なぜ能力を「貰う」のか?
ではなぜ、そのような誰かの作った、世界観を借りてくるのでしょう。
本来、ファンタジー小説において、魅力的な世界観というのは、もっとも大事な要素だったはずです。その世界の理、住人、魔法、歴史、そういうものが、ファンタジー小説を読む際の重要な要素でした。
ですが、それは読者がそのような「ファンタジー小説」を求めた場合です。それは異世界転生ものを求めている層とは大きく違います。
そして、作者の側も、トールキンのように、魅力的な世界を作る、ということを楽しんだりもしません。
では、そのような作者や読者が何を求めているかというと、これは人によるのかもしれませんが、私は、現実で吐き出せない自分の気持ちや、感情を表してくれること、だと思います。
異世界転生ものに関連する「テンプレ」の物語を好むというのは、シンプルに物語を、ストレスなく楽しみたいという欲求と、自分自身の気持ちを発見するという、従来の小説にもある要素に、Web小説という媒体の持つ特性を組みあわせた結果生まれたのだと、私は考えています。
本来、ファンタジー小説というのは、読者の知らない世界に入っていく疑似経験でした。でも今の異世界転生ものに関連する物語群は、むしろ知らない世界を排除するように成り立っています。
このことにはメリットとデメリットがあり、
メリットは、読者も作者も、物語世界にストレスなく入り込むことができることで、難しい設定を考えるコストや手間を省けます。その結果、自分の理想通り、望み通りの物語展開に持ち込めやすいです。
デメリットは皆同じような作品になってしまうことで、一つ読んだら内容が予想できてしまうこと、物語の終わりを考えないで始めることが非常に多いため、完結しないことなどです。
さて、ここまで書いてきて、改めて考えます。どうして、そのような類型的な、同じような物語が量産されてしまうのでしょう。そして、どうしてそれらがいつまでも飽きられもせずに求められるのでしょうか。
これは複数の理由が絡まり合って生まれている現象だというのは、前に書いた通りです。
その中の一番の理由は、やはり世界観を作り込む必要がないことだと思います。それは「簡単創作キット」として、提供されているのです。
それさえ使えば、どんなに世界観を作る能力がなくても、Web小説の体は保てます。世界の描写、常識なども詳しく書かなくて済みます。
それはほとんど小説など書いたこともない人間が、Webで「小説」という形をとるために、そして誰かに読まれるために何よりも必要なことなのです。
女神がくれる能力は「チートスキル」ではなくて、本当は「Web小説」というパッケージなのです。
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