早く寄っていき、もっていた薬草を団子状にしたものを口の中に放り込んだ。そのまま、最初の一匹に向かっていった。最初の一匹は今はもう戦意が無く、ネリーに背を向けて去ろうとしていたので、俺はネリーを止めた。ネリーは2匹に止めを刺した。
「おめでとう、ネリー。上手くやれたな。」
「一匹逃がしちゃった。」
「いいんだよ。殲滅することが今回の目的ではないから。」
「うん。」
「一匹は解体してみようか。やり方わかる?」
「角うさぎで練習したから、似てると思う。」
「俺もよくわからないから、一匹だけ試しにやってみよう。かなり大きいから、木につるしたら手が届かないな。血抜きだけ先ずやろう。既に首は切ってあるから足首にも切れ目を入れてくれ。」
「できた。」
それを、俺が土魔法で塀を作って、吊り上げて血抜きをする。もう一匹は収納した。
「ネリー、そのナイフはどうだ?大きさとか合ってるか?」
「うん。そう思う。」
「ちょっと貸して。」
俺はナイフを見た。問題は無いが少し解体の前に砥いでおくか。俺は細かい砥石をだして、水をかけて砥ぎ始めた。5分ほどの調整用の研ぎだが、大分切れ味が良くなったので、ネリーに返した。土魔法の塀を解除し、次に作った低い台の上に腹を上にして置いて、クリーンをかけた。俺が支えて、ネリーは皮を剥いで、腹を割き、内臓を取り出し、肉を切り出して終了した。
「よく切れた。」
「ネリーは上手だな。今度教えてくれ。」
「うん。」と嬉しそうに言う。
全て収納して、さらに奥に移動する。この平原での野営もいいが、この先に川があるし、其処もいいだろう。
俺とネリーは周りを警戒しながら進む。俺も感知を止めている。危険だが、この集中力が大事だ。五感向上は使っているので、それでも大体感じている。ネリーは嗅覚向上と野生の感を磨いている。常に負荷をかけ何かを掴む練習を続けている。川のせせらぎが聞こえてきた。
「ネリー、水を飲みに行こう。」
俺たちは川で水を飲み、アポーを食べてから、川沿いを登っていった。何かいるがはっきりわからない。ネリーも鼻をヒクヒクさせて感じているようだ。ネリーも俺も武器を構えた。いきなり攻撃が右側から来た。シュッと俺の首を狙って。ガキッ。
俺は剣で俺の首を守り、右手を見ると緑色の鎌があった。ここで感知を使用し、一匹だと分かったので、安心する。こいつは完全に森に溶け込んでいた強大なカマキリだ。奴は次の一撃を出すために反対側の手を伸ばし始めたが、もう俺には見えているので前方足下に急に前進した。カマキリは俺が突っ込んでくるとは思わなかったようで、鎌が俺の頭の上で空振りする。
フヒュン。
俺は剣を掴んでいない方の手でカマキリを一寸押しバランスを崩すと距離を開けた。もう俺にはあまりメリットの無い相手だから、ネリーに譲ることにしたのだ。
「ネリー、どうする?」
「やってみる。速さ勝負。」
「頑張れ。」
ネリーは一気にスピードを上げて突っ込んでいった。俺はカマキリの弱点も強さも知っているつもりだ。以前読んだ。同じではないがそこまで違わないだろう。カマキリの素早いスウェーと鎌の動きにネリーは集中して戦いを楽しんでいるようだ。
鑑定を掛けると、キラーマンティスとなっている。レベルも30あるし、隠蔽、消音など、暗殺関係スキルが多い。更に早いし。これなら普通の冒険者はレベルが上でも難しいだろう。ネリーはそれでもキラーマンティスの鎌のスピードに対応していて、いい勝負だ。今日で決着付ける必要もないな。いい練習相手になる。このキラーマンティスはまだ若い個体だと思う。もっと経験を積んだ大人のキラーマンティスだとかなり厄介だろう。20分ほどたったので声をかける。
「ネリー、今日は引き分けにして帰ろう。良い練習相手だと思う。」
「わかったー。」
ネリーは大きくバックステップ、こちらに戻ってくると、キラーマンティスに
「ありがとう。また遊ぼう。」とお辞儀をした。少し切られた髪が舞う。
俺は収納からさっき捌いたボアの大きな肉の塊をだし、キラーマンティスの前の倒木の上において、
「ネリーの相手をしてくれてありがとう。またな。」
俺はネリーと手を繋いでその場を後にした。キラーマンティスは追いかけてこないので、納得してくれたのだろう。
「凄かったね、あの蟲。攻撃されるまでどこにいるか分からなかった。」
「俺もだよ。上には上がいるな。どうやったら気が付けるのかな?」
「練習と慣れしかないのかな。お父さんなら気が付くと思ったよ。」
「感知を止めて、感覚だけで察知しようと練習してたから、俺も攻撃されなかったらどこにいるかまでは分からなかったよ。」
「私は匂いに敏感だけど、あのキラーマンティスは匂いがほとんどなかったよ。」
「川で水浴びした後だったりしてな。」
「うん。」
「また遊べるといいな。レベルはあっちが上だけど、いい練習相手だと思うよ。」
「うん。楽しかった。」
夕食にはネリーが倒したボアを焼いて食べた。肉の塊を串に刺して塩を振ってのんびりと焼いてみた。今度肉巻き屋の親父みたいなスパイスを持ち歩くべきだよな。振りかけて焼くだけだ。ネリーを寝かせた。スキルチェックしたいけど、この遠征が終わるまで見ないことにしたので我慢する。自分のは見てもいいが気分がのらない。
魔獣が取り囲んでるね。
ここは森の端から15mぐらい離れている。何がいるのか鑑定しよう。クレイジーエイプ、グリーンウルフ、スモールオーガ、キラーマンティス。同じ個体じゃないよな。ダークスパイダーにラージサラマンダー。まだまだ昆虫系も多いし。俺たちが目当てなのか?試しに殺気を流したらどうなるか。放出した。皆完全にいなくならないが、距離を置いたね。限界までやって、次から相手がいなくなっても困る。
でも少し吸収したいな。レベル的には俺とどっこいのはいないが、面白いスキルを待っているかもしれないし。俺はゆっくりと立ち上がり、万が一の為に分身を残す。ゆっくりと森へ向かって歩きだすと、ざっと逃げてしまった。
その時天啓が閃いた。俺と分身が戦えばいいんじゃないか?これは試す価値あり。俺はネリーにスリープをかけて起きないようにした。俺たちはお互いに核を攻撃しない取り決めをして向かいあって、互いに礼。先ずは剣のみで、攻撃魔法はダメ。身体強化などサポート的な魔法はいい。触手も毒も禁止。体力、対捌き、剣でやろう。
「始め。」
最高速度で飛び込んで頸を狙ったが、あっさり交わされ逆に切り上げられたが、それを見切って足蹴りを放つ。凄まじいスピードの打ち合いだがほとんど音がしない。これを30分程続けた結果、先ず決着はつかないことを理解した。お互いが何をしようとしているか分かるのである。脳というか考えを共有しているから当たり前なのか。我々はそれぞれ独立して考えるし、行動できるが、思考は共有している。オフにすることもできるかもしれないが、一度すると、オンにすることを忘れた時に非常に困る。基本的に我々は一つのスライムなんだ。しかし、練習にならないというわけではない。自分の限界を知ることが出来るし、スピードなどにも慣れる。良いことと悪いことを気付けるだろう。鏡稽古みたいな感じか。これは毎日続けたい。後わざと攻撃をうければ、物理耐性をあげられるはず。昔した練習を思い出す。危険だがHPを限りなく消費するほど攻撃をうければ、何か得られるだろう。その手の鍛錬は安全な所でやろう。今じゃない。分身と集合して元に戻った。ありがとよ。
何か新しいニュースは無いだろうか?と情報を整理する。
ないね。
女将さんの店に客が戻りだしたことと、あの馬鹿どもが反省として町の清掃させられていることと、サシントン領主が国王と塩の売買について相談していることぐらいか。寝れないっていうのもなんだな。寝れるんだよな、寝る必要が無いだけで。目をつむってじっとしていよう。だめだ。魔獣の分布図を見よう。
ウコッコのいるところは辺境の北の方か。ドミル領までは行かないな。エリザベス様の領より北か。塩、鉱山、ダンジョン、ウコッコ、米、魚醬、うどん、パスタ、トマト、ナス、うーん、やっぱり食べ物が多い。それでも、やってみたいことがあって、やれる力があるっていうのは何て嬉しい事だろう。ホームレスの頃には無理と諦めてたもんな。今度はいつも全力でだ。効率ばかり考えるのもやめよう。ネリーもいるんだし、彼女を幸せにしないとな。まだ6歳なんだから。
彼女は何処から来たのか?ラノベ的には、どこかのお姫様だったとか、元魔王だったとか、記憶をなくした神様だとか。いや、きっと普通の獣人だな。そんな大それた話ばかり転がってない。フラグもない。心配ない。
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