第3話 辺境伯家はスパルタ?

蛮族幼女改め、レイナ・トラベルタ辺境伯令嬢との話し合いは続いた。

巨人に敗北している世界を繰り返しループしてるという彼女の事情は深く聞く気にはなれなかった。何度もループして敗北し続けてるなんてどこに地雷があるかわかった物じゃないもの。


死を何度も経験してるなんて、精神的なダメージは想像を超えるものだろう。何かの拍子に発狂して私の首がまた飛ぶ事だってあり得そうだと私は思ったのだ。


とりあえず一通り話を聞いた後は私が平和な国から来た事、魔法はないけど科学技術は進んでいる事、貴族は昔はいたけど、ほとんど廃れてるからなんか失礼な事を言っても怒らず教えてねとかそんな事を話した。


概ね過去の勇者とやらもそんな感じだったらしく特に文句も言われなかった。


そして私は気になっていた事を尋ねた。


「それでマドウジンって?」


「ああ、魔動人ですね。巨人に対抗しうる唯一の兵器です。それは……」


コンコン、ノックの音が聞こえる。


「ああ、もうそんな時間……入ってきていいわ!」


レイナがそう言う。


話し合いは数時間に及んでいた。

朝になったのだろう。

外で待機していた使用人が入ってきた。


「お嬢様、既にお目覚めでしたか」


扉を開けて室内に入ってきたのはメイドだった。

彼女は貴族の令嬢だから当然メイドや執事がいるのよね。


「本当にお嬢様なのね、お召し変えっていうのをリアルに見たのは初めてよ」


メイドは私に気づかずにお嬢様の着替えを手伝っている。

首を切られた仕返しがてら、茶々入れて幽霊ムーブをしようと呟いたのに、レイナは普通に返事をしてくる。


「まぁ、そうですよ。疑っておいでで?」


「お嬢様、どうかされましたか?」


当然メイドには不審がられる。


「お父様に力に目覚めたと伝えてちょうだい」


ドヤ顔でそうメイドに伝える幼女。


もう少し話を聞いておくべきだったかしら……どう言う世界観の世界なのかいまだよくわからないわね。


場所を移してこの屋敷の食卓へ……細長い貴族のテーブルで周りは蝋燭台というのかしらで灯がついている。よく見ると蝋燭に見える別の何かだ。蝋が溶けてないし蝋の受け皿もない。


「おはよう、レイナ。力が目覚めたと言うのは本当かい?」


これまたイケメンね。

この父にしてこの幼女なのかしら、30代ぐらいかしらね。


「おはようございます、お父様。はい。力に目覚めました。魔法と知識と友を得ました」


友と言う時私を見て言ったわね。


「確かに力に目覚めたようだね。デュアル、いやトリプルかもしれない。素晴らしいものだ。どんな力だ。力には責任が伴う。食べながら話をよく聞かせておくれ、レイナ」


デュアルにトリプル? 力は複合というのはある話なのかしら。なんだか一気にヒーロー物みたいになってきたわね……何なのこの世界。


もちろん私は海外ドラマが好きなオタクだったのでヒーロー物にも一家言ある。


とりあえず様子見ね。

ちなみに食事は白い食パンに黄色いスープだった。コーンスープに香りは似てるわね。


切り分けられたパンをさらにナイフとフォークで切ってスープにつけて食べていた。


「魔法に、ドッペルゲンガーのような喋る霊体か……魔法は私の血だろうが、霊体はお前の母の血だろうな。お前の母は広く死者の声を聞けた。その力で良く辺境伯家だけでなくこの私を導いてくれたのだ」


どうやら力っていうのは遺伝するのかしら?

それともそう思ってるだけかもしれないけど、遺伝子なにそれおいしいのってレベルだろうしなぁ。


「その話は大地に山ができるほど聞きましたよ。お父様、力の使い方を学べばその霊体のお方をお父様にも見れるようにできそうです」


大地に山って……多分耳タコみたいな使い方ね……こっちの慣用句かしらね。


「それはすごい。それで、お前が聞けるのはその個人だけなのだな?」


「はい……申し訳ありません。母のように立派な力とは言えないかもしれません」


「いや、責めてるのではない安心したのだ。力には責任が伴う。お前の母はその責任に壊されてしまったのだから……お前が気に病む必要はない」


あらま、まぁ死者の声が聞こえるなんて病むわよね。やっぱりこの世界ハードね。


「それとこの地の方ではないようですが高貴な女性のようでいて……それに出身はニホンという国だそうで、彼女は楽しく会話してくださいました。お父様はその国、ニホンをご存知ですか? 霊体のお方に今はどうなっているか教えて差し上げたいのです」


首を切られたのが楽しい会話なのかしらね?


私は苦笑した。

そんな私を見た彼女は笑った。


まったく大した蛮族幼女ね。


「ニホン……だと、なんと! それは、勇者の……いや待て、話ができるのか?」


「はい? 何かご存知なのですか?」


「いや、お前の母は声を聞くだけだったのだ。なるほど、興味深い。お前の出立はすぐ行うことにしよう。そのお方の国のことは私が調べておくよ。お前は聡く強い子だ。辺境伯家を担う立派な女性になれるよう励むのだぞ」


出立? 良いお父様って感じがするけど


「ありがとうございます、お父様。はい、もちろんです。精一杯学んできますよ。お父様」


そう言って親子の会話はすぐに終わった。

貴族って忙しいのかしらね。


5歳児幼女の目はよく見れば私が見た事がないほど冷め切った目をしていた。私の話をした事以外はきっと彼女にとっては何度も繰り返したやりとりなのだろう。



「トラベルタ辺境伯家は代々、力の目覚めた後継にはすぐにでも領地経営を任せるのです。任せられるのは辺境伯としては大したことのない領地ですけれどね」


部屋に戻りまたお着替え、メイドさんのいる中でレイナは私にそう言う。


「力の目覚めねぇ?」


「あぁ、力の目覚めは、大体5歳ぐらいで起こります。個人差はありますけれど……領地についた後司祭に確認をされることになるでしょう」


教えてくれるならどんどん聞いていく。


「そもそも、その力って?」


「具体的な事はわかりません。神からの祝福だというものも、血の繋がりによって受け継がれると言うものもいます。ドラゴンのようにブレスを吐き空を飛べる者もいれば、心を読んだりする者や、指先に火を灯す程度の者もいます」


「あぁそういうのヒーロー物のお決まりよね、とりあえず、わかったわ。そうだ。アレよ、出立ってこれから領地まで行ってその経営をするって事?」


「ヒーロー物? 後で教えてください。その通りです。大人の手伝い程度のものですが、大鷲も使わず馬車で領地に向かい実地で学びます」


「5歳児からやるのね。スパルタ教育なのかしら……大鷲って?」


「スパルタってなんですか? 今度は私の番です。ヒーローとかスパルタについて教えてください」


屋敷を出るまで質問に答えることになった。

今後もレイナとはお互いの世界について話すことが普通になっていくのだ。


屋敷を出ると私は衝撃を受けた。


屋敷の外には領地に向かう馬車と……屋敷の見た目は灰色の煉瓦造りの立派な建物だった(ちなみにガラス窓はなく木の枠組と小さな窓扉がある感じだった)のだけれどそれはどうでもいい。


「超能力の次はロボットですか……ここってなんかの男性向けゲームの世界だったりするのしら」


屋敷の前にはフルプレートメイルを着込んだ騎士のような大型人型ロボットが立っていたのだ。

多分5〜6メートルぐらいだから前世のアニメで有名どころだった18メートルみたいなロボットよりは小さいけれど……そんなものが歩いていた! 

どう見ても人型ロボットだ!

あと人の乗った大型の鷲のような生物がそのロボットの周りを飛んでいた。


「あれ、なによ!」


「あぁ、あれが魔動人ですよ」


朝言っていた、この世界で巨人に唯一対抗しうる兵器ね……。

多分現代戦車の方が絶対強いわよね、とは厄介オタクの思考が頭をよぎったが口には出さなかった。


人型ロボット、浪漫の塊じゃないの。


「まさに巨人ね……」


「巨人はあれの3倍の大きさですよ。あれは巨人の子供ぐらいの大きさです……」


あら、ということは18メートルぐらいの巨人ね……それは子供と大人の差があるでしょうね。

まぁ負けるわよねと私はこの世界についてまた一つ詳しくなったのだった。


でも人型ロボットなんて浪漫の塊があるなんて娯楽も大したことなさそうなんて思ってごめんなさい。

ひとまず、魔法だけではなく超能力に人型ロボット……まぁこの世界も捨てたものじゃないかもとオタクの私は少しそう思えたのだった。

















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