第40話 アブデイン 説明
4日後、サシントン領主城の地下牢。
スレイニー司祭とダムディ隊長は牢屋の中で、アブデインと会っていた。呪いは直ぐに解呪され、知った顔なのでそのまま領主と共に尋問してるのだ。
「ここは、サシントン領主城です。貴方は呪われていましたが、今は正常です。解呪しました。貴方はなぜここにいるかご存知ですか?」
「私はマイクロフ聖王国の王都マカロンで捕まり、ここに連れてこられたんですね。あいつに。」
「あいつとは誰ですか?」
「魔導士です。我々をつけ狙っていました。」
「何があって狙われたんですか?」
「この際ですからお詫びもかねて正直に話します。」
「私はスリージー商会の本店店長だったアブデインです。先月スレイニー司祭一行が来られた時に案内役を務めましたが、あの後我が国の上層部は、貴方が危険だ、悪魔に乗っ取られている、切り札になる等々のそれぞれの立場からの理由からスレイニー司祭一行を国内に監禁もしくは殺害する結論に達し、わがスリージー商会は暗殺者ギルドに依頼をしました。他にも近衛騎士隊、教会騎士隊、軍隊、冒険者、そして暗殺者と100人ぐらいが参加した作戦です。誰も失敗を心配しませんでした。ただ不運だったのは、国境の近くの村への道で倒れていた魔導士を邪魔だから殺そうとしたことでした。
魔導士は怒り狂いました。自分はただ道で行き倒れていただけで、何故殺されなくてはいけないのかと。どうやったかは分かりませんが全員が逆に殺され、誰の命令なのかを訊きだしたのでしょう。その日のうちに、暗殺者ギルドは壊滅され、最後に生き残った暗殺者ギルドのギルマスが今話した顛末を想像で補完して依頼の窓口だった私に話してくれました。そして逃げるように薦めてくれましたが、私は居残りました。妻と娘とどこに行けばいいか分からなかったからです。
それ以降、スリージー商会の会長、副会長、私は王宮の中に隠れていました。他にも軍務卿、教皇、副教皇達、主犯格は王宮に隠れていました。私は手紙を出した日、手紙については後で話しますが、スリージー商会の本店に調べ物があったと思ったので王宮を出たら捕まってしまいました。
そして、目を覚ませば此処でした。先ほど言った手紙は王と側近たちが各国に出した手紙で、マイクロフ聖王国がどれだけ素晴らしく先進的な国で、我々が与えた文化、宗教、教育で今日のこの大陸の国々が成り立っているのだから、我々に敵対せずに言うことをきけというような内容のものです。それが、各国の王に送られましたから、ユリーザ大国にも勿論届いているはずです。」
「正気か?全国と戦争をするつもりなのか?」と領主。
「あの方たちはそうならないと信じていますし、なっても勝てると思っています。」
「信じらない。あなたもそう思うのですか?」と司祭。
「私は思いません。私は小さい頃は父について多くの国を渡り歩いて育ったせいか、マイクロフ聖王国の教育が底まで浸透していないからでしょう。ですが、もしあの国で育てば、ある意味狂信者になります。あの国がすることはすべて正しい。他国は全て嘘つきで泥棒だと。私はあの魔導士にも言われました。私の命を握るのは彼ではなく、あなたたちだと。私は死んでもかまいませんが、出来れば私の家族には責任を問わないでください。
スレイニー司祭様、恩を仇で返す様なことをして、本当に申し訳ありませんでした。」
四人は会議室に移動した。
「全て繋がってきたな。その魔導士がカーズで、サシントン領事件を収束させようとしているんでしょう。最初に呪いを受けた者たちが反省して、賠償金を払えばそれて済んだような感じですしね。」とダムディ。
「何故この領に固執するかはわかりかねますが…前回の結論は成り行きでしたか?」と領主。
「気まぐれとかそういう感じでしょう。ただ、前回もそうですが、私たちは命を救われました。警告の手紙をもらい、追っ手を壊滅してくれたのです。感謝しかありません。ただ、今回の目的が分からないですね。どうしたいのか。下手をすればこのままマイクロフ聖王国と世界の戦争です。」と司祭。
「しかし、いくら他国の王が侮辱してきたところで戦争になりますか?」ダムディ。
「今回は可能性があるのではないだろうか。他国が連合すればマイクロフ聖王国に勝つことは簡単です。全員殺してしまえば後腐れなく領土を増やせるわけです。特に我が国は被害者ですから、大義名分はありますよ。」デメトリアス。
「領主様はどう思われますか?最大の被害者ですし。」司祭。
「そうですな。さすがに戦争になると二の足を踏みます。傷つく兵士も出ますし、領地経営も難民やらなんやらで、大変です。将来利益が出るのかもしれませんが、同時に問題も増える気がしますね。とくに、難民の再教育は長い道のりになるでしょう。宗教と教育の二重支配ですから。」
「そうでしょうね。そうなると全滅してくれた方が楽という結論になる訳ですが。」ダムディ。
「はい。」
「ただ、アブデインさんのように話が通じる人もいる。ただ、少ない例外でしょうしね。それを基準に考えるわけにはいかない。私には領民の生活を保障する義務がある。問題は少ないに限ります。」領主。
「よく考えてみると、マイクロフ聖王国の国境はユリーザ大国とネイラード王国しかありません。ネイラード王国は自然主義の国ですから、なかなか戦争にはなりえないのではないですか?」司祭。
「確かに。となるとカーズの狙いは他にあるんでしょう。静観するしかないですね。後は国王陛下の判断です。アブデインさんのお陰で、今まで腑に落ちない点や犯罪が証明されました。王都に送り届けるべきでしょうか?」デメトリアス。
「それこそ、陛下の判断次第です。私はのんびりさしてもらいますよ。」領主。
「では、我々もそろそろ宿に帰りましょう。」司祭。
「我が領への滞在を了承していただきありがとうございました。まだ、何か起こる気がするのです。ですから解呪ができるスレイニー司祭がいてくれると心強いのです。」領主。
「分かっています。ご心配なく。では、失礼します。」
次のステップに進んでもよさそうだが、疲れるだろうな。だが、先に師匠の引っ越しだ。もうすぐジョージの町に着くはずだ。
昼前。ジョージの町。
「師匠、お疲れさまでした。ここが友達、ジョージ、が住んでいる町、オタワです。早速町長の家に行って師匠の家の場所を決めましょう。」
「町長、スマイルです。ジョージの友達の。入りますよ。」
「やあ、スマイル君。久しぶり。この方が鍛治氏のカイルさんだね。初めまして、町長のシーガルです。」
「鍛治氏のカイルだ。よろしく頼む。」
「町長、師匠の家はどの辺に建てればいいですか?」
「鍛治に環境的に必要なものって何ですかね?」
「そうだな、やはり槌で打つから、音はする。民家に近すぎない方がいいだろう。」
「なるほど。厩とかも近すぎない方がいいですね。」
「そうだ。他にも水が遠すぎないといいが、無くてもかまわない。井戸まで水を汲みに行けばよからな。」
「するとこの辺りはどうでしょう。小川もありますし、民家から離れているが、離れすぎてもいない。」
「どうですか、師匠。」
「良いな。」
「其処にします。失礼します。」
目標の場所に着いた二人は、
「師匠、家はどんな感じにしますか?大きさとか間取りとか?俺が土魔法で作るので形は四角ですが、住むには問題ないですよ。」
「本当にお前が作るんだな。」
「大体でいいので教えてください。後で訂正できますから。ジョージの家も俺が建て替えたんですよ。まず整地だけしてしまいます。はい。」
地面が平らに均され、草などがなくなる。
「凄いな。良し描くぞ。」
キッチン、食堂、寝室、トイレ、作業部屋。
「師匠、風呂はどうしますか?師匠は水魔法と火魔法を使えますか?」
「火魔法は少し使えるが水魔法はできないな。」
「分かりました。今は風呂場は作りますが、風呂は設置しません。では、やります。」
先ずは土台、トイレ、風呂場、キッチンの排水、排水システムを土台にに入れ、更にその上に箱型の家を乗せる。中は言われたような配置で、大きさもほぼ同じ、高さは3m。壁は音を防ぐために厚めに作った。土魔法が上手くなってきていると感じる。
「師匠どうですか?この家は靴を脱ぐように設計しましたが、構いませんか?」
「家の中で靴を脱ぐのか?」
「そうです。家の外は汚いじゃないですか。」
「言われてみればそうだな。」
「作業場ではもちろん靴を履きます。危険ですから。中に入って大きさや扉の位置、窓の位置と大きさなど確認してください。」
「よくできてるな。全ていい感じに感じるから、いいぞ。」
では、これからまず基本的なことから。トイレの設置、内側を高熱硬化でガラス化。後でスライムを入れないとな。キッチンで流しと竈を二つ。作業場で、
「師匠、どこに魔力炉を置きますか?排熱排煙の煙突を繋げないといけませんよね。」
「どれどれ。ここにしよう。煙突はこういう感じで。」
「こうですか?」
「そうだ。」
俺は場所がすべて決定されたので硬化させて、家を固定した。その後、さっさと窓と扉をつけ、最後にスリッパを渡した。
「作業場以外の室内ではこれを履いてください。スリッパです。」
「楽でいい。」
「ジョージ達が来たようです。」
「悪い。遅れた。もう終わったみたいだな。」
「問題ない。師匠も荷物が少なかったから、直ぐだ。ただ、家具がないからベッド、卓などどうしようかと思ってな。」
「スマイル、そういうのはもってきたから、今出すぞ。」
ポンポン家具も置かれ、俺がクリーンの魔法をかけ、引っ越しは終了だ。
「彼が友達のジョージと、妹のジョリー、両親のジョーとジェーンさんです。そして、俺の娘のネリーです。可愛いでしょう。こちらが俺の鍛治の師匠のカイルさんです。ドワーフです。俺が知っているドワーフは師匠だけです。」
「お前結婚してたのか?」
「いえ、未婚の父ですね。まあいいんですよ。ネリーがいれば。では、パーティーしましょうか?」
「うちでやろうぜ。畑も見せたいし。カイルさんに作ってもらいたいものも相談したいし。」
「じゃあ、ちょっと厩に寄って行っていいか。ずっと馬達に会ってなかったから。」
先ずは厩。馬は気楽に草原で寝そべったりしている。リーダーが来た。
「よお、リーダー。出発はまだ先だ。2週間はあると思うが、それ以外に名前を選んでおいてほしいと言ったがどうなった?」
「既に名づけられている奴はそれでもかまわないらしい。俺は自分で選んだ。シルフィードだ。」
「カッコいい名前を付けたな。分かった。シルフィードな。皆にも伝える。それと、ネリーの馬の名前は知ってるか?」
「ウインクス。」
「強そうだ。分かった。」
「皆、この馬は俺の馬で、リーダーでな、名前はシルフィード。こっちの牝馬がネリーの愛馬のウインクスだ。よろしく。」
「シルフィード、それで皆に不満はあるか?」
「ないな。盗賊の仕事をしているときみたいに危険がある訳でもないし、畑仕事ものんびり出しな、のびのびしているよ。贅沢を言えば、牝馬が足りない。オスが圧倒的に多い。さらに俺たちが抜けたらオスの比率が多くなる。増やしたいなら分かるだろう。」
「心得た。またある程度馬が手に入る予定だから、牝馬は融通してもらうよ。何匹必要?」
「ここに牝馬5頭だな。相性が上手くいくとして。」
「そこまでは責任取れないが、最善を尽くそう。じゃーな、シルフィードとウインクス。」
「またな、大将。」
ジョージの家。竈で俺は魚を焼いている。ジェーンさん、ジョリー、ネリーは料理のお手伝い。ジョーとジョージと師匠は風呂に入った後、師匠の酒を飲みながら、この村に何が必要かを話し合っている。
焼けた。魚は一人一匹にした。前回大盛況で皆平気で一匹ぐら食べそうだったから。机の上にはスープやパンもあった。大分豊かになってきている。
皆での食事は美味しい。
師匠は皆と仲良くなったし、やることも決まったようだ。男が飲んでいる間に女性たちも風呂を済ませた。今は俺とネリーが入っている。
「畑もうまくいって、食べ物もあまり心配しなくてよくなって、良かったなー。」
「うん。ネリーもいろいろ勉強してるよ。」
「そうか、えらいぞ。ちょっとづつしていくといつか凄いことが出来るようになっているからな。」
「うん…また出かける?」
「明日からまた出る。また1週間。そしたら、新しく手に入れた土地を見せるよ。そこに住むかどうかわからないけど、畑を作ろうかと思っているんだ。」
「ネリーも手伝うよ。」
「ありがとう、ネリー。それと、ウインクスに乗る練習をしておいてくれないか?次の旅にはウインクスとシルフィードに乗っていくことになると思うから。」
「うん。分かった。」
風呂から出て、ドライで乾かして、俺たちの家に向かった。師匠は今日は客間に止まるんだと。ネリーを寝かせた後、俺は彼女を幸せにしているんだろうかと考える。奴隷よりましなことは確かだと思うが。
早朝、俺は畑を見て回った。上手くいっているようだ。ジャーモも大分育った。後二月ぐらいか。あと2年もたてばこの町は豊かになるだろう。俺は、出発した。
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