第4話 怒鳴り疲れて日が暮れて
俺はぐったりしつつ、アカデミーに戻ってきた。
いやもうホント……振り回されてるよなぁ。他人に怒鳴ったのっていつぶりだ? つーか、怒鳴ったことあったか俺?
受付室に戻ってきた俺は、拾ったドロップアイテムをエドウィンに差し出した。
「あァん?」
「ああんじゃねーよ。お前が倒した分だ。ホラ」
「いらねーよ、お前が拾ったんだろうが」
とか抜かしている。
「いらねーじゃねーよ! 俺が倒してないのに自分の物にしたらおかしいだろうが!」
また怒鳴る俺。もう、声が枯れてきたよ……。
教官の前でさんざん揉め、フィッシャー教官に審議をお願いしたら「そんなのは二人で決めろ」とバッサリ言われた。
でもってまたずっと言い合いになっていたらフィッシャー教官が呆れて止めた。
「わかった、お前たちが決めろと言った私が悪かった。お前ら、これからは誰がどれを倒そうとも半々にしろ。教官命令だ」
「「…………」」
フィッシャー教官に謝られつつも命令され、俺たちは渋々従った。
翌日。
俺とエドウィンは、最下位脱出を果たしていた。
集まっている全員が、ランキング掲示板を見て啞然としている。
一人の女子が泣き出した。たぶん、俺たち二人が上がったことにより最下位に転落した子だろう。
「……お前ら、どういうことだよ!?」
隣にいた男が俺たちに向かって怒鳴った。
掴みかからんばかりの勢いだ。
「あァ? 真面目にやったからだよ。つーか、コイツのおかげだ」
俺を指さすな!
俺は顔を背けて俯き、とっとと逃げようとしたが捕まった。
「どういうことだって聞いてるんだよ! なんでワースト同士が組んだら最下位から脱出できるんだ、おかしいだろうが!」
「……エドウィンの言った通りだ。真面目にやってなかった。……魔物を倒しても、ドロップアイテムを拾ってなかったんだよ」
「……な……!?」
その場にいた全員が俺とエドウィンを見た。
「倒したんならいーじゃねーか、っつったら、コイツに怒鳴られた。これからは真面目に拾うからよ!」
サムズアップするな。
「……俺は、おこぼれみたいなモンだよ。コイツが倒したドロップアイテムを俺が拾っていたから渡そうとしたらこのバカ……エドウィンが断ってきて、揉めて……教官命令で、これからは取得アイテムは半々になることが決まった。だから、俺も上がった」
「なんだよソレ!?」
だよな。
俺もそう思うが、もう決定事項だ。じゃないとまた揉める。俺は教官に逆らいたくない。
「俺は倒したけど、ドロップアイテムは面倒で拾ってねぇ。そこをカバーしたのはコイツだ。なら、コイツが教官に渡すのが筋だろうが。俺は拾ってねぇんだからよ」
エドウィンが言い切る。もう、絶対にこの意見を変えないんだよな……。
「教官命令だ。逆らったら反省文モノだな」
「カバーし合ったんだから半々に決まってんだろ!」
ハイ、意見を変えました。
……疲れる。
猫背になった俺を見た周囲の連中が、同情するような視線を送ってきた。
「……そういうことだから。悪いな。……バディを気の毒に思うなら、俺たちと同じようにするしかないよ」
俺はくってかかってきた男子に言った。
くってかかってきた男子は詰まり、視線を逸らす。
女子は泣き顔を上げて期待するような顔でバディの男を見ているが……。その前に、問題点を洗い出した方がいいんじゃないか?
彼女が本当に何もしないで彼にすべてを任せているなら、チームを解消した方がいい。
それはきっと彼女が死亡することになるだろうから。
彼女が完全な支援職で戦えないがそれ以外をカバーしているのなら、今の彼女の取り分を増やしてあげればいいだろう。その代わり、彼は順位が下がることになるだろうけどな。
くってかかってきた男子は、勢いを完全になくして俯いてしまった。
俺はそれ以上余計なことを言いたくなくてエドウィンの肩を叩き、人だかりから外れた。
「お前だって戦ってただろ。なんでそう言わなかったんだよ?」
エドウィンが俺に聞いてきた。
「別に、言うほどのことじゃない。彼らは、『お前が今まで拾ってなかったからワースト二位で、俺がそれを拾い集めて半々にしたから順位が上がった』って話で納得出来たはずだ。それでいいよ。絡まれて、彼らが納得出来るまで話すなんて、それこそ面倒だ」
そう言うと、エドウィンが笑った。
「『無精者』って、お前のことかよ」
「いや違う。俺じゃなくてお前だ。部屋を片せ。ゴミはちゃんと捨てろ。使ったものは元に戻せ」
そう言ってジロッと睨んだら、エドウィンが冷やかすような顔で俺を見ていた。
「お前の元バディって、弟だったよな。……さてはお前、弟離れしてねぇな?」
「ハァ!?」
何言い出すんだよコイツは!?
「お互い自立しろよー」
「お前、どんな勘違いしてんだよ!?」
俺がエドウィンに食ってかかると、エドウィンがあげつらうように言う。
「あんだけ動けてるお前が最下位なんざ、弟の面倒を見すぎてテメェの面倒がみれてねぇってことじゃねーか。弟がさんざんお前とチーム解消するのをゴネたのは、オニーチャンに面倒見てもらえなくなるからだろ? でもってよ、お前は今のままじゃマズい、ってのはわかってたんで、あンとき流れに身を任せてダンマリを決め込んでたってワケだ。弟は心配だけどいつまでも弟の尻拭いばっかしてらんねぇ、ってな」
俺はつい目を逸らした。
……それは、エドウィンの言葉を肯定するようなものだってわかっていたけれど、まさかバカのエドウィンが的確に当ててくるとは思わなかったんだ。
ただ、言い当てられたのはすべてじゃない。
そこだけ隠せばいい。
ユーノとの関係を甘やかし甘やかされた結果だと考えているのなら、そのままにしておきたい。
俺は思いきりため息をつくと、ジロッとエドウィンを睨んだ。
「で、今はお前の尻拭いをしてる、ってことか。……言っておくけどな、俺はユーノの尻拭いをしていたワケじゃない。アイツはいろいろ気付いたことを俺に言い、俺はそれをやっただけだ。尻拭いってのは、お前みたく気付かないし知らないしやらない奴のカバーをすることを言うんだよ!」
「マジかよ!?」
マジだよ!
*
アカデミーでは、チーム同士の意思疎通を図るために成績以外は一蓮托生になる。
部屋、食事、その他片方が罰則を受けたらもう片方も手伝う羽目になる。
俺はワーストだったが成績が悪いだけで違反するようなことも赤点をとることもなかった。
もちろん一位のユーノは、罰則を喰らうようなことはない。
……そう、ユーノはね! 腹黒だけど優等生だからね!
「腹減ったな……。ちょっくら出てくるわ」
って、寮の窓から抜け出したバカとは違うよ!
「待て……っ!」
止める間もなく出てった……。
「……あーもう! マジでアイツはどうしようもねぇ!」
頭を掻きむしったよ。
イライラしながら待つこと30分。
窓からエドウィンが入ってきた。
「よっ。どうしたん……」
「お前ぇええ!!」
ズカズカ近寄ると、思いっきり首を締め上げた。
「……ま、待て。ギブ。死ぬ」
「なんで抜け出すんだよこのバカ! 門限過ぎてんだろうが!」
確実に反省文、下手したら罰則じゃねーか!
揺すりながら首を絞めたらバカがグッタリしてきたので、ベッドに突き飛ばした。
「お前といると怒鳴ってばっかだよ!」
首をさすりながらエドウィンは身体を起こした。
「天国が見えたぜ……」
「勘違いだ。お前は地獄行きだろ」
すぐさま言い返したらゲラゲラ笑う。
「カリカリすんなよー。ホラ」
何かをポケットから取り出して放り投げた。
反射的に受け止めると、温かい。
「ソレ、中に肉が入ってて美味いぜ!」
俺はそれを握りつぶしそうになりながら怒鳴った。
「二度とやんなよ!」
「やなこった。また出るぜ」
「反省文どころじゃないだろ!」
「ハハッ。お前ら兄弟、真面目すぎるだろ」
エドウィンが笑う。
俺が言い返そうとしたら、先にエドウィンが言った。
「寮を抜け出すなんざ、誰だってやってるっつーの。さっきも外で会ったトコだよ。寮監だって、変なトコに行かなきゃ見逃してくれるぜ?『あんま遅くなるなよー』ってな」
「え」
俺は立ちすくんだ。
「いいから食えよ。それ、美味いんだぜ? エーギルアカデミー生の一番人気の食いものだってよ!」
エドウィンが笑顔で言う。
……その言葉は、他にも抜け出して買っている奴がいる、ということを示していた。
そして、ワースト二位だったコイツは、わりと他の連中と交流していたんだ、ってことにも打ちのめされていた。
……俺は、受け取ったそれを見た。
紙に包まれたそれを剥がしたら、中には平たいパンのようなものが入っていた。
かぶりつくと、香辛料がたっぷり使われている肉が詰まっていた。
「…………美味い」
「だろ? 次は一緒に買いに行くか!」
俺は、肉の詰まったパンを見ながら小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます