第22話 アカデミー交流対抗戦とは?
エドウィンが殴り込みに行った日から、なぜか一部の女子から意味深な視線を投げかけられるようになった。
俺は女子とはほぼ会話しない。
いや、女子が話しかけてこない、と言った方が正しい。
接点がないからだ。
ユーノと組んでいた時は気配を殺していて、エドウィンと組んでからは寮の部屋の周りの男連中とはそれなりに仲良くなり、あと絡んできたグレッグ・クワンとは話すようになったが、他の奴とはあまり話さない。
俺は、話しかけてこない限りは自分からいくタイプじゃない。エドウィンはコミュ強だが男友達ばかりだ。
そんなこんなで、共学なのに女子とは縁遠いアカデミー生活なのだが、ここにきて女子にちょいちょい話しかけられる。
……弟ネタで。
「待て、兄弟だから心配するんだ、当たり前だから。アイツだってチーム解消の時は俺のことを心配していたから」
もう、ユーノの言葉をいいように捉えてさらには弁解にまで使って、誤解を解こうとした。
好きすぎる、って……。いや、そう誤解されても構わなかったが、女子はちょっと行き過ぎな方向で考えているらしく、弁解しないといけない、という気がしたのだ。
よく聞かれるのが、キャル鑑定士と同じ質問だ。
キャル鑑定士に返した言葉と同じ回答を繰り返している。不満そうだ。
「そうじゃない」とか言われるが、そうじゃないも何も、それ以外の答えはない。
「よし、実技のシーズンが始まる。楽しみすぎる」
俺が謎の気合いを入れると、エドウィンが胡乱な目で俺を見た。
「……お前、俺に勉強を教えようとしてるときとおんなじ目つきをしてるぜ。怖ぇんだけどよ……」
うるさい。
俺は任務に集中したいんだ。わけのわからない話をされ続けると、聞いてる方のストレスがすごいんだ。
「つか、実技あんのか? 対抗戦があんだろ?」
と、エドウィンが尋ねてきた。
そう、来月に各セイバーズアカデミーの代表が集まり、交流を兼ねた魔物討伐対抗戦を行うということなのだ。
開催場所は参加アカデミーの持ち回りで、今年はうちのアカデミーでやると通知がきていた。
「俺たちは関係ないだろう。ランキング外だし、そもそも代表は三年のトップランクだよ」
何しろ、アカデミーの顔として参加する。あと、対抗戦は中級の魔物をランダムに召喚して倒すらしいのだ。初級の魔物しか倒したことのない一年は、まずもってお呼びじゃない。経験がなさ過ぎる。
ちなみに、対抗戦では、魔物が強過ぎて倒しきれないこともあるし、怪我を負うこともあるらしい。危険な交流だ……。
エーギルアカデミーとしては、Sランクのアイテムハンター候補生を自慢したいだろうが、俺たちはオリエンテーションをこなしたばかりだ。
「下手に強い魔物が出て、俺たちが怪我をしてチーム解消になったら困るだろうから出さないだろ。出るとしても三年生になってからだな」
そう解説すると、エドウィンが張り切った。
「そっか。……なら、依頼を受けられるな。またレア肉出そうぜ!」
俺たちのレア、イコール肉、ってなってるよな。
だけど、俺も肉がいい。
……実はまだ、レスティブボアのレア肉も、オークのSレア肉も持っている。
空間魔法は品質が劣化しないので、ずっと入れっぱなしでも問題ない。
エドウィンと、いつか景気よく祝いをするときが来たら食べよう、と話している。
任務を受けるため、エドウィンと新しい受付室に向かった。
予備日から一般教養日までの間に、俺たち専用の受付室が出来ていた。
持ち込む物がレアアイテムなので、絶対にトラブルがないようにした、ということだったが……教官たちの騒ぐ姿を見せたくないだけでは?
……って思ったが、学長もキャル鑑定士もプロになったら当たり前、と言っていたのでそういうものらしい。
キャル鑑定士は基本、新しい受付室に在中している。俺たちが持ち込むドロップアイテムを即鑑定するためでもあり、鑑定の道具がこの受付室に置いてあるからでもある、ということだった。
「おぉ、いらっしゃ~い」
キャル鑑定士がのんびりした声で出迎えてくれた。
「お茶飲む~? そういえば、植物系魔物でめっちゃ美味しい茶葉を出すのがいるんだよー。依頼票書くからよろしくねー」
緩いなー。任務を受けに来た生徒にお茶を出すなっての。
「あんがとよ。植物系って倒したことねぇな。火炎魔法でイケるか?」
と、なんの疑問も持たずにサラッと受け取るエドウィン。
……まぁいいや。せっかくお茶を淹れてくれたんだから、ありがたくいただこう。
「いけるいける。あとは氷結魔法だねー。風吹魔法はあんまり効かないかなー。土砂魔法はまるで効かないねー。水流魔法はむしろ強化するしー。岩石魔法は当て方によるー」
と、教えてくれる。
座ってのんびりとお茶をすする……。
「いや違くて!」
ツッコんだ。
「俺たち任務を受けに来たんですよ。お茶すすってる場合じゃないですから!」
「え? そうなの? っていうか、任務はダメでしょ、アカデミー交流対抗戦の前期間じゃない。君たちに何かあったら困るでしょ」
俺とエドウィンは顔を見合わせた。
「え? 俺たち参加するんですか?」
「そりゃあもちろん! 君たち、Sランクのアイテムハンター候補生って自覚をもっと持ちなさいよ。アカデミー交流対抗戦は、アカデミー生のお披露目の場でもあるんだからね? セイバーズ協会のお偉いさん方がエーギルアカデミーに来賓で訪れるのに、ここの一番の売りである君たちを参加させないでどーするのよ? お偉いさん方、怒っちゃうわよ」
……そう言われればそうだけど……。
「でも俺たち、つい先日オリエンテーションを終えたばかりですよ?」
「別に俺はやれるけどな!」
とか、よけいなことをエドウィンが付け加えている。
キャル鑑定士は手をヒラヒラ動かしながら言う。
「ガチ対抗戦には出さないわよー。あれって、引きが悪いととんでもない魔物が召喚されるから! アイテムハンターとして出すの! ジェイド君が既に声がけしているわよ、『うち、すごいアイテムハンターになりそうな二人組が出たんですよ、デモンストレーションしますね』ってさ!」
「「デモンストレーション!?」」
何をやらされるんだ……いや、魔物を倒してレアドロップアイテムを出す以外のことはしないだろうが。
「……やっぱり任務を受けたいんですけど……」
「だな! 腕慣らししときたいぜ!」
エドウィンと意見が一致した。
まだ俺たちは結成が浅い。それこそ野営して、しばらく互いの戦い方を頭に入れておきたい。エドウィンは、体で覚えるそうだけど。
キャル鑑定士が俺とエドウィンを見て、ふむ、とうなった。
「うーん、確かに。オリエンテーションを終えたばっか、ってことはつまり、結成ホヤホヤってことだもんねー。うん、私から言っとくから、もうちょい親密になってきなよ」
言い方がアレだが、許可が出た。
というわけで、キャル鑑定士に見繕ってもらって依頼票を出してもらった。
波状攻撃をするキラービー、連携しないと倒せないアウルベア、この二点のレアを狙う任務だ。
「んじゃ、修行してくんぜ!」
「行ってきます」
「エドウィン君ルートに入ったって、女子に言っておくね〜。御達者で〜」
キャル鑑定士が瞳をキラキラさせながら俺たちに手を振った。
ルートってなんだよ?
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