「なろう系」は「Web小説という環境」の覇者

 前回のエピソードでは、Web小説、横書きとスマホの画面がどのように小説を変えるかまでは話していませんでした。


 でも、今まで考察してきたことを組み合わせて考えてみると、「なろう系」というのが、実によく、驚くくらいにこの「Web小説」という環境に適しているのです。


 それはまず、「テンプレ」と呼ばれるものから構成され、参入障壁のないWeb小説において、誰でも簡単に世界を作ることがあげられます。


 そうなったら次は、文体、ストーリー、構成ですが、これも従来の小説の書き方をしなくてもいいのです。というかむしろ、真面目にそういうものに取り組むほど、読みにくくなります。


 伏線が多かったり、文章に凝ると、読者はWeb小説の媒体の性質によって、記憶しなくてはいけないことが多くなり、それが難しいWeb小説では、かえってストレスが増します。

 

 そして、その方向に進めると、作者の力量を適切に評価するシステムの存在しないWeb小説では、読者が不安になり、離れる理由になります。


 Web媒体の性質上、文字数を少なくし、空白、改行をしないといけないので、その話の中で読者を惹きつける必要が生じ、話の展開はどんどん早くなります。従来のように、ゆったりとした描写、丁寧な導入なんてすると、もう目も当てられない結果になるでしょう。


 そんなことをすれば、読者はますます不安になり、退屈し、去っていきます。


 こうして……おめでとうございます。あなたの書いた渾身の一作は、その独自性が強い故に、第一話を読まれただけでほとんどの人が去っていきました。あなたが頑張って考えた構成、ラストも読まれることはありません。


 あなたの作品は、埋もれました。

 

 あなたの作品はまさに、独特な、小説らしい小説(それまでの紙の本で適応的だった表現をした)故に、Web小説では誰にも読まれないのです。


 そして、かわりに、変わり映えのしない、「簡単創作キット」を使った作品ばかりが読まれ、称賛されます。ランキングにはそのような作品で埋め尽くされ、そのありふれた作品には星がたくさんつき、あなたの作品はゼロです。


 でもそれは何も、あなたの作品が何の価値もないというわけでありません。おそらく、あなたの作品は「Web小説」ではないのです。あなたの作品は、「Web小説」の覇者ではない。

 ただそれがわかっただけなのです。


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