第7話 アイテムハンター
無事、アカデミーに帰ってきた。
受付室でフィッシャー教官を呼んでもらい、ドロップアイテムである牙を納品する。
「ずいぶん頑張ったな……」
フィッシャー教官が呆れた声を出す。確かに、肉のために頑張ったよ。
俺とエドウィンは視線を交わす。
納品はしないが、なんの肉だかを明らかにしたい。次回のために!
「ええと……それで、教官に質問したいことがあります」
俺はそう切り出すと、肉を取り出した。
「なんか、これがドロップしたんですけど、これってなんだかわかりま……」
最後まで言う前に、フィッシャー教官がくわっ! と目を見開いて前のめりで肉を見た。
俺たちは啞然とする。
「教官……?」
訝しげに尋ねると、フィッシャー教官がハッとして身体を起こした。
そして、咳払いする。
「んんっ! ……これは、レスティブボアのレアドロップアイテムだ。これも受け取ろ……」
俺は素早く回収する。
「いえ、結構です。倒した魔物が何か調べたかっただけですから。あとは自分たちで調べます」
フィッシャー教官が啞然としているぞ。あ、エドウィンもだ。なんでだ、お前だってポイントより肉だろう?
「行こうぜエドウィン。こういうのは自分たちで調べないとな。教官も言ってただろ。知らないレアドロップアイテムは自分たちでできる限り調べること、って。じゃないと依頼人にぼったくられる可能性がある、ってさ」
「……言ってたっけか?」
エドウィンは首をひねっていたが、回収するのは賛成らしい。
「ま、いっか! 調べようぜ! 美味かったし!」
と、朗らかに返した。
「お前ら、食べたのか!? そんなうらやまし……いや、ちょっと待て! いいから待て! そこにいろ、いいか動くなよ!」
フィッシャー教官は俺たちを必死に引き止め、奥に引っ込んだ。
しばらくしたら、歓声なのか悲鳴なのかわからない声が聞こえてくる。
俺はエドウィンに耳打ちした。
「エドウィン、この場は俺に任せてくれ。黙って何も言わないでおいてくれるか?」
「いいけど、なんでだよ?」
「……恐らく、今見せた肉は教官に取り上げられるだろう。教官なら当然食べたことがあるだろうし、だからこそ美味さもわかっている。いいか、『レアドロップ』ってことは、めったに手に入らない肉なんだよ。市場価値はそうとう高い。……だから、高値で売りつける」
これは、ユーノから学んだ。アイツはいつも俺や他の奴らから条件を引き出して自分の有利に事を進めてきた。俺も、今が使いどころとわかったので実践してみる。
エドウィンは呆けていたが、サムズアップしてきた。
「よくわかんねぇけど、任せた!」
「任された」
俺は頷く。
しばらくして、フィッシャー教官が戻ってきた。しかも、複数人を引き連れてきたぞ。
「次の依頼票を持ってきた」
「「ハァ?」」
俺とエドウィンは声を揃えて言ってしまった。
呆けている俺たちを見て、教官たちが咳払いする。
自分たちでも無茶振りがわかっているんだろう。
「いや、さすがに無理ですよ。疲れていますから。……って、教官たちだって、俺たちにそんな無理をさせるの、おかしいでしょう?」
「いや大丈夫だ。この任務は納品で、今持っている物だから」
依頼票を見たら『レスティブボアのレアドロップアイテムである肉』となっている。
俺は依頼票をまじまじと見て、教官たちに笑いかけた。
「任務、キャンセルします」
「「「マジかよ!」」」
教官らしくもない声で驚いている。
俺たちの担当じゃない教官が前のめりで説得にかかってきた。あ、この人、魔物の生息地域や特色の授業担当の教官だ。確か、シモンズ教官。
「君たち! この任務は特別にポイントが高いんだ! 絶対に受けた方がいい! 君たちはワーストだったんだろう!?」
俺は勢いに呑まれないよう、一歩下がって言った。
「……ワーストでも気にしない俺たちだからキャンセルしたんですよ……。そもそも、気にしてたらワーストワンツーで組まないでしょ。コイツのバディみたく、別の奴がいいって言いだしてますって」
シモンズ教官はぐっと詰まった。
「……よし! もう少し色を付けよう」
体術担当の……えーと、サンダーズ教官だったかも参戦してきた。
「倍にしよう! 確かにレアドロップアイテムの納品だ、これくらいはするよな、うん」
「いや、いいですって。俺たちポイント気にしないから。肉食います」
「「「待て!!!」」」
奥から教官たちがさらに出てきた。
エドウィンは、「教官のくせに、そんなに肉食いてーのかよ……」と呆れている。
教官たちの勢いにちょっと恐れを抱きつつ、正直もういいかと思って渡そうと思ったけど引くに引けなくなって交渉し……。
翌日、俺とエドウィンはランキング二十位に躍り出たのだった。
グッタリした俺たちが教官に肉を渡し、ヨレヨレになって受付室を去ろうとすると、フィッシャー教官が声をかけてきた。
「お前ら、〝アイテムハンター〟を目指せるぞ。どうだ、考えてみないか?」
俺とエドウィンは、振り返ってフィッシャー教官を見た。
「レアドロップアイテムを手に入れるのは、セイバーズとしての腕だけじゃどうしようもない。そのチームの
俺とエドウィンは顔を見合わせた。
俺は、間違いなく、ない。
だけどエドウィンはどうだろう。コイツ、ドロップアイテムを拾ってなかったからな……。
「俺はないけど、お前どう?」
「ねぇだろ。そんなんあったらアイツが大騒ぎしてるわ」
…………。
そういえばコイツもドロップアイテムをバディに渡していたんだっけな。
教官が俺たちの肩を叩いた。
「セイバーズでも、〝アイテムハンター〟と名付けられるのは特別なチームのみだ。こればっかりはどれだけ強かろうともどうしようもない。強い奴が一万匹敵を倒してもドロップしないこともあるが、アイテムハンターにかかれば十匹倒せばドロップする、なんてことも普通にある話だ。お前らのチームは間違いなくアイテムハンターになれる。だから、これからはアイテムハンターとして推薦できるような任務を出していく。そして、今回のこのポイントは、お前らへの期待値も籠めている。それを理解してくれよ?」
……最後の方は、白熱してポイントを吊り上げた弁解のように聴こえたけど。
俺はふと思いついて、フィッシャー教官に尋ねた。
「……もしかして、ゴブリンでも出ていました?」
教官はバツの悪そうな顔で笑った。
「…………出ていた。ただ、ゴブリンのレアドロップは、さほど価値があるものではないんだ。しょせんは燃料、普通の燃料とちょっとだけ燃費のいい燃料、くらいの違いで、形もほんの少し大きく色が違っている、くらいの違いだな。……まぁ、お前らのレアドロップアイテム、レア中のレアが混じっていたからそれもあってポイントを高く振っていたけどな」
「「レア中のレア」」
エドウィンと声をそろえた。
そういえば……色や大きさがバラバラだな、と思っていたんだ。ひときわ大きいのもあった。
あれがレア中のレアだったのか……。
期待しているぞ、と、再度教官は肩を叩いた。
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