第10話 閑話
(この後の会話)
「ジミー・モーガンってヤバくね?」
「……つーかアイツ、座学はすげーじゃん。そもそも弟が一位のユーノだろ? 座学の成績だけならジミー・モーガンはダントツトップだし。実技がゼロポイントだっただけで……」
残された皆は何かを察したように顔を見合わせた後、再度ランキング表を見た。
「……なぁ。ユーノの奴、ポイントがずげー下がってないか……?」
「バディのハムザはもっと下がってるぜ。……おい、もしかして……」
「……ジミー・モーガンが言ってたけど、エドウィンは倒してもドロップアイテムを拾ってなかったからワーストだったんだってよ。なら、元バディのハムザが拾って納品してたって事だろ? 自分の手柄にしてさ。じゃあハムザ本来の実力はどうだったんだ、って話じゃねーの?」
「それはユーノのポイントが下がる理由にならねーだろ。それに、ジミーとエドウィンの二人とも順位が躍り上がったんだぜ? ……つまり、ジミーもエドウィンと同じ事をやってた……っつーか、もっと言うならジミーは弟にポイントを全部くれてやってたんじゃねーか? それならエドウィンと組んであの順位に躍り上がる理由になるだろ」
「……そういえばあの二人、最近見なくないか? ユーノとハムザ」
「……俺、こないだ見た。なんかさ……」
(マスタールームにて)
何人もの生徒が詰めかけてきた。
そうなるとわかっていたので、事前説明を教官たちで協議し、出していた。
それぞれ、担当教官が生徒たちに弁明する。
「ジミー・モーガンとエドウィン・フォックスのチームは、セイバーズの中でも特別任務をこなす〝アイテムハンター〟になれる可能性を持つことがわかった。オリエンテーション中だが、すでにその実力を示しているため、特別ポイントを割り振っている。特にジミー・モーガンは優秀だ。一般教養は常に満点だし、模範的な生徒で熱心に勉学に励んでいる。今までそれを加味していなかったが、今回、期待値も籠めてポイントを割り振った」
この説明で納得出来る生徒は皆無だった。
「だいたい、アイテムハンターってなんですか!?」
「いい質問だ! 我々も教官に就いて長いが、生徒からアイテムハンター候補生が輩出されるのは初めてなのだ!」
教官たちが顔を輝かせたので、生徒たちはクールダウンし、ついでに引く。
「〝アイテムハンター〟とは文字通り、ドロップアイテム……その中でもレアドロップアイテムの納品依頼を専門に受けるチームだ。これは、個人の努力ではいかんともしがたい。そして、個人の運でもない。組んだ相手との相性が絡んでくるのだ。
今まで二人がパッとしなかったのは、互いが互いに相性の悪い相手と組んでいたのだろう。ところが! ジミー・モーガンとエドウィン・フォックス、この二人がチームとなった場合、レアドロップアイテムを引き当てる確率が跳ね上がったのだ!
レアドロップアイテムは文字通りレアなため、特別ポイントを割り振っている。君たちももちろんレアドロップアイテムを納品したのなら特別ポイントを割り振るぞ? 残念ながら、彼ら【愚者と無精者】以外ではなかったがな」
シモンズ教官にまくしたてられ、押しかけていた生徒全員が黙った。
「……レアドロップアイテムに特別ポイントが割り振られるなんて知りませんでした」
「それなら、俺たちも狙ったのに……」
と、ボソボソ弁解し始める。
フィッシャー教官がその生徒たちを見た。
「狙って手に入れられるものじゃないからこそ、あのポイントなんだ。……君たちは、オリエンテーションでゴブリンとレスティブボアを倒す任務をこなしただろう?」
生徒全員が頷く。
「彼らはチームを組み直し、現在オリエンテーション中だ。その中で、ゴブリンを五百六十四匹、レスティブボアを八十五頭倒している」
生徒たちは黙っていたが、一人が拗ねたような言葉遣いで言い返す。
「……そのくらいの数、今の私たちのチームなら出来そうですけど」
フィッシャー教官は眉を顰めた。
「当たり前だ。これらは頑張れば成し遂げられる程度の数だ。――だがな、レスティブボア八十五頭倒してレアドロップアイテムを二回引き当てることを、君たちは確約できるのか?」
言い返した生徒が詰まって赤くなる。
「ゴブリン五百六十四匹、本人たちは申告していないが恐らく集落があったのだろう。その数を倒し、三分の一がレアドロップアイテムである中級エーテルストーンだった。さらにはレア中のレアである上級エーテルストーンまであったのだ。君たちも、今までの実技でトータルならそれくらい倒しているだろう? その中に変わったエーテルストーンがあったか? 私は、今まで生徒が納品してきたドロップアイテムでそれを納品したのは彼らが初めてだ、と記憶している」
全員が俯いた。
「たまたま、集落があって、それで……そこにレアドロップアイテムを持つ魔物がいたんじゃないですか?」
一人の女子生徒がまだ喰らいつく。
フィッシャー教官は、彼女を見据え言い放つ。
「そう思うのなら、集落を見つけて全滅させ、レアドロップアイテムを納品したまえ。その
女子生徒はくやしそうに唇を嚙む。
「もし君のチームが〝アイテムハンター〟を目指すのなら、それでもいい。ならば、彼らと同じ依頼内容で渡そう。それで彼らの難易度がわかるだろう。――他にもいるか? アイテムハンターを目指したいのなら、適性はともかく止めはしない。ただ、先ほどシモンズ教官が言ったように、アイテムハンターという職位は個人の努力だけではどうしようもない。レアドロップアイテムを引き当てる『チームの運』が必要になる。そして、現役で活躍しているセイバーズの中でも数えるほどしかいないほどの貴重なチームだ」
「…………」
全員が黙ったままだ。
「他にはない能力をもったチームならば、ポイントが高くなるのは当然だ。……そうだな、もしも君たちがレスティブボアのレアドロップアイテムを納品できたとしたら、彼らに与えたポイントの半分を与えよう」
ざわめいた。
「なぜ半分なんですか!?」
先ほどの女子生徒がまた喰ってかかった。
「あのポイントには、ジミー・モーガンの個人能力の評価も入っている。本来ならあれほどの高ポイントを与えない。……だからこそ、あのチームがアイテムハンターに向いている、と判断して奨めたのだ。私が奨めた。君たちも、アイテムハンターに向いていると私に示してくれたなら、同ポイント与えよう。そして、任務をアイテムハンター向けに変更しよう」
シモンズ教官とサンダーズ教官が力強く頷いた。
全員が考え込む。
ポイントはおいしい。半分でもかなりのポイントだ。
狙うのはアリかもしれない。レスティブボアを八十五頭討伐して出るのなら、チャレンジしてみようか。
レスティブボア自体は、オリエンテーションで討伐する魔物なのでポイントが低い。
本来、泊まりがけで八十五頭討伐するくらいなら、別の日帰りの依頼を受けた方がいいのだ。
それでも、全員が野望に燃えた。
――後日、そもそも八十五頭もレスティブボアが出没せず、もちろんレアドロップなど一切なく、時間の無駄だったと後悔することを知らないまま。
生徒たちが去った後、教官たちは肩を竦める。
「持ってきますかね?」
「ドロップしたら持ってくるでしょう。正直、得体の知れないドロップアイテムを食べるなんて正気の沙汰じゃないって思いますよ」
教官たちが話し合う。
「でも、ドロップすると思いますか?」
「無理でしょうね。そんなに簡単にドロップするなら、もっと市場に出ます」
「奇跡の美味しさでしたからね……。彼らにまた頼みます?」
フィッシャー教官が苦笑した。
「……さすがに私欲が過ぎますから。価値としては、次の任務の方が重要でしょう」
教官全員が顔を引き締め頷いた。
次のオリエンテーションは、低級ダンジョンだ。
だが、アイテムハンター用の特別任務になっている。
それが達成されたなら、彼らは本物だろう。
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