第15話 恋をしている者 8
始末書を書くことは難儀した。最初全てを書いて、その後に安全のグループ長と井出センター長と、またその時間を作ってもらい、読んでもらった。
センター長は全て読んだ後、
「やり直し!」
と、僕に向けて一言告げた。
内容によっては、誤字もあったのだが、誠意をもって反省をしているようには見えない内容だったからだ。
とはいっても、僕が本当に反省していないわけではない。事故を起こした時は、被害者にも気を配ったが、それと同時に会社に三島という人物に嫌なイメージを付けられることもあったし、単純に怒られることも嫌だった。
対策はどんな時でも、きちんと運転中は動く方向性を見ることと、速度を一気に出さないということを書いた。
こうやって、安全グループ長と対面しているときは、本当に緊張して、三分程度で彼はこの部屋を後にしたが、僕の緊張はその後にもしばらく続くほどだった。
事故を起こしたので、気持ち的にどこのグループにも足を運びたくなかった。しかし、仕事上会わないといけない。
大概の人はその話を一言だけ声を掛けて、それ以上のことはいわなかった。事務所の人たちは僕のその事故があったのかも知らないんじゃないかと思われるくらい、触れなかった。
しばらく、フォークリフトにも乗れず、物流での流れ作業をしている。フォークリフトに乗れる人員が一人減ったとなると、今度は同僚に迷惑だと白い目で見られているのではないかと疑心暗鬼に陥っていた。
関根さんは、あの事故の時は休みだった。後日出勤していたのだが、僕は彼女に会うときに、他の事務員と同じようで何もいわないとは思っていたし、逆にこんなことでミスをして周りに迷惑を掛けてる。バカじゃないのと思われる態度を示してくるんじゃないかと、推測していた。
そうだよな……。僕の早く帰れると、有頂天さからこんなことになったんだよな……。
そう思いに更けながら、いざ彼女を目の当たりにすると、僕が考えていた事とは違っていた。
彼女は他の従業員と話をしていたのだが、僕が来ると、ぎこちなく喋りが流暢ではなくなっていたのだ。
……ああ、僕が事故を起こしたことを知っているんだ。
というのがまず分かったのと、僕に何を話せばいいのか考えてくれていたんだなとすぐにピンときた。
ここまで来て、ある程度彼女のことを観察していただけあって、何となくそれなりに彼女の考えていることというのが分かってきたし、僕もそうなのだが、よく表情に出る子なんだなと理解した。
何だか、僕は一番苦しい状況の中で、彼女が僕に対して普段どういう風に思ってくれているのかが理解できた気がする。
一方、被害者の女性は約束通り、三日後には出勤していた。僕は真っ先に謝りに行くと、
「大丈夫よ。私はそんなことで死にゃあしないから」
と、笑いながら、肩を叩いてくれた。
まあ、いろんな人が勤めているので、あんまり性格の良くない女性もいるのだが、ある意味被害者がこの方で良かったと、安堵していいのか複雑な状況ではあるけども。
その後、僕は井出センター長に始末書を書いたということを話した。
「分かった。じゃあ、またこっちに来てもらおう」
「これ、本当に自分で書いたの?」
グループ長は始末書を片手に見て目を疑った。
「はい、僕は関与してません」
そういったのは、井出センター長だった。
しばし、グループ長は間隔を空けてからいった「……分かった。明日から、フォークリフト乗っていいよ」
「あ、ありがとうございます」僕は頭を下げた。
「これで、分かっただろう。事故がどれだけいろんな人の迷惑を掛けたか。今回は人身だから、相手の方とのこれからも考えて行かなきゃいけない。会社が負担してくれるからいい。という考え方じゃあ、君はまた事故を起こす。そうなると君の家族にも迷惑が掛かるんだ。これからはそのことも踏まえて運転しなさい」
「はい、すみませんでした」
それだけをいい残して、僕と井出センター長は退出した。
グループ長がいないところまで歩くと、井出センター長は「いえーい」と、僕とハイタッチをした。
「これで、明日からフォークリフトに乗れるな」そういって、井出センター笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
と、僕はいった。
事務所に帰ると、真っ先に心配だったのは関根さんだった。
彼女は僕と井出センター長が今から話をするということを知っていたようで、帰ってきて安堵した僕を感じ取って、また、誰かと喋っていたのが、突然、流暢ではなかった。
相手の人も、「どうした?」と、笑いながら心配していたほどだ。
本当に迷惑かけてごめん。そして、見守ってくれてありがとうと、それほどの仲でもなかったのだが、そう、いいたかったし、心の中で呟いていた。
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