第15話 ジョージ 毒状態

ジョージは町だと言っていたが、これは村だろう。人口60人の町、オタワだ。俺はジョージの地図に沿ってやってきたが、3度ほど間違えた。ジョージの家を覗くと、両親とジョージとジョリーの4人暮らしで、裕福には見えなかった。最低ではないが悪いがパッとしない。かつてホームレスだった俺が言うんだからそれなりだ。こっちの世界だからな。夕飯の内容もチェックしたが、薄いスープと控えめな野菜とパン。何故魔獣が出るのに肉が無いのか?俺はこっそりこの町を調べた。問題一はスレイニー司祭みたいな人がいない。『神は正しい行いをした者を導く』これを地で行く神官がいない。この町は小さいので神官しかいないが、同じ宗教なんだから、階級で思想を変えるな。此処の神官、悪い人間ではないと思うが、他人に良いこと、正しいことをしようと考えていない。昔の俺そのものだ。怠惰。これに尽きる。まあ、いないスレイニー司祭に期待しても仕方が無い。ジョージを利用するだけだ。冒険者ギルドもまた渋い。もっと肉を取ってくるように高価買取すればと思うが、冒険者が育たない土壌なのか?聞いていると、安全第一という若い人が多いように思う。もう面倒だから、ジョージに訊こう。


夜中。

寝ているジョージをつつく。触手をとがらしてまた突く。

「痛!」

「静かにしろ。表に出ろ。」

俺はまだ結界魔法が使えない。

「何。スライムか。」

俺はするすると外に出た。ジョージが追ってくる。

「久しぶりだな、ジョージ。エキサイティングな人生送ってるか?」

「まあな。スライムも元気そうだな。あれからどうしてた。」

「狩りまくりだ。魔獣も盗賊も。お前は?」

「そうだな。朝から畑手伝って、午後も畑の拡張して。偶に魔獣を倒すのを手伝うぐらいか。」

「嫁さんは?」

「今のところは無し。妹は縁談があるけどあまり乗り気ではない。金はあるが、嫌味な野郎でな。」

「なるほど。お前は、あのままあの街にいれば英雄だった。これは分かるな。下手したらエリザベス様と結婚していたかもしれない。」

「ああ。」

「この暮らしは好きか?」

「両親はいつも感謝してくれるし、妹を悲しませなくて済む。」

「確かに。お前が幸せかどうか、この際どうでもいい。もしお前の両親と妹を今以上に幸せにしようと思ったら、何が必要だ?」

「お前話すの上手になったな。そうだな。俺の家の問題は、基本的にこの町の問題でもある。町の問題を解決すれば家ももっとましになるはずだ。」

「それはなんだ?」

「みんなの生活は一杯一杯だ。税金が高いわけではない。高いが、5公5民だ。どこもこんなもんだろう。エリザベス様に訊いておけばよかった。作物が上手く育たなくなったのは、5年前くらいだ。それで毎年悪くなっている。これが一番大きな問題だろうな。スラムと同じ。喰えなければ暗くなるし、人助けなんてできないよ。」

「確かに。畑以外はどうだ。魔獣の肉である程度まかなえないのか?」

「この町の若い奴は、覇気がないんだよ。俺も帰ってきたばかりの頃はもっと活発だったんだがどうも最近は体がだるい気がする。やる気が起きないんだよ。魔獣も前より少ないしな。」

「早寝早起きしてるか?規則正しく。」

「ああ、することないしな。」

「起きた時疲れが取れてるか?」

「いや、まだ疲れている気がしている。」

「はっきり言ってわからん。いくつか実験しないとな。あと、この町の人間は良い奴か?領主とか。農民をだましてないか?」

「そんな気はしないけどな。昔からの領主だし、やり方は何も変わってないはずだし。」

「了解。先ず気分的なものから解決するぞ。お前の畑はどれだ。」

ジョージは俺を連れて畑を見せてくれた。基本は小麦畑と、少し野菜を作ってる。

「この畑は毎年麦を作ってるのか?」

「そうだ。畑も毎年同じもの作ってる。同じところで。」

「畑は4枚だろう。これ以上向こう側に開墾したらお前の物か?」

「此処より向こうなら開墾した者の土地になる。」

「開墾した年の税金はいくらだ。」

「最初1年はなし。2年目は2公8民。3年目から大抵5公5民になる。」

「この町には共用の馬とか牛はいるか?」

「今はいない。何年か前に死んでから、何故か補充されなくなった。」

「変だと思ったら確認してくれ。明日町長に訊きに行こうぜ。なあジョージ、やっぱりおかしいな。お前以前よりだいぶ鈍間だぞ。まあ、妹の命がかかってたあのころとは違うかもしれないが。まあいいか。ジョージ、直ぐ開墾しないが、杭だけ打っておこうぜ、良さそうな土地を抑えよう。」

ジョージと一緒に夜中に杭をコーン、コーンと打つ。その間にジョージを鑑定してみた。


名前:ジョージ

種族:人

年齢:26

レベル:20

HP:20/40

MP:20/30

状態異常:毒(弱)


今度は毒かよジョージ。何でこうなんだ。明日はジョージの家族を始め全員調べよう。60人なんて、あっという間だ。


未来の畑も鑑定してみた。問題なしだ。では、雨とかではないか。

かなりの面積を抑えたジョージはちょっと嬉しそうだ。ジョージが開拓するんだけど、いいだろう。戻ってきてジョージの家の畑を鑑定する。毒があるようだが、非常に少ない。まあ毎日食べてればある程度影響が出るのかも。


隣の家の畑も鑑定。ほぼ同じ。候補の一つとしておこう。


次は井戸を鑑定。毒がある。これも候補。


家の中。甕の水はもちろん毒あり。


野菜に毒はほぼ無し。


ジョージの部屋を鑑定。別に毒は無しか。蟲の影響も考えたが、ここにはいないな。


「ジョージ、甕の水を捨ててくれ。毒が入っている。井戸にもだ。弱い毒だから死にはしないが、身体が弱くなる。今は他人には言わないで、この家だけ他の水を使い、体調が改善するか見たい。お前、今度は状態異常(毒)になってるぞ。ガハハハッ。」

「おい、本当か。信じらんねえ。」

外から空にした甕を持ってきたので、水魔法で満たす。

「俺は少し森を調べてくる。水を飲んでから寝ろよ。体内の毒が出やすくなるかもしれない。おやすみ。」

「おやすみ。」


さてと、他の井戸と畑も一応調べよう。空に浮きながら畑を鑑定。どこもそんなに濃い毒素は無いな。井戸はどれも毒がある。自然現象なのか、地下水脈が汚染されてるのか。地下水脈の汚染だとしたらどこが上流なのか?


森を上から暗視を使って見て、適当に鑑定したが、これと言って毒素が溜まってるようには見えないな。ただこの土地も中途半端に感じる。魔素が薄いのか?


この辺りの他の村の井戸も調べた結果、どの井戸にも少量の毒が発見された。明日は村人を調べよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る