第46恐怖「やってはいけない儀式」
体験者:M子さん
中学三年生の夏、まさか自分がこんな怖い体験をするとは思ってもみませんでした。今でもその日のことを思い返すと、背筋が凍ります。
当時、受験勉強に明け暮れる日々で、図書館に通い詰めていました。自宅より集中できますし、小説が好きだったので、息抜きのときは本棚をながめてぶらぶらと歩くのが良い休憩となるのです。
そのときは、勉強の息抜きにホラー小説が並ぶ棚を眺めていました。気分転換にどれか簡単なものを読もうかなと、背表紙を一冊ずつ眺めていたのです。
ふと、本と本の隙間に何やら一枚の紙が挟まっているのを見つけました。
手に取ってみると、紙には「霊を見るための儀式」という手書きの見出しがあり、その具体的な手法が書かれていました。誰かがイタズラで置いたにちがいありません。
私はバカバカしく思いながらも、その内容をメモしました。
その晩、私は「霊を見るための儀式」を実行することにしました。
やり方は簡単でした。
1.深夜0時以降に行う
2.枕の中に小動物の骨(私はチキンの骨を使いました)を入れる
3.その枕に頭を置いて仰向けになる
4.手に箸を握って上に掲げる
5.「××××」と唱え(念のため、文言は伏せさせていただきます)、しばし待つ。
おふざけだと思いつつも私は忠実にそれらを実行し、箸を掲げたまま待機しました。しかし、すぐにウトウトしてしまい、夢の中へと沈んでいく感覚がありました。
そして、とある奇妙な……不気味な夢を見たのです。
夢の中で、私は、亡くなったはずの祖母と一緒に散歩をしていました。静かで穏やかな夜の町中を会話もなく歩いていました。
しかし、突如として、背後から金切り声のようなものが聞こえました。振り向くと、同じく亡くなったはずの祖父が、ものすごい形相でこちらへ駆けてきます。その手には包丁を持っていました。
最初は祖父がなんと言っているのかわかりませんでしたが、やがてそれが、「遊びにおいで! 遊びにおいで!」と意味不明なことを叫んでいることに気づきました。それがとても怖く、逃げようと祖母の手を引きました。
ところが、祖母は私の腕をとても強い力で握り、その場を動こうとしません。
「何してんの、逃げるよ!」
私が声をかけると、祖母は、
「遊びにおいで〜」
と、祖父と同じ文言を叫んで、ニタニタ笑います。
祖母も〝あっち側〟だ──
私はさらに恐怖し、必死に抵抗しました。
その間も、祖父は恐ろしいスピードで私に迫ってきました。そして、私はどうすることもできず、胸に包丁を突き立てられてしまったのです。
激しい痛みを感じながら、夢のなかで意識が薄れていく感覚と、そして現実で目が醒める感覚がありました。
そのとき、私はぼんやりと、
「霊を見るための儀式っていうか、怖い夢を見るための儀式だったのかなぁ……」
なんてことを考えていました。
目が覚めると、驚くことに、手に持っていた箸はまだ天井に向けて掲げたままでした。
そんなことがあるんだなと思いつつ、手を下ろそうとすると、どれだけ腕に力を入れようとも体が動きませんでした──金縛りです。
怖い夢から目が醒めたら今度は金縛り……私は嫌な感じがして、全身ふんばって抵抗しようとしました。
そのときです。
耳元で、
「だーれだ?」
と掠れた声が聞こえました。次いで、ひんやりとした冷たいものが顔を覆い、クスクスという笑い声がしました。
何かが、すぐそばにいる──!
なかばパニックで、必死に叫び声をあげようとしました。しかしそれは、
「うぁぁ……」
と、ほとんど声にならず、かすかな唸り声が漏れるだけ。
笑い声はすぐ耳元で聞こえているのに、なぜかぐわんぐわん部屋中に反響し、次第に大きくなっていきます。
私はいよいよ怒りにも似た感情が湧いてきて、無我夢中で起きあがろうとしました。
すると腹に力が入るようになり、私は勢いあまって、とても大きな声で、
「うるさいコノヤロー!」
と、叫んでいました。
一気に、金縛りが解けました。
私は急いで体を起こすと、まず部屋の電気をつけて、それからバッと振り返って辺りを見渡しました。
私は、部屋に一人きりでした。
それ以来、私は二度と儀式を試していません。なので、その一連の体験が本当に儀式と関係あるのかどうか、さだかではありません。もしかしたら、金縛りのときに聞こえた声や、ほかに感じたものは、すべて夢うつつの幻覚なのかもしれません……。
ただ、とにもかくにもこの出来事は、一生忘れられない恐怖体験です。
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