第2話 スライムとは?
どのくらいあれから時間が立ったのか知らないが、目を開けた。
周りを見るというか、首が回らない。だが、目の位置をぐるっと回せる不思議な感覚。周りは森だ。見たことがない植物も多い。自分で自分が見れない。手も足も動かせないというか、無いんだろう、だってスライムだ。不思議な気分だ。
最弱な魔物、スライム。俺は気分的には普通のスライム。良くも悪くもない。移動はスライドしているみたいでゆっくりだが杖ついた爺さんが歩くぐらいのスピードは出るようだ。何か食べないと死ぬのか?
こりゃー一つづつ試していくしかないな。
目は見える。ただ、360度見えている。メインの目はあるようだが、それ以上に目の数が多く、どうやってかその光景を統合して見えるようになっている。便利。匂いは感じる。
触覚もある。
ただ、止めようと思えば匂いも触覚も停止できる。
味覚はどうか?
目の前にある葉を食べると、苦くて青臭い。ただ、味覚も停止できる。触覚も同様だ。さてでは耐性はどうだろう。最弱だから、石にぶつかっても死ぬのか?
さすがにそれはないだろう。生物だし。
試しに目の前の木に体当たりしてみる。ポンとぶつかっても大したことはない。青タンにならないし、痛くないのがうれしい。これ以上はおいおいだな。
この辺りが何処か分からない。スライムなんだから気にすることもないか。
寿命があるかどうかも分からない。今この瞬間を生きるのだ。
ということで、この辺りを調べてみよう。
するする移動する。発見した植物は片っ端から食べてみる。俺に成長促進と異常耐性があるから、何とかなる。もう2,3時間うろついているが全然疲れない。
スライムは疲労しないのか。腹は減ったような減らないような。鈍いな。
何か腐ったような匂いがする。向かってみると、大きなトカゲのようなものが死んで腐っているようだ。
試しに食べてみた。
まあ美味くはないが食べられなくもない。昔ホームレスしてた時に食べてあたったコンビニ弁当よりましだ。そのまま食べ続け、骨もみんな食べた。自分の体積よりでかかったはずだが…華奢な大食い女子を不思議に思ってたが、できるもんだ。
うーん、なんだか急に疲れた。中ったか?
草の下に隠れてじっとする。暫くすると身体が光りだして、少し体が大きくなる。これはレベルアップか?ステイタスとか見たいけどな。
「ステイタスオープン。なんてな。」
目の前には透明な板に俺のステータスが表示されていた。普通のスライムもこんなことできるのか???
名前:タロウ(仮)
種族:スライム(small)
年齢:0
レベル:1
HP:2
MP:2
能力:成長促進、魔力増進、強運、異常耐性、隠形、感知、五感向上、器用、変装、体捌き。
種族能力:吸収、分裂、集合、収納、物理耐性。
特殊能力:自由。
加護:ラレイロ(小)
「すごいなこれ。何でこれでスライム最弱説になるんだ?下手したら最強のスライムだ。早速試すか。昔はめんどくさがりで後悔ばかりしていた。生まれ変わったんだから、地道に努力して、明日を切り開くってな。」
先ずは目をつぶって感知しようとする。2分ほど集中しているとぼんやり周りがわかるようなってきた。輪郭が薄く光って見えるのは全ての物が少しでも魔力を持っているからか。
さらに続けていると、少しづつわかる範囲が広がってきた。今は半径5mぐらいか。暇だから2時間ぐらいやって、半径8m内ならかなり詳細にわかるようなった。これは便利。
魔力を多く持っている物ほど解り易い。鑑定もあれば組み合わせればすごくなりそうだ。毎日出来るだけ多くやろう。敵が来ることが分かれば、逃げるでも戦うでも準備できる。目標は半径100㎞だ。
五感向上はそのもので、五感を引き上げられる。これも2時間ほどやっていると、成長した。最初の時よりも感覚が鋭くなったのが分かる。
器用はたぶん俺の記憶の影響もあって手が生えるのではと思って、手を出そうとするが、触手みたいに小指の先程が伸びるだけで指はまだできない。精進あるのみ。
変装も同じ。伸びたり縮んだりはできるが、変形などはまだ。精進精進。
体捌き、これは俺が昔合気道を習っていたからだろうが、スライムでどう使うか思いもつかない。ラジオ体操から始めるか。
吸収はすでにやったので、分裂。これは感覚的にまだできないと分かる。もっと食べて大きくなればできるようになるだろう。集合は分裂の反対のようでだけど無理。
収納はアイテムボックスみたいな能力で、ラノベで読んだように、物を収納できる。魔力が増えれば、多くしまえるようになるだろう。今のところ限界は感じないが、入っている物も無いから当たり前か。
物理耐性も少しづつ鍛えていきたい。
ラレイロの加護、ありがたや、ありがたや。心配してくれたんだな。いつか恩返ししたいもんだ。
もうすぐ夕方になりそうだ。怖い生物に襲われる前に寝座を探そう。
感知を練習しながら、スルスルと移動して大きな木にある洞を見つけた。感知には何も引っかからないので、そのまま中に入る。うろの中は以前は生物が住んていたようだが今はもういない。ホームレスの頃は外で寝ることは、大変だったが、スライムはいいな。雨も気にならないし。ある程度耐寒耐熱。パラダイス。長い一日だったが、そこまで疲れてない気がする。魔力増加するには使い切った方がいいんだよな。どうすればいいのか?と悩んでいると、スミエル様が現れた。さすが神の使い様だ。
「やあ、スライム生活はどうだい?」
「なかなか快適ですよ。まだ襲われていないし。能力もいろいろあって。スライムが最弱なんて信じられないですよ。」
「うんうん。スライムはこの世界では最弱ではないよ。子供の頃はともかく、育ったら凄い。平均的には人が最弱。スライムにもよるけど以前国を滅ぼしたウルティメイトスライムもいたよ。めったにそこまで育たないけどね。人にも強い人はもちろんいるけど、勇者と呼ばれるものは多くないし、武器がないと弱いしね。虫も弱そうだけど、場所によっては立場は逆転する。ちょうどバランスがとれるようになっているんだよ。」
「なるほど。私が来ることで地球の養素がこちらに分けられたと聞きましたが、何か変化がありましたか?」
「うん。地球の養素は無事にこちらの魔素に変換されて広まったよ。凄い濃度になったので、新たな進化が生まれるかもしれないな。楽しみだ。協力してくれてありがとう。」
「どういたしまして。私も新たな命をもらって、冒険ができる。嬉しいですよ。質問してもいいですか?能力:自由とは何なのでしょう?」
「これはかなり変わった能力で、いろいろな規制に縛られづらい能力と言える。例えば、大体能力のレベルは限界値があると言われている。しかし、君の自由はそのようなリミットを曖昧にする。限界に達しても努力次第でさらに進歩できる。
このように、縛りが薄くなる能力が自由というのだ。努力家にとっては喉から手が出る程欲しい能力だけど、怠け者にはあまり意味がない。かえって怠け者のレベルが伸びすぎて、何もできなくなるかもしれないな。
また、自分で限界を決めてしまう者にも大きな効果が無い。君が努力し続けるなら素晴らしい結果をもたらしてくれるだろう。問題点は自由にしたくなるため、放浪癖があったり、縛ろうとしてくる物に抵抗する傾向がある。だが、これも問題にならないことの方が多い。そこまで強く精神に影響する能力ではないからだ。いろいろ試してごらん。」
「わかりました。他のスライムもステータスオープンとかできるのですか?」
「できるはずだが、理解してないとできないことだからな。他のスライムはそこまでの意思があることはまれだろう。知能もあまり高くなく、どちらかと言えば反射と環境対応で生きているから、自分の状態を自ら努力で変えようとするスライムは稀だろうね。」
「他の種族はどうでしょうか?」
「できるんだが、詳細は分からないようになっている。知り過ぎると良くない場合もあるし、何より見てるこっちが面白くない。」
「え?」
「考えてもみてよ。そんなことが細かくわかったら大抵の生物、特に人は安泰を求めて進化しないよ。下らない差別とかしそうだしね。私は皆に冒険してほしいんだよ。熱血して欲しいんだよ。
人生は冒険だ!
見てる方としてはやはりサプライズが偶にないとやってられないんだよ。タロウなら分かってくれるだろう。エンタメの発達した世界から来たんだし。」
(急に崩れてきたな。その方が接し易いけども。)
「俺はリアリティーショウ嫌いだったんですよ。ずっと見られていると思うと緊張しますよ。それに、地球でも波乱万丈な人生している人はそこまで多くなかったと思うんですが…。」
「いや、タロウも自分が長い人生の中で最後に泥棒になるとは思ってなかったでしょ。適性があったんだな。最初から泥棒では、人生に味が無いよ、見ている方としては。やっぱり人生紆余曲折が面白い、そして人生至る所に青山在りだ。タロウが選ばれてこっちに送られた理由がわかるよ。」
「やはり世界が変わっても人からスライムになっても生き様は似てくるもんなんですかね。」
「どうだろうな。ワクワクするね。」
「話は変わりますが、鑑定能力はどうしたら手に入るでしょうか?」
「君の場合は感知に五感向上があるから、割とすんなり手に入る気がする。ためしにこの葉を鑑定しようとしてみるといい。これは薬草でヒヨリ草と言って体力回復薬に使われる。見て、嗅いで、食べて、触って、五感を使って理解しようとするんだ。そのうち何かが見えてくるだろう。さらに、本などから知識を増やせば、詳細な鑑定ができるようになる。よく五感で感じることだ。先ずはそこから。」
「ありがとうございます。頑張ります。」
「君は面白そうだから、また会いに来るよ。上からでも見れるんだけど、近い方がより臨場感もあって楽しい。またね。」
フットワークの軽い神の使い。ありがたい。
早速ヒヨリ草を五感で調べまくる。20分ほどして、視界に『ヒヨリ草:体力回復薬の材料』と表示された。凄いなこれ。
他の草を取ってきて同じようにする。また20分ほどすると、『ヨイヤマ草:少し毒性のある草。痛み止め、麻酔にも使用できる』凄い。
次々とやっていく。気が付いたらうっすらと明るくなってきている。貫徹、だが疲れてない。スライム万歳。でも少し寝ておこう。今では、暫く見ているだけで、鑑定が作用する。ステイタスにも鑑定:1となっている。
寝よ寝よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます