第5話 学生生活を楽しもうぜ!

 エドウィンに影響されたと思いたくない。

 ……でも、エドウィンを見ていたら、もう少し肩の力を抜いてもいいかもしれないと思い始めた。

 じゃなけりゃ、ユーノ……いや義母に逆らってエドウィンと組んだ意味がないだろ。

 俺は、卒業したらセイバーズになる。

 そして、父と組む。

 もちろん、セイバーズになるための訓練は怠らないつもりだが、だからといって学生生活を楽しまない、って選択をしなくてもいいって、いまさら気がついた。

 義母は俺に、学生生活を楽しむなんて以ての外だって思っているだろうけどな……。

 前はその義母の気持ちを汲んでおとなしくしていた。

 ずっと俯いて生活していた。

 でも、思ったんだ。

 父だって母だって義母だって、学生の頃は何も知らずに無邪気に楽しんでいたんだろ? なんで俺は楽しんじゃいけない?

 そう考えて、ようやくちょっとだけふっきれた。

 少しだけ、前に進めた。

 エドウィンのおかげで俺に声をかけてくれる奴も出来たし。

 ……そのことは感謝しているよ、エドウィン。

 だけどな。


「お前、ベッドでものを食うな! あと、脱ぎ散らかすな! ゴミはゴミ箱に捨てて、洗濯物は畳め!」

 毎日怒鳴っている俺。

「おー、ワリ」

「悪いと思ってんなら、やれ!!」

 俺はキレながらベッドのシーツを剥ぎ取り、外に食べかすを叩き出し、洗浄魔法をかける。

 前は寮の洗濯場にある魔道具で洗っていたんだが、エドウィンのせいで毎日洗うことになり、面倒なので魔法でやることにした。

 おかげさまで、魔法の上達がすごいね!


「はは。また怒鳴ってんのか。エドウィンの相棒って、どんなにおとなしそうな奴でもそうなんだな」

 隣室のジャン・ロバーツが声をかけてきた。

 おとなしいって思われていたのか、俺。陰キャなだけだけどな……。

 ため息をついて頭を掻いた。

「俺、誰かに怒鳴ったことなんて記憶にないくらいなんだけどな」

 すると、ジャン・ロバーツは目を見開いた。

「マジかよ!? ……あ、でもそうか。弟のユーノは優秀だもんな。怒鳴るような環境にいるわけないか」

 俺は苦笑して頷いた。

「まさか、同い年の男に躾するようなことを言わされるとは思わなかったよ……」

 俺がぼやくと、ジャン・ロバーツが腹を抱えて笑った。

「あァ!? オメーが寮監よかガミガミうるせーからだろーが。細かすぎんだよ! 女子か!」

 エドウィンが割り込んできたよ。

「俺は、常識的なことを言っているだけだ。そんな常識的なことすら出来てないお前がおかしい」

「誰も出来てねーよ!!」

「そんなことねーよ!!」

「「「うるせぇ!!!」」」

 怒鳴り合う俺たちの声に、周囲のドアが開いて一斉に怒鳴られた。

「なんか、怒鳴り合いが前のバディのときより酷くなったよな」

 って言われた。


 怒鳴っているけど、険悪にはならない。

 エドウィンは瞬時に怒鳴り合っていることを忘れるからだ。

 なので、俺ももう溜めることはせずに遠慮なく怒鳴っている。

 周囲はうるさいので勘弁してくれって思っているらしいが……。

 無理なんだ。コレ、ちょっとでも溜めたらたぶん俺、ストレスで爆発する。


 いつものごとくケロッと忘れたエドウィンが気楽な調子で話しかけてきた。

「で、次の任務はコレか」

 依頼票をヒラヒラさせる。

 俺たちはチームを再結成したので、オリエンテーションも最初からやり直しになっている。

 低級魔物の討伐、そして遠征、最後にダンジョンアタック。

 これらをいったんクリアすれば、次からは教官からオリエンテーション中の成績を加味した依頼票が複数提示され、選べるようになると説明を受けた。

 実技である任務はポイント制で、依頼票にある魔物のドロップアイテムを収めて得られるポイント、その他依頼票になくても魔物を討伐してドロップアイテムを納品すれば、多少のポイントを得られる。

 提示された中でポイントが一番高い任務を選ぶという手もあるが、当然難易度も上がる。

 討伐の難易度もあるが、あまり出没しないとか、レアドロップ……魔物によっては極稀に通常のドロップアイテムとは違うアイテムをドロップすることがある、それの納品とかいう縛りのある任務もあるらしいのだ。

 別に、時間内に達成しなくてはならないわけではない。

 遠征やダンジョンアタックは時間内どころか当日中に戻れるかもわからない。だから、提示された依頼票の中で効率の良い任務を何回か受けるのもアリなのだ。


 ただし、任務が達成出来なかったら減点だ。まぁ、セイバーズはチームで責任を負うので、どちらかが達成出来ていればいい。

 例えば、ボスを倒したドロップアイテムを一つだけ納品する任務の場合は、どちらかが一つ納品すればいい。そのポイントは提出した方か按分するかはチームの話し合いによる。ちなみに俺の前チームはすべて弟の総取りだった。


 ……と、最後のよけいな一言以外をガミガミと口うるさくエドウィンに説教して、遠征の準備をする。さすがにエドウィンもきちんと行っていた。――最低限の準備だけどな。

 俺も黙々と準備をしていたら、エドウィンが訝しがる。

「……なんかお前、荷物が多くねぇか?」

「予備だよ。遠征は、何が起きるかわからない。何日間か彷徨うことになろうがどうにかなる程度の準備だ」

 エドウィンが呆れた顔をして俺を見た。

「つーか、持てねぇだろ。重くて動けませんでした、とか言い出すんじゃねーか?」

 俺は荷物をまとめると、詠唱する。

「虚空よ、これを異なる次元に納めよ」

 荷物を空間魔法で亜空間に収納した。

「よし、行くぞ」

 俺が立ち上がったらエドウィンが叫んだ。

「お前、ズリィにも程があんだよ!」


 エドウィンが、

「俺のも収納しろ!」

 とうるさく、

「いやお前、俺とはぐれたらどうするんだよ?」

 って言ったけど、

「ベースキャンプで待ち合わせりゃはぐれたっていいだろうが! どっちみち設営地点に最初は行くはずだろ!」

 と、もっともなことを言われたので収納して、二人で目的地へに向かった。


 ベースキャンプは結界の魔道具と魔物避けの魔道具で柵が作られている安全地帯だ。設備の良いところだと寝起きできる小屋まで建てられている。

 今回はオリエンテーションも兼ねているので、設備の良いベースキャンプのある遠征討伐だった。

 そのベースキャンプは定期的にアカデミーが魔道具のチェックと設備の確認も行っている。

 もちろん、こんな至れり尽くせりのベースキャンプが必ず遠征先にあるとは限らない。というか、ない。

 まず設営地点を決めてそこに向かい、ベースキャンプを作らなくてはならない遠征が普通だろう。

 イレギュラーで、ものすごく強い魔物にベースキャンプを破壊されていたとか、管理人が点検し忘れて魔物に侵入されたとか、アカデミー生じゃないセイバーズが荒らして帰った後とかで、ベースキャンプが壊されている可能性だってある。だから念のため、結界の魔道具と魔物避けの香料とテントを持ってきていた。


 ベースキャンプに到着し、まずは結界の魔道具と魔物避けの魔道具、宿泊するテントを確認した。

 ちなみにエドウィンは「偵察だ!」と叫んで周辺の魔物を狩りに行ってしまった。

「はぁ……。まぁいいけど。魔道具よし、テントよし」

 さんざん言ったから、今回はドロップアイテムを拾ってくるだろ。

 俺は安全を確認した後、エドウィンを追いかけた。


 今回の依頼はレスティブボア暴れ豬のドロップアイテムである牙の納品だ。

 何に使うのか知らないのだが、魔物のドロップアイテムは魔道具になったり薬の材料になったりするらしいので低級魔物のドロップアイテムでもバカに出来ない。少なくともその価値は俺たちが決めるものではなく、ほしがる連中が決めるものだ。

 ……と、エドウィンに説教したらエドウィンもわかったらしいので以降は真面目に拾っている。

 俺が見ているところでは!

 アイツ、俺に任せている節はあるので、見ていないところでちゃんとやっているかが不安なんだよな……。

 って考えながらエドウィンを探していたら、レスティブボアに槍を投げつけているエドウィンを見つけた。

 エドウィンも俺を見つけたらしい。というか、先に俺を見つけていたようだ。

「三匹くらい倒したぜ」

 と、俺に牙を渡してきた。

「…………。いいけどな」

 荷物を持ちたくないんだろう。

 まぁ、槍使いだからな。出来る限り両手を空けたい気持ちはわかる。

 アカデミー支給のポーチは、拡張収納の魔道具で見た目よりも収納出来るのだが、容量制限があるし詰めれば重くなる。セイバーズの中には、追加で荷物持ちなどバックアップ要員を雇うチームもいるらしいな。

「……んー?」

 今倒したレスティブボアのドロップアイテムを拾おうとしたエドウィンが首を傾げた。

「なんだコリャ?」

「? どうかしたか?」

 俺も見に行くと……。

「……うーん? レアドロップか?」

 肉の塊らしきものが落ちていた。

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