15 出鱈目な男
カタカタと、荷馬車が街道を行く。
空は青く澄み渡り、爽快な気分だ。
カルダーはやはりと言うか、一緒に旅をすることとなった。
これまでに書きためたと言う、彼が出会った品々の記録は、リンの興味を呼び起こした。もっとも全て確認済みでもなく、推測で書いていることも多いという話だ。
話せば話すほどカルダーという男は真面目で堅実な感じが強まり、どうして「あんなもの」を好くのか――理屈はないそうだが――クレスには判らなかった。
「それより」
出立の前日、リンはカルダーとこんな話をした。
「気になるのは、カルダー。あなたの友人の件だ」
「友人ですか?」
最も年下のクレスにすら丁寧に話すカルダーは、当然、彼より年下で女でも、隊商主には敬意を払う。いや、オンキットにも同じであるから、要するに誰にでもこうなのだろう。
「〈ラ・ムール〉の持ち主のことでしょうか」
彼らはふたつの花瓶を〈ラファラン〉〈ラ・ムール〉と呼称することにしたようだった。死者の魂を導く精霊と、魂がたどり着く大河の名前になぞらえたらしい。花の魂が、枯れる花瓶〈ラファラン〉からもうひとつの〈ラ・ムール〉に送り届けるという解釈だ。
仮説ではあるが、それに基づいて考えるという前提にし、カルダーがそう呼び出した。リンはそれに倣うことにしたようだ。
「いや、その人物ではなく、〈ラファラン〉の件であなたに助言をした人物のことだ」
リンはそう訂正した。
「〈ラファラン〉が手に入れば見にくるものと思っていたが、気配がないな」
「ああ」
判ったと言うようにカルダーはうなずいた。
「彼は、友人という訳でもないんですよ」
カルダーは苦笑した。
「二度ほど会って、少し飲んで、話しただけ。旅の人だったようで、もう発ったのかもしれないし、私はそのことも知らない」
「二度ほど会った人物の助言で、
「そういうことになりますか」
まるで他人事のように、カルダーは言う。リンは呆れた。
「からかわれているだけだとは思わなかったのか? 占い師から予言をもらったと言えだの、手持ち以上の金額を提示しろだの」
「占い師ココラールがウェレス王城に招かれていることは聞きましたし」
「誰から」
「その彼からです」
「そんな出鱈目なら私だって言える。本当のことではあったようだが、容易に信じるのも考えもの」
「でも」
カルダーは少し困ってつけ加えた。
「当のココラール殿もご一緒でしたから」
「何?」
「その『彼』は、ココラール殿の付き人といった感じで。彼は最初、彼女の口添えがあればと言ったのですが、肝心の占い師殿は自分を喧伝して歩くのは好まないそうで、その代わり名前を使う許可と予言をくれました」
「うん?」
おかしい、とリンは言った。
「花瓶の予言を受け、伯爵のところに向かったという順番だったはずだが」
「すみません、そこは嘘です」
カルダーは謝罪の仕草をした。
「花瓶の噂は耳にしていて、気になっていたんですよ。それなら、そういう予言を受けたと言えばいいとしたのは、あなたの推測通り、彼で……」
「出鱈目な男だな」
「気を使ってくれたんですよ」
「だが出鱈目だ。〈
リンはそんなふうに判定した。
「予言は、もらったんだな? 花瓶のことではなく」
「判りません。花瓶のことであるのかも」
カルダーは首を振って曖昧に答えた。
「では、内容は」
改めてリンは尋ねた。やはりカルダーは困惑した表情を浮かべる。
「『ひとつに出会えばもうひとつが現れる』」
「――花瓶のこと、か?」
「確かに、そうとも取れますね。正直、私はあまり気にとめていなかったのですが、〈ラファラン〉と〈ラ・ムール〉がつながるとしたら、占いというものも馬鹿にならないのかも」
そんなやり取りがあったせいで、リンはココラールという占い師にも興味を持ったようだった。
彼女はホー=ダンに、ココラールの噂を聞いてきてくれと頼み、それらしきふたり組がいたがもう去ったようだとの情報を掴んだ。
「もう、ウェレスの方へ発ったらしい」
そう聞けば、リンはよしと手を叩いた。
「カルダーの知人もそちらの方角に住んでいる。〈兎を仕留めた狐を捕まえる〉と行こう」
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