第1話 憑依転生したようです
私の名前は残念ながら思い出せない。
思い出せることといえば女でオタクだったこと……それも巨大ロボットとかSF物の海外ドラマとかが好きな少しは珍しいと言えるかなーって程度のオタクだった。
令和の時代に生きるどこにでもいそうな女。
それが私だった。
うん、過去形だ。
SNSのおかげで同好の者たちと楽しくオタク生を過ごしていたが、ある日横断歩道でトラックに轢かれてあっさり死んだと思う。
そしてどうやら憑依転生したようだ。
5歳の女の子、高級そうなカーテンの付いたベッド(こういうのなんて言ったかしら……天蓋?)で眠る女の子に憑依したのだ。
女の子は金髪で西洋の顔つき……ネットで北欧の美少女なんて言われていた人の幼少期に似ていた。
北欧系でお人形さんのような可愛さね。
私はその女の子を白色の……ノベルゲームで見るような人型の、それもどうやらこの女の子サイズの霊体となって見ていた。
どうやらこの女の子の姿にも変身できることや物や壁に触れない事、それに部屋の外で待機してる使用人なんかにはなんの反応もされなかったことやこの子からそう離れられないということは把握したので、私はこの子に取り憑いた霊体とやらかと判断した。
普通なら取り乱して、は?と連呼してそうな状況なのにすぐに不思議と私は冷静に周囲を見回して、色々試して、それだけは理解した。
神様的な何者かにそうさせられたのかもしれないし異世界では自然なものなのかもしれない。霊体としては呼吸をするのと同じ感じで自然なことなのかも。
いや、まだ異世界と決まったわけじゃないけどね。
前世の記憶を持って幽霊みたいになってることを考えるに異世界なのかなと思う。
まぁ私は前世で伊達にオタク生を送ってはいない。
私はSFものの他にも超能力とかファンタジーは好きだったし、ネット小説の転生ものにも一家言ある厄介なオタクだった。
こういう状況になることは前世から考えることもあった。
だからなのか比較的冷静にこのわからないけどわかってしまう不思議なもろもろのことを受け入れてあぁそうなんだと思うことにした。
普通は白い世界で神様的な存在から状況説明があるものでは? 手抜きですか神様。これは駄女神とか邪神モノかしら……
とか
この子、どこぞの悪役令嬢かしら。綺麗な感じだし、部屋を見ても高級な雰囲気、いじめられてはいなさそうね。というか幼女よね。スヤスヤ寝てて可愛いわね。
なんて……そう私はのんきに考えていた。
結構余裕があった。
一度死んで夢うつつなのか、はたまた神様的な何かに精神を弄られたのかもしれない。
さらに、そのまま憑依転生について考え始めた。
憑依転生っていうのは主人格に取り憑く転生ね、前世の転生ものでは転生したらその肉体の人格はどうなるんだ問題というものがあって……初めから赤子で生まれてたらともかく、途中で前世の記憶を取り戻したりしたときに、人格はどうなるのか、元の人格が可哀想じゃないか、ぽっと出の転生者死すべし慈悲はないなんて過激な思想があったのよね。
それが解消されているのが憑依転生もの。元人格は乗っ取らずに共存するようなものね。
これはこれで寄生虫みたいなものよね……とこれまた前世の過激な思想が頭をよぎる。
寝ていた幼女が目を覚ます。
怖い夢でも見たのか、先程までスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた子供相応の顔だったのに泣き腫らしていて一気に老け込んだような……なんだか顔つきが変わっていた。
眉間のシワが凄いし、漫画だったら画風が変わった感じね。
「また、ここか……また負けたのか。くそっ!どうしてよ!」
ぽこっと布団に振り上げた拳を下ろす幼女。
うーん、なんだか可愛いけど不穏な発言ね……。
「何者!?」
ようやく私に気付いたようだ。
「あら、私の姿が見えるのね? 名前は思い出せないけど日本人で女性よ。好きなものはアニメと海外ドラマ。その影響で巨大ロボットと宇宙船、あとそれ繋がりで海上艦とかも好きになったわね。ミリタリーもいいものだとは思うけど戦車と戦闘機なんかはあまり好きになれなかったわ。家族はいないわ。トラックに轢かれて死んだと思ったらここにいて、多分憑依転生というやつね。えーと、だからこれからよろしくね。私もあなたのことを知りたいわ」
私の口から出るわ出るわ。
オタクだから距離感がわからないのだ。
前世は伊達にオタク生を送っていないわよ。
自己紹介は自分の好きなものから入るし、聞いてる人のことは考えない早口で、冷静になってまともなことを言おうとして家族がいないなんて反応に困ることを言うし、もっと言い方ってものがあるんだろうけど私にはそれはわからなかった。
目の前の幼女はしばらく放心した後、右手を光らせて言う。
「不具合が起き始めたのかしら……珍しい魔物ね。ドッペルゲンガー、この体は渡さないわ。消えなさい!」
シュバっと振られた光る右手からは白く光る剣と言っていいものが伸びていてその光剣は私の首を見事に断ち切った。
「アエ」
言葉にならない音を口から出して、私の頭が飛び、視界は暗転した。
一瞬のことで、平和な日本のオタクにすぎない私は全く予想も反応もできなかった。
そして私の目の前には腕を振り抜いた幼女がいた。私は五体満足である。
私復活?
私不死身か?
「この感触、魔物ではない?」
幼女はそう言って首を傾げている。
私はビビり散らかしていた。
やべーよこいつ。
なんの躊躇もなく殺しにきたんだけど……頭と体が離れたんですけど……その上、切った感触でなんか把握してるんですけど……それってつまり切り慣れておられるってことで……
「蛮族幼女!?」
「誰が蛮族で幼女ですか……くそっ、見た目は幼女か」
思わず叫ぶとチベットスナギヅネなみのジト目でそう言われた。
やっぱり寝顔と画風が変わってないかしら?
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