おっさんスライム

キナーゼ研究部

第1話 死んだ?

俺はもう五十歳を過ぎたおっさんだ。

今は夜の公園で動けなくなっている。

誰もいない。

とても静かだ。

このまま死んでいくんだろうなーと思うが、人生良いことも悪いこともあったはずだが、とんと思い出せない。世の中で言われる悪いことはしてきたんだから、まともに死ねるとは思わなかったが、まあ、最後に自分なりに良いことをしたんだから、この辺で目を瞑ろう…………しかし走馬灯始まらないな…。


まだ死なないの、俺?

結構刺されて痛かったし、だいぶ血が出てたと思うんだけど。

目を開けてみる。公園じゃない、白い部屋。奪衣婆に服とられて地獄行きじゃないのか?

暫くすると中性的なゴージャスな人?が部屋に入ってきた。敢えて言えば、『ベルサイユのばら』に出て来そうな人だ。

「こんにちは、太郎さん。私は神の使いをしているラレイロと言います。」

「こんにちは。俺は死んだと思ったんだが…。」

「はい、あなたは死にました。公園で女性に暴行しようとしていた男を止めた時に刺されてしまい、そのまま亡くなりました。女性は無事助かって警察を連れて戻ってきたのですが、あなたを助けるには間に合わなかったのです。彼女はとても感謝していましたよ。」

「そうですか。彼女が無事なら良かったです。以前親切にしてもらったことがありましたから。で、私はこれから地獄に行くんですか?」

「そこなんです。物は相談ですが、他の世界で転生してみる気はありませんか?」

「俺ですか?私結構悪いこともしてましたし、どうしてまた?」

「確かにあなたは泥棒でしたが、良いこともまた多くしていました。

貧しい人や危ない目にあった人などを結構助けていますので、心の底からの悪人ではない。あなたが最後に助けた女性は、私の上司が以前助けた人で、特別な人です。ですので、めったにない事ですが、あなたを私の同僚の管理する世界への転生をお薦めしたいのです。

その世界は魔法と剣と魔物のいるラノベで言うファンタジーの世界です。

あなたには私の加護を渡しますが、何に生まれ変われるかはダーツによって決まります。あなたが送られるときに同時に地球の養素(星が生きる力)を少々その世界に送ります。この養素はかの地で魔素に変化します。どうにもその世界の進化が遅いので、こちらの養素をカンフル剤として試してみたいらしいのです。

それに地球の生物は遠くないうちに終わるでしょうからもったいないので頂戴って、これが同僚からの依頼です。というわけで、あなたには協力をしていただくのでいろいろな能力を付けて差し上げますが、それもまたダーツで決まるので受け入れて下さい。新しい世界で過ごすのに最低限基礎的な能力例えば、言語能力等は最初から差し上げます。いかがでしょうか?」

「なんて言えばいいのか分からないぐらい驚いてるが、断ったら普通に地獄行きなんだろう?そして、ダーツが流行ってるんだ。」

「そうですね。その場合は、地球で普通に処理されるので、ザ地獄か地獄ダンジョンへ行くと、そういうことになります。今はダーツですが、以前はルーレットでしたが、時間がかかるので変わりました。たまに変わるんですよ。」

「不思議な地獄の名を聞いたけど、地獄はこのさい置いておこう。

転生すると何になるか分からないんだよな?ダーツ次第だっけ?まあ、今までの人生はいろいろあったが、違う世界も面白そうだ。最悪向こうでも死ぬだけだし。昨晩読んだラノベでも”なんでも冒険だ”って言っていた。人生楽しんだもの勝ちというわけで、よろしく頼むよ。」

「承りました。では早速ダーツを投げましょう。特別にダーツは5本あります。どの能力も使い方次第で素晴らしいと思います。では張りきってどうぞ。」

ただのダーツかと思っていたら、的がかなり早く回転しているし、大体書いている字が読めない。神語なのか?ええーい、悩んだって始まらん。

スコン、スコン、スコン、スコン、スコン。

「成長促進、魔力増進、強運、異常耐性、自由。どれもよさそうですね。自由とは能力なのか同僚に訊かないと分からないので、同僚に後であなたに連絡するように伝えておきます。

この能力の他にあなたの生前の特技などからある程度の能力が移植されますし、種族特性も種族が決まればついてきます。質問が無ければ最後に次の世界に渡ってから種族選択ダーツをしてもらい、転生してもらいます。何か質問はおありですか?」

「もう戦って生き抜けって感じの凄い能力だが、異世界ネットスーパー能力も欲しかった。楽できたのに。うん。まあ凄い特技ばかりで嬉しいよ。成長促進なんて、勇者みたいだ。」

「確かに。その代り早死にしますけどね。」

「えっ?」

「一生かかって手に入れる力を凝縮させて手に入れるわけですから。」

「…太く短くか。見方次第だよな。悪くない。」

「その通りです。」

「またラレイロさんに会うことはできるのか?」

「いいえ、これからは私の同僚のスミエルの管轄となります。新人ですから少し心配ですが、大丈夫だと信じたい?」

「信じてあげてくれ。怖すぎる。ではいくよ。お世話になりました。」

「新しい生活に幸あれ。」

俺は足下に開いた穴に吸い込まれた。ヒュウーという音とともに、『カリオストロの城』のルパンのように落ちていく。下を見るがまだまだ真っ暗。怖くはないな。ただかなりのスピードだ。転移するみたいかと思ったが、結構落ちる。落ちながら、神の使いにあの話し方は無いだろうと反省する。次は気をつけよう。

5分程して、明るくなってきた。減速そして無事に着地。此処も白い部屋だが、細長い。足下の矢印が細長い部屋の奥を指しているので、矢印に沿って歩き出す。


つい左側を歩いている。15分ほど歩いたら何か見えてきた。テーブル、椅子、その前にある長い列。

列には人、エルフ、獣人などいろいろ、動物、魔物?虫、魚、植物ととにかくいろいろな生物が並んでいる。俺も列の一番後ろに並ぶ。並ぶのには慣れてるよ。

見ていると先頭ではダーツを投げているようだ。どうやら持っているポイントで投げるダーツの数が違うらしい。壁に説明書きがある。

『皆様の善行ポイントの数により、ダーツの数が決まります。

0点未満、選ぶ権利無し。

0-100点、ダーツ1本。

101-500点、ダーツ2本。

501点以上、ダーツ3本となります。

ダーツを投げて選ばれた種族の中から、次に転生する種族が選ばれます。』

説明書きの隣の鏡を見ると、俺の頭の上には「0」とある。前の大きなバッタの頭の上には1300とある。ということはダーツ3本か。凄いなバッタ。俺は0点なので、1本だ。


順番がバッタに回ってきた。バッタはやはり3本で、ダーツを前足で触ると、とんと押した。すると回転している的に向かって飛んでいき刺さる。後の2本も同様で、バッタは、獣人、魚、植物となり、その中から獣人を選んだ。どの獣人になるかは、生まれ変われるまでわからないらしい。


俺の番。

「おお、0とは珍しい。おや、地球からのお客さんか。ラレイロ君が言っていた。ダーツ1本だけど、心配はいらない。何になっても愉しさはあるし、死んだらまたここでダーツを投げればいい。記憶は消去されるけど体に染みついた能力は結構持ち越される。ただ、悪いことをするとそうとは限らない。善行ポイントがマイナスならダーツがないので、強制的に反省させるシステムに送られる。だから、あまり悪いことはしないように…君の場合は特別に記憶を残しておくよ。」いい笑顔だ。

「自分の能力の自由について聞きたかったが、時間ありますか?」

「今は忙しいので、時間ができたら君に会いに行くよ。」と言って俺の頭に触る。

「よし予定に入れたよ。では、ダーツをどうぞ。」

スコン。

「こうきましたか。君はスライムになるよ。きっと楽しいよ。君の特技も生かせそうだしね。ではまたね。」


俺は急に眠くなった。

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