第16話 恋をしている者 9
とはいえ、秋で少したわいのない話も交えて、ようやく関根さんとコミュニケーションを取れていたのは事実だ。
特に、十二月。会社が年末年始休みを入るので、その年末の仕事納めの時、僕らは大掃除に明け暮れていた。
年中、包装業務や製造業務は忙しかったかは定かではないが、この物流は忙しかったので、殆どキレイに掃除は出来ていなかった。
そんな中で、事務所の時に、丁度他の人にたまたま隠れる場所で、僕は関根さんと話をした。
「年末年始は、実家に帰るんですか?」
僕は彼女に聞いた。関根さんが今一人で暮らしているのと、実家が地方の田舎の場所だというのを、以前彼女の口から聞いていた。
「そうですね。でも、お母さんの体調が良くないんですよ」
「ああ、そうなんですね」
「三島さんは、年末年始はどこかに行くんですか?」
「まあ、どこかに行く予定が無いですね。家の車でドライブするくらいですかね。関根さんは地方に住んでいたんだったら、車の免許持ってるんですか?」
「持ってますよ」
「僕はオートマ限定何ですけど、関根さんは?」
「あたしもオートマ限定」
「一緒ですね」
そんな話をした。彼女は表情には現れなかったが、どうやら母親のことで気に悩んでいるようだ。
しかし、こんな会話でも僕らはなかなか話せることが無かった。来年にはもっと話をしてみんなに気づかれないように仲良くなってやる!
その時は、そう意気込んでいた。
関根さんが、一月の末に、私服姿でこの会社に来た。僕は丁度、事務所から出た時だった。
「あれ、今日はどうしたんですか?」僕は何気なく関根さんに聞いた。
「すみません、三島さん。あたし、昨日付けで、異動になったんです」
異動……。その言葉を聞いた時に、僕はどう心の中で落とし込んだらいいのかわからなかった。
「え? どこに行くんですか?」
「ここから三駅離れた鳴越の事務の方に行くんです」
僕は言葉を失った。え、ようやく話が出来たのに……。これから、もっといろんな話ができると思ったのに……。
「それだったら、ライン交換しましょうよ」
僕がこの時を離したら終わってしまうと必死の思いで懇願した。
彼女は躊躇しながら、「……分かりました。いいですよ」
と、二人はちょっと隠れたところで、しかし、自然な感じで交換をした。幸い、誰もその光景を見ている人物はいなかった。
「じゃあ、また連絡しますんで」
そう僕はいって、彼女は目配せをして、別の男性社員が彼女を見て、「お、今日はどうしたんだ?」と、話をしている最中に、僕は何事もなかったように去っていった。
僕はラインをようやく応じてくれたことと、彼女が去ってしまったに対して、複雑な思いだった。
しかし、その夜にラインを送ったら、返してきてくれって、僕は不安な気持ちから嬉しく胸が躍った。
これで関根さんとも楽しい会話ができる。
――今年はいろんな話をして、もっと仲良くなれる。
その時は、そう笑みを浮かべていた。
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