第21話 べ、別にアンタなんか好きじゃないんだからね!
トパーズクラス全員が静まり返っている。そりゃあそうだろう、何言ってんだコイツ? って感じだ。
ユーノも呆気にとられていたが、徐々に言葉を理解していったようで、じわじわと顔を赤くし眉を吊り上げた。
「……兄がなんと言ったのか知りませんが、ひどい中傷ですね。僕が自立してないと?」
「もっかいニーチャンと組ませろってゴネてんだろ。やめろ、お前のバディはハムザに変わったんだよ。お前自身の力で一位をキープしろ」
俺は頭を抱えた。
コイツ、喧嘩売ってるよ!
ユーノは勢いよく立ち上がった。そりゃ怒るよな。
「君が兄に何を吹きこまれたのか知らないが、僕を侮辱するにも程がある! 君こそ、使えない男を僕に押しつけただけだろう!?」
エドウィンが眉根を寄せる。
「ハムザは使えない男じゃねーよ。俺と組みたくねぇ、って言い続けてたから解消したんだ。ハムザが使えねぇってテメーが言い切るのは、テメーの面倒を見ないからだろうが。……だから自立しろ、っつってんだよ。いっくらコイツが面倒見の塊でも、いつまでもニーチャンに頼ってんじゃねぇ」
ユーノは睨みつけつつ、反撃する。
「で? 今は自分の面倒を見てもらって、ランキングが上がりました、って? ……ハッ! やってることは僕と一緒で、だから手放したくないんだろ! お前だって兄を利用しているんじゃないか!」
「しょーがねぇだろ、コイツは誰かの面倒をみんのが趣味で、生きがいなんだからよ。だからお前のことも心配ばーっかしてんだ。俺もちょっとウゼぇなって思ってたし、お前らいいかげん自立しろって説教かましにきたワケだ」
ユーノが啞然として俺を見た。やめろ、勘違いするな。
「違う、俺は面倒見がいい方かもしれないが、それは周りの男と比べてだ。あと、元バディの弟の心配をするのは普通だ。気にしない方がおかしい」
至って普通の仲の良い兄弟という設定でいこう。ユーノがエドウィンに何か仕掛けるんじゃないかと心配して聞き回ってたと知られたら、いろいろまずい。
……と考えたので言ったが、ユーノには見抜かれた。だよな……。
ユーノが俺を嘲るような顔をしながら論う口調で言ってきた。
「……へぇ。兄さんってずいぶん弟想いなんだ? 知らなかったよ」
「あァ? お前、そんだけ尽くされてわかんねーのかよ? 甘えすぎだろ」
即ツッコんだエドウィン。
……端から見るとそうなんだよなぁ。麗しい兄弟愛なんだろうなぁ。
ユーノがイライラとため息をついた。
「オーケー、わかった。もう元のチームに戻してくれとは言わないよ。確かに
そう言って嘲る。
――以前ならこう言うとクラスの大半が追従していたのに、今は誰もが顔を背けている。
その反応に、ユーノはようやく気がついたらしい。
「……ん? なんだよ。反応悪くないか?」
周りを見渡し、皆が顔を背けているのに舌打ちした。
「肝心なところでノリの悪い連中だなぁ。だから中間止まりなんだよ」
「……そういうアンタは兄貴のポイントで上にのし上がったくせに、威張ってんじゃないわよ」
ボソリと誰かが言った。
ユーノが言った子を鋭く睨んだ。
「は? なんか言った? 聴こえなかったんだけど。ハッキリ言いなよ!」
「確かにジミーは荷物持ち
エドウィンが引き継いで言った。
ユーノがまたエドウィンを睨む。
「だから、もういねぇ奴に頼るなっつってんだ。お前一人で気張れよ。……俺は頼らせてもらうけどな!」
親指で自分を指し示しながらエドウィンが明るく言い切った。
エドウィンのあっけらかんとしたセリフに、俺もユーノも啞然とした。
とたんにクラス中が沸く。
「そこはお前も頼らない、ってなんないのかよ」
「お前こそ自立しろ」
と、数人が軽口を叩いた。
「やーなこった! だいたいコイツ、俺に勉強教え込むことをストレス解消にするサドなんだぜ? ちょっとやらかすと教官と一緒になって数時間説教してくる鬼だ。せいぜい頼らせてもらうさ!」
「お前が悪いんだろ。校則違反しようとするな。あと、もうちょい勉強しろ」
俺が悪いみたいに言うな。
「校則全部覚えてんのがおかしいだろ! 真面目女子か!」
「女子じゃなくても覚えてるもんだろ!」
って俺が言ったら女子に反論された。
「待って女子だって校則覚えてないから」
…………。
「……私は真面目な方だけど、全部は覚えてないかな……」
「だってあれ、冊子レベルだったよね?」
口々に言われる。
「…………ユーノは覚えてるはず」
弟を生贄に召喚した。
「は? ここで僕に振る!? ……確かに覚えてるけどね」
ユーノが呆れ顔で言ったけど、明言した。そりゃあ、優等生が嫌がらせするには、校則を全部覚えていないとダメだろうからな。
だから生贄にちょうど良かったんだよ!
「ホーラ! 普通じゃねーか!」
俺がエドウィンに言うと、エドウィンが呆れた。
――いや、クラス全員が呆れていた。
「「「弟のこと、好きすぎるだろ……」」」
「待て。違う、誤解だ。普通だって言いたかっただけだ。……ほら帰るぞ。気が済んだだろ」
俺はエドウィンを引っぱり撤退した。
なんかこう、一部の女子の視線が怖かったのだ。
……そう、キャル鑑定士と同じ雰囲気だったのだ。
翌日、キャル鑑定士に捕まった。
「ジミー君は弟君とエドウィン君、どっちを取るんですかね?」
「はい? どっちも何も、弟とはチーム解消して再結成出来ませんし、エドウィンとはチーム解消できませんよ? 学長からそう言われています」
というか、キャル鑑定士だって、俺たちのチームは滅多にいないSランクのアイテムハンター候補生だ、って言っただろうに。解消できるわけがないだろう。
キャル鑑定士が人差し指を振る。
「チッチッチ。だからこそ燃え上がる三角関係じゃないですか。当時はまだ気付いていなかった弟への愛。ツンデレ弟が想いをちゃんと伝えなかったせいで解消してしまったけれど、本当は想い合っていた。だけど、新しいパートナーとの関係は捨てられない……だって彼もいい子だもの……」
何を言っているのかわからない……。
キャル鑑定士、博識でいろいろためになることを教えてくれるんだけど、たまにスイッチが入って怖い目で俺を見たり、わけのわからない内容をずっとまくしたてたりするんだよなぁ……。
「俺のどーでもいい交友関係はどーでもいいんで、次の依頼内容で出てきそうな、Sランクのドロップアイテムの解説をお願いします」
冷たく言ったら、
「ジミー君、つれない! もしかして照れ屋なの!?」
って言われた。
いや、言ってる意味がわからないので流したいだけです……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます