第29話 許さないわけにはいかない
これが、俺の考えた仕返した。
いろいろ溜まっていた俺は、Sランクの肉をその場で見せびらかしながら食うことにしたのだ。
まだ他の連中が戦っている最中にだ!!!
納品もしない。どうせ学長と教官の腹の中に収まるんだ、そんなん許すわけがない。俺らをこんな目に遭わせておいて、許されるわけがない!
エドウィンもいろいろ溜まっていたようで、相談したら即了承したよ。
……と、ヴァルキリーアカデミーの双子が顔を見合わせた後、「棄権しまーす」と宣言してこちらに寄ってきた。
「あン? なんだよ?」
エドウィンが片眉を上げ柄悪く尋ねたが、ものともせずに声を揃えて言ってきた。
「「……ねぇ。私たちって、思いっきり巻き込まれた被害者だよね?」」
「「…………」」
確かに。
ヴァルキリーアカデミーに関しては、完全なとばっちりだ。
エドウィンも察して、黙って俯いた。
「なら、分けてくれてもいいよね?」
「おなかが空いちゃった~」
…………俺は、断れない。
エドウィンをチラッと見たら。
「おう! ガンガン食えよ!」
うん、俺よりも即行でオッケー出してた。
「「やったぁ!」」
というか君たち、男子に話しかけられたんだ?
……と、ここでスノウ様がキレた。
「ずるいー! ずるいずるい!」
地団駄踏んでるぞ。似合いすぎている。
「アイツ、地団駄がすっげーサマになってるな」
ってエドウィンが言うので噴き出しそうになった。
スノウ様とシェーンはさすがだ。シェーンが召喚陣のそばに行き出てきたオークの首を即刎ね、スノウ様はものすごく威力を小さくしスピードをつけた魔法で瞬殺。その早さ、俺らが倒したスピードと変わりがない。つまり彼らは作業ゲーの雑魚狩りも出来るのだ。ヤバいね。
だが、出てくるアイテムはすべて無印。
レアすら一つとしてない。
「だからやめときなさい、って言ったのに……」
と、切ない声でクロース学長が呟いた。
ベリンダ学長は表情を固くして俺たちの暴挙を眺めていたが、
「私も巻き込まれた側だから、彼らに虹色ローションをもらう権利はあるわね。巻き込んだ主犯はそこの三人だもの。じゃあね」
と、高らかに宣言すると俺たちの方へ寄ってくる。
そしてニッコリと微笑んだ。
「私たち、ヴァルキリーアカデミーがこの対戦に参加させられたおかげで、より彼らが出ざるを得なくなった、そうでしょ?」
「…………はい」
俺は頷くと、虹色ローションを差し出す。
「よろしい」
ベリンダ学長も頷いた。
エドウィンが呆れ顔だ。
「お前、弱っ!」
「ならお前が断れ」
途端にベリンダ学長の鋭い視線が飛んできたエドウィンは、ものすごい勢いで首を横に振った。
ベリンダ学長は、そのまま居残り肉を食べ始める。
……まぁ、とばっちりを受けたと言われればその通りで、おまけに怖い。何も言えない。
キャル鑑定士は泣きそうな顔でこちらを見ている。
彼女は、俺らがキレているのがわかっているし、その原因の一端が自分にあることもわかっている。
だからいつものノリでこちらに来て交ざろうとはしない。
そんなキャル鑑定士に追い打ちをかけたのがミーミルアカデミーの二人。
やってられないとばかりに、
「なんだよアレ、ふざけてんの?」
「もう帰ろうよ」
と、言い出し投げ出そうとしたのにキレて怒鳴った。
「ふざっけんな! 元はといえば、アンタたち無印雑魚野郎がうちのSランクをこき使ったからでしょ!? これはアンタたちへの見せしめなのよ! 黙ってSがドロップするまで狩っときなさいよ!」
百年の恋も冷めるような鬼女の形相に二人は怯え、黙って繰り返していた。
そして、スノウ様。
そうとうの負けず嫌いらしい。
ひたすら狩っていたが、出ない。ドロップアイテムが山積みだ。さらには、俺たちの食っている肉がそろそろなくなってきた。
とうとう泣き出したよ。
それを見たシェーンが棄権を宣言。
泣きじゃくるスノウ様を抱き上げ、俺たちのところに連れてきた。
シェーンが、低い声でスノウ様を促す。
「……ほら、言え」
「……ま、負けを認めるから、お肉食べさせてください!」
そんな、鼻水と涙をダラダラ流しながら言われたら、俺たちが悪いみたいじゃないか……。
俺たちが気まずく頷くと、シェーンは手ぬぐいを取り出してスノウ様の涙をふき、鼻をかませた。
「ヤベェ、ジミーばりに面倒見の塊がいるぜ」
と、エドウィンが呟いている。
待て。俺はこんなことしないからな。
「超美味い! 食べたことないぞ!」
笑顔になったスノウ様が肉を頬張っている。
そんなスノウ様を、ヴァルキリーアカデミーの双子がいい子いい子と撫でている。
……この容姿は詐欺だよなー。どう見たって幼女じゃないか。
「……シェーンも食えよ。……お前も大変だな……」
皿を渡して促したら、眉根を寄せてかなり逡巡した後、頷いた。
「…………いただくことにする。スノウは、まぁ……アイツの容姿に助かっているところがあるからいいんだ。アレを俺がやったら引くだろう?」
「というか、この歳じゃキツい」
あれで同い年とか……。それより、あれで俺たちよりも強いとか、詐欺だろ。
イヤミー学長は、俺たちがSランク肉を勝手に食べ始めたことを怒っていたけれど、
「本気であの子たちを敵に回しますか? 彼らはほぼ確定でSランクのアイテムハンターになります。その時、彼らが私怨でミーミルアカデミーおよび関係者の依頼は受け付けない、となったらどう責任を取るつもりですか」
と、ジェイド学長が無表情に伝えたことで黙った。
ソワソワと身体を動かした後、
「……そんなつもりはない。ただ、他の生徒に示しがつかないんじゃないかと心配しているんだ。Sランクの肉を皆の前で食べ始めたら妬まれるだろう? ……それだけだ、他意はない」
と、折れた。
ジェイド学長が冷たくイヤミー学長を見る。
「確かに、こちらも不手際で彼らの体調管理を怠っていました。ゆえに、あの暴挙を許しているんですよ。これ以上溜め込まれると困りますから。……アカデミーとしても、そしてセイバーズ協会としても、アカデミー生が全員同じ待遇、とはいきません。彼らのあのドロップ確率は歴代最高峰です。アウズンブラアカデミーが誇るSランクのセイバーズ候補生が、あれだけドロップアイテムを山積みにしても、一つとして出ていないんですよ? もちろん、貴方のアカデミー生も。たかが二十そこらで三つも四つもSを出す彼らは、異常です」
イヤミー学長は、いまさら反省したらしい。暗く俯き、頷いていた。
そして、もともとの原因であるミーミルアカデミーの二人。なぜか泣き出したんだけど。
いや、鬼女の形相のキャル鑑定士にやりこめられてか。
「謝ってこい!」
と、怒鳴られ、俺たちに泣きながら謝罪した。
俺はエドウィンを見る。
「俺は別にいーよ。やられたのはお前だ」
とバトンタッチされた。
「……次はない。次に俺たちをこき使おうとしたら、ミーミルアカデミー関係者全員の依頼を断る。絶対に俺たちが手に入れたアイテムを入手できないようにしてやる」
先ほどのジェイド学長の言葉に乗っかって宣言した。
シーン、と静まる。
それで青くなったイヤミー学長も俺たちのもとへ来て、「君たちを侮辱するつもりも、こき使う気もなかった、誤解させたことと彼らの所業を深く謝罪する」と、頭を下げてきたので、それで終わりにした。
ミーミルアカデミー一行が去って行き、俺とエドウィンはぽつんと残されたキャル鑑定士を見る。
「――キャルちゃん! いーから来い!」
「……少しだけど残ってますよ。どうぞ食べてください」
俺たちが声をかけたら、泣きながら走ってくる。
「ジミーく━━━━ん!」
抱きついてきた。そんなに肉が食べたかったの?
ちなみに、横で手を広げているエドウィンの立つ瀬がないようなのだが。
「優しい! 優しすぎる! 結婚して!」
「「はぁ!?」」
俺だけじゃなく、エドウィンも仰天して声を上げたら、キャル鑑定士が俺とエドウィンを交互に見た後、笑顔で手をパタパタ振った。
「あっ、そういえばジミー君にはエドウィン君がいたっけ。……えへへゴメンね、Sランク肉を食べられる嬉しさで錯乱しただけ! エドウィン君と末永くお幸せにね!」
……って言われたんですけど。
「「はァ!?」」
よりわけがわからんって!!
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