第12話 恋をしている者 5
僕は後日、また占い屋の陽菜先生にそのことを占った。
「彼女はどうやら彼氏がいたようで……」
すると、陽菜先生はカードをシャッフルした。この非現実なものに対して僕は興味が惹かれてしまっていて、そのカードが何かわかった。
タロットカードというものだ。大アルカナと呼ばれるカードが二十二枚。小アルカナと呼ばれるものが五十六枚ある。両方合わせて七十八枚あるのだ。
それが正位置と逆位置というものがある。それがそれぞれの絵を逆の考えを示しているのだが、かなり神秘的で、絵も抽象的なもんだから、その絵だけでどういった意味なのかは判断しづらい。
その為、それぞれのカードにいろんな意味なのかがあるようで……。あまり詳しく書くと、長くなってしまうからここまでにしておくが、その勉強というか、調べる興味は、陽菜先生を驚かせた。
「もう、そんなことまで覚えなくていいです!」
そう笑う彼女。僕と陽菜先生は何回目かの占いで大分打ち解けてきた。
「やっぱり彼氏はいらっしゃるようですね」
そういわれて、今まで関根さんは僕に対して、ただ単にどんな人だろう、その興味本位でしか見ていなかったのかと僕は更にへこんだ。
まあ、それから仕事で、関根さんとは当たり障りのない仕事のやり取りだけだった。彼女もあの日以来、気にしないようにしていて、淡々としていた。
そういえば、今思えば、彼女は仕事中に自分のスマートフォンが電話が鳴って、時折出ている。アレは彼氏からの電話だったのではないのかと推測する。
もっと、真面目な子なのかなと思っていたのだが、結構、仕事とプライベートの見境が出来てないじゃないか、と、その時は何となく冷めた気持ちでいる。
もしかしたら、親の可能性もあるが。親が頻繁的に電話するだろうか。
こんな、夜遅くまで仕事して一人で帰る度胸がある彼女に?
僕は考えれば考えるほど、彼女に対して嫌気がさしていた。いやいや、待ってくれ。それは彼女のプライベートな時間だろう。何を苛立っているんだ。
そんな中で、僕はどうしたものかと思った。彼女は僕とやり取りをしたいのだろうか。それすらも分からなかったが、一回、たわいのない話を投げかけてみようと思った。
でも、それをするのに一カ月は掛かった。何となく抵抗があったからだ。
その日は彼女が休憩を取ろうと、一旦自宅に帰るのだが、その時、休憩室の方に行く彼女に僕は一声を掛けた。
「あ、休憩ですか?」
僕は何気なくいったつもりだったのだが、その時の彼女は目を潤ませたように見えた。
それが何かを訴えかけるように僕は受け止めるのだが、次の言葉が出ない。
僕らは何事にもなかったように、その場を離れた。
いや、やっぱり、なんだかんだいって、いろんな話をした方がいいんじゃないのか。彼女もそのことを待っているのではないのか。
僕は何だかモヤモヤした気持ちが多少晴れた気がした。
それから、僕らは少しずつ距離を縮めていった。それは凄く効果的だった。
あれ程、疑心暗鬼になっていた関根さんとのやり取りが、少しずつ、仕事以外でも話せるようになった。
また、僕がちょっとしたボケを繰り出すと、それに彼女は読み取ったかのように笑ってくれるのだ。それが嬉しかった。
一方、彼氏がいるという答えに対しては、ある時、僕が事務所のパソコンで作業をしていたのだが、その時、関根さんが先輩の女性坂井さんという、僕よりも年下だけど、事務所のリーダーみたいな存在の人に、彼氏とうまくいっていないといったことを喋っていたのだ。
坂井さんは関根さんを可愛がっていたと思うので、その話に合いの手を入れるのだが、僕には何となく、彼氏と上手くいっていないから、三島さんはどんどんあたしに対して楽しい話をしていいですよと、シグナルのようなものを送ったに違いない、
これで僕は、彼女に対して仲良くなって行ける。その時はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます