第12話 ガンガンいこうぜ!

 このダンジョン、そもそもがそんなに長い道のりでもない。

 だが今回、ボス部屋の前にベースキャンプを張り、野営する。その場合、野営中に魔物に襲われるリスクを回避するため魔物を退治しまくる必要があり、ダンジョン内をすみずみまで何度も歩き回り、魔物を倒しまくらねばならなかった。いったん出なくなるとしばらく保つからだ。


 ようやく出なくなったのでボス部屋前まで来て、ここでドロップアイテムの確認をした。

「レアドロップ、結構出てるな。というか、知らないドロップアイテムがあるぞ」

 被膜に覆われた粘性の液体と前歯、ちょっと色の違うエーテルストーンの他に、虹色に輝く液体と大きいエーテルストーン、そして、ダーティラットの毛皮。

「いらないだろコレ……」

 そう思うが、使い道は俺たちが考えるわけじゃない。そう言い聞かせて再度しまった。

「ちょっと疲れたな」

「俺はまだまだいけるぜ! でも休んでからボス部屋に挑もうぜ!」

 前半に嘘つけぇ、って思ったが疲れているのでツッコまなかった。


 ボス部屋の前までやってきた。

『ボス部屋』の中は、まさしく部屋で、どこも広いらしい。

 そこに棲んでいる魔物を倒すと、ドロップアイテムの他に〝宝箱〟と言われる箱が現れる。開けると、中にアイテムが入っている。

 それらも、一定時間を過ぎると再び現れるのだ。


 もうひとつ重要なのが、ダンジョンに一定時間留まるとダンジョンに呑まれる。

 通称『安全地帯』は、ダンジョンに呑まれない場所ということだ。

 ただし、安全地帯でなくても、魔道具でどうにかなる。

 魔道具がない場合は、呑まれないよう定期的に移動するか浮遊の魔法を使えば呑まれない。


「ダンジョン用の簡易安全地帯作成魔道具を持ってきた」

「……お前、どっからソレを手に入れてるんだよ?」

 エドウィンが呆れている。……普通は持ってないのか?

「あー……。だから俺の両親、セイバーズだから。これは母の持ち物の予備だよ。もらったんだ」

 母は、もう使えないから。

 俺はふと思いついて苦笑した。

「……確かに俺、母親似かもな。母の荷物はこんなふうに予備がたくさんある。イレギュラーを考えて、いろいろ用意してたんだよ、予備まで」

 エドウィンはますます呆れた顔をした。

「お前ってもしかして、金持ちなのか?」

「どうだろうな? 金じゃなくて物は持ってるけど。少なくとも豪遊できるような金はないよ。お前みたく、外に抜け出して遊ぶ金も無い。あるのは、セイバーズとしてやっていける荷物だけだ」

 母が遺してくれたもの。別に、俺に遺す気はなかっただろうけどな。


 エドウィンと母の話をちょっとしつつ休憩したので、ボスに挑むことにする。

「レアドロップアイテムが出たらどうする?」

「どうもしねぇ。何回かトライしようぜ。オリエンテーションだろ? なら、野営するぞ!」

 エドウィンが明るく言った。

 確かに、オリエンテーションだった。

「じゃ、やれるまでやるか」

「おう! よっしゃ、行くぜ!」

 エドウィンが気合いを入れてボス部屋の扉を開けた。


          *


 まぁ、わかってた。

 瞬殺だよな。

 エドウィンが投げた火炎魔法を纏った槍一撃で死亡。

 出たのは……うわ、キモい。

「……これが例のブツか?」

「だろうな……」

 かなりデカい、テラテラした塊が二つセットで落ちている。

 触りたくないので、そのまま空間魔法で呑み込んだ。

「あとは宝箱か」

「俺が開けるぜ!」

 意気揚々と宝箱を開け……。

「んー? 外れか?」

 瓶が入っていた。どうやら体力回復薬のようだ、が……。

「……一度だけしか見たことないからなぁ。俺も覚えてない」

 こんなだったけ? と二人で首をひねった。

 まぁ、低級ダンジョンの宝箱からレアアイテムが出るかどうかは教官でもわからないらしい。

 もっと上のクラスのダンジョンだと、さまざまなアイテムが出るそうだ。

 ここでは今まで体力回復薬しか出たことがないそうなので、レアアイテムが出なくても仕方が無いとは言われた。

「終わりか。……次は十五分後か?」

「だな。いったん出ようぜ」

 ボス部屋を出た。


 十五分後。

「次は俺が試すよ」

 そう言ってオークに向かって走り、剣で足の腱を一閃。

 よろめいたオークの首筋にまた剣を叩き込み、終了。

「うーん、ちょっと時間がかかるな。こういう、鈍重な大物はエドウィンに倒してもらった方が早いかも」

「おう! 任せとけ!」

 エドウィンは、槍しか使えないと言っていたが、その槍がすごい。無双出来るからな。魔法も、槍に付与するなら全属性魔法がいけるそうだ。まさしく槍特化。

 槍は、大物の方が的が大きいので倒しやすい。このダンジョンに巣くう小さな雑魚魔物は苦手だ。いや、苦手って認めないんだけどな、エドウィンは。でも、途中から俺の真似して石を投げ出したじゃないか、苦手って認めろ。


 話しているうちにドロップアイテムが出た。

 あ、肉か……。通常だ……な……?

「……肉、だよな?」

「たぶんな。俺、拾ってねぇからわかんねぇ」

 俺の方も、ボスはユーノが拾ったからな。

 チラッと見ただけだけど、こんなんだったっけか……? 二種類出たんだけど。

 わからない。俺にしてもエドウィンにしても、前回が前回だったので通常のドロップアイテムがどういうものだったか知らないのだ。

「ま、いーじゃねーか。まだ倒すだろ。夕飯で食いたいしよ」

「そうだな」

 気を取り直し、肉を収納したら宝箱。

 開けてみたら……うん、俺が前に飲んだのはこっちだ。

「たぶん、これが通常のアイテムだ。体力回復薬」

「おー! んじゃ、さっきのはレアか!」

「たぶんな」

 エドウィンが喜んだ。そして、やる気に火がついたらしい。

「夕飯まで、ガンガンやろうぜ!」

 と言いだした。

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