愚者×無精者のアイテムハンター ～底辺同士が組んで魔物討伐したらＳランクに認定されたんですが～

第30話 それぞれのいいところを

　交流対抗戦が終わり、三校が帰途に就く。

　ミーミルアカデミーの二人は、再度謝ってきた。

「ティック・キャンベルだ。何かったら頼ってほしい」

「僕はタック・グーラート。僕のことも頼っていいから」

　と。最後に言われたが、頼ることはないだろう。

　……まぁ、謝罪の気持ちは伝わったので（脅しが利きすぎたかもしれない）、許すことにした。

　ヴァルキリーアカデミーの二人にも名乗られた。

「私、レミ・ブリュー。覚えておくこと！」

「私、レナ・ブリュー。私のことも覚えておくこと！」

　同じ顔をしているんですけど……。

「区別つかねーから、ブリュー姉妹で覚えとくわ。あるいはレミかレナのどっちか」

　と、エドウィンがバッサリと言い切った。

　二人がむぅ、と膨れたが、

「困ったことが起きたら頼るから、早いとこセイバーズになれ！」

「何かあったら頼るから、卒業したら会いに来い！」

　とか言いだしている。

「おう！　頼ってこい！」

　と気軽に挨拶を返すコミュ強。一応彼女たちは先輩なんだけどね。

　こういうのも交流会ならではなのかな……と思いつつ、握手して別れた。

　最後に、アウズンブラアカデミーの代表、【キャットファイト】の二人だ。

「アイテムハントは負けたが、他では負けないぞ！」

「そのうち追いついてやるぜ」

　と、仲良し二人組がファイティングポーズで言い合っている。君たち、ホント仲、いいよね。

　俺はシェーンと最後の挨拶をした。

「シェーンたちの戦い、すごくためになったよ。…………正直、うらやましかった」

　俺が嫉妬を抑えた声で言うと、シェーンが苦笑した。

「まぁ、最初はうまくいかなくて大変だったけどな……。だが俺は、スノウと組めて良かったと思っている」

　話を聞いたら、二人もチーム解消後、再結成したという。

「……オリエンテーションして間もないとかじゃないのか？」

　シェーンがキョトンとした。

「オリエンテーション？　アウズンブラアカデミーにはそんなものはないぞ。互いの能力と使える魔法を公表し、声を掛け合い、即魔物討伐だ」

　……そういえば、アウズンブラアカデミーの周辺は弱い魔物が皆無とかいう、修羅地帯だったっけ……。

　入学したアカデミー生に比べて卒業生が異常に少ないとかも噂で聞いた。

　その猛者の中でもひときわ強い一年生か……。

　ますます嫉妬しそうだ。

　俺の表情を読んだシェーンが弁解するように、なれ初めを語り始めた。

「最初のバディは、俺がシールドを使いこなしているということで声をかけられたんだが、相手はシールドの特性を知らなかった。何度もシールドに当てて破壊していて、自分の攻撃は当たらず逆にシールドを破壊されたことにより敵の攻撃を受け、危険すぎるからと解消された。スノウもそうだ。彼女は接近戦が苦手だが、爆発魔法が非常に巧く使える。だが、爆発魔法の特性を知らなかったバディが爆発に巻き込まれて怪我をしたんだ。それで、俺と組んだ」

　俺は驚き、エドウィンとじゃれているスノウ様とシェーンを見比べてしまった。

「……そうだったのか」

　互いに、最初は組むには癖のありすぎる魔法を使っていた。だが、嚙み合ったら他者の追随を許さないほどのチームになった、ってことか……。

　シェーンは俺の考えていることがわかったようだ。首を横に振った。

「俺とスノウは、解り合いたかった。バディに怪我を負わせたくなかったんだ。その想いが俺たちを強くしたと思う。組み合わせでも俺たちの使う魔法でもない。相手の呼吸を読む必死さが強さにつながったと、俺は信じている」

　俺は、シェーンの言葉を聞いて殴られたような気持ちになった。

　幼い頃、睨みつけ泣きながら詰る、バディだった子の顔が思い浮かぶ。

　――あぁそうか。俺があの時チーム解消を叫ばれたのは当たり前だった。そんなこと、一度も考えたことがないもんな。そりゃそうだよ。

　俺の反応を見たシェーンが、俺にさらに告げた。

「お前らにはお前らのやり方があるだろう。俺たちの真似をする必要はない。――正直、負けたしな」

　アイテムハントの対抗戦を思い出したのか、シェーンが苦笑と言うには苦すぎる顔で笑った。

「まさか、あんな手でこられるとは思ってなかった。お前らの戦略勝ちだ。――俺は、負ける気はなかった。たとえ百体倒して出なくても、千体倒して出なくても、出るまで続けるつもりだった。スノウもそうだっただろう」

　と、恐ろしいことを語り出した。

「ところが、お前らが戦利品を食い始めた。豪勢に、全部平らげようとした。ヴァルキリーアカデミー生が潔く諦めて参加し始めて、さらに学長までが参加して盛り上がり、スノウが焦っていた。……交じって食べたかったんだろう。なくなりそうになって、くじけて泣いた。それで俺も諦めた。スノウが泣かなけりゃ、俺は出るまで倒すつもりだった」

　……負けず嫌いはコイツの方だったのか。

　だから、スノウ様に謝らせたんだ。くじけたのは棄権を告げたシェーンではなく、食べたくて泣いたスノウ様だったから。

　恐らく、俺が勧めなかったらシェーンは食べる気なんてなかったんだろう。そうとうくやしかったんだろうな。

「しょうがないだろ。アレはそういうもんじゃない。千体倒したって出ないチームは出ないよ」

　というか、普通は出ないらしい。無印が気が遠くなるほどの数を倒して、それでも出ないかもしれないレアドロップアイテムを出すのがアイテムハンターなんだ。

「わかっている。だから、クロース学長の指示通り、もう挑まない。水中でマーマンと戦うよりも勝ち目がないと言われた。努力で身長が伸びたり縮んだりしないのと同じだと」

「確かに」

　俺たち、努力して身長を伸ばしたんじゃないもんな。

「お互い、それぞれの方向で頑張ろう」

　そうシェーンに言われて手を差し出された。

　俺は……躊躇いつつも握り返す。

「……実は、まだ迷い中だ。エドウィンに不満があるわけじゃなく、自分自身に不満だらけで。……だけど、もし卒業してもエドウィンと組んでいたら……その時はお前たちに会いに行くよ」

　もしも父と組んでいたら……。もう一生、誰とも会わないだろう。

　スノウ様とエドウィンは拳を突き合わせて別れの挨拶を交わしていた。

「またな！」

　スノウ様は手を上げてシェーンと歩き去った。

「…………えと、それで、どうしてクロース学長がここに？」

　俺の背後には、クロース学長が仁王立ちしている。

「ジミーちゃん、エドウィンちゃん。私、貴方たちのバックアップをするわ。頼まれたら必ず駆けつけるし、困ったことがあったらすぐ相談して！　解決しちゃうから！」

「「はぁ」」

　みんなそう言うよな。なんでだ？

　――と考えたら、いきなりひざまずかれて懇願された。

「だから、お願いだからスライムのＳアイテム、アウズンブラアカデミーにも譲ってちょうだい！」

　俺とエドウィンは、絶句した。

　スライムは、正直子どもでも倒せる。ゆえに、それこそずーっとスライムを倒し続ければＲ、運が良ければＳも手に入る。

　ゆえに、全く手に入らない希少品ではない、とキャル鑑定士から聞いている。

「めったに出回らない幻の美容液ではあるけれど！」

　とも語られたけど。

　――なので、そこまでほしがる？　ってちょっと思ったのだ。

　俺たちが「なぜ？」という顔をしていたからか、クロース学長が説明をしだした。

「アイテムハンターの依頼で一番多いのが、スライムのレアドロップアイテムよ！　倒すのに命はかけなくていいし、緊急性もないから、常設依頼で出ているの！　そのわりに、価格はいつも高水準なのよ！」

「「はぁ」」

　それは知らなかった。

「無料で譲ってくれとは言わないわ！　とはいえ、リアルマネーは厳禁！　だから、アウズンブラアカデミーに寄付という形にしてもらい、その代わり、アウズンブラアカデミーの学長の名にかけて、貴方たちを全面バックアップするから！　お願い！」

　そこまで言われてしまった。

　俺とエドウィンは顔を見合わせる。

「……どうするよ？　お前の戦利品だ、好きにしていいぜ。肉じゃねぇし」

「学長たちに関してはお前も迷惑を掛けられただろうが。……けど、俺たちをかばってくれたためにヒートアップしたのは確かだから……どうぞ」

　恩は売っておいた方がいいと思い、渡した。

　……と、クロース学長が抱きついてきた！

「何すんですか!?」

「ありがとう！　ジミーちゃん、大好きよ！　結婚して！」

　またプロポーズかよ！

　なんでこう気軽にプロポーズしてくんの!?　流行ってんの!?　あと、男にプロポーズされても嬉しくない！

「うわ、キメェ……」

「待てエドウィン！　助けてくれ！」

　逃げるな！　見捨てないでくれ！