第11話 期待されてダンジョンへ
オリエンテーション最終は、低級ダンジョンだ。
ダンジョンというのは、特殊な迷宮だ。洞窟であったり建物であったりするが、中はダンジョンが産み出す魔物が徘徊していて、たいてい最奥の部屋に、〝ボス〟と呼ばれるその迷宮内で一番強い魔物が棲み着いている。ちなみに、ボスのいる部屋は〝ボス部屋〟と呼ばれている。
任務は既に、アイテムハンターとしてのものに変わっている。
依頼票に書いてある内容は、『ボスのドロップアイテムか、ボス討伐後に出てくる宝箱の中身がレアアイテムであること』が条件だ。
通常のオリエンテーションには、こんな任務はない。
「よっしゃ、アイテムハンターの腕が鳴るぜ!」
と、エドウィンが張り切っている。
低級ダンジョンのボスは、オークだ。敵としては、レスティブボアの方が突撃してくる分、危ない。
オークのドロップアイテムは、肉。普通においしいが、レスティブボアの方が美味かったな。
そしてレアドロップアイテムは、睾丸。……非常に拾いたくない。
宝箱のレアアイテムはわからない。
この低級ダンジョンでは出たことがないらしい。
通常なら低級の体力回復薬が出る。飲むとちょっと元気が出る……気のする炭酸飲料だった。
俺がエドウィンに向き合いながら、
「泊まり込みの申請と、野営の準備をしていくぞ」
と言うと、エドウィンがキョトンとした。
いや、キョトンとするなよ。
「一発で出るかわからないだろ。何度ボス戦を繰り返さないといけないかわからないけど、いちいち安全地帯へ戻ってられない。面倒だから、ボス部屋の前に泊まり込んで、復活したら倒せば効率よく繰り返せる」
エドウィンが顔を輝かせた。
「そうだな! 野営もしてみてぇよな!」
違う、そうじゃない。
オリエンテーションで使われるような低級ダンジョンだから、中はほぼ一本道の一階層、魔物が近寄らない〝安全地帯〟という場所もあるし、そもそも出る魔物は弱くて内部も日帰り出来るレベルの深さだ。
最初のオリエンテーションのときは、ダンジョンのさわりと野営をするのが目的だった。
ユーノは野営を嫌がり俺を残して帰ってしまった、ってのを覚えている。
……そういや、あの二人もオリエンテーション中だよな? 大丈夫なんだろうか。ユーノ、まさか俺の時と同じく帰ったりしていないよな? いやいやまさか、アイツは外ヅラがいいからしないだろう、とチラと思った。
というか、あの二人を全然見かけないんだが、どうしているんだ?
寮は、ユーノたちは最上階の一番奥、遠いが一番広い部屋で、エドウィンと俺は一階の真ん中辺りだ。
かち合わないといえばそうなんだが……食堂でも見かけないし、なんでそんなにすれ違うんだろう。ユーノの性格なら、絶対絡んでくると思ったのに。
ダンジョンに入った。見かけは広い洞窟だ。
ここのダンジョンの魔物は、スライム、ゴブリン、たまにダーティラットになる。非常に弱い。
俺がやる気なさげに石を指で弾いて倒していたら、エドウィンも槍を振るのが面倒になったのか石を投げていた。
「あー、面倒だな……」
「そう思うならアイテムハンターやめるか? お前に向いてないだろ。アイテムを絶対拾わなくちゃならないんだぞ? セイバーズなら依頼票にある魔物を倒せばいいだけだから、最悪道中に倒した雑魚魔物のドロップアイテムは拾わなくていい」
「マジかよ。でもやめねー。お前の言うとおり、これを必要としている連中がいるんだ。なら、だるくってもやるべきだろ」
即答したエドウィンに俺は頷いた。
エドウィンが諦めてくれれば、卒業してからのバディ問題が解決したんだけどな。それでも……そのエドウィンの答えにホッとした自分がいた。
というか、雑魚のレアドロップっているか?
スライムのレアドロップは粘性の液体、ダーティラットのレアドロップは前歯だ。
通常ドロップのスライム核とダーティラットの尻尾よりはまだマシだが、どのみちいらない気がする……。
いや、必要としている者がいるかもしれないんだ。何しろ出にくいらしいんだから。それに、プロのセイバーズがこんな低級の魔物をたくさん狩ることはない。俺たちですら、オリエンテーションのやり直しじゃなけりゃやりたくない。
「ちょっと、手抜きしていいか?」
ダメだ、面倒になりすぎて封印していた裏技を使うことにした。
「あァ? どういう意味だ?」
「魔法で集める」
俺はそう言うと詠唱する。
「賢き風よ、地から出でて巻き、すべてのものを拾い上げよ」
詠唱すると、あちこちに小さな竜巻が出来てドロップアイテムを巻き上げ、最終的に俺の足下で一つになって消えた。
「ざっとこんなもん」
エドウィンが目を剥いている。
「……お前……! 最初ッから使えやゴラァ!」
めちゃくちゃ怒られた。
俄然、楽になった。
隠しておきたかったが、無理だ。特にアイテムハンターになったのなら、多少取りこぼしても大丈夫、とはいかないだろう。それに、きっとプロは使っているに違いない。アカデミーでは習わないようだけど。
俺が詠唱して集めているのを、珍しく真剣な顔をしてじっと見ていたエドウィン。
俺は気になってしまい、エドウィンの様子をうかがった。……エドウィンのプライドを刺激していないよな?
「……なんだよ?」
しびれを切らせて尋ねると、
「次、俺にやらしてくれ」
と、言い出したので驚いた。
「いいけど。……出来るのか?」
魔法は、詠唱すればいいってもんじゃない。相性のいい属性の魔法を使いこなす、センスと経験が必要だ。複数の魔法が使われない所以は、相性の問題と経験だ。
結果、一つの相性のいい属性魔法を極めた方がセイバーズとしては大成するのが通例、俺のようにいくつも使うのは器用貧乏で終わる。俺が使ってるの、そもそもが生活や利便性をあげる魔法だしな!
雑魚を倒すだけ倒した後、俺は一歩引いてエドウィンに任せる。
エドウィンは槍を垂直に持ち、詠唱する。
「巻く風よ、槍に纏い、すべて拾い上げ集積せよ。――オラァッ!」
風を纏った槍を投げた。
地面に突き刺さった槍は、小さな旋風をいくつも発生させてあちこち移動し、ドロップアイテムを巻き上げる。
しばらくしてそれが槍に吸い込まれるように戻ると、槍のそばにドロップアイテムが積み重なっていた。
「どうだオラァ!」
「お前、天才かよ!?」
ドヤ顔のエドウィンに向かって俺は叫んだ。
何度も言うが、魔法は詠唱すればいいってもんじゃない。アカデミーでは同じ詠唱をさせられるが、それは、『教官が見せてくれた手本のとおりにやればうまくいくと信じて唱える』と、成功しやすいからだ。
魔法の遣い手になれば、自身の感覚で「いける」と思った詠唱をすればいいのだが、そこまでいくのはそうとうセンスがある。
――その、センスのある筆頭がバディだった件について。
エドウィンがキョトンとして俺を見た。
「何言ってんだよ? 錯乱したかー?」
「してねーよ! ……お前、俺の魔法を見て真似できるなんて、天才以外の何者でもねーぞ! そんな奴、そうはいない!」
「そもそもお前だって、習ってもいねぇ魔法を使ってんじゃねーかよ。そっちの方がスゲーわ」
まさしく「何言ってんだ」って顔になったエドウィンに向けて俺は首を横に振った。
「アカデミーで習ってないだけだ。……俺の母はセイバーズで、支援魔法が得意だった。それで俺も小さい頃教わった」
というか、今使っている魔法のすべては母から教わった魔法だ。
「はーん……なるほどな。だからか」
エドウィンは納得したように頷き、ニカッと笑った。
「どうりでな! お前のその性格、女子かよって思ってたらお袋似だからか!」
俺は、エドウィンのセリフを聞いて硬直する。
…………そんなこと、言われたことなかった。
でも、もし……そうならば、俺は……。
「……そっか。だからか」
「だからだな! 〝お袋さん〟」
「やめろ」
でも、父親に似ているよりはずっといい。……救われた気分になれる。
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