第6話 レアドロップ……なのか?
とりあえず拾っておく。
教官に見せればわかるだろうということで。
それからもレスティブボアをけっこうな数を倒し、合計三つの肉の塊を手に入れた。
レアドロップかな……。でも俺、あんなのがドロップするの初めてなんだよな。ユーノと組んでいたとき、こんなもんじゃないってほど倒したが全部牙だったぞ。
「レアドロップ……なのか? でも、わりにドロップしてるしなぁ」
「レスティブボアに似た違う魔物だったんだろ。今日はもう引き上げようぜ」
確かに、日がずいぶん落ちてきている。
「そうだな」
俺は同意して、エドウィンとベースキャンプに向かった。
ベースキャンプに着くと、自分自身とエドウィンに洗浄魔法をかけ、夕食の用意を始める。
ベースキャンプには鍋もあるが、小さいし毒などが鍋に付着している可能性もあるので自前の鍋を出して調理し始めると、呆れた声でエドウィンが怒鳴った。
「お前……手慣れすぎてるだろ。なんでそんなに出来んだよ!? お前、弟を甘やかすのに慣れ過ぎて、俺のことも流れるように世話してんじゃねーよ!」
ヤバい。いろいろやりすぎてエドウィンを傷つけたか?
引いているエドウィンに俺は内心びくつきながら、なんとか言い返した。
「……甘やかしてるわけじゃない。別に……これは趣味だ!」
そしたら、なぜかエドウィンが納得した。
「そっか、お前の趣味なんか」
「趣味なんだ」
頷き合う俺たち。なんだこれ?
だがエドウィンは納得したらしい。
「んじゃ、よろしくな」
と、寝っ転がった。
……いいけどな。
俺は手早く準備をしてスープを作る。
切って煮るだけだから簡単だ。
遠征用のパンは腹持ちがいいように出来ているが密度がすごいし固い。
確かに噛み応えがあるので満腹感も得られるが、嚙むと口の中の水分を奪われる。俺はそれより美味しく食べたい。
スープに浸して食べるとちょうどいいので、それもあってスープにした。
「ま、こんなもんでいいだろ」
って俺が呟いたら、
「よくねぇ」
って、いつの間にか近寄っていたエドウィンが文句を言ってきた。
「いや、遠征だからこんなもんでいいだろ? 材料もないし」
ユーノもぶつくさ文句を言ってきたけどな。繰り返すけど遠征だから、ふだんの食事と同じ料理を求められても困る。
「肉が食いてぇ。さっきの食おうぜ」
とか、エドウィンが言いだした。
「…………はぁ?」
言ってる意味がわからない。
「いやアレ、ドロップアイテムだろ。納品しなきゃなんないヤツじゃん」
「いーや、俺はちゃーんと依頼票を見たぜ? 納品物は、レスティブボアの牙だ。得体の知れねぇ肉じゃねぇ」
「得体の知れない肉だから嫌がってんだよ!」
俺は、鑑定魔法は使えないんだよ!!
「毒があったらどーすんだ!」
俺が叫んだらサムズアップしてきやがった。
「心配すんな、毒消し草は摘んである。お前がいないとき、生えてたから摘んだ」
なんでそんなとこだけ用意がいいんだコイツは……!
エドウィンは食い下がり、自分で焼いて食べるから出せとまで言ってきたので諦めた。
「……わかったよ! 毒消し草も出しとけ! 一緒に混ぜたら猛毒じゃなきゃなんとかなるだろ!」
と、毒消し草を出させた。
「とりあえず、無難に毒消し草と混ぜて塩胡椒して焼くだけだからな」
取り出した肉をスライスし、毒消し草を揉み込んで塩とスパイスを振った。
鍋を脇にずらし、鉄板を置く。
脂身を削り鉄板にこすりつけ、肉を置いた。
ジューッ! という音と肉の焼ける匂いが充満する。
……ちくしょう、かなり美味そうな匂いだぞ。
気付け用の酒をちょっとだけ垂らしたら、ますますいい匂いになった。
焼けた肉を皿に盛り、涎を垂らしつつ見守っているエドウィンに渡す。
「念のため、よく焼いた。固くても文句は言うなよ?」
「おう!」
元気よく返事して満面の笑みで受け取るエドウィン。
「よっしゃあ! 食うぜ!」
エドウィンが肉に齧り付く。
俺はエドウィンの反応を窺った。
毒味させるようで悪いが、二人で倒れたら助かりようもない。遅効性なら諦めるしかないが、魔物の毒で遅効性はないはず……たぶん。
――と、エドウィンが目を白黒させて固まった。
「エドウィン! 大丈夫か!?」
俺は助けようと構えたが――
「マジでウメぇ! 食ったことねぇくらいに美味いぞコレ!」
呑み込んだエドウィンが叫んだ。
勢いよく食べるエドウィンに、即効性はないと踏んで俺も食べる。
というか、匂いを嗅いでいるときから俺も我慢が出来なくなっていた。
齧りついたら、俺も固まった。
「――美味すぎ」
よく焼いたので固いのだが、それもほどよい弾力で、脂身には甘味さえ感じられる。
豚肉に近いが、こんな美味い豚肉は食ったことがない。
いっさい臭みもなく、ひたすら美味い。
「ジミー頼む! もっと焼いてくれ!」
「任せろ!」
俺たちは、肉の塊をまるまる一つ平らげた。
ほどよく満腹になり、締めのスープとばかりにパンにスープを浸して食べた。
スープにも肉の欠片を足したのでいい出汁が出てる。
「……結局、なんの肉だったんだろうなぁ」
「やっぱ、レアドロップだったんじゃねーか? たまたまフィーバーしたんだろ」
真偽は教官に見せるしかないか……。
だが、納品するには惜しい。
依頼品ではない場合の納品は、ポイント数が低いのだ。
あんなに美味い肉を、たかが点数稼ぎのために(しかも稼げる点数は低いのに)納品したくない。
「見せるだけ見せようぜ。納品しなきゃいいだろ。俺たち、別に点数稼ぎに興味ねーんだしよ。そんでワーストになったっていいだろ」
エドウィンがそう言ったので思わず見てしまった。
「あン? お前、点数稼ぎたいのか?」
俺を訝しげに見るエドウィン。
「違う。……初めて心からお前と組んでよかったって思っただけだ」
「いまさらかよ!?」
憤るエドウィンを見て、俺は……いつぶりだか、本当に心の底から笑った。
翌日。
俺とエドウィンは、火がついたようにレスティブボアを狩った。
粘りに粘り、時間ギリギリまで探し回って狩った。
おかげで、追加でさらに三つ手に入った。
「……くっそー。もうちょい狩りたかったけど、もう出てこねぇな……」
狩りすぎたのか、レスティブボアが警戒してしまったのか、もう二時間くらい探したけど見つからなかった。
普通の遠征ならもう一晩泊まるのだが、オリエンテーションなので一泊で帰らないと任務失敗になる。
「チッ!」
俺は舌打ちしたし、エドウィンも拳を手で叩いている。
「……行くか」
と、もう少し粘るかと思ったエドウィンが引いたので意外に思った。
顔に出ていたのだろう、俺を見て、頭をかいた。
「……でもって、ちょい付き合ってくんねーか?」
と言われ、訝しく思いながらも頷いたら、エドウィンが歩き始めた。
ある、ちょっと開けた場所につく。
「薬草と毒消し草をもうちょい摘んどきたい。もうちょいだけでいい、あんま摘むと全滅しちまうからよ」
俺はさらに意外に思ってエドウィンに尋ねた。
「点数稼ぎはしないんじゃないのか?」
「そんなんじゃねぇ。これは、救護室に持ってく」
「救護室?」
俺が聞き返すと、エドウィンが頷いた。
「救護室の先生は調合も出来んだよ。……傷薬や毒消し薬は先生が作ってんだ。依頼は出してねぇけど、こーゆーの持ってくと助かるんだってよ」
エドウィンがボソボソと話した。
……ドロップアイテムは拾わないのに、そういうのはやるのかよ。
俺はおかしくなって、つい笑いそうになった。
「あンだよ!?」
「いや悪い。そこがわかってるなら、ちゃんとドロップアイテムは拾おうな?」
「だから、心を入れ替えて拾ってんだろうが!」
……あぁ、なんか俺……。
こういう奴がいるのなら、こういう奴がセイバーズをやってくれるのなら、セイバーズって悪くない、そう思えた。
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